前田と桑原
家に着いた前田は、早速24のページを開いた。勉強する時間は限られている。東大戦までに様々な経験を積んでおきたかった。
「一局だけやったら寝るか」
前田は一番レートが高い人に挑戦を申し込んだ。すると、こんな深夜にケータイが鳴った。
「もしもし、前田さんですか?」
桑原の声だ。
「どうした」
「例のVSの件ですが、土曜日でもよろしいですか?」
「大会前日だな」
「すいません、今週はずっと他の研究会や記録の予定が入っていまして」
「わかった。土曜日なら、ついでに研究会にも来てくれ。一年とはまだ会ったこともないだろう。俺が奨励会1級の桑原宏史だぞって見せつけてやってくれ」
「はい、わかりました。失礼します」
最後は桑原も苦笑していたが、前田にとっては半分本気だった。もっと後輩やレギュラー達を鍛えてほしかったのである。大会のシーズンに入って、準レギュラーも平日に部室へ寄ることが増えた。彼らは大会に出ることはできないが、そのエネルギーを対局でぶつけてもらいたい。部員達に刺激を与えるためにも、桑原が来てくれることはありがたかった。
「そうか、忘れてた」
前田が挑戦を申し込んだユーザーは桑原だった。しばらく待っていたが、一向に将棋盤が現れない。なぜ……
前田は挑戦するのを止めた。そのまま24を閉じ、パソコンの電源も消してしまった。




