2ndステージ56:精神世界での会談
天野翔琉の精神世界。
かつて、俺はこの世界にとんでもない怪物を飼っていた。
負の感情を捕食する怪物―――――今でこそ、会話ができるレベルまでになったが、昔は歯止めも聞かないほど恐ろしい怪物だった。
見るものすべてを破壊する心。
だが、それは今安全な檻の中で生活できている。
その檻の外では俺、天野翔琉とロギウスがたたずんでいた。
草原が広がり、中央にはテーブルと茶菓子が置いてある。
なんともまあ、欧米の映画のワンシーンのような景色が広がっている。
そして、実は今回の事はすべて計画通りだった。
「なるほどなるほど。 全ては貴様の目論見だったか――――天野翔琉」
とロギウスは言う。
「まあね」
と俺は返した。
「まんまと目論見にのってくれてありがとう。」
「いったい、お前は何手先を読んでいるんだ?」
「ざっと30ほどは考えてたよ。 そして、その中の1つがこれってわけ。 ジンライの身体を渡すわけにはいかないしね……一応息子だし、親として当然の義務でしょ」
「何故、我がジンライを狙っていると気づいた?」
「そんなの簡単さ。 ロギウス……貴方は常に俺たちを監視していた。 だから、アマデウスを失っているってことも知ってるわけだ。 今となっては、俺自身は神魔法を使うことができない。 そしてジンライには神魔法が使える。 だから必然的に、ジンライを狙うと思ったのさ……お前の目的は、神魔法だからな」
「それだけでは無かろう?」
「ああ、もちろん。 それだけじゃないよ……少し長い話になるから、座って話そうか」
「お気遣い感謝する」
そういって、俺とロギウスは椅子に座る。
そして再び、会話が始まる。
「何故、ロギウスがジンライを狙っているか。 いいや、そもそも何故、神魔法を欲していたか。 そこから考えてみた。ロギウス―――――君の目的は神を倒すことだった。 確かに神話ではそのように語られている。 だけど、不意に考えてみた。 ”もしかしたら、神様に躍らせれている人間だったんじゃないか”ってね。 だから、記憶も何もかも歪められてしまって、"偽物の神話"が出来上がったんじゃないかなって」
「ほう……その根拠は?」
「それはだね――――――」
~現実世界~
時限亡者たちは全部消え失せ、コピーや暗黒教団たちの猛者たちを倒し終わった、翔琉の仲間たちは全員玉座の間に来ていた。
そして玉座の間の中央に浮かぶ、黒い球体を見つめている。
「翔琉はあの中にいるのか?」
「そうよ」
「ロギウスの魂ごとか?」
「そうよ」
「何故、防げなかった? なんでだ? なんでなんだ? お前がついていながら……」
「良さぬか! 馬鹿者が!」
一触即発になりかけたライとディルの間にホルブは割って入った。
「今しなければならないのは、ロギウスが出てきたときの対処法じゃ。 こんなところで喧嘩をしておる場合ではない!」
喝を入れられて、ようやくライは落ち着いた。
ライは、くそ! と言いながら、引き下がった。
「で? 何か策はあるのかい? ホルブ?」
フルートは聞くが、ホルブは首を横に振る。
「このまま黙って見ていることしかできないのか?」
皆が苛立ちに苛立ちを重ねている。
そして、トルネは突然言った。
「こうなったら、翔琉ごとロギウスを封印するしかない――――――」
一同はそのセリフに動揺した。
特に女性陣やジンライとボルは特に激しく――――――
「そんな事できるわけないじゃない!」
涙を見せながら、アニオンはトルネにつかみかかる。
急いで他のメンバーは取り外す。
「だったら教えてくれよ。 どうすればいいんだ? 翔琉に憑りついたって事は、引きはがすことが難しいんだぞ! この世界の人間ならば、魔法の力は効くけど、翔琉は異世界の住人! しかも恐ろしいことに、強い魔法耐性を備えた奴だ! 正直言って、解除魔法とかは効くかどうか分からないぞ!」
そういってトルネは苛立ちをぶつける。
しばらくの沈黙の後に、ディルは口を開いた。
「でも、成功するかもしれないじゃない――――――未来はまだ決まっていないわ。 この先どうなるかも分からない。 けど、最初から失敗することが決まっている未来なんて1つも存在しないもの! だから私たちは、私たちにできることをしなきゃいけないのよ!」
そういって涙を流してその場にうずくまってしまう。
リュウとヒョウは彼女のそばに寄り添う形で、慰めている。
「全く……何しているんだ、翔琉。 みんなをこんなに悲しませて……早く戻って来いよ……」
ボルは球体をただただ見つめている。
果たして、どうなっているのだろうか――――――
みんなが不安を抱えている。
……‼
全員が何者かの気配を感知した。
そして、その正体は―――――あの、水の大魔導士の神殿で遭遇した謎の青年のものだった。
「あいつがここに来る!」
そういってヒョウは急いで時限城周辺に、以前自分自身を封印していた時の物と同質の結界を張る。
そして、ディルとフルート、アニオンがその上から3人だけでしか使えない特殊な結界を重ねる。
「「「究極防御魔法:天智明海」」」
氷の城の上に、全属性の最強防御魔法が展開される。
さながら、虹色の輝きを放つ美しき結界だった。
完了し終えたと同時に、青年は現れた。
そして、今まで謎だったフードを結界の外ではあるが取り、素顔を見せた。
「そんな! あの姿は!」
そういって一同は驚いている。
何故ならあの姿は――――――
~天野翔琉の精神世界~
「ーーーそれはだね、あの魂記憶ってやつさ」
そういって俺は紅茶を飲む。
「ふむふむ……なるほど、何故それが我の過去に関係していると思ったのだ?」
「最後に集めた魂記憶、そして集め終わった後に1つに束ねられて現れたデイ――――――ここまでは、良かったんだよ。 でもね、1つだけおかしな点があったんだよ」
「おかしな点?」
「ずっと考えていたんだ。 そもそも君を倒すために集めていた書物なのに、何故君がその書物のある場所を守っていたのかな? ってね」
「別に対して、意味もないが、単純にこの城の周りに結界を張る場所が必要だったってだけだ――――――」
「いいや、違うね。 君は明らかに意識して守っていた。 神殿に配置していた、各大魔導士達や君の部下の事―――――それに……」
「それに?」
「それに、何より魂記憶の存在を知っていたならば、すぐさま神殿を破壊した方が早い。 そうすれば、俺たちが手に入れるということは永久にできないのだからな」
「ふん、なるほど――――――確かに頭がいいことは認めてやるが、まだまだだな。 お前の話しには、肝心な事が抜けている。 それは、我の目的だ。 ディルは知っていたようだが、お前はそこまで――――――」
「うん。 分からなかったよ。 さっきまではね」
「さっきまでは? と言うことは?」
「うん、知ってるよ。 ロギウス、君の目的は――――――」




