3rdステージ3:欠落と発見
私たちは必死になって、オールドアを作った人物について調べているのだが、何せ色々な世界からも情報を収集するこの図書館においては探査するには少々厳しいものがある。
一般的に、翔琉のいた世界の図書館には、”本を調べることができる端末”があるというのを、以前聞いたような気がするけど、そんな便利なものをここにも設置しようかな?と思うほど、今は切羽詰まっている。
「中々見当たらないな……オールドアの創造主……」
ボルは欠伸交じりに、ひたすら本を読み漁っている。
過去の世界の情報を片っ端から、調べては棚に戻し、調べては棚に戻しの繰り返しである。
長々と、同じ工程を繰り返しているので、正直飽きてしまいそうになる。
「なあ、ディル。 これ以外に、何か簡単に検索できる方法ねーのか?」
翔琉の子供のジンライは不満げにむっとした顔をしながら、私に嫌味ったらしく言うのであった。
確かに私もそれは思うけど―――――
「そうね……じゃあ、キーワードを絞って魔法で調べてみましょうか」
そういって私は空間魔法を使う。
本来はこの図書館において、魔法を使うことは厳禁である。
プロテクターをいくつもかけて出来なくしている。
じゃないと、大事な情報が破損でもしてしまったら大変だからね。
でも、その権限を持っているのはあくまでも、この図書館の司書である。
つまりは私が許可すれば、一時的には魔法は使えるのである。
「空間魔法:読浅利。 キーワード:オールドア・製作・創造」
この魔法は、手に入れたいものをいう事によって、自身の手元へと引き寄せることのできる魔法である。
最初からこの魔法使えばよかった……
検索中……検索中……‼
すると、3冊の本が私の手元へと来た。
本の年代はいずれも、あの【偽物の神話】の時代より数千年前の年号であった。
つまりは、アマギとレネンがまだ生まれていない時代の話しである。
「よし、この3冊をそれぞれ調べましょうか‼」
いざ本を調べようとしたその時である。
本は突然発火した。
何の前触れもなく、突然燃えた。
3冊とも、見事に。
いきなり燃え始めたのである。
私は慌てて本を床に落としてしまった。
最終的に本は灰となって消えてしまった、一同はあいた口がふさがらなかった、ポカーンとして、灰を眺めている―――――
「どうするんだよ‼ というか、いったい何が起こったんだよ‼」
そういってジンライはイライラしながら灰をかき集めている。
手は黒く汚れて、顔は真っ赤になっている。
童話でシンデレラ(灰かぶり)と言うものがあるらしい。
まさにそれなのかな?と思ったりもしたが、あの童話は最終的にハッピーエンドになるのだから、バッドエンドの今回は、タイトル的に”灰まみれ”と言うべきであろう。
そんな冗談はさておき、さてさてどうしたものか―――――
「時空間魔法でも、この本は戻せないわ……何かしらの妨害をされてるみたい……とにかく、他の仲間たちの情報も気になるとこだし、一度図書館から出ましょうか? この図書館は、時間停止を行えば、空間は止められる訳なのだから、現状を維持できることだし」
どうにかこの場をどうにかしない、という思いが強くなってしまいとっさに言葉が出てしまった……気まずい……
ふー、とボルは深いため息をして
「そうだな。 一度、悪い気を追い出す意味で、リフレッシュがてら、外にでも行くか」
と言うのであった。
ジンライもやや不満そうではあったが頷いたので、一度図書館から出ることになった。
もちろん灰になったあの状態を時間停止によって完全に止めてから、外へ出た。
このままじゃダメなんだという気がしたのだ―――――
かつてオールドアがあった塔―――――この塔は歴史的に重要価値があり、また暗黒教団との戦いによってかなりの破損をしてしまったので、現在は修復中である。
オールドアは、この塔の隣にある時限城の玉座の間に移設されている。
時限城――――かつてロギウスやアマギと戦った、最終決戦の場所にして、歴史的に古い建造物という見解になっている。
そしてそのオールドアには、現在解析のために、ホルブ・トルネ・ライの3人がいるのである。
「おーい、みんな~、調子はどう?」
私は声は明るくしているが、正直心的には暗いままであった。
だって、先ほどの資料が燃えてしまったんだもの……あと少しだったのに……
「おうディル‼ なんか久しぶりな気がするな」
とライは手元に持っていた書類を近くの椅子の上に置き、歩み寄ってきてくれた。
その顔にはくまがあり、どうやらあまり寝ていない事がひしひしと伝わってきた。
他の2人も同様であった。
特にやる気のないはずのトルネは今回の仕事がうまくいったら、報酬として、私を含めた女性魔導士達とデートすることが決まっているので、半ば強引に進めている節も見られる。
目が恐ろしいことになっているのは、本人は気が付いていないようである。
「それからどうだ? 何かわかったか?」
ボルはライの置いた書類に目を通しながら、彼らに聞く。
しかし、あまりいい答えは聞けそうになく、しばらく沈黙が続いた。
「そっちはどうだったのですか?」
とエンが話を変えようと、こちらに話題を振る。
だけど、私たちも成果が得られたという訳ではなかった。
むしろ、貴重な情報をみすみす灰にしてしまった。
本当に、みすみす、と言うかmissmissと言いたいところだよ―――――
みんな気落ちしていた。
しかしそんなときに都合よく、ご都合主義のように、さながら決定事項であったかのように、オールドアが輝き始めた。
今までに見たことのない輝き方――――否、光をそこに私たちは見たのだ。
その輝きはすさまじい衝撃を生み、私たちはなすがままに吹き飛ばされてしまった。
そして私は、近くの石の柱に頭をぶつけてしまい、そのまま気を失ってしまった―――――
またここに来てしまった……
こことは、私の空想の世界――――なんてメルヘンチックな場所ではなく、単純に精神世界というべきなのであろう。
かつて、ロギウスに捕まっていた時に、アマデウスと共に監禁されていた忌まわしき空間にして、生命にとっての絶対領域と言えるべき場所である。
なのに……今回は、何か違う。
と言うのも、”私だけの空間”ではなくなっているという事である。
広い草原、中央にある屋根のついた集会場といくつかの椅子……そこに座っているのは、先ほど吹き飛ばされたジンライ・ボル・エン・トルネ、そしてライの姿があった。
しかし、彼らはまだ眠っているままである。
近寄って起こそうと、身体に触れようとしたが、すり抜けてしまう。
どうやら、心――――すなわち魂のみを集めたので、直接誰かに触れるという事は出来ないのであろう。
椅子をどかして、転げさせて無理矢理起こそうとも試みたが、残念ながら固く固定されているために椅子を動かすことは出来なかった。
「いったい何なのかしら? と言うか、なんでみんなここに集められてるの?」
辺りを見回したが、ここ以外には何もなさそうだ。
風が心地よく吹き、草原の花々はそれに合わせて揺れている。
「おーい‼ 展開的に、そろそろ誰か出てきて、何かするんでしょ!? 早く姿を見せたらどうなの?」
……私の声は、この草原中に響き渡った。
しかしながら、返答は無かった。
うわー私恥ずかしい……
いつの間にか、顔が真っ赤になっていた。
メタ発言なんて、そうそうするものではないものだな……
「何してんの?」
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
不意に後ろからジンライに声をかけられてしまって、叫んでしまった。
にゃあって、どうして叫んだんだろう?
余計に恥ずかしい。
「ディル、どうしたんだ? 珍しく叫んだりして。 しかもにゃあって(笑)」
「もう、うるさい‼」
ほくそ笑むジンライに八つ当たりをしてしまった。
あーあ……大人げないな……私……。
「あーあ、ディル逆ギレとか、酷いよ~。 流石に傷つくわ」
「ごめんごめんって、今度お詫びにアイスでもおごるからさ~」
「えーやだ」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「うーん……そうだな~……じゃあ、翔琉に会ったら一日俺の好きにしていい許可が欲しいな~誰にも邪魔されないようにさ~」
「え?」
は?
何言ってんの?
このクソガキ。
翔琉を好きにしていい許可?
私ですら、好きになんてしたことねーのに……おっと、口調が変わってしまった。
てへぺろ。
「そんなのダメに決まってるでしょ‼ と言うか、私の一存では決められないわよ。 だって、それは翔琉が決める事であって、あなたや私が決める事ではないんだもの。 あなた、翔琉の息子ならもう少し考えて発言しなさいよね」
ピッ、と何か音が鳴った。
ジンライがいつの間にか何やら機械を手にしている。
スピーカー越しから、何か聞こえた。
”「おーい‼ 展開的に、そろそろ誰か出てきて、何かするんでしょ!? 早く姿を見せたらどうなの?」
「何してんの?」
「にゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼」
「ディル、どうしたんだ? 珍しく叫んだりして。 しかもにゃあって(笑)」
「もう、うるさい‼」
「あーあ、ディル逆ギレとか、酷いよ~。 流石に傷つくわ」
「ごめんごめんって、今度お詫びにアイスでもおごるからさ~」
”
ピッ、っと音がして音が止まった。
ん? 何これ?
「これね、翔琉ママが元の世界に帰る前に作ってもらったんだ。 確か、ボイスレコーダーだったかな。 声が録音できるんだって。 便利でしょこれ。 証拠は録ったから、さっきの注文よろしくね♪」
あのくそガキ‼ と言うかそれ以前に――――――
「翔琉ぅぅぅう‼ あんた余計な事してんじゃ、無いわよ‼」
怒りのこだまが、草原に響き渡り、花々が散っていくのであった―――――
翔琉……次会った時、覚えてろよ?




