3rdステージ4:声が響く
「いやいや、そもそもさ……ここって、魂だけがこれる世界なんだぜ? 機械なんか使えるわけないじゃん、ディル焦りすぎ」
ゲラゲラと笑い転げているジンライに、いい加減堪忍袋の緒が切れそうだった。
「もう! うるさい! 状況考えて物言いなさいよ! ここは、何処なのか分かってるの?」
と、私が顔を赤くして聞くと、ジンライはスッと徐に立ち上がり辺りを見回す。
そして、手のひらから光の玉をだすと、上空へ向かってそれを放った。
光の玉は、空の彼方に消えていった。
「ふむ……なるほど、別段閉鎖されて移動できないって空間じゃないみたいだね」
ジンライは、にこりとしている。
くそ、なんでこんなに翔琉見たいに可愛く笑うのかしらコイツ。
あ、そうだった。
コイツ、翔琉の息子じゃん。
くっ……可愛いところと、憎たらしい口調は翔琉そっくりね。
「んで? これからどうする?」
「どうするって言ってもね……今の私たちに何が出来るかしら?」
「とりあえず、誰かいないか探してみる? あそこで眠ってる人たち以外にも誰かいるかもしれないし……」
「そうね……そうしましょうか」
私は、ジンライと共に辺りを散策することにした。
迷子にならないように、ライたちが眠ってる場所に目印を作っておいた。
もしも、はぐれたりしても、あれを頼りに進めば少なくとも合流することはできるだろう。
辺りは本当に緑豊かな野原、という言葉が相応しいほど広がっている。
遠くに目をやっても、森1つ見当たらないほど、地平線が延びている。
「全然いないね……やっぱり、私たちだけなのかしら?」
と、ジンライに声をかけたその時、地響きがした。
ゴゴゴゴゴっと、すさまじい音が鳴り響く。
「なんなのこれ!」
「分からない! とりあえず、空へ……?」
飛ぶ魔法を使わなきゃ、と思ったその時私たちの身体は既に浮いていた。
「え? 俺まだ魔法使ってないぞ!?」
「どういうこと? もしかして、魂だけだから浮遊出来るとか?」
だとするならば、私たちは現在"迷える魂"という言葉が相応しくなってしまうではないか。
死んだ覚えはないんだけどな?
「うぉ、バランス保つの難しいぞ、これ!」
と、宙返りになってるジンライの様子は、さながら可愛らしいヌイグルミのような子供状態であった。
ん?
子供状態?
「え? ジンライ! なんで、あなた変身してるの?」
「え? うぁぁ! なんで、俺幼児体型になってるんだ? 翔琉に触られたときしか興奮しないのに……」
親に触られて興奮するとか言うな!
流石に、不気味で、悪寒が走るわ!
と、その時。
謎の声が、頭に響く。
「ふむ……なるほどね、君たちが天野翔琉くんのお友達みたいだね……」
「誰だ!」
私は声を荒らげて、辺りに向かって声を張るも、返事がない。
気のせい?
「ジンライ、今誰かの声がしなかった?」
「む? うん、確かにしたぞ。 翔琉の友達だねって言ってたな……」
「なるほど、空耳ではないってことは、誰かいるねこの世界……正体を現してくれると助かるんだけどね……」
結果として、あのあとの散策ではなにも見つからなかった。
謎の声の主にすら会えないまま、時間だけが過ぎて行く。
そして、夜を迎えてしまったのだった。
とりあえず、私たちはライたちのいる場所へと戻った。
しかしながら、彼等は依然として眠ったままだ。
「どうしたんだろう? なんで目を覚まさないのかしら?」
「みんな、まだ疲れて眠ってるんじゃないのか?」
「……それでも、変でしょ。 夜行性である虎獣人が、夜に起きないなんて異常よ……」
「うーん……とりあえず、神魔法でも使ってこの世界から脱出してみるか?」
「うん……そうしたいのは、山々だけど……」
「どうしたんだ?」
「……まあ、いいわ。 やってみましょ」
「よし、神魔法:光天神発動…………? あれ? 光天神! …………ん?」
ジンライの身体は神々しく輝きを放っていない。
そして、特徴的な翼すら生えていなかった。
つまりは、光天神は発動していない。
「あれ? あれ? なんで、発動しないんだ? アマデウス師匠? 返事してくださいよ……? あれ? いつもの声すら聞こえない……どうなってるんだ?」
「そりゃあ、無理でしょうね。 対神魔法用の結界の中だもの……この結界内では神魔法は使えないよ……」
「へぇー、そうなんだ…………!? え?」
後ろを振り向くと、砂漠の旅人のようなボロボロのフードを被った人物が立っていたのだった。




