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関東大学将棋物語  作者: るかわ
56/92

慶城戦決着


「前田さんの言ったとおり、▲3三桂でした!」

 うおおおっと歓声が上がった。

「桂か。気付かなかった」

「奇跡的に詰んでますね!」

「見事に、増本が勝つようにできている」

 法名はハイタッチをして喜びを(あら)わにした。他大のレギュラー達も感心している。



――そんな手が。

 あの歩も、あの歩も、全て都合の良いように配置されている。まさか、ピッタリ詰んでいるとは……ああ、終わった。

「参りました」

 小川が投了すると、慶城勢はがっくりとその場に崩れ落ちた。何人かは涙を流している。

「すいません! すいません! すいません!」

 小川は下を向き、声を荒げた。

「謝ることない! お前は精一杯戦ったよ」

 何度も何度も小川は謝った。ぶるぶると肩を震わせ、膝に手をあて、ぐっと力を込める。

「さっ、控室に戻ろう」

 席を立つと、小川は決壊(けっかい)したダムのように思いっきり泣いた。両手で顔を覆い、スーツの人達に抱えてもらいながら対局室を去る。

 対局室からスーツが消えると、法名達は増本にハイタッチをした。慶城と入れ違いで検討陣がなだれ込む。

「よくやったぞ!」

「お前は最高だぜ!」

「まさかあれを詰ますとはな。増本の終盤力には恐れ入る」

 四年生達が真っ先に増本に駆け寄った。

「さすがだな。増本らしいわ」

 古屋も声をかけた。田島や島与達は尊敬の眼差しで見つめている。

「詰んでましたね」

 増本は簡単に言ってみせた。運が良かったというニュアンスだった。

 準レギュラー達もひたすら喜んだ。今日はお祝いだと、しきりにはしゃいでいる。まだ大会は残っているのに、優勝したかの騒ぎだった。

「ふん、馬鹿らしい」

 遠くから霧江が、法名の喜びようを見て呟く。

 あれくらい、俺だって詰ませた。まったく低レベルな争いをやっている。最終日はあの二校と当たるが、そこはきっちり潰しておかないと。

「霧江さん、帰りましょう」

「そうだな」東大部員の一人の声で霧江は歩き出した。

「そういえば、賞金っていくらなんですか?」

「ん? ああ」

 やっぱりそんなこと言うんじゃなかった。こいつらは本当に強い。やはり、法名も慶城も、うちとは格が何枚も違う。



 対局室は未だに歓喜に包まれている。その中で、一人事情を知らない男がやってきた。

「あの~」

 達也が対局室に顔を見せたのは、神野が去ってから一時間後のことだった。

「どこ行ってたのですか池谷殿!」

「控室です。もうずいぶん人が集まってきましたよ」

「んにゃ~法名ピンチだったのよ~」

 下田が首を絞めると、達也が苦しそうにタップした。

「面白い顔」

 ハハハと笑いが起こった。

 前田はオーダー表を提出すると、安心したかのようにトイレに向かった。

「いやあ、参りましたなー。法名さんには敵わなかったですよー」

 前田の目線の先には、扇子をパッパッと広げて笑顔を見せている浅田がいた。

「法名さん、優勝目指して頑張ってください!」

 浅田が握手を求めると、前田は快く応じた。

「ありがとうございました」

「ありがとうございました」



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