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関東大学将棋物語  作者: るかわ
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池谷君


 達也は神野の将棋を少しだけ覗いた後、法名のもとへ向かった。形勢はわからないが、どこも中盤戦というのはわかる。一番激しいことになっているのは五将戦。反対に一番じっくりしているのが七将戦。というわけで五将の増本の将棋を覗いた。近くには長崎もいる。

 きたっ。

 長崎は目を見開いた。さあ告白するぞ。二人きりで呼び出そうとしたが、いざ近くに来られると、緊張して体が動かない。

「い、池谷く~ん」

 長崎はご機嫌を窺うかのように、少し屈んで上目使いに達也を見た。

「あっ、長崎さん」

 笑顔で返す。思っていたより普通の対応で安心した。さあここだ、いよいよ二人きりの空間を創るのである。そう思った矢先、長崎は一歩踏みとどまった。

 ちょっと待って……

 長崎に長い葛藤が巻き起こる。


 えーと、池谷君はさっきの発言聞いてたのよね。もう他の人にも言ってしまっている。だから私を見た時、笑ったんだ。「あ、告白女だ」だって。池谷君って彼女いるのかなあ、もしいるとしたら私大笑い者よね? そうか、だからか。だから池谷君は優しく笑ってくれたのか。そうよね、普通は彼女いるわよね。将棋指しに彼女持ちは少ないっていうけれど、池谷君は最近始めたんだもの。きっと高校時代に余裕で彼女作ってるわ。あー辛い。なんで同じ高校じゃなかったのよ。あ、私女子高だったわ。ばか、そりゃ池谷君は女の子みたいだけど、だからって池谷君を女の子にしたらダメよ。それだと私が男の子にならなきゃいけないじゃない。あれ? なんかわけわかんなくなってきた。

「どうしたの?」

 長崎の悩んでいる姿を見て、達也が声をかけた。思わず長崎は顔を上げる。いつの間にかしゃがみこんでしまったようで、達也の顔がずいぶん高い位置にあった。目の前に映るのは天使か仏か。今までテレビも含めていろんな人を見てきたけれど、私の人生の中で、一番の人と巡り合えたかもしれない。

 もう、我慢できなかった。

「池谷君……」



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