2ndステージ51:偽りの忍者
目が覚めた俺は、外にある泉の方へと赴く。
先程のジンライの質問は、どうにか流すことに成功した。
本当の真実を伝えたとき、ジンライはきっとそれを阻止する方に動いてしまうかもしれない。
だからこそ、今はまだ秘密にしておいた方がいい。
それが、親としての優しさと言うものなのだと、俺は勝手に思っている。
これが、俗にいう"ダメ親"って奴なのかもしれないな。
「おう、翔琉! 大丈夫か?」
と、泉の近くの木陰から、本を持ったエンが姿を現した。
その声に反応してか、ライやアニオンたちもぞろぞろと現れた。
俺は、いつものように笑顔で。
「みんな、ごめんね。 でも、もう大丈夫だよ」
と声をはる。
みんな、薄々これが本来の感情を圧し殺して出来た"作り笑い"と言うことには気が付いているだろう。
それを察してか、あまりみんなは、なにも言わなかった。
心配したよ。
大丈夫なら良かったね。
もう無茶はするなよ。
などなどを、それぞれの口から発すると、再び泉の方へと戻るのだった。
「翔琉……ところでさ、あの青年って結局誰だったの?」
と、唯一その場に残っていたディルが、質問を投げ掛けてきた。
俺は、辺りを見回して、誰もいないことを確認した。
そして、言った。
俺の予想している青年の正体を。
「その前に、ディル。 1つ聞かせてくれないか?」
「なによ、突然」
「あのさ、ムラサメってどんなやつだ?」
「なんで、ここであいつの名前が出てくるのよ」
「いいから、教えてくれ」
「まあ、いいけど……ムラサメは影の一族の最後の末裔の狼の姿をした青年よ」
「他には?」
「他にって、言われても……ああ、そうそう。 目がね、特徴的なのよ。 すごくきれいな緑色の目をしているわ」
「……そうか」
「なんで、ここでムラサメの話になったのよ」
「……ところで、あいつ今どこにいる?」
「え? たぶん、泉の下にある洞窟で修行してると思うけど……」
「頼む、そこに連れてってくれ!」
俺は、ディルに懇願する。
ディルは、事情を分かってないようだが、渋々とその洞窟へと案内してくれた。
洞窟へと繋がる道は、大量のエロ本で埋め尽くされていた床にある仕掛け扉から入らなくてはならない。
その扉から奥へと進む。
なぜか、リュウとジンライがついてきてしまっているのだが。
「翔琉ちゃん、いったい何しにいくのよ?」
「ママ、暗くて怖いよ」
と、俺の両腕にしっかりと抱きついた二人を連れて、下へと向かう。
「俺の予想が正しければ……」
洞窟の入り口にある扉を開けた先にあった光景は、予想通りの光景だった。
「こ……これは……」
思わずディルが、こぼした言葉。
普段はあまり動じない、彼女でさえ震えた光景。
それは、自身の弟子が、半殺し状態で洞窟の天井から吊るされている状態だった。
「ムラサメ! ムラサメ!」
とディルが、声を張り上げるも、ムラサメからは返事がない。
リュウとジンライは、すぐにムラサメをおろして治療にあたった。
しかし、傷は修復できても、体力と精神力が限界まで消費させられていたらしくて、中々回復できない様子だった。
「翔琉……これは、どういうことなの?」
と、冷静さを取り戻したディルが、俺に詰め寄った。
俺は淡々と語った。
「つまり、俺が最初にあったムラサメは偽物で、あの謎の青年の正体だったってことだよ、簡潔に言うならばね」
「嘘……だって、あの時あなたに通信したときには、はっきりと本人が写ってたじゃない?」
「ディル……それはたぶん、君はちゃんと姿を見てなかったんじゃないかな?」
「どういうことなの?」
「あの森は薄暗いし、そしてあの時のムラサメは木の上にいた。 それなのに、地図越しに見た君はムラサメだと認識することができていた、それは何故か。 恐らく、声で判断したと思うんだよ」
「声?」
「人間の脳ってのは、実に不誠実でね。 誤認したものを本物と勘違いしてしまうこともあるんだ。 だから、君はあの時勘違いしてたんじゃないかな?」
「そんな……バカな……」
「それともう1つ、君から教えてもらったムラサメの特徴……目の色が緑色……」
ぴくんと、耳を反応させたジンライは、ムラサメを回復させながらいった。
「ムラサメの目って、赤い色だったよな……」
「そうだね、ジンライ。 あの時に対峙したムラサメの目の色は赤い色だったんだよ……」
「え? ……じゃあ、あれは?」
「うん、偽物だよ」
「でも、いったい誰なんだろう……」
「俺の知ってるなかで、目が赤くて強いやつっていったら、メイオウくらいなんだけど……でも、変だよな。 メイオウだったら、殺気とかで分かりそうな気がするんだがな……」
さすがの俺でも、あのムラサメが誰なのかということは分からない。
でも、これだけは言える。
あいつは、敵だ。




