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第二章 目覚めれば―④ 『平坂義弥の異世界考察・其の一』






 三人分の足音が洞窟に響く。

 大陸南部のとある王国の近郊にある魔界へと続く『門』が存在する底深き洞窟。


 グルナゴルドラ――長いし、舌を噛みそうなので『ドラ』と呼ぶことが決定した――は、その『門』の守護竜として、この洞窟を棲み処としているという話だった。


 この時点でいろいろと突っ込みたいのだが、とりあえずは現状を順序良く理解していく必要があるので、ひとまずは保留ということで僕たちの方針は一致している。


「ここは『地球』なの?」


 簡単な自己紹介を済ませた頃合で、肩に乗せているドラに問いかけるさくら。


『チキュウ?』


 聞き慣れないという風に首を傾げるドラ。


「ウソを吐いている――いや、隠してるような感じじゃないな」


 お姫さま(?)を背負っている信長が言う。


「……というか、理解できないって感じだね。じゃあ、もう一つ質問。今は何年?」


『この大陸の人間たちが使っている暦で言うなら、248年の春の37日です』


「………やっぱり異世界っぽいな」


「もうそう思っておいた方がよさそうだね」


「やった♪」


 無邪気に喜ぶさくら。


「それじゃあ、こっちの世界について、いろいろと教えてくれ」


『それなんですが……』


 ドラが翼をパタパタしながら前足を上げる。


『そちらに関しては、これから案内する街に適任者がいるので、そちらからお聞きして頂くのはどうでしょうか?』


「適任者……?」


『はい。仕事柄その手のことが得意なのですよ』


 なにやら含みを感じるドラの物言いに、僕は疑問を覚える。


「なら、こっちの女の子についてならどうだ?」


 それを問い質すよりも先に、お姫様を背負い直しながら信長が口を開いた。その口調にわずか以上の険が含まれているのは、こんな年端もいかない少女が何らかの陰謀劇に巻き込まれているであろうことに対する苛立ちだろう。


 長い銀髪の整った顔立ちをした少女だ。年の頃はそんなに差がないように見えるし、もしかしたら年上かも知れない。


 その眠りは深い。あるいは眠っているのではなく、眠らされているのではと疑うほどだ。


『彼女は怪しげな連中が頼んでもいないのに、私に供物として捧げるとか言って差し出してきたのです。はい。』


「「「で?」」」


 返答次第では『目からビーム』という意図を存分に含ませて、ドラに続きを促す僕たち。

 不穏な空気が醸成される。


『私としても人間を喰う趣味はないので、当然のようにいらないのですが、持って来た連中の態度が気に入らなかったので燃やしました。はい。無論、彼女をどうこうするつもりはなかったですよ。知人の手に渡るように手配するつもりでした』


「ふぅん」


 特に非難するでもなく受け入れるさくら。

 僕と信長も何も言わない。


 なんだかんだで二重の意味で小者になったドラだが、無意味に殺戮に走るようなタイプではないだろう。どころか、かなり理性的なようにも思える。そんなドラが燃やしたくなるというのなら、相当の外道だったと思うのが妥当だ。


 こんな小さな女の子を生贄として捧げるような連中が不幸になったところで、僕たちは痛むような胸を持ち合わせてなんかいない。


『付け加えるなら、今の時期に人間たちの陰謀劇に利用されるのは御免被りたいのですよ。そこまで堕ちたつもりもないですしね。はい』


 既にぬいぐるみにまで落ちぶれたドラが思わせ振りなことを言っている。


「――てか、やっぱりドロドロした陰謀劇が絡んでるのかね?」


「そりゃあ、このパターンだと十中八九そうだと僕は思うよ。どう見てもお姫さまっぽいし、ドラゴンへの供物だし、怪しげな連中だしで、この展開でそうじゃなかった脚本家は(笑)だよ」


「詳細は、本人が目を覚ましてからだね」


『異邦人であるあなたたちが、外界の事情に首を突っ込むのですか?』


 意外そうな声音で言うドラ。


「いやぁ、このパターンだとな」


「なぁ? 遅かれ早かれ……」


「絶対に巻き込まれちゃうよね」


『そういうものですかね』


 お約束(・・・)というものを理解していないドラに、しみじみとうなずく僕たちだった。


 ――とはいえ、今は謎ばかりが積み上げられているような段階だ。早いところ異世界に関する情報を集めたい。それと、さくらの目からビーム(・・・・・・・・・・)が出る理由もだ(・・・・・・・)


「ちょっといいかな、ドラ」


『はい。なんでしょうか、ご主人様』


「そこまで(へりくだ)らなくてもいいし、敬語もやめてくれないかな? 敬われるようなことはしてないし、そんな経験もしてないんだ。正直、背中がかゆくなる」


 僕の言葉に躊躇を垣間見せたドラが、さくらを見やる。


「うん。そうしてくれるかな」


『それじゃあ、まあ遠慮なく……と言いたいところですが、普通の喋り方が基本丁寧になるのは勘弁してもらいたいですね。基本的に若輩の身なもんで、年配や上司が多くて、いちいち切り替えるのが面倒になっているんですよ』


「年配や上司って、今はぬいぐるみとはいえドラゴンが口にするには俗っぽ過ぎる」


『どんなとこにでも上下関係はあるものですよ。

 そして、我々にとっては力が全てで、勝者に敬意を払うのは必然というものなのです』


 堂の入ったため息を吐くドラ。

 案外と苦労をしているのかもしれない。


「なら、ドラの楽な話し方でいいよ」


『はい。それでは、質問を聞きましょう』


「ドラはこの世界においては、どのぐらいの強さなんだ? 簡単な自己紹介を頼むよ」


『十三匹の古代竜(エンシエント・ドラゴン)の一角。齢千年程度の若輩ではあるものの長老(エルダーズ)の末席に名を連ねている――といったところでしょうかね』


「なるほど。大層な肩書きを持ってるわけだ」


『………まぁ、並ではないという自覚は持っていたものの、そんな些細なプライドは諸共に消し飛ばされたわけですけれど』


「つまり、さくらの『目からビーム』はかなり強力だったわけだ」


 信長がなんとなく納得いかない感じに言う。

 それは僕も同感だ。


 悪ふざけの極みみたいな名前なのに――自分で言ってて胸が痛くなるが――威力が超凄ぇよ。マジでチートの具現だ。


 さくらは『えっへん』とばかりに、胸を張っている。


『油断してたのも含めて、総魔力の八割を持ったいかれましたし、完全に回復するまでかなりの時間がかか――』


「それはどうでもいい」


 長くなりそうだったドラの愚痴をバッサリと切り捨ててから、確信に切り込む。


「この世界での『力』の使い方を教えてくれないか?」


『力の使い方?』


 小首を傾げるぬいぐるみドラゴンと二人の幼なじみ。


「僕たちの素養というか、条件は同じはずなんだ。

 なのに、さくらは『目からビーム』が出せて、僕は『目からビーム』が出せなかった。その理由が知りたい。当のさくらの意見は〝なんとなく〟だったから参考にならないんだ」


 断っておくが、僕は目からビームを出したいわけじゃない。

 目からビームが出なかった理由の検証がしたいんだ。


『………ふぅむ』


 ドラが思案するように唸る。


「念のために言っとくけど、逆襲とかは考えないでくれよ? こっちとしても揉め事は望んでいないし、さっきのはこっちの言葉を信じなかったドラがあらゆる意味で悪い。きっぱりと自業自得だぞ」


『そんなつもりはありませんよ』


 やっぱり、ドラは話せばわかるタイプだな。


 さっきのは説明するにはいろいろと込み入っていた上に、さくらが誤解マックスだったから、ああなってしまったと考えるべきだ。要はすれ違いというか、ボタンの掛け違いみたいなものだろう。


 ただひたすらにタイミングが悪かった。

 それだけの話だ。


『しかし、魔法や魔術の概念を知識のない者に伝えるのは難しい。どの程度の知識があるのかを知りたいのですが』


「専門的という意味では皆無だね。でも、実行できない・実践していないという前提条件でなら、余計なぐらいたくさんの知識がある」


 アニメ。小説(ラノベ)。マンガ。あるいは自分設定で。あと中世の魔女とか黒魔術とか呪いとかをネットで調べていた時期がある。


『そもそも我々には生まれつき備わっている『魔法(モノ)』を、人間たちが自分たちにも使えるように劣化させたものが『魔術』なんですよね。稀に魔法に至る者もいますが、それは個人の才能ゆえに参考にはならないでしょう。故に、人間の技術は人間に学ぶのが妥当と言わせてもらいましょう。こちらから教えられるような内容はあまりに少ない。

 それでも一つだけ伝えられるとすれば、『意思の力』こそが全ての要。現実をも塗り変えんと願う心こそが力を生む――のだと〝あの男〟は言ってましたね』


「意思の力に願う心……ね」


 それは不思議としっくりとくる言葉だった。

 型に嵌るように。


「……あぁ、なるほどね」


 そして、そう考えたならば、あっさりと一つの仮定が組み立てられた。


「よっしー?」


「よしやん?」


 不意に足を止めた僕に、前に出た二人が振り返る。


 僕はそれには応えずに、足元にいくらでも転がっている石の一つを拾い上げる。握り拳くらいの大きさで実験にもちょうどいい。


 それを軽く上に放り投げる。


 さくらは言っていた。

 使えるような気がしたからやってみた、と。


 そしたら『目からビーム』が出た。


 それはつまり、ある種の確信の成せる業なのではないだろうか?


 強い意思(・・・・)。あるいは強い願い(・・・・)。そうしたものが反映される世界であるのならば、さくらの想う気持ちはトップクラスと言えるのではないだろうか。


 なにしろ現役の中二病だ。

 おまけに『目からビーム』には特別思い入れが強い。


 あの瞬間のさくらは1%の疑念(・・)も抱いていなかったはずだ。

 それが結果であり、僕とさくらの差であるのならば………。


 僕に同じことが出来ないはずがない。

 僕の中二力がさくらに劣るはずはない。最低でも互角のはずだ。


 使えるなら使ってみたい技なんてそれこそいくらでもある。恥ずかしさが先行する『目からビーム』なんかよりも、真面目に集中できる技が。


 そう。

 神様と妖精が同時に舞い降りて、僕の頭の中で踊ったあの技を。


「見えず、聞こえず、しかし全てを切り裂く――静謐なる刃(サイレント・エツジ)っ!」


 声を出したら台無しな感じではあるんだけど、ここは高まった気分とその場のノリというやつで。手を前に出したのも勢いだ。


 刹那――

 ほんの少しごく微量ではあるものの、僕の中から何かが減った(・・・・・・)ような感覚があった。


 しかし、そんなものは些細な問題で、重力の法則に従って落ちてきていた石が縦に両断された。文字通りの意味で、見えない刃に斬られたように。

僕にとっては想定どおりの結果だが、ギャラリーからしてみればいきなり割れたように見えただろう。


「あ♪」


「おおっ!」


『そんな馬鹿なっ!?』


 さくらは喜び、信長は驚き、ドラは目が飛び出る勢いで叫んだ。


「ふむ。」


 僕は二つに分かれたい石を拾い上げる。

 鏡のように綺麗な断面だった。


「念のためにもう一回試してみようか」


 呟きながら、視界内にある手頃な岩に狙いを定めて、静謐なる刃を発動させる。

 他に被害を与えずに、僕が選んだ十個の石だけが二つに分かたれる。


「なぁ~るほどね」


『えぇっ!? いや、そんな簡単にこんな高度な『魔法』級の術式を人間がっ!?』


「要は意思の力であり、願う気持ちなんだろ?

 現役の中学二年生の心の病は、容易に現実をも塗り替えるのさ」


 変なポーズを取りながら、自信満々に言う僕。


「よっしー、すごーい。どうやったの?」


「さくらが『目からビーム』を出したのと同じ理屈だよ」


「説明してるようで、まったく説明になってないぞ」


「上手く説明できる自信がないから、いつものノリでいくぞ」


「ああ。いつも通りで頼む」


「ぶっちゃけると自分の信じている理屈を、現実に反映できるみたいなんだよ」


「ふ~ん」


「うん?」


 絶対にわかっていないさくらと疑問符を浮かべる信長。


「もう少し補足すると、目からビームが出せると思っていたら、現実に目からビームが出る世界なんだよ。ただし、100%信じてないと出ないし、それはきっと生半可(・・・)じゃ叶わない。それこそちょっと病んでるレベルで信じ込んでないとダメだと思うよ」


 一言で言ってしまえば、中二病患者御用達の世界観だ。


 人間の妄想が現実を侵食し、影響を与える世界――それが現状で得ている情報で組み立てた異世界に対する僕の仮説だ。


 何気にぶっ飛んでるな。二重の意味で。


「つまり、俺も『目からビーム』が出せるのか?」


「みんなでいっしょに『目からビーム』出して遊べるの?」


 遊びたくねぇよ。


 三人で目からビームと大きな声で連呼しまくって、その度にいろんな色のビームがあっちこっちに放たれるのか?


 なんだそのシュールな光景は。

 忸怩たる気持ちになりながら、内心で突っ込みを飛ばしまくる。


「自分も騙せるレベルで信じられたら出せると思うけど、『目からビーム』にこだわる必要はないっていうかこだわるな。連呼するな。言わせるな。心がしくしく泣くんだよ」


「俺もあとで試してみるかな」


 頭の後ろで手を組んで、口笛でも吹きそうな調子で言う信長。


「聞けよ。無視すんな」


「気にすんなって、いつものノリだよ」


「……ったく。まあ、その時は僕も協力するよ。いろいろと検証する必要もありそうだし。いくらなんでもリスクが皆無とも思えない。

 そーゆー意味では、さくらはアレ(・・)を出した時に何かを感じなかったか?」


「……うぅ~ん。少し疲れた感じはあったかな。うん。少しだけどね」


 考えるような仕種をしながら、さくらがそんなことを言う。


「僕も似たような感覚を覚えたし、このチート技は使用すると消耗はすると考えた方がよさそうだ」


「そこら辺の検証はよしやんに任せるよ。ついでに俺好みの技も考えといてくれ」


「それならいくらでもストックがある」


「さっすが♪ 期待してるぜ」


「あ。それなら、わたしも! わたしも!」


「任せろ」


『いくらなんでも順応が早すぎるでしょう』


 ドラの呆れたような呟きが聞こえたが、心外である。


 こちとら異世界に飛ばされた身なのだ。少しでも情報を集めて、身を守る手段を模索しておくのは当然の自衛手段だ。


 まあ、もっともこれが一人だけだったら、無駄にオロオロしてただけだったろう。この場に居合わせたのがいつもの三人だからこそ、そこそこ冷静に物事を考えていられるのだ。


 強いて付け加えるなら、さくらの『目からビーム』のインパクトが強すぎて、逆に落ち着いているという側面も無きにしもあらずだ。


 所詮は薄氷の上でのダンスに過ぎず、想定外の何かで突かれるとあっさり取り乱す自信はあるぜ。


「あ。そうだ」


 僕はポンッと手を打つ。

 ふと閃くものがあったので、声を上げる。


「………ちょっと思ったんだけどさ」


「なんだ?」


「どうしたの?」


「僕たちが召還(?)されたこの異世界だけどさ」


「「うん」」


幻想世界(フアンタジア・ワールド)って呼ぶのはどうかな?」


 二人は生温い眼差しで僕を見た。


「「ごめん。それは今わりとどーでもいい」」


「つまりオッケーってことだよね」


「「うん。もぉそれでいい」」


「よっしゃ――――――っ♪」


 握った拳を掲げて、歓喜の叫びを上げる僕。


『ヨシヤさんは何があんなにうれしいのでしょうか?』


「ちょっとした病気みたいなものだから気にすんな」


 おい、コラ。聞こえてるぞ、信長。


「ところで、そろそろ疲れたんじゃないかい? 変わろうか?」


 ずっとお姫さま(?)を背負いっぱなしの信長に言う。


 なんだかんだで、長く歩きっぱなしだ。

 女の子一人を背負ったままだとキツイだろう。


「いや? 特に問題はないぞ?

 ――というか、たまに背負っているのを忘れそうなぐらい軽いし」


「そう、なのか?」


「単に女の子を背負ってたくて、痩せ我慢してるんじゃないよね?」


「………………」


 イタズラっぽく聞くさくらに、信長は視線を逸らす。


「おい」


「いや、下心は無きにしも非ずだが、本当に重くなんかないぞ」


「そもそも下心を否定しなよ」


「いやぁ、それは俺もねぇ……」


 はっはっはっ――とわざとらしく笑う信長の様子からは、ウソや無理は感じられない。帰宅部所属の僕たちの体力なんてものはたかが知れているというのに。


「でも、かなり歩いてるのに、そんなに疲れた感じはしないよね」


「そーいえば……」


 かれこれ目覚めてから一時間ぐらいは歩いている。

 それなのに身体がまるで疲労を覚えていない。


「身体に違和感はないから、重力はそんなに変わらないはずだ。

 ………なら、基礎体力――身体能力が向上しているのかも知れないな」


 やれやれ。いろいろと調べることが増える一方だ。そろそろ煮詰まってきたというか、ちょっとばかり頭が痛くなってきた。詰め込まれた情報量があまりに多すぎて、処理が出来なくなっている感じだ。


 ドラが案内してくれるという街に行って、早く頭を休めたい。

 ………多分、さらに情報が詰め込まれて、混乱が増すような気がするけども。


「憧れの異世界もいろいろと大変だね。順応するのは大変そう」


『いえ、かなり順応してるように見えますよ、あなたたちは』


 ドラの突っ込みに、僕たちは「そうかなぁ……」と首を傾げるのだった。


「ま、考えるのはよっしーの役だ。頼りにしてるぜ?」


 ニヤッといい感じに丸投げ感満載の笑みを浮かべる信長。


「がんばってね♪」


「手伝ってもらうからな」


「「りょーかい」」


『あ、もうすぐ外に出ますね。ちなみに時間的には朝ですね』


 ドラのその言葉に自然と足が早くなる僕たち。


「やれやれ、やっと出口か」


「うぅ~ん。さぁてと。どんな光景が出迎えてくれるのかなぁ~?」


「…………」


 ウキウキと足取りを弾ませているさくらと信長の背中を追いながら、僕は妙な違和感を覚えていた。何かがおかしいと思っているのにそれがなんなのかわからない――そんな類の違和感だ。


 そして――


 洞窟の外に出た僕たちを出迎えた光景は――夜に等しい闇に包まれた空だった。


「「「………………」」」


 違和感の正体を悟る。


 洞窟の出口に近づいているというのに、外からの明かりが差し込んでいなかったのだ。ドラは朝だと口にしたのに、時間と外の明るさが合致していない。


 仮に昼夜の概念が逆転しているのだと仮定しても、その空の暗さは異常だった。月や星の瞬きすら見えない完全なる闇。


 洞窟の外に出た僕たちは、数メートル先の光景すらほとんど見通せない。まるで目を閉じているのではないかと錯覚してしまいそうなぐらいだ。


 遠くにわずかな灯の明かりが見えるが、おそらくはそこがドラの言っていた街なのだろう。


 言葉を失う僕たちに、光を放つ握り拳サイズの球を浮かせて光源を確保したドラが、ようやく一本取れたみたいな感じの声で告げる。


『ようこそ、我らの世界へ。歓迎しますよ、異邦人のみなさん。

 これより我らが王の治めるローレンシア王国の首都ゼフィーリアへと案内いたしましょう』







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