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関東大学将棋物語  作者: るかわ
5/92

活動

 法名大学には、部室塔(ぶしつとう)と呼ばれる部活動専用の施設が存在する。本当はもっとしっかりした名前なのだが、ここの学生は誰一人として知らない。学生達はそこで主に部活動の交流や、活動の場としている。

「ここか」

 達也はパンフレットを握りしめ、塔の入口の前に立った。

 入口では吹奏(すいそう)楽部(がくぶ)だろうか、トランペットを吹いているグループがいた。次いで階段から降りてきたのが、テニスラケットを持ったグループ。こちらに向かってくるのを見計(みはか)らって、すぐさま達也は道を開けた。隅のほうでゲームをしている男二人組もいる。通信対戦でもしているのだろうか、なんだか楽しそうだ。

 達也は迷っていた。目の前にある階段を登れば、たくさんの部屋があるはずで、そこから将棋部を探せばいいのだが、第一歩を踏み出せずにいた。一人で来ている男なんて自分くらいだろうと、恥ずかしくなってしまったのである。そうこうしているうちに、部室塔にたくさんの学生達が入り込んできた。どうやら授業が終わったらしい。やはり、一人でいるのなんて自分くらいである。達也は部室塔の近くのベンチに、ちょこんと座った。

「市川連れてくればよかったな……」

 持参の水筒(すいとう)を飲む。自分はいつもこうだ。一人だと全然前に進めないでいる。こんな性格だからいつも損しているのはわかっていたものの、こればっかりはどうにも治りそうもない。内気で、消極的で、余計なこと気にしてばかりで。

 人が少なくなってきた。授業が始まり、学生の出入りもまばらとなっている。ちらほらと一人でいる者も見かけるようになり、達也はようやく立ち上がった。

 部室塔は独特の(にお)いがした。あまり掃除もされていないようで、床は汚く、ごみも落ちている。その生活感漂(ただよ)う雰囲気だからこそ、学生の館であると実感した。

 階段を上がると、たくさんの張り紙が目に映る。壁にあるだけでも、全部見れば日が暮れそうだ。将棋部を探してみたものの、すぐには見つからなかった。囲碁部はたくさん見つかるのだが……

「やあ君!」

 ビクッとして後ろを振り向くと、大柄な男がいた。

新歓(しんかん)に乗り遅れちゃったのかい?」

 新歓とは「新入生歓迎」の略であり、新入生のために先輩がパーティをして、歓迎してあげる催しだ。大半の学生は、この期間で入部するのである。達也も存在は知っていたが、一つも参加しないでいた。

「大丈夫、うちの部活は今からでもオールOKだから」

「何部なんですか?」

「ふふふ、おしくらまんじゅう部だよ」

「は?」

 達也は怪訝(けげん)な表情を浮かべた。

「君、おしくらまんじゅうの歴史を知っているかい?」

 達也は気まずそうに首を横に振る。

「よかったら部室でゆっくり話してあげるよ。ふふふ」

 達也は引きつった笑みを浮かべながら、そそくさと逃げ出した。

「変な部もあるんだなー」

 よく見たら、ここはユニークな名前の部が多い。おしくらまんじゅうが、かわいく見えるほどのエグい名前の部がずらりと並んでいた。どうやらこの部室塔は、階によってジャンルが違うらしい。ここはおそらくサブカルチャーの階だろう。

「そういえばさっきの人、新歓がどうのって……」

 階段を上りながら、達也は当初思いもしなかったことを気にかけた。もしかして新歓の機を逃すと部に入れないなんてことがあるのだろうか。確かにしっかりした部だと、新入生がいきなり入ってくるなんて迷惑だろう。もし将棋部がそういうところだったら……

 達也は頭の中で、畳の上で正座している人達を思い浮かべた。しーんとしていて、お茶なんか飲んじゃって。そんでもって扇子(せんす)を広げて、まさか和服だったりして……

 三階に上がると、そこは汗臭い臭いが充満していた。もう見るまでもなかった。ここはスポーツの階である。

「おい!」

 ひっ、と達也が身をかがめる。だが、自分に対して叫んだわけではないようだ。

「俺の『キャベツ太朗』食べた奴誰だよ!」

 椅子を蹴飛ばしたような音がした。がたんがたんと騒がしい音が鳴り響く。廊下を見渡したが、人がいる気配はない。どうやら、室内で喧嘩(けんか)が起きているようだ。達也は小さくなって身を守る。

「うるせえ! そのくらいでいちいちキレるなよ!」

 中の人だ。うんうんと達也も頷く。

「てめえ! 俺の『キャベツ太朗』をそのくらいって言ったな! ぶっとばすぞおらあ!」

 あまりの怒声に驚いた達也は、震えながら四階を目指した。

 この階には縁がないだろう。昔からスポーツが苦手だったからである。体育会特有の気合いや、しきたりが嫌いで、スポ根などは目を覆ってしまっていた。胴上げや、円陣も好きではない。あんなの、何が楽しいのだろうかと、いつも目にするたびに冷ややかな視線を飛ばしていた。

 それにしても、この部室塔には本当にいろいろな人がいるものだ。次が最上階だが、いよいよ文化部が待っているのだろう。

「なんだか疲れちゃったな」

 時刻はもうすぐ三時になろうとしていた。



「それではこれから第二ラウンドを行います。名前を呼ばれた者同士席に着いてください」

 沙織はプロ棋士が主催する研究会に参加していた。

高山(たかやま)五段と島田(しまだ)2級、荻野(おぎの)二段と桑原(くわばら)1級……」

 この研究会はプロ棋士と、その卵である奨励(しょうれい)会員(かいいん)、沙織などの女流プロ棋士で構成されている。公式戦さながらの長い持ち時間であるのが特徴だ。対局(たいきょく)が終わった者は、一局の将棋を振り返る感想戦(かんそうせん)を、時間をかけてみっちり行う。アマチュアなら最低でも四段はないと参加できないため、研究会の中でも、極めてレベルが高い場であろう。沙織は第一ラウンドで、奨励会員の林6級に勝利した。林6級はまだ十歳。6級とはいえ、アマチュアの基準に置き換えると四段はある子である。沙織はこの勝利により、ある程度手応えを(つか)んでいた。次に当たるのは基本的に勝った者同士なので、より強い相手と戦うことになる。

小島(こじま)四段と池谷女流1級」

 沙織の名前が呼ばれた。相手は半年前にプロデビューしたばかりの、新進(しんしん)気鋭(きえい)の若手であり、先ほどの相手とは飛車一枚くらい差があるほどの強さを誇る。それでいて年は沙織より一つ下の有望(ゆうぼう)(かぶ)。公式戦とは違うが、せっかくの機会である。沙織は強い相手と対局することを待ち望んでいた。

 よし、全力でぶつかろう!

 戦型は沙織の得意戦法である石田流(いしだりゅう)に、王様の囲いは、もちろん美濃(みの)(がこ)いだ。



 階段を上ると、先ほどの臭いから解放され、新鮮な空気が広がっていた。

 達也はこつこつと歩みを進める。鉄道研究会、漫画研究会、囲碁部……

 達也は足を止めた。ついに将棋部を発見したのである。このドアを広げると、今までに味わったことのない、新たな世界が広がっているのだろう。水筒のお茶を飲み干す。キュッと蓋を閉める音がよく響いた。

 すーっと息を吸い、ドアノブに手をかける。生唾(なまつば)を飲み込んだ後、ついにドアを開けた。

「すいませーん」

「およ!?」

 中には将棋を指している男が二人、それを観戦(かんせん)している女がいた。まず初めに達也に気付いたのが女である。

「あれー? だーれだったっけー? 君、新歓居た?」

「ええと……」

「あたしさー、物忘れひどくって、忘れちゃったのよー、なんて名前だっけ?」

「すいません。僕、新歓居なかったんですけど、今からでも入部できますか?」

 達也が頭を下げた。心臓がバクバクと動き、汗がにじみ出る。

「ん? なーんだそうだったんだ。そんなの余裕でOKよ」

そう言うと、女は右手を敬礼のポーズのようにとって続けた。

「二年の下田(しもだ)みかでーす! よろしくぅ」

「下田殿、馴れ馴れしいですぞ」

「そうだそうだ」

 対局している二人の男達がこちらを見た。下田という女は「うるさい」と一喝して二人に手を向けた。

「紹介するね。あっちの眼鏡(めがね)が、二年の麻生(あそう)

「よろしくですな」

 なんだか変わった言葉使いをする人だ。見た目もあふれんばかりのオタクっぽさがあった。ちょっと太めの体格に、ニキビがよく目立ち、青いつなぎのオーバーオールは、まるでマリオのようである。このマリオはピーチを救うことはできないだろう。

「反対の小さいのが二年の伊藤(いとう)

「よろしくー」

 小柄の男が少し恥ずかしそうに頭を下げた。こちらは普通の人っぽい。確かに背が小さいが、達也も人のことが言えないくらい小さいのでお互い様である。達也の身長は163㎝だが、伊藤という人はそれよりもさらに小さそうだ。ちなみに達也の姉の沙織は170㎝もある。そういうこともあり、達也は身長にコンプレックスを感じていた。伊藤とは気が合うかもしれない。

「んん、ではおぬしの名前を教えてもらえますかな」

「あ、すいません。池谷達也です」

 その時、下田の目が光った。

「池谷!?やーん! 私が愛する沙織様と同じ名字(みょうじ)じゃん!」

 達也に戦慄(せんりつ)が走る。沙織というのはもしかして……

「ほう、確かに。よかったですな下田殿」

「俺も池谷さんかわいいと思うわー」

「でしょでしょ伊藤君! 沙織様は私の目標なんだから!」

「下田殿、いくら頑張っても池谷さんのようなモデル体型にはなれませんぞ」

「うっさいわ! 小さいほうが得な場合も多いんじゃ!」

 達也は今にも倒れそうになった。まさか自分の姉がこんな存在になっていたなんて。気持ち悪くなった。吐き気がした。モデルだと? 冗談はよしてくれ。

「ごめんごめん池谷君、つい熱くなっちゃって」

 いつの間にか下田がハンガーを片手に持っている。後ろで麻生がピクピクしているのを見る限り、それで殴ったのだろう。

「池谷君は棋力(きりょく)どのくらい?」

「棋力?」

 なんのことだろうか達也にはわからなかった。

「ああ、どのくらい将棋が強いかってことね」

 ついに待っていた質問がきた。達也は嬉しそうに答える。

「コンピューターに勝てるくらいです」

 ああ言ってしまった。さあみんな驚け。ここにいるのは、コンピューターに勝った池谷達也様なのだと。

「んーコンピューターって何のソフト?」

 む、そこまで驚いている様子でもない。というより、ソフトにもいろいろ種類があることすら知らなかった。急に事態を察知し、頬が赤く染まった。目を伏せ、今度は消え入りそうな声で答えた。

「ハ……ハム将棋です」

「ハム将棋? あーあれかー」

 下田が小刻みに頷いた。

「ふむ、小生も勝ったことがありますぞ」

「ハム将棋は初心者の登竜門(とうりゅうもん)だからねーまあ、うちも三回に一回くらいしか勝てないけど」

「でも、棋力を知らない人がハムに勝てるのは、すごいことだと思いますぞ」

「それもそうね」

 そうだったんだ……

 達也は恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。だが、うっかり自慢していたら、もっととんでもない恥をかいていただろう。いや、それでもまだ恥ずかしい。プロどころか、普通の大学生でさえ勝っているではないか。特に沙織には伝えないでよかった。昨夜の妄想を、すべて記憶から抹消してしまいたいくらいである。何が奨励賞だ。

「んじゃ池谷君、あたしと対局してみようよ」

 下田が空いている席に座った。すぐに盤の近くに置いてあった空のペットボトルをゴミ箱へ放り投げる。

「ごめんね散らかってて」

 達也は下田と向かいの席に座った。目の前の盤はとても薄く、自宅にあるものより遥かに安そうなものだった。駒もプラスチックである。

「振り駒は知ってる?」

「金を振るやつですか?」

「それは回り将棋。じゃあ教えるね。まず、歩を五枚持ってよく振る」

 下田は自分の歩を五枚つまみ、シャカシャカと手の中で小気味(こぎみ)良くシェイクさせた。

「で、それを投げる。歩が出た数が多かったら、振った人の先手。裏のと金が多かったら、振った人の後手ってことよ」

「先手というのは先に指す人のことですぞ」麻生が付け加えてくれた。

 ジャラッと歩が盤上に舞う。歩が二枚、と金が三枚となった。

「うん、じゃあ池谷君の先手ね。お願いします」

「お、お願いします」

 ぎこちなく礼をする。急な展開だったが、ともあれ達也にとっていよいよ初の対人戦が始まった。



「負けました」

 沙織が駒台に手を置いた。いい勝負かと思っていたが、あっという間に攻め込まれて惜敗(せきはい)となってしまった。普段は感情を表に出さないが、今日ばかりは悔しそうである。

「飛車交換したところではこちらも戦えたかと……」

 沙織は絞り出すように声を出した。

「ええ、自信ありませんでした」と対局相手の小島も同調する。

「▲2五銀では、▲2三銀成と切り込む手があったんじゃないかい」

 (すで)に対局が終わっていた高山五段が、盤を(のぞ)き込んだ。沙織の兄弟子(あにでし)であり、沙織を研究会へ誘った張本人だ。年は三十七と、もういい歳したおじさんである。ホストのような長髪がトレードマークであるが、見た目と違って豪快な性格だ。

「しかし先生、それは無理筋でしょう。じっと引かれて自信なかったです」

 小島が高山に反論する。沙織もそれは無理だと感じていたが、口が挟めない。

「いやいや、自玉が安全なんだし、引くのは気合いが悪いってもんだよ」

「▲2三銀成(なり)に△同玉(ぎょく)▲8一竜(りゅう)△5一金引(ひく)▲3五桂(けい)△3二玉の後はどうするんですか?」

「切ってぼんやり角打ちたいけどねえ」

「▲5一竜△同金▲5三角ですか。それは△6九飛()で、こちらが攻め合い勝ちしそうです」

「……」

 高山の口が止まった。小島のやつ、なんでも理屈だらけでつまらない野郎だ。と、心の中で毒づく。

「先生、それ角抜く筋もありますよ」

 横から、こちらも将来有望株の下川四段が口を挟んだ。

「あ、本当ですね。単に△6九飛よりも、先に△3六桂利()かしたほうが得ですね」

「僕あまり見てなかったんですけど、▲2五銀と引いた後、どう指したんですか?」

「本譜はじっと寄って……」

「竜寄って……」沙織の指が動く。

「そう、ここが勝負所でしたね」

「まだ難しいんじゃないですか?」

「私もここはいい勝負かと思いました」

「そうですよね」

「ここが難しいところですね」

 どうやら口を挟めそうにないと判断した高山は、つまらなそうに席を立った。

沙織も彼らの(そば)にいたほうが勉強になるだろう。だが小島、公式戦で当たった時は覚えていろよ。痛い目に遭わせてやるからな。

 心の中では威勢のいいことを言ってみせたが、実際勝てる気はしなかった。高山はプロになってから、大した実績も残せず、ずるずると棋士生活を送ってきた。人気も無い。それどころか、普段からアマチュアと接することが無かったため、高山のことを知らない将棋ファンも多く存在する。昔こそ調子良く勝てていたものの、ここ数年は通年で負け越しが続いていた。通産勝率も四割台に突入し、このまま下り坂を駆け下りながら引退する。誰もがそう思っていた。当の本人だって同じだ。小島にああも言い返されてしまったのは、互いの立場がよく分かっていたからだろう。プロは弱い、強いに敏感(びんかん)なのである。

 小島め、今はプロになって人生上り坂だろうが、そのうち負ける日が来るんだぞ。偉そうにしてられるのも今のうちだ。

高山は恨めしそうに小島の背中を見た後、背広のポケットからライターを取り出した。

「ちょいと煙草(たばこ)行ってくるわ」

 返事は、誰からも返って来なかった。



「負けました」

 達也が頭を下げた。いい勝負と思っていたが、あっという間に駒をボロボロと取られて惨敗(ざんぱい)となってしまった。達也は茫然(ぼうぜん)としている。

「ふふ~ん、まだあたしのほうが強いわね」

 下田が笑顔を見せた。なんだか不思議な気分である。この人は初心者と言っていたが本当にそうだろうか。少なくとも自分とは大きく実力が離れていたような気がする。

「もう一回やる?」

 達也は迷わず首を縦に二回振った。

「お願いします」

「お願いします」

 またも達也の先手で対局が始まった。

 それを見かねた伊藤が、冷蔵庫から麦茶を取り出す。

「ま、何も出さないのもあれだしね」

 慣れた手つきでコップに注ぐと、達也の手元にそっと置いた。

「気が利きますぞ伊藤殿」麻生が感心したように頷く。

「いやいやこれくらいしかできないから」

 伊藤に軽く会釈(えしゃく)をすると、達也はそっとコップに口をつけた。そして、下田をまじまじと見る。

 よく見ると目がパッチリとしており、ツインテールもよく似合っている。化粧(けしょう)は詳しくないが、なにやらいろいろと盛り込まれているのはわかった。 達也が(いだ)いた印象は、見た目も性格も、チャラいギャルだということ。だが、正直かわいい。なぜこんな人が将棋を指しているのだろう。一瞬ときめきかけたが、すぐにその想いは泡となって消えた。バイオレンスな人は嫌いだからだ。再び達也は盤上(ばんじょう)に集中する。

「池谷殿は石田流の使い手ですかな。いやはや、困ったライバルが増えましたな」

「初心者とは思えないよね。序盤(じょばん)の形もしっかりしているし」

 盤の横から二人が褒めてくれているのだが、ここから攻め方がわからなかった。だが、序盤の形はしっかりしていることがわかり、なんだか自信を持った。せっかく沙織から教えてもらった陣形である。間違って覚えていたら、また恥をかいていただろう。

「あたしにも麦茶ちょーだい」

 下田が麻生に色目(いろめ)を使う。とにかくこの人は明るく、溢れんばかりの無邪気な笑顔は、まるで小学生のようだ。

「すいませんが、ちょうど切れてしまいましたな。いやあ無念」

「まだガブガブ飲めるほどあるじゃねーかおい!」

「んん、自分で注いだらどうですかな。コップは向こうですが」

「めんどくさー、いいや、このまま飲むわ」

 そう言うと下田は1・5リットルサイズのペットボトルを持ち上げ、そのまま豪快にゴクゴクと飲んだ。

「あああああ! なに口つけてんだお前!」

 伊藤が声を荒げる。

「いーじゃん、減るもんじゃないし」

「減ってるだろ! ちくしょー、もう飲めねー」

「なーによ、みんなのアイドルみかちゃんの唾液(だえき)がついてんのよ。嫌がる人なんてこの世にいないわよ」

小生(しょうせい)がいますぞ」

「うるさいな、あんたは人間じゃないでしょ。オタクでしょ」

「オタクは人間扱いしてもらえぬと!?」

 やっぱりオタクだったかと、達也はもう一度麻生を見た。それにしてもすごい会話をしている。対局中だが、どうしても気になってしまう。

 達也は当然集中できず、この局も負けた。だが、横で聞いていた会話の内容がとても楽しくて、居心地(いごこち)が良かった。いつまでもここに居たい。三人の漫才のような掛け合いを聞いているだけで、自然と笑みがこぼれた。



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