初日前夜
「姉貴!」
「急に何よ達也」
達也がリビングで目にした沙織は、スナック菓子を手にしていながら、寝そべってテレビを見ている、いつもと変わらない姿だった。これのどこがアイドルなのだろうかと、達也は頬を抓りたくなる。
「忠告があるんだけど」
「何?」
「あのさ……」
言いにくいのか、テレビに目を背ける。少し間を置いた後、気まずそうに「あんまりグラビアとかやらないでよ」と呟いた。本当はもっと言いたいことがあったが、その一言だけ伝えた。
「そんな、水着とかになるわけじゃないんだから、心配しなくてもいいのに」
「沙織、あんた水着なんてやったのかい?」
登紀子が水着という単語に、敏感に反応する。
「やってないわよ!」
「僕が困るんだから、そういうのはやめてよね!」
そう言い残すと、達也は二階に上がった。沙織と登紀子は、不思議そうに後ろ姿を見つめていた。
明日の大会、どういう感じなんだろう。
達也は部屋でぼんやりと考えていた。自分がまだ出れない実力だということはわかる。団体戦とは、大学の名をかけて戦うと言っても過言ではないのだ。自分なんかが出たら、大学中から非難を浴びるだろう。それに、自分にそこまでの精神力は無い。
達也はパソコンの前に座り、24を開いた。明日は朝早く家を出ないといけなかったため、五局だけ指そうと決めた。だが、最後の一局に負けると、もう一局だけ指した。




