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第二章 目覚めれば―② 『遭遇』






 携帯電話は圏外だった。


 まあ、最初から期待してはいなかったので、落胆はしていない。


 むしろ、ここであっさりどこかに繋がったりすると肩透かしもいいところのなので、むしろ安堵しているといってもいいのかもしれない。この超展開が、実は三家の大人たちの悪ふざけだったとかいうオチだったりしたら、さすがの僕たちも激怒する自信はある。


 さておき。


 とりあえず、携帯電話で日付と時間を確認してみたら、翌日の午前四時二十分だった。

 体感時間で逆算すると、僕が目覚めたのは四時くらいだと思われる。


 聞いてみたら、さくらと信長は誤差五分くらいらしい。


 バッテリーの節約のために電源は落としておく。


 現状では充電をする手段がなく、バッテリーが切れた携帯電話など異世界(?)においてはただのスクラップ程度の価値しかないだろう。


 携帯電話を胸ポケットに戻して、前を歩く二人に歩調を合わせる。


「しかし、まあ、これは夢だったりしないのかね?」


 ふと、信長が言う。


「夢にしては、体の感覚がリアル過ぎるよ」


 やや不満そうな口調でさくらが否定する。


「果てしなくリアルに感じる夢で、メーセキムってのがあるんだけどな」


 珍しく信長が知識を披露するけど、それ絶対にうろ覚えだろと思うぐらいあやふやな発音だった。


「はっきり言うと『明晰夢』な」


 ――だけど、それは現状を夢と認識しているのではなく、とりあえずは思いついた可能性を上げているだけというのが口振りで感じられた。


「仮にその明晰夢だとしても、三人が三人とも同じ夢を見るとも思えないよ」


 そういう異世界を想像しながら就寝したのは確かだけど、まったく同じ異世界を寸分の狂いもなく思い浮かべられるとは思えない。


 少なくても、僕が想像した異世界は、こんな洞窟ではなかった。


「そこはあれだ。誰かの夢を共有してるって仮説はどうよ?」


「誰の夢を共有してるのかって疑問は残るよ。

 それに夢にしては、夢らしくない感じがするから、僕はさくらの意見を尊重するよ」


「よっしー♪」


 さくらが僕の両手を握って、ブンブンと上下に振る。


「現実だとして、俺たちは元の世界に帰れるのかね?」


「それについてはなんとも言えないな。ゲームだったらログアウトすればいいわけだけど、こんなだと皆目見当もつかないね」


「まぁ、ゲームでもこのパターンなら、ログアウト禁止になってるだろうけどな」


「そういうお約束だもんねぇ……」


 その手のゲームはしてないけど、と付け加えて笑うさくら。


「まあねぇ。わからないことばかりだから、なんとか『ここ』の情報を集めたいんだけど、この先で待っているのは、鬼か、蛇か、どっちだろうねぇ……」


「どっちも嫌だよ」


 嫌そうな顔で呟くさくら。


「まったくだ。縁起でもないぞ、よしやん」


「そこはやっぱり魔物(モンスター)だよ」


「「それは勘弁してくれ」」


 内容のない会話をしながら歩くこと約三十分。


「あ。広い場所に出るよ」


 るんるんとスキップしながら先行していたさくらが言って、不意にピタリと静止した。


「「ん?」」


 疑問符を浮かべた僕と信長はさくらと肩を並べて、やはり同じように固まった。


「………………」(僕)

「………………」(さくら)

「………………」(信長)


 そこは開けた場所だった。


 長い通路のあとの広間のような印象があり、抜けた先には岩壁がほぼ円形に湾曲した広大な空間が広がっている。


「………………」(僕)

「………………」(さくら)

「………………」(信長)


 さらに奥に続く通路があるのか、それともここが終点なのか。


 もしも終点であるのならば、まあ逆方向に進めばいいという指針になる――なんて、現実から必死に目を逸らし続ける。


 信長とさくらは目と口を丸くして、ポカンと立ち尽くしている。

 きっと僕も同じだろう。


 それなりに視力には自信がある。

 だからこそ、はっきりと見えてしまっていた。


「………………」(僕)

「………………」(さくら)

「………………」(信長)


 そこには山があった。骨を積み上げて作られた山。大小無数の獣、あるいは人形(ヒトガタ)のものも混じっているのかも知れない。


 それは彼の存在(もの)に食されたものたちの骸の山なのだろう。言ってしまえば、白骨の山なのだが、不思議とそうした死臭や腐臭の類は一切感じられなかった。空気が澄んでいるというわけでもないが、極めて自然な感じなのである。


 あるいは、ソレ(・・)の存在感がそうした諸々を払拭していて、感じたりしている余裕がないのかもしれない。


「………………」(僕)

「………………」(さくら)

「………………」(信長)


 そろそろ行数稼ぎの現実逃避は止めて、現実と向き合おう。


 最後に。

 僕はごくりと唾を飲み込んだ。


 骨の山を背景に、悠然と聳える巨大な生物。その巨体を浮かせられる強靭な翼を折りたたみ、その一挙一動が既に自然災害にも匹敵しそうな四肢を曲げて鎮座する姿勢ですら、見上げる僕たちを威圧してくる存在感。緩やかな呼吸ですら生暖かい強風となって、僕らを撫でていく。


 その大きな大きな異形――それは幻想の世界にのみ存在を許されているはずの怪物。


「ド、ドドドドラゴンッ!?」


 僕の声は震えていた。


「ドラ……ド、ドラ、ドラゴッンっ!?」


 信長の声は、著しくテンポが狂っていた。


「ドラゴンッ♪」


 そして、さくら。

 君は何故、そんなにうれしそうなんだ。


 ちゃんと状況を理解しているのか?


 間違ってもいつものノリで突っ込みを入れないのは、既にこっちを認識している様子の――目が()った――ドラゴンを刺激しないためだ。


 既に叫んでいるので手遅れ感が半端ないが、それでも進んで自分の首を絞めるようなマゾ気質は僕にはない。


 いや、迷わずに一目散で逃げ出すべきなんだろうけれど、こんなのに遭遇すると逆に動けなくなる。


 アニメとかマンガとかでも危ない場面に遭ったらすぐ逃げればいいじゃないとか思っていたけれど、硬直してチャンスを捨てている人たちの気持ちがよくわかった。わかりたくなかったけれども。


 ………………それはそれとして、さくらは今にも前に(・・)飛び出しそうなぐらいうずうずしているような気がする。あくまでも気がするだけなんだけど、僕と信長の手はさくらの肩を掴んでいたりする。念のためだ。


 ドラゴンに睨まれた人間(ねずみ)

 嫌な汗が止まらない。


 張りぼての二次元にはありえないこの生命の躍動感。


 立体になった幻想種は物語だと大抵やられ役であるのだが、常人にとってはどれだけの脅威なのかを骨身に刻み付けるかのようだ。見ただけでこれなのだから、いざ戦闘になった時にどれだけの暴威がばら撒かれるのかは想像したくもない。


 おあつらえ向きに、境界線の向こうは広大な空間だ。


 具体的に言うならば、崩落の危険性を考慮に入れなければ、ドラゴンが暴れ回るぐらいは平気で出来そうなぐらいに。


 無言のお見合いは二分ぐらい続いたが、体感的には数時間レベルだ。

 やがて、ドラゴンはずらりと鋭い牙の並んだ口を開いて見せた。


『招いてもいない来客が多い』


 こちらに語りかけるというよりも愚痴のようなニュアンスだったそれは、耳を震わせた音というよりも、直接頭に響いたというような感覚だった。


 そして、ドラゴンの眼が僕たちをはっきりと捕らえる。


『小さき人間(モノ)よ。何故にこの地を踏んだ?』


 なにゆえもなにも、気づいたらいただけです。


 パクパクと口を開閉するだけで音声を発することの出来ない僕(と信長)を置き去りに、しかし、さくらは元気に手を上げる。


「気がついたらここにいただけで、別に『来た』わけじゃないよ?」


 異世界に行きたいという願望はあったけど、とでも続きそうなさくらの発言である。


 恐れ気のないとかいう次元を超越しているというか、さくらは目の前の脅威(ドラゴン)にまるで畏れの類を感じていないみたいだった。


 度胸などではないだろう。

 ある種の歓喜が全てを超越しているだけだ。


 その反面、置き去りにされている野郎たちは、総毛立つという感覚を存分に味わっていた。


『ならば、何故この先に進もうとする?』


 わずかな間を挟んだドラゴンが問う。

 その眼には疑惑というよりも、疑問のようなものが浮かんでいるような気がした。


 おそらくは、大多数にとって自明の事を理解していない来訪者の存在にわずかながらも困惑しているかのように。


「どっちが出口かわからなくて、適当に――」


 さくらの言葉を聞いているのかいないのか、その途中でドラゴンの言葉がかぶせられる。


『この先に魔界へと続く門があることを知らぬわけではあるまい』


 知っているわけがない。


 だが、この一連の会話(?)で――というか展開で――ここが異世界、あるいは僕たちの知らない世界の裏側(・・・・・)を垣間見ているのだという確信を得た。


 ………まあ、それを得たからといって、ドラゴンと相対している状況の役に立つわけではないが、思考することで現実逃避は可能だ。さっき現実と向き合うとか言ったような気がしないでもないが、あんまりにも過酷過ぎてやっぱり無理だ。


 おまけに、したからなんだという話でもあるが。


「魔界? なにそれ?」


 美味しいの? ――とでも続きそうなさくら。

 ぶれないなぁ……この幼なじみは。


 空気を読めと叫びたくなるのを懸命に抑えながら、前へ前へと進もうとするさくらを引き摺りながら、僕たちはゆっくりとドラゴンを刺激しないように後退していく。


 いや、後退しようとしているのだけど、さくらの抵抗のために退けない。前進と後退が均等でプラマイゼロだ。


『小さき人間よ。汝らは何故にここにいる? 我にはそれがわからぬ』


「………う~ん。迷子みたいなもので、出口を探してます?」


『小さき人間よ。その言葉に偽りはないか?』


「うん」


 僕と信長も全力で首を縦に振る。振りまくる。

 ドラゴンが強く唸る。一度だけでなく、何度も何度も。


「怒ったんじゃね?」


 真っ青になっている信長は、完璧に腰が引けている。


「……笑ったんだと思うよ」


 多分、よい感情を抱いた笑いではなさそうだけど――と胸中で呟く。


『戯言を吐きよるわ、小さき人間よ。

 ………笑わせるでないわ。わかっておるぞ。大方、先刻の人間どものように我を利用しようとしているのであろう?』


 なんのこっちゃ。


 言われた内容はよくわからないが、ドラゴンさんのお怒りのボルテージが絶賛上昇中なのは、嫌でもわかった。


 見るから睨むに変わったぐらいなのだが、それでも肌が粟立つくらい怖い。


 このままではマズいと僕は肌で感じた。

 とにかく誤解を解こうと試みる。


「………………っ」


 くそっ。震えが止まらない。舌がもつれそうだ。

 上手く喋れる自信はないけど、それでもがんばらなくちゃいけない。


 よしっ。行くぞ。


「いやいやいや、なにがなんだかわかりませんが、あなたが考えているのは明らかに見当違いだと断言させてもらいたい。こっちとしても何がなんだかわかっていないのに、あなたを利用するとか出来るわけがないでしょう?」


 かなり早口で聞き取りづらかったとは思うが、なんとか意思を伝えようとはした。


 僕はやった。これで死んでも悔いは………ある。


「ところで、ドラゴンさんの名前はなんてゆうの?」


『我は赤竜グルナゴルドラ。』


 意外にも律義に舌を噛みそうな名前を自己紹介してくれたドラゴン。


 ねー? みんなー? 僕の言葉聞いてくれたのかなー?


「あ、わたしはね」


「頼むからさくら、ちょっとでいいから空気を読んでくれ」


 ただでさえ嫌な汗で全身にぐっしょり感があるのに、冷や汗までブレンドされちゃうから。


 信長に目配せ。


「真部さ――んむぐぅ……むぅっ」


 うなずいた信長が、問答無用でさくらの口を塞ぐ。むーむー言いながらジタバタしているさくらを信長が引き摺って後退していくのを確認してから交渉再開。


「彼女の言うことは気にしないでください」


 ドラゴンは鼻を鳴らす。

 生暖かい突風を浴びる僕たち。


『小さき人間よ。汝はあくまでも己を迷い子と言い張りおるか?』


「言い張るも何もその通りなんですよ。気づいたら少し手前のところに寝ころがされていたんです」


『………………』


 ドラゴンは何も言わない。

 この沈黙は先を促しているような気がしたので、僕は続けた。


「僕から伝えられる情報は少ない――というか、ないんですよ。はっきりと皆無に近い。意思の疎通が可能なら教えて欲しい。ここが何処なのか、出口はどっちなのかだけでもいいんだ。お願いします」


 腰を折るような礼を最後にした。


『小さき人間よ。その言葉に偽りはないのだな?』


「はい」


 足をカクカクと生まれ立ての小鹿みたく震わせながら、僕は精一杯の誠意を込めてうなずいた。


 不意にドラゴンは首を伸ばして、その凶暴極まりない顔を僕たちに近づけた。彼我の距離はかなりあったはずなのだが、そうした諸々を無視した瞬間移動のような唐突さだった。


 狭間にはまだ二十メートルぐらいの隙間はあったけれど、その程度の距離では何の慰めにもならない。

 正直、まだ腰を抜かしていないのは、単に感覚が追いついていないだけだ。


 僕たちを見定めるドラゴンの瞳からは、深い知性を感じた。半端な嘘などあっさり見抜かれそうで、手札がなかったとは言えども正直に話したのは正解だったと実感する。


 ストレスで胃壁が削れるようなお見合いの時間は長かったのか、短かったのか。

 なんかこう頭の中がぐんにょりしていくような精神状態ではまったくわからない。


『………よかろう。一度だけ、汝らを信じよう』


 ドラゴンが口を開くまでの時間は長かったのか、短かったのか。


 いろんなものが曖昧となり、意識が緩やかに空の彼方へと飛び立っていく寸前で、ドラゴンがそう告げてきた。


「ありがとう」


『少なくとも先の連中のような欲に濁った目をしていなかったのでな。しかし、我の信を裏切れば、汝らも同じ末路を辿るだけだ』


 ドラゴンの首がわずかに動く。


 それを追って視線を動かした僕たちが目にしたのは、その一角だけが不自然に焼け焦げた地面だった。どれぐらいの熱量で炙られたのか、溶けた痕跡もある。


 視線を戻して、ドラゴンを見ると口の隙間からわずかに火が覗いている。赤竜――つまりは火竜の類なのだろう――だけあって、炎の吐息が得意技らしい。


『汝らの賢明な判断に期待しよう』


 コクコクとうなずく僕と信長。


『道は一本道だ。そのまま引き返すがよい』


「「イエッサーッ!!」」


『この洞窟を出れば、程なく街がある。必要な知識はそこで得るがよい。事情を話せば、悪く扱われることはあるまい』


「「らっしゃせーっ!!」」


 恐怖のあまりに錯乱しかけている僕と信長は、変なテンションのそのままに謎の掛け声とともに引き返そうとしたのだけれど――


「ちょっと待ってよ、もう!」


 信長の拘束を振りほどいたさくらが口を開く。


「いろいろと教えてくれたのはありがとうだけど、どうしても一つだけ見逃せないものがあるの。それについて聞かせてもらってもいい?」


 ハラハラしながら、僕は視線を交互に移動させる。


『よかろう、問いを許す』


「あなたはそこの女の子をどうするつもりなの?」


 そこの?


 僕と信長は首を傾げながら、さくらの指差す方を見るがよくわからない。

 ほとんど無意識に前に出て、それを視界に収めた。


 ドラゴンの存在感に気を取られて見落としていたが、この空間の隅の方にちょっとした干し草の山があった。その上に仰向けに寝かされている少女。年の頃は僕たちとあまり変わらないように見える。詳細まではわからないが、上品で手の込んだ明らかに高級品とわかるドレス(・・・)を着ている。なんとゆーかこうお姫さま的な衣装だ。


 生きているのか死んでいるのか、胸の動きとかまでは見て取れないが、さくらの反応から察するに生きているのだろう。


「状況的に、物凄く生贄(・・)っぽいな」


「うん」


 信長の一言に、うなずく僕。


 誤解する余地のない感じがぷんぷんしている。このまま僕たちが帰ったとして、この少女はどうなるのかと考えると、このまま引き返すという選択肢が選べなくなってしまう。


 明らかに、それが即死祭りの始まりだと理解していても、さくらはすでに踏み(・・・・・・・・・)出しているのだから(・・・・・・・・・)


 だったら、僕らが退けるはずがない。


 そんな悲壮な決意でドラゴンを見上げる野郎たちと少女を助けることしか頭になさそうなさくらを前にしたドラゴンはというと。


『………あ………えぇと………』


 さっきまであった威厳が減少し、なんだか困っている風だった。


 突つかれてはマズいところを突つかれて、それを誤解させずに僕らに納得させるのをひどく困難だと判断している風でもある。


「もしかして、生贄なの? あんな小さな女の子を? まさかとは思うけれど、食べるつもりなの?」


 問いを重ねるごとに一歩一歩詰め寄っていくさくら。

 周りを意識しなくなったさくらの迫力は尋常ではない。


 特に一番本領発揮ができる状況だ。

 さしものドラゴンも少しばかり気圧されているみたいだった。


 なんか後ろめたそうでもある。


『な、汝らには関係のないことっ! さっさと立ち去るがよいっ!』


 威嚇するように吠えてから、そんな風に告げてきた。

 僕と信長は思わず腰が引けたが、今のさくらはその程度では怯まない。


「そんなに大きな図体をしておいて、大してお腹の足しにもなりそうにないあんなに小さな女の子を食べるなんて、恥ずかしくないの?」


『だ、誰が食べるなどと言ったっ!?』


「じゃあ、どうするつもりなの? 怒らないから言ってみなさいよっ!?」


 もう怒ってるよな――なんてどうでもいい突っ込みをしている場合ではない。


『………………』


「なんにも言えないの? それは後ろめたいと言ってるのと同じよ」


『う……うるさい。うるさいうるさい! 汝らには関係ないと言っているであろう。今すぐに立ち去らぬのであれば、生かしては帰さんぞ』


 四肢を上げて、翼を広げて、牙を剥いて咆哮するドラゴン。


 遂に即死祭りの始まりかという場面だが、気勢を上げるドラゴンとは裏腹に、僕らは微妙に白けた気分だった。


「急に小者っぽくなったな」


「なんかこうありがたみが失せたというか、なんだろうな、この失望感は?」


「所詮は小悪党だったのね。だったら、成敗してあげるわ」


「「どうやって?」」


 相手が小者臭を漂わせ始めたとはいえ、それでも生身で挑むほどの無謀さは持ち合わせていない。そもそも殴りかかろうとしても、拳の届く距離まで近づく前に炎の吐息を吐かれて終わりだろう。


 まあ、仮に拳が届いてもこっちが『痛っ!?』になるだけだと思うけども。


 一刻の猶予もないのだが、僕の考えがまとまるよりも先にさくらがさらに一歩を踏み出して、ドラゴンの棲み処へと再び侵入した。


 それはある種の『境界線』――ドラゴンのテリトリーへの侵犯に他ならない。

 この瞬間、戦闘の火蓋は切って落とされた。


 心の準備なんか微塵も出来てないのにぃぃぃぃぃっ!?


「立派なのは図体だけの見下げ果てたトカゲなんかに、わたしたちの愛と勇気が負けるはずがないわっ!」


「「いや、そういう精神論を聞きたいんじゃなくて、具体的な手段を――」」


『ほざくな、小娘――――っ!』


 僕らの突っ込みを遮り、猛然と振り下ろされるドラゴンの前足の鋭い爪。一瞬後に始まる即死祭りに「ぎゃーっ!?」と叫びながらさくらの前に出た僕――の前に立つ信長。


 しかし、そんな僕らを押しのけて、前に出るさくら。


「あなたのような小者には過ぎた技だけど、この真部桜花の最強の必殺技を受けるといいわ!」


 マントを翻し、横ピースをしながらウインクするさくら。


 ま・さ・かっ!

 この状況でっ!?


「目からビームっ!!」


「「そんなバカなっ!?」」


 この短い生涯の最後に聞く言葉(セリフ)がそれかよ、とばかりに僕と信長は叫んだ。







 作者的に『やっちゃった感』があったりなかったり。

 このラスト数行で、話の方向性が決定したような気がしてます。


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