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関東大学将棋物語  作者: るかわ
27/92

vs中邦


 前田の相手は毎年中邦でレギュラーになっている三年生の牧野(まきの)。前回の対戦も、四将として前田と対決していた。戦型はまたしても(よこ)歩取(ふど)り。記録係のシャイアンはつまらなそうな顔を見せている。

 せっかく先輩の将棋を担当することになったけど、僕、横歩取りなんてやらないからな。早くちゃちゃっと終わらないかな。この人、どうせ前田さんには勝てないだろうし。



 雁木(がんぎ)だ。

 倉富は奥村の棋譜を取っていた。相手が指してきた雁木戦法は定跡形になりにくく、力勝負になりやすい。それを知ってか、研究家の奥村にぶつけてきた。

 奥村が手を止める。そして静かに目を閉じ、口を開け、天を見上げた。

――出た。

 倉富は内心血が騒いだ。これは先輩の癖で、記憶を呼び起している証拠だ。奥村さんの記憶力は尋常(じんじょう)じゃない。これが出ると中盤まで絶対にリードを守る。まさか奥村さん、マイナーな雁木対策もカバーしているのか!



 川上は早くも追い込まれていた。何気なく突いた歩を、藤本は隙ありと見て仕掛けてきたからだ。強い人はこれだから怖い。どんな小さな隙も見逃さないのである。よりによって個人戦ベスト8の藤本さんに当たるとは、自分も運が無いな。川上はがっくりと首を垂れた。



 難しい対局ですな。

 麻生は佐藤の棋譜を取っていた。相手は中邦の一年生であり、佐藤相手に気負っているようであった。麻生は目ざとく察すると、落ち着いて局面の分析を始めた。

相手の石田流に、佐藤先輩は(ぼう)(きん)になりそうですな。自玉の守りが薄くなるから、受けが強くないと簡単に負けてしまう戦法ですぞ。佐藤先輩ならではの対策ですかな。

 形勢はともかく、佐藤の得意な受けに回る展開となった。チームは佐藤について何も心配していない。とにかく自然に勝っているのである。入部当初は目立たなかったが、ついにチームの二番手にまで成長した。



 よっしゃ、今日は()えてるで!

 清野は軽快な駒運びで局面をリードしていた。相手が指したと同時に、すっと手が伸びる。相手に考える時間を与えずにパッパと指すのが清野の特徴だ。考えずに感覚で指す才能派なのである。相手もつられて早指しになってきた。記録係の伊藤も、ペンが追いつかない。



 達也はようやく全大学分のオーダーを書き終えると、控室に戻った。コピー機の場所がわからないので、とりあえずそこに置いておくことにした。「将棋見てこよう」と独り言を呟いて、対局室の三階まで駆け込む。

 会場の米大はとても広い大学だ。うっかり達也も迷いそうになったが、人の流れでなんとか確認できた。将棋指す人は、頭が良さそうで眼鏡をかけているから、そいつらについていけ。達也は前日橋本から教えてもらったことを思い出し、そういう人を見つけたらすぐに後を追った。対局室まで辿り着くと、中で下田を発見した。会場は男だらけなので、背は小さいものの、下田はよく目立つ。

「先輩」

「おっ池谷君終わった?」

「控室に置いてきました」

「コピーもしてくれた?」

「それが……」

 自信無さそうに目線を外した。

「わかった、お金渡してなかったねー」

 財布を取り出して中を開くと、顔が(くも)った。

「ごめん金欠(きんけつ)だったわ! 身体で払うからいい?」

「いや、そういうことじゃなくて、コピー機がどこにあるのかわからないんです」

「ああ、コンビニよ。米大の人以外コピー機は使っちゃいけない決まりだったはず」

 そうだったのか。面倒だが、早くコピーしなくては。特に次の医科大のデータはみんな欲しがるだろうし。

「じゃあ行ってきます」

「明日お金あげるから許してな!」

「お金はいらないですよー」

「そっか、身体のほうがいいか! 池谷君も男だね~」

 だから違うって。それにしてもコピー代すら持っていないとは、ほとんど一文無しではないか。大丈夫なのかあの人は。


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