1stステージ11:悪魔の監禁
【再び男湯サイド】
さてさて、俺こと天野翔琉は、現在ライとお風呂に入っている。
先ほどは暗い雰囲気であったのだが、どうにか明るくしようと、2人で仲良くお風呂の中で遊んでいるところだ。
「翔琉! あそこの滑り台のあるお風呂に行ーこう♪」
「うん。 いいよ」
てちてちてちと浴場をロリライは走る。
かなりのスピードが出ている。
「ライ! 走ると転ぶよ」
と言い終わる前に、ロリライは転んだ。
頭からゴチン!と、床にたたきつけられた。
俺は慌てて駆け寄った。
ライは、がばっと起き上がって辺りを見回した後に
「うわーん‼ 痛いよ――――うわ―――ん――――――」
泣いてしまった。
大魔導士が、大声で泣きわめいている。
本当にこの姿では、精神まで幼児化しているようだ。
「うわーん、翔琉~! 俺の頭、痛いの痛いの飛んでけ、して~うわ――ん――――」
「痛いの痛いの飛んでけって、この世界にもあるんだ……」
俺は泣いているロリライを抱きかかえて、滑り台のお風呂の前に設置してあった、ベンチに座って、取りあえず彼の言うとおりに
「痛いの痛いの飛んでけ~」
といい頭を撫でてあげた。
撫で撫で、優しく優しく頭を撫でていると、髭をぴんと立てて、嬉しそうに尻尾を動かして、どうにか泣き止んでくれた。
「これで大丈夫? ライ」
「うん‼ ありがとう、ありがとう、もう一度だけ言わせて、ありがとうございます!」
「何故そんなに、丁寧口調なんだ?」
「御馳走様でした」
「おい、今何に対して”御馳走様でした”って言ったんだ?」
「えへへへへへ……」
「物欲しそうな目で俺を見るな‼ 欲情してんじゃねーよ‼」
「え? だって、ここ浴場だぜ?」
「誰がうまいこと言えって言った?」
取りあえず、この危険な虎を俺から、引き離して―――引き離し――――引き――――
「離れろよ‼」
がっつりと、身体を掴んでしまっていてとてもじゃないが、人間の腕力では剥せそうにない。
「え~嫌だ~。 このまま一生離れない、離さない……」
「怖いこと言うな‼」
やれやれ、と俺は滑り台のある風呂―――ではなく、40℃以上の高温の温泉へと赴き、ライが捕まったまま、そのまま湯船へと入った。
それも勢いよく――――
「熱――――――――――い‼」
そういってライは慌てて、俺の身体から離れて、湯船から上がって水風呂へと急いで飛び込んでいった。
「やっぱり、思った通り。 ライは寒さには強いけど、熱さには弱いんだね。 さっき入っていた風呂は温度が比較的低い温度だったし、滑り台のある風呂も温度的に低いからね~」
「くっそ‼ 翔琉、やりやがったな‼」
そういって再び熱いお風呂へと飛び込むのだが、すぐに耐えきれなくなって、再び水風呂へと戻って行ったのであった―――――
【再び女湯サイド】
女同士の喧嘩は、案外すぐ決着が着いた。
勿論肉弾戦も少々行ったよ。
例えば、ボクシングのような激しいラッシュを繰り広げたり、ムエタイのように激しい蹴り合いを行ったり――――可愛らしい女子の喧嘩である。
その喧嘩を止めたのは、1つの看板に書いてあったある文章であった。
”この先露天風呂、美肌効果あり”
美肌―――と言う単語を見てしまった私たちは、喧嘩なんかくだらないことはピタリと止めて、そそくさと露天風呂に向かったのであった。
夕暮れ時に、癒しの泉のある森が、淡い赤色に反射していて、幻想的な演出となっている景色を、この露天風呂では堪能することが出来た。
更にそこには、先ほどまで喧嘩をしていた女子の姿なんて無く、絶世の美女たちが湯浴びをする、芸術的な状況である。
「ディル……あんたさ……」
リュウは再び恋バナを始めようとしたので、喧嘩に発展させないためにも
「翔琉の話しならもういいわよ……」
と念を押す。
「……え~いいじゃないの、別に。 減るもんじゃないでしょ」
「別の話ししましょ。 そんな翔琉翔琉で攻められても、困るわ」
「……じゃあ、聞くけどなんであんたさ、人とコミュニケーションとるの苦手なの?」
またまた聞かれたくないような事を、平気でふるな~。
「ああ……まあそれならいいか――――それはね、昔友達に裏切られて死にかけたことがあってね。 信頼していた相手だったからこそ、ショックが大きくて……そのせいであんまし信用しなくなったのよ、他人を――――」
「え? 知らなかった、そんな事―――裏切りなんて……許せないわね……」
「まあ、プライベートな問題だったから、誰にも話していなかったからね。 それにこれは、私が解決しなければならないのよ……いずれね」
「そっか―――――でも、なんかあったら言いなさいよ。 裸の付き合いをした仲なんだから――――」
「ええ――――ありがとうリュウ―――」
「どういたしましてディル。 でも、所詮は恋敵同士だからね。 翔琉ちゃんを譲る気は無いから―――」
「私も、譲る気ないからね―――リュウ」
ふふふっと可愛らしく、私たちは笑っている。
こうして天野翔琉を巡る恋物語は、より一層と深く燃え上がっていく―――ような予感がした瞬間であった。
「そろそろ上がる?」
と私はリュウに尋ねたが、リュウはニヤリと不敵な笑みを浮かべて
「いいえ――――どうせそろそれあれの時間だし、このまま、いましょ!」
”あれの時間”と言うのは――――ああ、そうか。
あれか――――
「そうね―――きっとあの二人も驚くだろうし―――――」
【三度男湯サイド】
そろそろ、俺は風呂から上がろうとしていた。
ロリライの襲撃を躱す為に、ずっと熱いお湯に浸かっていたせいか、頭がくらくらしている。
のぼせてしまったか?――――しかしながら、浴槽から出た時に、俺はロリライに拘束されてしまう。
「翔琉、捕まえた♪ もう、ずっと待ってたんだから~」
「いや、ラブコメ風に言うな―――と言うか、待っていたというか待ち構えていたというのが正しいだろう? ずっとこっち監視してたくせに」
湯船につかっている間、ライは俺の事を監視していた。
滑り台のある風呂では滑り台の上から、噴水のある風呂では噴水の上から、何処にいてもどんな状況下でも、常にこちらを見ていた。
まさに、監視カメラのようである。
「翔琉~露天風呂行こうぜ~♪」
「露天風呂? そんなのここにあったのか?」
「うん、あるよ。 眺めもいいし―――最高らしいよ♪」
「うーん……でも、俺そろそろ上がろうと――――」
「俺と行くの嫌だ?」
ウルウル、とライは目をときめかせながら俺に訴える。
邪よこしまな考えがありそうだし、何より怪しすぎる――――が、どうしても俺はこの目に弱いようでついつい
「いいよ」
と言ってしまったのであった――――
俺はライに連れられて、露天風呂へと向かった。
連れられて―――と言うより、連行された、と言うのが正しいのであろう。
抱っこ抱っこといって、ライは駄々をこね始めるが、勿論断った。
しかし、例のあの目をされてしまい
「しょうがないな・・」
と再び抱っこして露天風呂に向かう――――あの目に弱いことをすでに見抜かれてしまったようである。
よくよくライを見るとしっぽが立っている。
確か猫はうれしい時はしっぽを立てると聞いたことがあるが、ネコ科の虎も同様なのかな?
そして露天風呂へと到着した。
現在は夕暮れ時だったようで、とても幻想的で美しい世界が広がっていた。
そしてそこに、2人の天女―――いやいや、不気味に笑ってこちらを向いている悪魔のような女性が2人いた。
と言うか、ディルとリュウであった。
「翔琉ちゃん、おいでやす、露天風呂へ♡」
とリュウが近づいてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。
怖い―――
「風呂では暴れちゃだめよ、翔琉」
とディルは言う。
彼女も同様に、ゆっくりとゆっくりと近づいてくる。
「なんで2人がここに?」
と俺はライを抱っこした状態で聞く。
いやほんとはライをおろそうとしたんだけど、しがみついて離れてくれないのだ。
ライは首を横に振っている。
どうやら、ライも知らなかった事らしい。
すると、ふふっとリュウは笑いながら
「ここの温泉はね、18時以降に、露天風呂はすべて混浴になるのよ。 知らなかったでしょ」
とリュウは言う。
なるほど、混浴か。
危うく、女風呂へ入ってしまって、覗きの現行犯になってしまったのかと思った。
「翔琉戻ろ……俺、翔琉と2人がいい……」
ライは、抱っこからおりて、急いで俺の手を引っ張って、男湯へ戻ろうとしたが手遅れだった。
男湯の入口は水の柱に覆われていた。
しまった、とライはその場にうずくまってしまう。
「残念ね、ライ。 確かに、男湯の方に戻られたらあたしたちは追えなくなるけど――――逃がさないわよ翔琉ちゃん。さあ、一緒にお風呂に入りましょ。」
リュウの魔法によってふさがれている以上、仕方がない。
俺は蹲っているライを連れて、湯船に浸かったのであった――――