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関東大学将棋物語  作者: るかわ
36/92

相石田

「遅いですよ」

 橋本が対局室前のドアの傍に立っていた。手には相変わらずスマホが握られている。

「法名どうなった?」

「清野先輩が負け、奥村先輩が勝ちです」

「清野さん負けたのか」

「やるわね田島。ってことは一勝一敗?」

「そうですけど、長崎さんと戸刈さんが負けそうです」

「いやーながこー!」

「まーた戸刈さん負けるのかよ……」

 川上はがっくりと肩を落とす。

「とにかくデータ取らないと!」

 橋本と達也を残して三人は対局室の中に入った。すると、入れ違いに奥村が対局室から出てきた。

「お疲れ様です」

「お、お疲れ様です」

 二人はぺこりと頭を下げる。

「大変だ、前田の形勢が急転して悪くなっている。このままでは3―4負けの可能性が高い……」

「えー!」



――負けかもしれないな。

 前田は徐々(じょじょ)に追い詰められていた。中盤までは互角に進めていたが、一手だけ前田に甘い手が出た。すかさず山岡に攻め込まれ、劣勢となってしまった。山岡の実力はよく知っていたつもりだが、みくびっていたか。時折前田は斜め上を見上げ、目を閉じる。あの局面でどう指せばよかったのか、振り返っているようだった。



「おっ池谷君やないか」

 対局を終えた清野が池谷の元に駆け寄った。

「お疲れ様です」

「負けてもうたわ~結構強い子だったで」

「石田流だったんですか?」

「ああ、うちも石田流で対抗したんや」

「石田流に石田流!?」

「せや、プロでも見るし、そんなに珍しいことじゃないで」

 達也には想像もつかなかったのか、口をぽかんと開けていた。そもそも、達也は(あい)振り飛車を知らない。お互いに飛車を横に移動させた場合に起こる戦法だ。互いに石田流とはどういう現象が起こるのだろうか、達也は興味津々だった。

「知らなかったみたいやな。それなら教えたるで。控室行こか」

 この人は負けた直後だというのに、なんでこんなに親切にできるのだろう。そういえば詰将棋を教えてくれたのも先輩だった。ありがたいとばかりに達也は清野についていく。

「斎藤のマグネット盤使わせてもらうか」

 清野と達也が控室に戻ると、奥村が一人でパソコンと向き合っていた。

「清野のとこは相石田だったな。データを取りたいので協力してくれないか」

「ええ、田島の将棋ですね」

「そうだ」

「池谷君も見ときな」

 清野は序盤の大まかなポイントを丁寧に教えてくれた。奥村からもデータを生かした細かい情報を教えてくれる。本人は、石田流は専門外と言ってはいたが、それでも達也にとっては教授のような存在と言えるほどの、膨大(ぼうだい)な知識の量であった。達也はこの短時間で様々なことを学んだ。お互い石田流に組んだ時の名前を「相石田流」という。その細かい変化を知るうちに、達也はますます石田流の(とりこ)となった。


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