第三話の四
え~、今回の調理シーンの参考に、グラハム・○ーの『世界○料理ショー』とか『モコ○キッチン』とかQPの『○分間クッキング』とか、いろいろ料理番組の動画を見まくって、目がしょぼつき気味です。
今回の話で、やりたかった事の一つができました。
あと、ちょっとだけ蛇男ショーネタを入れてます。
「ライト!」
ユウのかけ声で、篝火なしでは周りが見辛くなった暗さを弾き飛ばすように、上空に光球が発生して夕方位の明るさまで辺りを照らす。
おぉ~~!
村人達の驚愕とも感嘆ともつかない溜息交じりの歓声があがる。
「おぉ~~!」「凄ぇ!」「ほへ~・・・・」「魔法って、便利だ・・・・」
様々な感嘆のざわつきは、収まるまで暫しの時間が必要だった。
「さすがは、ユウの魔法じゃのぅ」
「はい、姫様のおっしゃる通りですね」
ちなみにルナと村長夫人は、他の村人が座る席とは別の場所、向かって右手側の『試食席』と書かれた札が置かれた机の後ろにある椅子に座っている。
「・・・・スポット」
さわめきが収まったタイミングを見計らって、ユウは自分にスポットライトが当たるように新たな光球を上空に浮かべる。
一際明るい光が顔だけ除いて黒ずくめの格好をしたユウに当たると、自然と皆の視線がユウに集まる。
ちなみにユウの着る黒子の格好は、対で灰色のモノもがあり、本来はペアで芸をする為の衣装らしい。
ユウ達の通っていた学校を卒業したOBから寄付されたモノだが、どうも元ネタがあったようで、その場に居たメンバーで元ネタを知っていたらしいレイだけが吹き出し笑っていた。
結局、今でも何が元ネタだったかを、ユウは知らない。
『これこそ、『分からない人は、お父さんかお母さんに聞いてみよう』を地で行くネタだ!』と、当時のレイはそう言ってOBと一緒にケタケタ笑うだけで、一向に他のメンバーにネタばらししなかったからだ。(ヒント:欽ちゃん。ラーメンの方ではない)
視線が集まった所で、ユウはおもむろに懐から紙切れを数枚取り出す。
「はい!それじゃ、これからジャガ・・・・ポテトの料理実習会を始めさせて貰います。 で、その前に幾つか、事前に必要な事を言わせて貰います」
そう言いながらユウはおもむろに紙切れの一枚を引っ張り出し、グッと魔力を注入した後、上に放り投げる。
(効果音(以下SE):ワッァァァァ! パチパチパチパチ・・・・)
少しわざとらしげな歓声と拍手の音が辺りに響き渡る。
村人達は何事かと驚いた様子だったが、ユウの行動を見ていたので紙に仕掛けられたギミックが発動したモノと理解して、慌てふためく事はなかった。
「はい、皆さん今晩は。今回はお忙しい中、集まって頂いてありがとうございます。 今鳴らした効果音ですが、これからやる実演で、要所要所で今みたいな感じで拍手とか(SE:パチパチパチパチパチパチ・・・・)歓声とか笑い声(SE:どっ!ワハハハハハハハハ・・・・)とかの効果音とか、音楽が(SE:♪~チャッチャチャ チャラリラ チャッチャ! パフッ!)入りま~す。演出で入るんで、いちいち驚かないで大丈夫です。ただ、効果音と一緒に拍手したり笑って貰えると、踊りk(ゲフンゲフンッ!)芸人が調子に乗R・・・・というか励みになるんで、良かったら一緒に拍手したり笑って貰えると助かります」
次にユウは、顔の前に黒子衣装の顔隠しの布を下げて、顔を見えなくする。
「次に自分ですが、この様に顔を布で覆い隠してる場合は、そこに居るけど居ないモンだと思って下さい。芸能のお約束事です。ただし・・・・」
言葉を続けながら、顔の前に垂らした布を持ち上げるユウ。
「こう、顔にかかった布を上に上げたら、そこに居るモンだと思って下さい。 次に相方が次々に料理を実演させて貰いますが、最初のマヨネーズの実演を除いて皆さんから見て左手から順番に右に移動していきます。隣の調理場所に移ったら、予め振り分けた班の人毎にこちらの調理場所に来て頂いて、調理を始めて下さい。その際は、それぞれのご自宅から持ち寄って頂いた調理器具を使わないと、数が全然足りないのでよろしくお願いします。 それではボチボチ、始めたいと思います。登場時に拍手を持って迎えて貰えると幸いです。 では、スタートです!」
(SE:ワ~~~! パチパチパチパチパチ・・・)
(SE:♪~ チャ~ン チャッチャチャラッチャ~ン チャーチャッッチャチャランチャ~ン チャ~ラン・・・)
効果音と共び音楽が辺りに響き始め、調理台の前にあるカーテンが開いていく。
そして、効果音につられて何人かが拍手をする中、キッチンスペースの端、舞台で言うなら舞台袖の位置からレイが小走りで中央に駆け寄ってきた。
「はっはっはっは!ど~もど~も・・・・」
不自然なまでににこやかに笑っているレイは、左右の観客にも手を振って愛想を振りまく。
「はっはっは・・・・コなさんミんばんわ!、ジャンk(どげしっ!)へぶぉっ!」
にこやかに話していたレイの後頭部に、電光石火の早業でユウの延髄蹴りがモロに入り、突っ伏す勢いでレイの上半身がくの字に曲がる。
「痛いやん、ユウ!いきなり、何ばしよっとね!」
「やかましい! いきなり誰も付いていけないような、トバしたネタを使うなっての!大体そのネタは、その後で『ナんきんにイったのです』とか『キくれたフんたま』とかの下ネタとか、薬ネタとかの不謹慎ネタに繋がるだろ!」
「・・・・バ~レ~た~か~☆」
「『バ~レ~た~か~☆』じゃねえっての!」(ビシッ! ←ツッコミの音)
「ちぇ~・・・・ しょうがない。それじゃ、もう一回始めから・・・・」
「戻るなっての!」
(SE:ワハハハハ・・・)
一連のユウとレイの掛け合いと効果音につられて、席に座っていた数名が笑い出す。ルナも、その一人だったようだ。
「とにかく、また始めからやるのはナシ!この場所から仕切り直して始めろよ!」
「ちぇ~・・・・分かりましたよ~」
(SE:プ~ クスクス・・・)
少々ふて気味に聞こえるレイの答えを聞きながら、ユウは顔の前に黒布を垂らしながら隅の方へと移動していく。
素のやり取りだったのか、わざとのやり取りだったのか、村人には判断しかねる状況で、レイはおもむろにテーブルに置かれた卵を一個持ち上げる。
「え~・・・・じゃ、まず、ジャガイモの料理に取りかかる前に、約束した通りにマヨネーズの作り方を。
材料は大まかに、油7:酢3の比率で、それと新鮮な卵数個、あと調味料として塩と胡椒が少々。最低限これだけの材料と気力と根性があれば、マヨネーズは作れます。 ただ、失敗する時もあるんで、その時は諦めるか根性でリカバリーしてね。
で、今言ったように卵は、極力新鮮な卵を使ってよねぇ。でないと、時間の経過と共に卵の中にサルモネラ菌などの細菌が繁殖して、食中毒を起こすからね。だからマヨネーズを作ろ時は新鮮な卵を使う事をお奨めするよ。 ただ、材料で使う酢に殺菌効果があるんで、絶対に取れたて直後の卵じゃなきゃダメ!って訳じゃないから、そんなに神経質になる必要はないよ。
とは言え、殺菌するにも限度があるから、出来るだけ新鮮な卵を使うって事は意識しといてね☆腹痛程度で済めば笑い話で終わるけど、最悪死ぬから・・・・。
まぁ、食中毒系は症状の大小はあるけど、最悪パターンは『人生終わる』って事は共通しているから、皆さんも衛生面には気を付けといてね☆
で、この卵、適温で温め続けるとどうなるかご存じ?(SE:ボソボソ←呟き声)そう!ひよこだよね。 殻から出てきたひよこは、とてもプリティーで愛らしよね?そんなひよこが生まれてくる卵だから、生まれる前の卵の中には生き物として必要な栄養素がぎっしり詰まっているって訳☆
だから卵を食べた後は、何だか力が湧いてくるような感じがして、夜の運動会にハッスルしちゃうって経験あるでしょ?」
(SE:ドッ!ワハハハ←笑い声)
このネタに反応したのは大人達だけで、ルナを始めこの場に居る子供達は、何が面白いのか分からない表情をしていた。
「実際、卵の中には生きていく上で必要な要素が詰まっているから、毎日一~二個程度食べると、健康にとても良いのよ!後はビタミン・・・・壊血病や脚気、骨が変形するくる病の予防に必要な成分が入っている野菜類を摂るように心がければ、身体が丈夫で無無病息災になる事間違いなし! ちょとぉ、そこのお父さん!肉だけ食べてて、身体が何となくだるく感じて、無性に野菜が食べたくなった時ってない? それは、身体が不足している栄養を欲しがっているサインだから、身体の欲求に従ってちゃんと野菜を摂ってね。
で、話は戻しますが、この卵、こんな風に(パカンパカンパカン!←卵を割る音)用意したボウルに入れて、中身だけ使います。殻は要らないから捨てちゃっても良いよ。
もしくは、ハンマーか何かで細かく砕いて鶏に食べさせるとか、綺麗に消毒してから粉末状にもっと細かくして、いろんな料理に少し混ぜて使っても良いよ。殻自体には、一気に食べた時に苦みを感じる程度で、ほとんど味はないから。 卵の殻は、骨を作るのに必要なカルシウムって栄養素で出来てるから、骨折しやすい人は心がけて食べて頂戴ね☆
さて、こんな風に卵を割って黄身と白身を一緒に入れたヤツと黄身と白身を分けて黄身だけのヤツを二種類用意したけど、コレは黄身だけの時と白身と一緒の時に作ったマヨネーズの違いを知って欲しいから、わざと二種類にしたのよぉ☆それと、白身の方は今回、別の料理に使うからとって置いてね。
それじゃ白身ちゃ~ん、しばらくの間、こっちでオネンネしててねぇ☆」
(SE:ハハハ・・・)
レイは、今調理している場所から左の方(次に調理実演するスペース)に白身の入ったボウルを置くと、再び口を開く。
「さて、次からはどんどん材料を混ぜてマヨネーズを作っていくんですが・・・・お~い、スティーブぅ~!黄身と白身が一緒の方を作ってくんない?」
「誰がスティーブだよ!」(ビシッ! ←ツッコミの音)
ユウは顔出しした状態で突っ込みを入れ、レイからボウルを一つ受け取ると、そのままレイの後ろのスペースにしゃがみ込んで作業を始めた。
「え~、マヨネーズですが、黄身だけの時も黄身と白身が一緒の時も、作る時の作業内容は一緒なんで、分量的に少し量が少なくなる黄身だけの時の方を見て貰いながら説明しちゃいますよぉ☆
まず、卵を入れたボウルの中に、塩と胡椒を少々入れます。胡椒を入れなくてもマヨネーズは作れるけど、味の締まりが違うから、入れた方が美味しく出来ますよぉ。あとお好みで砂糖を入れると、この後入れる酢の酸味が抑えられるけど、今回は自分の好みで入れないでやっちゃいます。 次に、ホイッパー(注:泡立て器)で卵を素早く掻き混ぜながら、トポトポとお酢を入れていきます。(カシャカシャカシャカシャ・・・←ホイッパーで掻き混ぜる音)
はい、見てみてぇ。均等に混ざったでしょ~? そしたら、ここから気力と根性の出番☆そのままボウルの中を素早くリズミカルに混ぜ合わせながら、油を入れていきまぁす。
あぁ、そうだ!一つ言い忘れてた!マヨネーズを作る時に、材料は常温の状態で混ぜ合わせてね! そうねぇ~、気温で言うなら、摂氏二十℃前後。目安として、その辺の木に若葉が茂る位の温度ね☆ 材料の温度が高過ぎたり低過ぎたりすると、油を混ぜても酢と分離しちゃってマヨネーズにならないから注意してよ。
で、油を入れてくタイミングだけど、一気に入れないように注意!一気に入れても油と酢が分離しちゃって、マヨネーズにならないからねぇ。 え?何で、分離しちゃうかって?何でだか、知ってる人ぉ~?(SE:ボソボソ)え?何?」
レイはここで一旦、ボウルで混ぜ合わす作業を止めて、半目になりつつ右耳の前に手を当てて、声を聞こうとしてるのかしようとしないのか分からないポーズを取る。
そう、公費横領を疑われて記者会見中に号泣し、それが海外の報道で世界中に話題を振りまいた、某国の元某県議員のポーズである。
だが、こういう小ネタを挟んでも、元ネタを知っているユウは後ろを向いて作業中、元ネタを知らない村人達は無論反応するはずもなく、数秒ほど空気が止まる。
レイは、全く動揺する事もなく、再び作業を始めつつ口を開く。
「あら~、そうなの。知らないのぉ~。 それじゃ、この中で、酢油ソース・・・・と言うかビネグレットソースとかフレンチドレッシングとかの、ドレッシングを作った事のある人いるぅ?」
軽い口調のレイの質問に、戸惑いながらも村人達は、見た目で半数近くの者が手を挙げた。
当然手を挙げたのは、ほぼ村の女達と一部の子供だけだった。
「そうかぁ・・・・それじゃ、その中でドレッシングを一度でも長時間放置した事のある人は?」
レイの追加の質問に、ほぼ同じ人数の村の女達が手を挙げ続けていた。
「その時の事を思い出して頂戴。油と酢が分離しちゃってたでしょぉ?そんな訳で、油と酢とか、油と水なんかは、放っておくと分離しちゃうよね? ところがそれを、卵というつなぎを使う事によって、化学で言う『乳化』を利用して作るのが、このマヨネーズって訳☆だから、ちゃんと作れたマヨネーズは、とってもクリーミーでビューティフルなソースになるのよねぇ。 その代わり化学反応を利用して作るソースだけに、一気に油を混ぜようとすると反応が追いつかなくて乳化せず、分離したままになっちゃうって事になるのよね。 だから、そうならないように油をちょっとずつ入れて、充分に乳化させてから油を追加していく必要があるって訳☆
何となく分かったぁ?」
レイの言葉に、何人かが軽く頷いた。
「・・・・そして、見て貰って分かる通り、マヨネーズってのは大量に油を使うんで、皆さんみたいに農作業とかやってる人は大丈夫だけど、あまり動き回る仕事をしてない人はマヨネーズの使用量に注意してね!
どんなにクリーミーでビューティフルでワンダフルな美味しいマヨネーズでも、油を食べてるようなモンだから、摂り過ぎると速攻で酒樽みたいな体型になっちゃうよぉ!
え?元々酒樽みたいな体型はどうなるって? そりゃ勿論、ボールみたいな体型になっちゃうよ。そうなっちゃうと歩くのも大変になってきて、終いにゃ、お腹同士がぶつかって自分のかみさんとキスも出来なくなっちゃうよ!」
(SE:ドッ!ワハハハハハ←笑い声)
「さて、そんな感じで長々と話ながら作って参りましたが、ここで最後の油を投入して、掻き混ぜ終わればマヨネーズのできあがり☆ 材料に使う油や酢の種類によって風味が違ってくるから、自分のお好みの材料を使って試してみてね。
あと応用で、カレー粉を入れたり、タラコを入れたり、ホースラディッシュや大量のツナとかコーンを混ぜると、違った美味しさになるから、余裕があったらコッチも試してみてね。 ただ、今回作った卵の風味を活かしたプレーンな味がお好みの人は、なるべくクセのない油と酢を使う事をお奨めしときます。
マヨネーズは基本的に野菜サラダなんかに用いますが、使用出来る範囲は極めて広く、バターやマスタードと混ぜてサンドイッチのパンの裏側に塗っても良し、油代わりに炒め物に使っても良し、今さっき言ったコーンやツナを混ぜたヤツをトーストに塗っても良しと、使い道はかなり幅広いんでいろいろ試してみてね☆ さぁ!油を最後まで混ぜ込んで、ポッテリした状態がキープ出来ていればもう大丈夫!
そんじゃ、これでマヨネーズの完成で~す!」
(SE:ワ~~!パチパチパチパチパチ・・・・)
効果音につられて、半数以上の村人も拍手をしている。
「お~い、スティーブ!そっちはできたかぁ?」
「誰がスティーブだよ!(ビシッ! ←ツッコミの音)・・・・ほれ」
顔を出しているユウはレイに突っ込みを入れつつ、今まで作っていた卵の黄身と白身を使ったマヨネーズが入ったボウルをレイの作ったマヨネーズが入ったボウルの横に置くと、ボウルの近くにかなり細長く切った人参のスティックが入ったマグカップを二つ、添えるように置いた。
この野菜のスティックは、マヨネーズを掬って味見する為のものだ。
「はい。 じゃあ、今作ったマヨネーズの比較です。コッチが卵の黄身だけで作ったヤツ、もう一方は黄身と白身を一緒にして作ったヤツ。 黄身だけの方が少し黄色みが強いでしょぉ?これは単純に、マヨネーズに対しての黄身の比率が違うだけで、区別する違い程度の問題でしかないのよね。 で、皆さんに確かめて欲しい事は、黄身だけのモノと黄身と白身を一緒のモノとで味がどう違うのかと言う事を確かめて糒という訳だ。
それじゃこれから、皆さんに回していきますんで、味の違いを確認してみてね。 ハイ、まずお嬢からヨロシク!」
レイは話ながら大きめのお盆にマヨネーズの入ったボウルと野菜のスティックが入ったマグカップを乗せて、ルナの前に差し出す。
「・・・・のぅ、レイ。どちらを先に味わえば良いのじゃ?」
「どっちでもOKよ☆ただ強いて言うなら、黄身と白身を一緒にして作ったヤツ本来の味を確認したいのであれば、そっちを先に味見すれば良いよ」
「そうか・・・・」
ルナは自然な動作で卵の黄身と白身を一緒にして作った方のマヨネーズに細い人参のスティックを入れて少したっぷりめに付けると、おもむろに口の中に入れる。
瞬間、少し驚いたように目を見開いた。
「コレは!・・・・・・凄く美味しい!酢を入れているから、少し酸味がかっていると思ったのじゃが、酸っぱい感じがしないのじゃ。 どう表現したら良いのじゃろうか・・・・・・・・酸味が酸味になってないと言うか・・・・とにかく凄く美味しい!コレは凄いな、レイ!」
「そら、どうも・・・・んじゃ、次にこっちの方も味見してみて、お嬢」
レイの言われるままにルナは、今度は黄身だけで作ったマヨネーズに人参のスティックを掻き回すように入れ、一気に口に銜え込む。
「んんっ!前のと比べて、更に濃厚に感じるのぅ!これは一体、どういう事じゃ!白身のあるなしで、こうなるモノなのかの、レイ?」
「まぁ、そうだね。基本、白身のあるなしだけで、結構違うモンだろ?基本、味覚として感じる違いは、黄身の味が白身によって濃く感じるかあっさり感じるかの差だけだ」
「そうなのか・・・・ほれ、村長夫人も味見してみてくれるかの?」
「はい。では、僭越ながら・・・・!あぁ、これは美味しい!お酢の尖った酸味が油のコク味とまろやかさでバランス良く緩和されて、爽やかな酸味となっているわ! しかも、それに卵の味が加わって、スッキリした酸味があるのに濃厚で深くてまろやかな味が口の中で広がるわ!
・・・・確かにこの絶妙な味なら、さっぱりした野菜にも、少々くどい味のフリッターにも合いそうだわね!これは、凄い調味料だわ!・・・・・・・・あと、こちらが卵の黄身だけで作ったマヨネーズですわね。では、失礼して(ペトペト パクッ!)んんっ!これは!
先ほどのマヨネーズより、濃厚に卵の風味を感じるわ!作り方は同じでも、卵の白身があるかないかで大分違うモノなのね!これは、毎日でも食べたい位に美味しいわ!
レイ殿、このような良いモノを、よくご存じで!」
「まぁ、知っていたってだけだけどね。ところで、二種類のマヨネーズを食べ比べてどうでした、村長夫人?」
「そうですね・・・・・・片や卵の味がよく感じられてコクを強く感じるマヨネーズと、片や卵の味は感じるものの比較的あっさりした風味のマヨネーズ。 どちらも美味しい事には変わりなく、甲乙付け難いですね。 ですが、レイ殿が何故、二種類のマヨネーズを作ったのか、意図が分かりかねますね。よろしければ、ご説明頂けますか?」
「Oh・・・・そういう切り返しでくるとは思わなかったな。 まぁ、マヨネーズを二種類作ったのは、そんな大した理由じゃないッスヨ。
一つには、マヨネーズ愛好家の中で卵の白身を入れるか入れないかで、果てがない位の論戦があったんよ。結局、『各個人の好みがあるから、白身の有無は食べるヤツの好みで調整しろ』って事になって結論が出ないまま落ち着いたけど、それ位卵の白身の有無は重要な要素なんです。
それともう一つは、マヨネーズの作り方を知っている人がこの場に居なかったから。作り方を一パターンだけ教えてそれに固執してしまうと、料理のレパートリーに広がりが持てないからね。だから、あえて二種類作って、比較して貰いたかった訳だ」
「そうか・・・・ところでレイ、マヨネーズ愛好家って居るのか?」
「俺とユウが住んでた地域では、マヨネーズ愛好家の事を『マヨラー』って呼んでたよ、お嬢。 ゴッツいマヨラーになると、食べ物と言わず、お菓子と言わず、飲み物にまでマヨネーズを使うんだ・・・・究極的には、水代わりにマヨネーズを直に飲むマヨラーまで居た」
「そんなにか・・・・」
「だけど、そこまで行くと、病気と紙一重だ。 マヨネーズって半分以上は油だから、摂取しすぎるとブクブク醜く太っていくんだ。そうなると、健康的な生活は望めない。お腹が減っても食事制限が入って、飢えが満たされないまま生活する羽目になる」
「そうか・・・・『薬も過ぎれば毒となる』じゃな?」
「そうだよ、お嬢。 ただ、適量に食べる分には、野菜だろうが肉だろうが全く関係なく美味しく食べられて、応用次第で食生活を彩り豊かにできて、卵を使っていているから身体にも良い調味料だ」
「なるほどのぅ」
「さっ、それじゃ、お嬢。試食が済んだら、他の人にも廻してやっとくれ。で、その際は、必ず指ではなく野菜スティックでマヨネーズを掬って味見する事と、後で料理の実演で使うから、全部は食べないって事だけは守ってなぁ」
「そうか。 では、村長夫人、そのように頼む」
「はい、分かりました」
村長夫人は、テーブルからマヨネーズの入ったボウルが乗っているトレイを持ち上げると、静々と観客席(?)の方へ持って行った。
「じゃ、皆さん!順番にマヨネーズを試食していって頂戴ね!試食が終わった頃に料理の実演を再開するんで、それまで暫し休憩。 それではラた、マいしゅう。ホナ、さいなら~☆」
(SE:パチパチパチパチパチパチ・・・)
効果音と共に調理スペースの左右からカーテンが流れて、レイの姿を観客(?)から見えなくする。
村人達に順番にマヨネーズの試食が回っているのを確認しながら、ルナはいつの間にか自然に傍らに近付いてきたユウに声をかける。
無論、黒子の衣装のままで顔を覆う布は頭の上に持ち上げてある。
「のぅ、ユウ?」
「何、姫?」
「さっきレイが言っていた『マヨネーズを残しておけ』という言葉は、この後のポテト料理に使うメニューがあると言う事か?」
「そうだよ。ただ、何のメニューかは、その時に知った方がいいでしょ。だから、今は教えないよ」
「ケチじゃのぅ」
「料理名だけ言っても、姫は分かんないだろ?」
「まぁ、そうなのじゃが・・・・あと、応用の説明で出てきた『カレー粉』とか『ホースラディッシュ』とか『コーン』は分かるが。『ツナ』ってあのツナか?」
「・・・・あのツナって、どんなツナの事?」
「昔、献上品で食べた事があるのじゃが、魚の切り身を油漬けしたヤツじゃ」
「どのツナかは知らないけど、まぁ、言葉を聞くだけだと、姫の言うヤツで多分合ってると思う。俺とレイにとっては、マグロの切り身の油漬けの事だ」
「マグロとは、どんな魚の事じゃ、ユウ?」
「それを説明すると結構長くなるけど、良いか?」
「・・・・・・いや、マヨネーズの試食がそろそろ終わりそうじゃから、また今度にしておく。 一遍に聞き尽くすより、一つ一つ丁寧に聞いていった方が覚えやすそうじゃ。 それより今は、早くポテト料理が食べたいのじゃ」
「了解。まぁ、今回は材料があれば簡単にできるヤツだけにしてるから、覚えるのにそんな苦労はしないと思うけど・・・・」
「そうか。 ところで、レイはどうしたのじゃ?」
「レイは、カーテンの向こうで出待ちしてるよ」
「そうか。 ところでの、あの実演のやり方じゃが・・・・」
「あっ!最後の人の試食が終わったみたいだから、ちょっと行ってくるわ」
「むっ、そうか・・・・では、この後も楽しみにしておるぞ」
ルナの言葉を背中で聞きながら、ユウはマヨネーズの入ったボウルを乗せたお盆を受け取って、カーテンで隠した調理スペースにしまい込む。
(SE:ワ~~~! パチパチパチパチパチ・・・)
(SE:♪~ チャ~ン チャッチャチャラッチャ~ン チャーチャッッチャチャランチャ~ン チャ~ラン・・・)
辺りに効果音とBGMが響き、カーテンが左右に開いていく。
舞台の端から中身の入ったワイングラスを持ったレイが、小走りに調理スペースを横切り、反対側の端に備え付けられた椅子に座る。
「ハイ!ど~もど~も!皆さ~ん、お元気ですか~! 本日は、この場に集まって貰って、ありがと~!」
愛想を振りまきながらレイは中身の入ったワイングラスを手にして、少量を口に含んで嚥下する。
「うへ・・・・少し渋いな。やっぱ、赤より白の方が個人的には好みだな。 まっ、それはそもかく、今日はお嬢や村長夫人なんかの要望もあって、ジャ・・・・ポテトの料理を幾つかご紹介させて頂きます。
まず、このポテト、発祥地がアメ・・・・もとい、新大陸。それも南の方の山脈地帯にあるチチカカ湖近辺との説がありますが、本当に正確な発祥は不明です。現地では一万年以上前から食されていたとされる説があり、ホントに古くから親しまれてきた食材です。
現地での食べ方は、昼夜の寒暖差が大きい気候を利用して、冷凍乾燥させたチューニョという食品に加工して煮物などの具材に使用していた訳です。ただ、この時のジャガ・・・・ポテトは、全体的に小粒の品種が多く、ほとんど放置栽培なので味の方は今一つと言った話を聞きます。
そんなジャガ・・・・もとい、ポテトですが、男爵やメークインなどの品種が何種類かあり、料理の目的別で選別して使用すると良いでしょう。
取り敢えず今回は、男爵・・・・もといユーリカ系と思しき芋を使って、幾つかの料理を皆さんに見て頂きましょう」
スラスラと言葉を続けながら、レイは調理スペースの上に次々と食材を目の前に置いていく。
「このユーリカ系の品種と思しきジャガイモですが、他の品種と比べて粉質が多く、茹でたり蒸かしたりするとホクホクした食感が楽しめる品種です。 今日は、このジャガイモを使って幾つかご紹介します。なので小咄は無しで、早速料理をしていきましょう」
レイはそう言って、真ん前に茹でたジャガイモが大量に入った大きいボウルをドン遠く。
「取り敢えず、できあがるまで時間がかかるヤツからやってきますねぇ・・・・まず初めに作るのは、ポテトグラタン。 ポテトグラタンって知ってるかなぁ?(SE:ボソボシ)えっ?知らない? それじゃあ、この機会に覚えてって!ちょっと根気が要るだけで、作り方は簡単だから。それじゃ、始めるよぉ!
まずここに用意した材料。ジャガイモ適当な大きさのモノ数個、パルメザンチーズでも何でも良いけど熱で溶けるチーズ、それとホワイトソースまたはベシャメルソースと、お好みでパン粉とパセリのみじん切りを用意します。 さて、じゃが芋ですが、こんな感じで(サクサクサクサク・・・)乱切りして一口大にするか、裏漉ししてペースト状にします。この辺はお好みなんで、ゴロッとした食感を楽しみたいなら乱切り、滑らかな口当たりにしたいなら裏漉しを二、三回位繰り返せば大分滑らかな口当たりになるんで、暇と根気のある人はチャレンジしてみてね。
で、予め用意しておいた耐熱皿を持ち出して、皿の内側にバターを擦り付けてきます。この作業をやる事によって、風味付けと材料が皿にこびり付くのを防ぐ訳なのね。だから、この手間を惜しまないようにしといてよ☆ 手間を惜しまなきゃ、ゴージャスでビュ~ティフルでワンダフルな風味がしてくるからね。さて、ジャガイ・・・・ポテトは一旦こっちの脇の方で休憩して貰って、次にホワイトソースを作ります。
お好みで使わなくても良いですが、今回は自分の好みでホワイトソースを使う事にします。作り方は、結構簡単。まずは、この大きめなミルクパンに溶かしバター。 これは風味付けと、この後入れる小麦粉を馴染ませるためだから、あまりケチり過ぎないようにね。代用品として油を使う方法もあるけど、風味の点でバターには及ばないんで、バターがお奨めよ☆
・・・・・・さて、良い感じに小麦粉がペースト状に馴染んできたら、ここで牛乳を投入。ここで注意して欲しいのが、牛乳は一気に入れないで頂戴ねぇ。思いっきりダマになっちゃうから。入れる量に気を付けて、なるべく数回に分けて牛乳を混ぜてってね。 それで充分混ぜ合わせたら、塩とコショウで味を調えてやればホワイトソースの完成。牛乳の量を減らしてスープストックなんかを足して煮詰めてやればベシャメルソースになるから、そっちが良いって人はそっちを使って構わないですよぉ。
そして次に用意するのが、このパスタ。パスタの種類は、お好みでペンネでもラザーニャでも何でも構わないけど、今回はマカロニを使用します。このマカロニを、たっぷりのお湯に比率で三~五%程度の塩を入れたものの中に入れて、充分に茹でます。スパゲッティは中心に髪の毛程の芯を残しておいたモノが美味しいんですが、マカロニはそういう事がないので十数分程、時々掻き回しながら充分茹でます。で、茹で上がったマカロニをザルで水切りしたのがコレ。 良い色に茹で上がってるでしょ~☆ 調味料を和えればそのまま食べられますが、今回はジャガイモ料理なんで、もう一工程加えていきます。
ハイ、ここで取り出すのは、さっき用意した耐熱皿。そこにジャガイモを綺麗に並べていきます。適当に放り込むと、熱が充分に伝わらない箇所が出て来るから、この作業は丁寧にやってね。
で、次にする事は、この茹でたマカロニをジャガイモとジャガイモの隙間に埋め込むように敷き詰めていきます。この辺は、自分が食べられる量を考えながらやれば良いから、神経質にビッチリ敷き詰める必要はないのよぉ~☆小腹が空いている程度だったらジャガイモとマカロニの量を減らしてやれば良いだけなんだから、その辺は適当に自分と食べる人の塩梅を考えながらやってねぇ。
そして次が、さっき作ったホワイトソース。 このホワイトソースを、耐熱皿の上面の八割から九割程度の高さ、おおよそジャガイモとマカロニが隠れる程度まで注ぎ込んでやります。この時の注意点として、ある程度ホワイトソースを入れたら、軽く細かに揺すったりこんな感じで(トントン)耐熱皿ごと軽く落としたりして、食材の隙間に入っていたりマカロニの中に入っている空気を出して、ホワイトソースが全体に満遍なく行き渡るように最適化してあげて頂戴ね。こうする事で、何処を食べてもビューティフルな熱々のホワイトソースが堪能できますよ。
さてと、次は、ホワイトソースを入れた皿の上に、チーズとパン粉をまぶしていきます。リッチでゴージャスでビューティフルで濃厚な味と風味を味わいたければ、チーズたっぷり、牛乳は搾りたてか低温殺菌したモノを使って頂戴。
最後に材料が入った皿を予め予熱しておいたオーブンに投入。待つ事二十~三十分程度。 さぁ、時間よ、進め~☆(SE:ボワワンッ←ユウが魔法を使った音)・・・・・・・・・・はい!そんな訳で耐熱皿をオーブンから引っ張り出すと・・・・こんがり良い色に焦げ目が少し付いた状態になります。おいしそうでしょ~☆
後は何も振りかけないでもOKですが、今回は仕上げに彩りのパセリのみじん切りを振りかけます。 さぁ、これで、紹介する料理の中で一番時間がかかりそうなポテトグラタンの完成です。
んじゃ早速、試食にいってみようか? お嬢!」
顔に黒布をかけて黒子の格好をしたユウが、素早くレイの手からルナの眼前へとグラタンを運ぶ。無論、直に持つと火傷する位熱いので、お盆に乗せてあるのは言うまでもない。
「ふむ・・・・これがポテトグラタンというモノか。 皿の端の方から細かく泡が立ち上っている所から、かなり熱そうじゃのぅ」
「そうだよ、姫。食べる時は火傷しないように注意してな」
「うむ。では・・・・いただきます。(ぱくっ)おう!ほふ!ほふっ!熱っ!ほふ!ほふほふほふ・・・・(ごっくん)・・・・・・美味しい!(ぱくっ!)おふ!ほふっ!ほふっ!・・・・(もぐもぐもぐごっくん!)物凄く美味しいぞ、ユウ!レイ! そうじゃ!村長夫人も、早く食べるが良い!かなり熱いが、牛乳の風味が濃くて、物凄く美味しいぞ!」
「はい。では僭越ながら(ぱくっ)・・・・!これは! ある程度煮詰める事で濃厚さを出した牛乳の圧倒的な風味に、小麦粉の風味を孕んだマカロニとポテトの素朴な風味が内包されて、料理の上に乗せられたチーズが皿に濃厚に牛乳の風味を押し上げて全てを内包しているわ!
しかも、オーブンで焼かれる事によって出来た焦げが味のアクセントとなって、牛乳の圧倒的な風味で全てが放逐されかねない味にマカロニとポテトの味を掘り起こされて、芳醇な味わいを紡ぎ出している!それに、チーズと一緒に乗せられて焦がされたパン粉が香ばしい風味を醸し出し、たまらなく濃厚でクリーミー、かつすぐに飽きの来ない味を構成している!
これは、奇跡といっても良い味ではないかしら!」
「・・・・相変わらず、凄いコメントをありがとうございます、村長夫人。 それじゃ、試食が終わったら、ポテトグラタンの調理班に渡したげてね、お嬢。 んじゃ、次の料理の説明始めます」
レイは、すぐ左側の新たな調理スペースへと移動し、上から照らされているポットライトの魔法の光も、レイに合わせて移動していく。
「ホイじゃ、次いくよ!次はマッシュしたジャガイモとマヨネーズを使った料理ねぇ☆
用意するモノは蒸かすか茹でてマッシュしたジャガイモとマヨネーズを八:二位の比率で、お好みで量は調整してね。今回は自分の好みで七:三位の比率でヤッちゃうけどね☆ ジャガイモの食感を残したいなら、ジャガイモをそんなにマッシュしなくても良いけど、作業時間のほとんどはジャガイモを潰すのに費やす事になるから、根気と気力で乗り切ってね☆
後は薄くスライスした人参、タマネギ、キュウリなどの野菜や刻んだ茹で卵を混ぜますが、今回は人参とタマネギと少しのコーン粒、刻んだ茹で卵を一個のみを混ぜ合わせ、塩と胡椒で味を調えます。 ホイじゃ、これでポテトサラダの完成~☆
んじゃ、味見してミソ♪」
「今回はあっさりできあがったのぅ?」
「あらかじめユウが、大量にジャガイモをマッシュして野菜のみじん切りを作ってくれていて、作業時間のほとんどが省略出来たからだよ、お嬢。調理時間のほとんどはジャガイモをマッシュするのと、他の材料を刻むのに結構時間がかかるんだよ、この料理は・・・・」
「そうなのか、ユウ?」
ポテトサラダの入った木皿を持ってルナに近付いてきているユウに、ルナは尋ねる。
「まぁ、俺程度の腕よりも腕が立つ料理人とか主婦の人なんかは、遙かに見栄え良く短時間にさっさと作っちまうけどな。 ハイよ、姫。試食してみ☆」
「うむ。 では、頂くとしよう。(はむっ・・・)ん!これは! 確かにポテトの味に、マヨネーズの味が絡んでいるが・・・・それだけなのに、この美味しさは何だ!美味しいぞ、このポテトサラダ?とか言う料理は!見た目はマッシュポテトと似ているのに、どうしてなのじゃ? 村長夫人!食べてみてくれぬか!」
ルナの強めな押しに少々引きつつも、村長夫人は自分の木匙を手に持つと、楚々とした動作でポテトサラダを掬い口に入れる。
「(もぐもぐ・・・)あぁぁぁ!何と言う事でしょう!これはある意味、魔法だわ!
素朴ではあるけど、ともすれば単調になりがちなポテトの味にマヨネーズの酸味とまろやかさが加わると、こんなにも底が見えない位、飽きの来ないような味になるなんて!ポテトの味に足りなかった味と風味を、まるでマヨネーズが元からの半身であるかのようにピッタリと合わさって、一つの完成品となった感じだわ!
しかも、ポテトサラダに混ぜられた刻んだ茹で卵がマヨネーズの酸味を皿にまろやかに、人参の適度な堅さとタマネギのシャッキリした歯応えと辛み、そしてコーンのプチッとした食感と甘みが、演劇でいう名脇役となってポテトサラダの味に深みを与えている!
そう!これは、奇跡とか魔法とか錬金術と言っても過言ではないわ! それ位、美味しいわ!」
「村長夫人、ありがとうございます。まぁ、ちょっと大袈裟な気がするけど・・・・」
「いいえ、レイ殿! 有り体に言ってしまえば、ポテトにマヨネーズを和えて他の野菜などを少し入れただけの単純なモノですが・・・・・・シンプルなだけに誤魔化しの効かない料理のはずです。 それが、ここまで美味しく感じられるとは驚きです」
「まぁ、高く買いかぶられたもんだけど・・・・取り敢えず、次いってみようか!」
少し照れたような声で言うレイは、ススス・・・といった感じで、身体を左方向にスライド移動していく。
「ハイ、ホンじゃ次。
用意するのはポテトサラダに使ったのと同じようにマッシュしたジャガイモ。 食べられる量だけ用意して頂戴。次にお目にかけるのが、この粉末。これが何だか分かる人、いますかぁ?(SE:ザワザワッ・・・)
そう、片栗粉ね☆ スープとかソースなんかにとろみ付けするヤツね。本来なら山なんかに生えている片栗の根っこの方にある鱗茎を使うんだけど、今回は、わざわざ粉を作るために山に行くのが面倒なのと料理実演のテーマに沿うつもりなんで、ジャガイモから片栗粉を作ってます。作り方自体は時間があればとっても簡単。まず、皮を剥いたジャガイモを用意します。
で、そのジャガイモをおろし器なり凄腕の包丁捌きなりでかなり細かく、またはそのまま摺り下ろします。(カシュカシュカシュカシュ・・・←おろし器でジャガイモを摺り下ろす音)こんな感じでどんどん摺り下ろしていくと、摺り下ろしたジャガイモは少し茶色っぽくなりますが気にしないように。
そして、この摺り下ろしたジャガイモを、きちんと洗って乾燥させた清潔な布巾かタオルのような目の細かい布の上に盛っていきます。こんな感じで(ポテポテポテ←摺り下ろしたジャガイモを盛ってく音)ある程度の山型で構わないんで、盛ったら布で包み込みます。
で、あらかじめ用意しておいた水の入ったボウルに布で包んだジャガイモを浸します。そして、浸しながら布を優しく揉んでいくと、ジャガイモに含まれていた液がジンワリと水に溶け出してくるって訳☆この時、思いっ切り握り潰さないで頂戴ね!不必要なモノまではみ出ちゃうんで。
思いっきり握り潰して良いのは、浮気した旦那の股間と胡桃の殻ぐらいだからねぇ!」
レイがここまで言った瞬間、(SE:ワハハハハ・・・)という効果音とズパ~~ンッ!という、ユウが思いっ切りレイの頭にハリセンを叩き込んだ音がほぼ同時に響く。
「痛いやんっ、ユウ!」
「下ネタは止めろ・・・・と言っても無理だろうから、するなとは言わんが控えろよ!理解出来なかった人が、置いてけぼりだろ!」
ユウの言う通り、ルナを含む子供達は完全に置いてけぼりで、何処が面白かったのか首を傾げている状態だった。一部、親に聞こうとしていた子供もいるが、こういう時に親はどう答えていいのか困惑するのは世界共通である。
ちなみに、村の男達は若干前屈みで手を股間に差し延べる者が多く、若い女達は顔を真っ赤にして、母親達は子供の質問の答えに困っているかゲラゲラ大笑いしているかのどちらかが多かった。
ちなみに残りは、笑いそうな口元を必死で堪え、何とか無表情を装っていた。
「・・・・まぁ、いいや。レイ、とにかく続き続き!」
「ヘイよ☆ ホンで粗方ジャガイモの汁を出し終えたら、最後に少し堅めに絞ってやります。残った絞りかすは、捨てるか飼料として家畜にあげちゃってね。
で、絞った後に残ったのが、ボウルに入ったこの茶色っぽい液。これを、十数分程放置しておくと、だんだん分離してボウルの底に白いモノが沈殿してきます。
そしたら、上澄みの液体を取り除いてから、再び水を入れて掻き回し、また放置してボウルの底に白いのが貯まったら上澄みの液体を捨てて、再度水を入れる・・・・という作業を少なくとも三回以上やって頂戴☆
すると、最後に綺麗な水とボウルの底に貯まった白いモノが残るので、後は完全に乾くまで放置☆ 水が完全に乾いたら、ボウルに残った白いモノを細かく砕いて粉にしたら、片栗粉が完成。
時間があれば簡単にできるんで、良かったら、今度自分で作ってみて☆」
レイはそう言って、できあがったジャガイモデンプンから作った片栗粉を片手で掬ってサラサラと落としてみせる。
「次に、さっきマッシュしたジャガイモに、この片栗粉を適量混ぜてきます。ジャガイモ本来の食感を味わいたければ少なめ、モチモチした食感を味わいたいなら多めに片栗粉を混ぜたら、それを丸めて楕円形に成形していきます。
ジャガイモのプレーンな味を楽しみたいならこのままでイケますが、作ったヤツの幾つかにはコーンの粒をお好みで混ぜときます。
そしたら次は、フライパンを用意します。用意するフライパンは、竈の大きさに合わせた大きさでOKですよ。
まずフライパンを竃で熱して、充分に温めてやります。次にオリーブオイルなんかの植物油でもバターでもいいから、油を入れます。今回は自分の好みでバターを使いますよ。
ジャガバターの時にも気付いた人がいるかも知れませんが、このバターの風味がジャガイモには相性抜群なんです。ジャガイモの風味を、グンとゴージャスにしてくれるのね☆
ただ、何回も言ってますが、バターとかの油系は、摂取しすぎるとブクブクと樽みたいに太っていきますから、『太ってきたかな?』と思ったら、使用する油の量を控えたり、食事の際に肉に付いてる脂身の量を削るなど、まず油の摂取量を減らしてみて下さい。初期の段階であれば、一~二ヶ月で効果がありますよ。
今の言葉にチクリときた人は、良かったら意識して実践してみて頂戴☆
で、バターが完全に溶けたら、この成形したジャガイモを投入します。(ジュワアァァァ・・・←焼ける音) 味付けは塩とコショウでも充分美味しいですが、今回はガルムソースを使います(ジャワアアアッ!←ソースを入れた音)。ん~~~!香ばしい匂いがしてきたでしょ?
成形したジャガイモに火が通って、ソースを充分に絡めたら、一部地域で有名な準ローカルフード、『ジャガイモもち』のできあがり!
火の扱いさえ注意すれば子供でも簡単に作れるんで、軽食やおやつにもピッタリなジャガイモもちを、是非試して頂戴☆」
(SE:パチパチパチパチパチ・・・)
「・・・・・・・・んじゃ、姫。早速試食して頂戴」
「うむ。これは、手掴みで食べて良いのか?(ぱくっ!) これは、美味しい! ガルムソースを絡めただけで、こんなに美味しいのか!しかも、この、『くにゅ?』というか『むちっ?』ていうのか、何とも不思議な口当たりが美味しさを引き立てているかのようじゃの・・・・村長夫人も、早く食べてみよ」
「はい。では、失礼して(ぱくっ)・・・・・・! 何ですか!この食感は! 何と表現すれば良いのでしょうか!?
噛んだ時は粘っこく、咀嚼しいる時はもちもちと、そして嚥下する時はスルンと喉に入っていく魅惑的な食感!素朴なポテトの味を邪魔しない片栗粉が、いい仕事をしているわ!
しかも、周りに絡められた少し焦げた風味を付けたガルムソースが、ジャガイモもちの味と混ざり合って、複雑な味わいを醸し出している!そして、ポテトだけならポテトだけの味、コーンが混ぜられている方にはプチッとした食感とコーンの甘みが加わって、とても素晴らしい美味しさだわ!
これは軽食やおやつに留まらない、食事のメインをはれるメニューだわぁ!」
村長夫人は、うっとりとした表情で試食のコメントを述べた。
「・・・・村長夫人の素敵なコメント、ありがとうございます。ただ、今回は焦げた風味で誤魔化しましたが、できればガルムソースでなく大豆から作った醤油で作ると、よりビューティフルでワンダフルな味が楽しめると思います。 ジャガイモから作る片栗粉を使ったジャガイモもち、皆さん 是非作ってみて下さい!」
(SE:パチパチパチパチパチ・・・)
(SE:♪~ チャ~ン チャッチャチャラッチャ~ン・・・)
「ハ~イ!それじゃ、次の料理に言ってみようかな☆
次にご紹介する料理は、簡単に言ってしまえばベルギー風の料理。ベルギーって何処だか分かります?(SE:ボソボソ・・・)そう、ガリア地方というか、ネーデルランド地方というか、その辺りの地域ねぇ。
そこの地域にちなんだ小咄もあるにはあるけど、今回も省略しますね☆この料理は、刃物も火も油も使いますが、数あるジャガイモ料理の中でも、おやつや軽食、メイン料理の付け合わせなど、利用範囲が広く、かつ万人に受けやすい味で、手軽に食べられるので子供の好物になりやすい料理です。
まず用意するのが、ご存じジャガイモ!好みもありますが、皮付きのモノはくし切りに、皮を剥いたモノは細長い棒状になるように細切りにしてきます(サクサクサクサクサク・・・)」
説明しながらレイは、凄い勢いでジャガイモを数種類の細切れにしていく。
その早さは、下手な料理番組の料理人も真っ青な早さだ。
見た目は地味だが、身体強化の魔法を神経系と上半身(特に腕部)にかけた場合の応用例である。
「この細切りにしたジャガイモは何種類か作って味と食感を覚えておくと、今後、そのときの気分によって自分の好きなように食べる事ができます。その中で中くらいの大きさにカットした細切れのジャガイモを、今回はフリッターにします。
で、フリッターにするには食材を包む衣を作らないと始まらないので、今からフリッターの衣を作っちゃいます。
まず最初に、小麦粉を用意します。その小麦粉に、あらかじめ用意しておいたスープストック、または水を入れて、小麦粉を溶いていきます。小麦粉とスープストックか水を、だいたい三:二位の比率、気の抜けたビールまたは水か牛乳を、スープストックか水と同じ量だけ追加して入れたげます。 そして、衣の生地を発酵させる用に生イーストを投入(ポトンッ!)。
次に卵を入れますが、ついでにマヨネーズを作る時に余った卵白もメレンゲ状にして混ぜて投入します(パタタタ・・・)。あまりダマが残らなければ、根を詰めて馬鹿丁寧に掻き回せる必要はないからね。 だいたい混ぜ合わせて四時間位放置プレイして発酵させたら、衣の準備はOK☆(ポンッ!←ユウが時間経過の魔法をかけた音) こんな感じに衣ができたら後は揚げていくだけ。
油を適当な熱さにしたら、順次、ジャガイモを油で揚げていきます。油はオリーブ油とかコーン油から作った植物油をもっぱら使う場合が多いけど、今回は晩ご飯にもなるくらいボリューミーに感じられるよう、牛脂と豚脂をブレンドして溶かした動物性の油を使います。
まず、より細く細切れにしたジャガイモから入れていきますよぉ!
(じゅわあああぁぁぁ・・・!)良い音するでしょぉ? この音が変化したらジャガイモの中まで火が通った証拠なんで、さっさと油から引き上げてやります。清潔な布か紙、またはバット(注:底の浅い四角い容器の事。球を打つ木の棒ではない)の上に敷いた金網の上に置いて、ある程度油を切ります。
で、油がある程度切れたトコで、塩を振りかけて全体に馴染ませたらフライドポテトの完成☆ 他の切り方をしたジャガイモも揚がるまでの時間が違うだけで、同じような手順で上げていけばOKだからねぇ。
じゃ、次はフリッターにいってみようか!作り方は、とても簡単。フライドポテトを作る時の、ジャガイモを油に入れる直前にフリッターの衣をジャガイモに纏わせてやるだけ!簡単でしょぉ?
まず適温な熱さにした油を用意して・・・・まぁ、油は今まで揚げてたモノがそのまま使えるんで、油はこのまま使います。で、細切れにしたジャガイモをフリッター用の衣に一つずつ入れて、満遍なく衣がジャガイモに纏えていたら、そのまま油の中へ直行させます。(じゅわあぁぁぁ・・・!) この作業を、用意したジャガイモがなくなるまで繰り返して揚げていきます。(じゅあぁぁ・・・・・・・・シャァァァァ・・・・)
で、揚がる音が変わり始めたらジャガイモに火が通った合図なんで、素早く油からジャガイモを引き揚げていきます。 そして、さっきと同じようにバットの上に置いた金網か布の上に置いて、油がある程度切れたらできあがり。
ついでに白身魚のフリッターも付けると、イングランド地方で有名なフィッシュ&チップスになるからね。暇と余裕ができたら、是非お試しを☆」
そして試食・・・。
「では、頂くぞ。(ぱくっ)おぅ!熱くて美味しいのぅ・・・・冗談抜きで美味しく感じるの。ポテトと塩の味以外の美味しさを感じるのじゃが、この味は何じゃ?調理中に何かを入れたようにも見えんかったし・・・・村長夫人、その辺も含めたコメントを期待するぞ」
「自分の内から沸き上がってくる思いを、ただ口にしているだけなので、そのように期待されても困るのですが・・・・では、僭越ながら(ぱくっ!)
・・・・これは! これは、恐らく油の味!少し癖のあるミルキーな風味はヘットで、丸みがかったコクのある味はラードからの味かしら?それがうまい比率で配合されていて、美味しく感じられるようになっているわ!ただの油が、こんなにも味わい深かったなんて! それがポテトのほっくりした風味と程良い塩味と合わさって、ずっと食べていたいと思わせる、癖になる味になっているわ!
あぁ、これは、嵌まってしまったら抜け出せない、ある意味禁断の味かも知れないわ!
そしてもう一つの料理、フリッター・・・・簡単に言ってしまえば、ポテトに衣を付けて揚げただけの簡単な料理のはず(ぱくっ)
んんんっ!この味は!何という事かしら!ただポテトに衣を付けただけというのに、フライドポテトとは違う、ポテトのふんわりしっとりとしてほっくりしたこの食感!
そうだわ!衣よ!この衣が、キモなのね!ポテトを衣で包み込む事によって、衣の中でポテトが揚がらずに蒸されて、そのまま揚げた時では出せないしっとり感ができるのね!
そして衣を作る時に入れたスープストックとビールが隠し味となって、ただポテトを揚げただけでは出せない絶妙な味を作り出しているわ!
更に、同じフライドポテトでも、くし切りにした皮付きのポテト。皮の風味がポテト本来の味をより豊かに深みを持たせているわ!フライドポテトと言う括りだけの料理にも、それなりのバリエーションがあるのには驚きよ!
ポテト料理の奥深さを今日、目の当たりしたわぁ!」
「・・・・今後も試食係を頼みたくなるような、具体的な驚き方をありがとうございます」
「レイ殿、簡単なポテト料理でこれ程のモノをご存じとは・・・・簡単ではないポテト料理もご存じという事でしょうか?」
「村長夫人、ジャガイモというのは救荒作物と呼ばれる程、痩せた土地や多少寒冷な地域でもあまり手間をかけずに育てられる作物なんです。そういう作物は得てして、あまり手間をかけないで調理して食べられる傾向が強いんです」
「・・・・と、言う事は、簡単でないポテト料理というのは、ないと言う事ですか、レイ殿?」
「いや、あるにはあるけど・・・・そういうのを作ろうとしたら、季節に左右されない食材の大量保存冷蔵の技術と管理、かなりの遠方から食材を供給できるインフラ体制の確立、料理を再現できる家庭用キッチンの改善、それらを実現できる社会的な背景と経済力とかが整っていて、そういう料理を作り出せる料理人が揃えばできると思うけど・・・・今すぐには、無理かな。まぁ、ジャガイモ料理の基本は、切る、焼く、蒸す、煮る、潰す、何かと混ぜるの組み合わせでできちゃうから、各自、創意工夫してみて頂戴としか言いようがないなぁ・・・・・・」
「その組み合わせで、簡単でないポテト料理もできると?」
「まぁ、そういう事ですかね。 質問の答えにはあまりなってないけど、そんなに気張らないで、気軽に楽しく料理して下さいって事で良いですかね?」
「はぁ、まぁ・・・・レイ殿の言わんとする意図は、何となく察せられました」
「申し訳ないけど、口下手なんで、うまい言い回しができないんで、察して頂いてありがたいです・・・・・・・・んじゃ実例として、最後に作ろうと思ってたメニューを変更して、フライドポテトの応用例を実演しますか」
何かを思いついたようにポロリと言葉を漏らしたレイは、視線をユウの方へと向けた。
「ユウ!最後に実演しようとしてたメニューを変更して、ガレットとかを作るわぁ。アシストよろ(しく)☆」
「え~~。スライスしたポテトはもう仕込み終わって、水気も取っちゃってあるのに・・・・」
「スライスしたジャガイモは細長く細切れにするから、半分は使うぞ。それと悪いんだけど、昼に食べた蕎麦の実を炊いたヤツ?・・・・それの手を加えてないヤツがあったら、挽いて粉にしといてくんない?」
「・・・・ガレットって、ジャガイモと蕎麦の二種類作んのか?」
「まぁ、ジャガイモ料理のバリエーションとその応用ってやつ? 食材を少し組み替えるだけで、違った料理ができるって事を経験的に知っている人は多いと思うけど、ジャガイモもそうだって事を見せといた方が良いだろうって思ってさ・・・・」
「まぁ、そう言われりゃ、そうだけどな・・・・分かった、蕎麦粉を作るだけで良いのか?他に、やる事あるか?」
「ん~~と、あるにはある。 チョイ、耳貸して」
「? 何だよ?」
呼ばれたユウは、レイのそばに近寄って行くと、レイの口元に耳を近づける。
無論、この時のユウは、顔面の布を上に持ち上げていた。
「(アんな、材料は村長夫人達が用意してくれたあり合わせので作れるから、俺が実演してる間に・・・・と・・・・を、・・・・・・して、遣り繰りすればできるべ?)」
「(ん~~~~、まぁ、できない事はないか・・・・・・じゃぁ、蕎麦の実挽いて、蕎麦粉を作るから、後の材料は任せるぞ)」
「(OKだ)」
「のぅ、ユウにレイ。二人で、何をコソコソ話しておるのじゃ?」
ポショポショ小声で話しているユウとレイに、ルナが話しかける。
「ん~~?単なるネタの打ち合わせだよ、お嬢。メニュー変えたから、用意するモノが微妙に変わったんで、そのやり取り☆」
「そうか。 本来作ろうとしていた料理も気にはなるが、まぁ、それはそれじゃ。より村の皆の為になる方を披露してくれるのであれば、一向に構わぬ。ユウとレイの好きなようにせよ」
「お嬢は話が分かるから、助かるわぁ。 ホンじゃ、最後に実演するメニューは、同じ名前の料理で材料が違うとどれだけ違いが出るかを見て貰いましょうか!?」
(SE:パチパチパチパチパチパチ・・・・・)
「・・・・ハイ、じゃぁ、まず、ココに取り出しましたるは薄くスライスしたジャガイモ!実演用にあらかじめスティーブが作ってくれてたヤツですが・・・・」(ズパ~~~ンッ!)
「誰が、スティーブやねん!」
速攻で、ユウのハリセンツッコミが入る。
が、一言ツッコミの台詞を吐いた後、ユウはレイの返答も待たず、さっさと舞台裏に姿を消していく。
「あ~~痛かった。あんまり暴力的だと、お婿にいけないぞ☆」(スパ~~ンっ!)
舞台裏からブーメラン型の投げハリセンが飛んできて、レイの頭に当たる。
「まぁ、軽いボケはこの位にして、続きをいってみますかね?」
レイはそう言いながら、まな板の上にスライスしたジャガイモを上に何層か重ねたモノを三つ程置く。
「まずはこのジャガイモですが、(ストトトトトトトトトト・・・)このように細長くなるように切っていきます。 切った時の大きさは、自分が食べやすい大きさならどんな大きさでも大丈夫ですが、なるべく細かくした方が見栄え的に良いでしょう。あとポイントとして、実際に切った時にジャガイモを水に晒さないようにしといて下さい。丸く成形する際に固まらず、ガレットにならないで、単なるジャガイモ炒めになっちゃんでね☆ 今回は、スティーブが用意してたジャガイモの他にさっさと皮を剥いたジャガイモも同様に細長く細切れにして(ストトトトトト・・・・)混ぜ合わせ、それをメインの具材します。
で、次に用意するのが、ジャガイモに混ぜるお好みの具材。ベーコンでもウィンナーでもジャーキーでも、好きな肉類を小さめに細切れにします。今回は好みでベーコンにしちゃいます。 混ぜ合わせる具は別に何でも良いですが、なるべく塩味などの塩気のある具材だったら、卵だろうがハーブだろうがザワークラウトだろうが、何でもOKよ☆
その塩気が、これから作る料理の味を引き締めてワンダフルな味に仕上げてくれるのよねぇ~。
ただ、ど~~~しても肉類は入れたくないという、宗教の戒律遵守者かベジタリアンでなければ単なるわがままな人!・・・・この中には居ないみたいだけど、もしそういう人が来たら、普通に肉を入れないで塩だけ入れちゃえばOKよ☆ その代わり、味は肉の旨味がガタッとなくなる味になる事は承知しといてねぇ。
さぁ、そうこうするうちに良い具合に混ぜていきます。 そうそう☆材料を混ぜる時に胡椒を少々振りかけるのを忘れないでね☆味が引き締まって、更にグッとゴージャスな味わいになるから・・・・」
レイは解説を入れながら、細切れにしたジャガイモと約数㎜位の賽の目切りにしたベーコンを、ボウルの中へ次々と無造作に放り込み、胡椒をパラパラと降りかけていく。
「・・・・ここまで具材の仕込みを終わらせたら、次に『つなぎ』で使う小麦粉を用意します。『つなぎ』の量は、少なければ少ない程ジャガイモの味を阻害しないので、できるだけ少ない量に留めるのがポイント。ジャガイモのみで纏められる自信があれば、別に『つなぎ』は使わなくてもOKですよ。 小麦粉を水で溶いて・・・・お好みで油を使っても良いですが、シンプルな味を楽しみたいなら水で充分!
小麦粉を水で溶いたら、さっきボウルの中に入れたジャガイモとベーコンの中に投入☆ 木べらや大きめのスプーンや菜箸、手元に何もなかったら素手で構わないんで、こんな感じに(チャッチャッチャッチャッチャッチャ・・・)全体に小麦粉が行き渡るようにかき混ぜてって頂戴。(とんっ!)
ハイ、見てぇ☆ こんな感じになったらかき混ぜるの終了。
具材を適当に手で取って、これまた適当な大きさに平たく丸くなるよう、形を整えていきます。前に作ったジャガイモもちの楕円形よりもっと丸くなるようにしていってねぇ。
厚さはそんなに厚くなくても大丈夫よぉ。逆に厚すぎると中まで火が通らないんで、『何が何でも生が好きだ!』という人以外は、ちゃんとある程度の厚さにまでにしておいて、中まで火が通るようにしといてね☆」
レイがパッパとボウルに入った中身を取り出して円形に整形し、まな板の上に幾つか取り置くと、次にフライパンを引っ張り出してくる。
「んで、次に取り出したるは、このフライパン!このフライパンを竈にかけて、熱していきます。
軽く煙が出てきたら溶かしバター、またはオリーブオイルなどの油を少量垂らします。何の油を使うかは各自のお好みなので、好きな油を使ってね☆ 今までの料理で溶かしバターを使うのが多かったんで、今回はオリーブオイルを使いますね。油を植物性のモノを用いた場合、動物性の油に比べ、だいたいアッサリしてるかスッキリした口当たりなので、その辺も踏まえて調理すると、よりビューティフルでワンダフルな味わいを醸し出す料理になりますよ。
そして、フライパンに垂らした油が充分熱されて馴染んできたら、成形したジャガイモを投入。(じゃわわあぁぁ・・・!)
フライパンにジャガイモがこびり付かないように、時々揺すってやるか、木べらで動かしてやるかします。
で、ジャガイモの裏側に焦げ目が付いて良い感じになってきたら、木べらで引っ繰り返してやります。あっ、別に木べらでやらなきゃいけない訳じゃないからね☆この場に丁度良い器具が木べらしか見当たらないから木べらを使っているだけで、他にあれば、スパチュラでも大きめのフォークでも菜箸でも、何でも良いのよぉ☆
『何々には、こういう方法でしか調理してはいけない』って決まり事は、料理にはないからね!
まぁ、例外として、まだ調理の基礎ができてない人は、決められた手順に従って基礎を学びながら調理する必要はあるけどね。基礎は、本当に大切だから・・・・。そういうのを無視してフリーダムにメチャクチャやると、真っ黒な苦いクッキーとか酸っぱいパンとかゲ□みたいな味のおじやとか爆発するヨーグルトとかを作り出す事になるからね!ホント、基本になる基礎は大事よ!
(・・・しゃわあぁぁぁ)っと、話している間にどうやらジャガイモの中身まで火が通ったようなんで、両面に綺麗なキツネ色の焦げ目が付いたらできあがり☆
作る大きさや中身に混ぜる具を変えてやれば、おやつにも食事のおかずにもなるジャガイモのガレット、皆さん、是非家で試して下さい☆」
・・・で、試食。
「ほぅ!これは、美味しい!なんというか、素朴・・・・いや、温かみのある家庭的な味というか・・・・何だか落ち着ける味じゃのぅ」(←ルナ)
「これは!・・・・一口囓ると、外側はカリッと香ばしく噛み心地の良い堅さでありつつも、中身はしっとりふっくらとしたこの食感!更にふっくらとしていながらも僅かに芯があるような抵抗を感じる歯応え!そして、噛む度に口の中でパラリとほぐれていくポテトの口当たり!
ポテトをわざわざ手間かけて細く細切れしたのは、この絶妙な食感を出す為だったのね!
それに具として混ぜられたベーコン!このベーコンの塩気が素朴で単調になりがちなポテトの味を引き締め、ジャガイモとベーコンだけのシンプルな構成にも係わらず、たくさん食べても飽きが来ない味に仕上がっているわ! しかもこの味は、あくまでもポテトがメインで塩気のあるベーコンは引き立て役。ポテトの優しく感じる味わいを、より高みへと押し上げている!
まるで、木枯らしが吹く晩秋の夜に、暖かい暖炉の前で家族と一緒に穏やかに夕食を食べているような!・・・・そんな家庭的で優しい味わいの料理だわ!?」(←村長夫人)
「・・・・相変わらず絶好調な村長夫人のコメントに調子付いて、同じガレットの料理でも、材料を違えたガレットにいってみたいと思います。
さて、ココに取り出したるは、薄茶色の粉末!これは、あらかじめスティーブのヤツが(スパ~~ンッ!←鎖鎌型の投げハリセンが、レイの頭に当たった音)・・・・スティーブのヤツが作った、蕎麦の実を石臼で挽いて粉にしたのが、この蕎麦粉。 臼を挽いて粉にする際に、回転させ過ぎて余分な熱を発生させないように、かつ遅くなり過ぎないようスピーディーに挽いてやると、凄く香り高い蕎麦粉が作れる訳☆
作る時の加減は、口で説明しようとしてもなかなか伝わらないので、香り高くワンダフルでビューティフルな蕎麦粉でガレットが食べたいと思った人は、納得出来る粉が挽けるまで頑張って練習してみて! 蕎麦のような救荒作物扱いされている安い材料でも、手間暇かけてあげれば信じられない位ゴージャスな味わいが楽しめるようになるよ。
それじゃこの蕎麦粉に水、またはクリーミーな味わいを求めたい人は牛乳を入れて、フリッターの衣のようなドロドロの液状にしていきます。この時に、一緒に炭酸水素ナトリウム、または『重炭酸ソーダ』とか『重曹』って呼ばれるヤツですが、それを少量加えてやります。コレを入れると、焼き上がりがグンと見栄え良くなるんで、マジお奨めです。
で、程良く混ざった所で、ガレットの生地は完成。目安として、こんな感じで(トロロ~~~・・・)生地を持ち上げた時に、トロ~っと落ちる感じであればOK。
次に、上に乗せる具を下拵えしてきます。今回はベーコンが続いていたんで、手近にあったハムを使います。
このハムを・・・・って、もしかして(クンクン←ハムの塊の匂いをかいでます)・・・・・・・・保存用に、松ヤニで周りを塗り固めてあんのか・・・・」
最後の言葉は、完全に素になって呟いたレイは、そのまま考え込むように黙ってしまう。
ちなみに、ハムの周りに松ヤニやハチミツ(または蜜蝋)などでコーティングして保存する方法は、近代までわりとポピュラーな保存法だった。保存対象(この場合はハム)を松ヤニなどで密閉する事により、対象から空気を遮断する事によって比較的長期の保存が可能なようにしていたのだ。空気の遮断による保存法は恐らく、何百万年という人類の歴史の中で徐々に蓄積されてきた経験則による結果だと思われるが、ここで問題になるのは、保存対象を包むコーティング剤の松ヤニだ。
松ヤニは嗅いだ事のある者なら分かると思うが、松ヤニは人によりキツいと感じる位、臭いがきつい。いわゆる、鼻にツンとくるような独特の刺激臭に近い臭いがするのだ。
一番身近な実例としては、電子工作などで使うハンダ(松ヤニ入りの方)の臭いがそれだ。ハンダが身近にない人でも、電子機器・・・テレビ、携帯電話、オーディオ機器、パソコンなどの中身に入っている電子部品が一杯載ってる基板。主に緑色の着色されたその基板に、新品の内に顔を近づけて臭いを嗅いでみるといい。ツンとするような独特の臭いがしているはずだ。
それが、松ヤニの臭いだ。
さすがに長時間経過すれば臭いは消えていくが、その期間は賞味期限のある食品には、あまりに長すぎる。
当然、保存対象・・・この場合はハムという事になるが・・・に臭いが付着したままになる。
無論、臭いの強さが微量であれば、山菜や肉料理でアクなどを一部故意に残して風味とする場合もあり嗜好の差違はあれ好まれる事もあろうが、良くも悪くも強すぎる臭いを言うのは敬遠されやすい。まして松ヤニなど、慣れていればどうと言う事はないかも知れないが、頻繁に嗅ぐ機会のなかったユウとレイでは、臭いが気になるのも無理からぬ話ではある。
また、松ヤニの他のハチミツなどを用いる場合だが、ハチミツにしろ蜜蝋にしろ、大量生産されて手頃な価格で流通されるようになるのは、近代以降、二〇世紀を間近に控えた時代にどこぞの園芸家(農家?)によって巣箱による蜜の採取法が編み出されるようになってからである。田舎と言っていい開拓村において、手軽に手に入る代物ではない。
それにハチミツや蜜蝋は、甘味料や調理の際の料理のつや出し、蝋燭などの素材、封書への使用、美肌の為の化粧品・・・其の他諸々と利用法があり、需要に対して供給が追いついていない。
そうなると、必然的にハムなどを保存する手法は松ヤニを用いた保存法一択になる。
蕎麦のガレットで、蕎麦の香りを楽しめるようにと意図していたレイは、思わぬ誤算に沈黙してしまう。
時間にして二十秒弱といったところだが、気の早い村人の一部が何事かと訝しむように首を傾げ始めた辺りで、レイは何かを吹っ切ったように、再度口を開いた。
「まぁ、いいや!細かい事は気にしないようにしてこう! いや、今回は、蕎麦粉の香りを楽しんで貰おうと思ったんだけど、保護材の松ヤニの臭いがキツいから、贅沢させて貰っちゃお☆」
レイはそう言いながら、ハムの塊にドンッと包丁を入れ、元の大きさの七割位の大きさにカット。
更に、中身ごと剥くような勢いで分厚くハムの周りの部分を分厚く剥いていく。
元のハムの太さより半分位の細さになったハムの塊を、レイはまな板の上で粗めのみじん切りにしていく。
「・・・・と言う訳で、ハムを贅沢な使い方して、中心からこれ位の細さまで削ぎ落とさせて貰いました。蕎麦の香りを楽しもうとすると、松ヤニの臭いってかなり邪魔なのよねぇ。別に松ヤニの臭いって、嫌いという訳じゃないよ。微量であれば、結構香しい匂いがして良いものだけど、今回のように松ヤニに比べれば臭いが弱い蕎麦の香りを楽しもうとすると、松ヤニの臭いは邪魔になっちゃうって訳☆今回必要なくなった周りごと剥いたハムだけど、普通に美味しく食べられるから、後で賽の目切りなり適当な大きさに切るなりして、美味しく料理してやってね。
で、粗めにみじん切りしたハムは、手近にあるボウルに入れて、次に引っ張り出すのは、このソーセージ! これもハムと同じ大きさになる程度に、包丁を使って切ってやります。(ストトトトトン)で、ソーセージもハムと一緒にボウルの中へ入れてやります。
で、少し味わいを柔らかくする為に、水を入れてハムの塩抜きをしてやります。時間にすれば十数分程度だけど、面倒なんでさっさと終わらせますよ~!時間よ~、進め~~☆(ポワワ~~ン!←ユウが時間経過の魔法をかけた音)
ハイ、これで余分な塩気が抜けたんで、具材をザルに移し替えて水切りしてやります。そして水切れが終わったら具材を再度ボウルに戻してやって、隠し味のガルムソースとコショウを少々。お好みでバジルでもタイムでもオレガノでも、好きなように入れても良いと思うけど、ガレットの蕎麦の風味を味わって欲しいんで、今回はパスね。
繊細な香り程、周りの香りに影響されて引っ込んでしまい易いモンだから・・・・もしかしたらこの中に、好きな人に告白できなくて引っ込み思案になってる人居ない?
料理ではそういう類いのものでも手を加えて、なるべくその存在を分かって貰う為に他を排除したり、存在を引き上げたりする事はできるけど、現実の世界はそういう事ができないようになってるからね! 引っ込み思案人は勇気を持って一歩前に出る気持ちを持つ。そうでない人は周りを注意深く観察して、引っ込み思案の人を引っ張り出すようにしたげてね。
結構、それでうまくいく二人ってもの例を挙げればそれなりの数が揃うんで、皆さんも周りに少し気を配って見回してやって下さいね・・・・って、何?スティーブ(スパーーンッ!)(SE:ゴニョゴニョ)・・・・そう言うお前はどうなのかって?そらぁ、年齢=女性との交際なしの期間だけど、それが何か?」
(SE:プ~~~!クスクスクスクス)
「え?・・・・・・そんな経験のないヤツが、偉そうに語るなって? まぁ、細かい事は気にするな。言うだけタダなんだから、言ったモン勝ちだろ?それに、経験の有無が、結果を導く絶対的な差ではないという事を証明してる人もいるんだから、別にエエやんなぁ?」
そんな事を言いつつ、レイはそそくさとフライパンを取り出し、竃に火をかけて熱し始めた。
「ハイ、ほんじゃ、料理の方に戻るけど、フライパンをこんな感じで熱したら、溶かしバター、またはなるたけクセのない油をササッと入れます。軽く煙が立つ位まで熱したら、ボウルの中に入れたハムなんかの具材をドサッと入れます。(じゅわああぁぁぁ・・・!)
具材の方は、今回ボリューム感を考慮してハムとかの肉類を使ってますが、マヨネーズをソースにすれば、アスパラガスやらキャベツを炒めたヤツでもOK。また、生地に砂糖かハチミツを入れて少し甘みを加え、具材に生クリームとか季節のフルーツを織り込んでやると、デザートやお菓子感覚で食べられる、クレープみたいなガレットになるんで、良かったら試してみてね☆ そうしている間に、充分ハムとかが炒まったら、一旦フライパンから具材を外して、次にカレットの生地を焼いてきます。
それまでの間、具材ちゃんは暫くボウルの中でおねんね☆
再度フライパンを熱したら、溶かしバター、またはなるたけクセのない油をササッと入れます。で、その後、余分な油は拭き取るか別な容器に戻して、フライパンには最低限の油だけが残っている状態にします。そして、柄杓でもお玉でも大きなスプーンでも良いから、適量の蕎麦粉の生地をフライパンに入れて、薄く延ばしていきます。 生地が皮みたいに薄く延びたら、暫し放置プレイ☆生地の中まで火が通って焼けてくると、細かい気泡がプツプツと出てくるので、頃合いを見ながら生地を裏返してやります。(くるっ!)
で、裏返してやった面も火が通って焼き色が付いてきたら、ガレットの皮を皿の上に置きます。 皮の上に具材を乗せて、四角っぽくなるように皮を中心方向に向けて折り畳んでやれば、蕎麦粉のガレットのできあがり☆
生地の蕎麦の香りを楽しむのでなければ、もっと具材を盛ったり香草を具材に混ぜたりと好きにアレンジができるので、皆さん是非作ってみて頂戴☆」
試食・・・。
「おぅ!これは美味しい!ハムの味とかも、強く主張していないくせによく引き出ておるの・・・・ふと思いついたのじゃが、今はフォークで食べておるが、もう少し工夫して中身の具を皮で落ちないようにすれば、そのまま手で食べられぬかの?そうすれば、祭りとか人が集まる行事の時に軽食として露店で売る事も可能ではないかの?」(←ルナ)
「(はむっ)・・・・あぁ、中身の具のせいか、ポテトのガレット程ではないにしろ、この料理も優しい味わいの料理ですね。凄く馴染みのある味で安心できますね・・・・ただ、何でしょう? 水切りして味が柔らかくなったハムとソーセージの味にすら隠れがちではありますが、仄かに口に残るこの薄い・・・・と言うより、淡いと言った方が良いのでしょうか?口の中に、今まで感じた事のないような芳香を、かすかに感じます。
これが、蕎麦の風味というものなのでしょうか?確かに、これだけ淡ければ他の具材の臭いで風味が感じられないという事も納得ですわ!
いつも炊いて食べるだけだった蕎麦に、この様な上品とも言うべき芳香が隠されていたとは驚きです!これからは蕎麦は炊くだけでなく、粉にして食す事も考慮しなくてはいけませんわね」
「あ~~、村長夫人、あんまり期待させちゃっても悪いからあらかじめ言っておくけど、蕎麦を製粉する場合は、ある程度の技量がいるんですよ。村長夫人が味わっている蕎麦の風味というのは、空気に触れると消えやすく、蕎麦を挽いて粉にする作業の時にでる熱でも失いやすい位儚いモンなんだけど・・・・まぁ、要領を掴むまで練習するしかないけど、食べる直前に挽くのが一番風味を強く味わえるから、粉にする時はまとめて挽かずに小まめに挽く事をお奨めしときます」
「な、なるほど・・・・少々手がかかると言う事ですか?」
「いえ・・・・今回のガレットは、あくまでもフライドポテトの応用例の実演と、同じガレットの括りで蕎麦粉を使ったヤツがあるから、両方見せようと思っただけなんで、蕎麦のガレットの方はあまり気にしないで下さい。 ただ、どんな安い食材でも、手間暇をかけて下拵えや仕込みをしてやれば、それなりの味になるって事を見せたかっただけだし・・・・今、手元にある食材だけでも、充分美味しいものは作れるから」
「そうなんですか、レイ殿?」
「ん~~~、じゃぁ、おまけでもう一品、作ってみますか」
レイは、言うが早いか、順次レイの実演した料理を作り始めている主婦のグループの間を渡り歩くようにして小走りに移動し、両手に食材を持って元の位置に戻ってくる。
「・・・・んじゃ、番外編の『あり合わせのモンでもう一品』。おまけで、実演しときます」
(SE:パチパチパチパチパチパチパチ・・・)
「え~~まず、用意するものが、ポテトサラダで使ったマヨネーズとキュウリ、人参、タマネギなどの野菜、ポテトグラタンで使ったマカロニ、塩とコショウ少々で最低限これだけ揃えられれば形になるヤツをやります。後はお好みで、ハム、ソーセージ、カボチャ、酢、スープストック、粉チーズ、砂糖少々、香り付けの為のブランデー少々など、気分に合わせて組み合わせてやればOKです。ちなみにこの料理は、メインの付け合わせ的な料理なんで、そんなに大量に作る必要はないですよ。ただし、マカロニが死ぬ程好きな人は別。好きなだけ作り込んで頂戴(SE:クスクスクス・・・)。
まず、ボウルに茹でたマカロニを放り込みます。
次にあらかじめ細切れにした野菜を投入。木べらか何かで、軽く混ぜ合わせていきます。
そしたら、味付けのメインとなるマヨネーズ、コクや風味を付け加える煮詰めたスープストックを水っぽくならない程度に適量。スイープストックは、無ければ別に入れる必要はないからね。そして、今回は自分の好みで粉チーズをパラパラと・・・・粉チーズは、パルメザンチーズやコンテ、ロマノとかの固い硬質タイプのチーズをおろし器で擦って作ると風味が格段に違うから、暇があったら是非試してみて☆(SE:ボサッ!)
あっ!・・・・粉チーズ入れ過ぎちゃったよ・・・・・・まぁ、いいか。
追加の食材で、茹で卵とスープストック、ガルムソース少々、塩とコショウも少々で味を調えて、本格的に混ぜ合わせてやります。 混ぜ合わせたら皿の上か小鉢に盛りつけて、彩りでパセリのみじん切りを振りかけたりクレソンなどであしらってやれば、マカロニサラダの完成☆
肉や魚のメインの付け合わせとして、野菜サラダのボリューム感出しの一つとして、または酒のつまみや弁当のおかずの一品として、幅広く活用できて簡単で手軽にできるマカロニサラダ。是非、ご家庭でお試しを☆」
(SE:ワ~~~! パチパチパチパチパチ・・・)
(SE:♪~ チャッチャラッチャ チャ~ラ~ン チャッチャラッチャ チャラララ~~ン チャッチャラッチャ チャ~ラ~・・・)
辺りに響き渡るBGMとともにレイの居る辺りの照明が暗くなっていき、村人達の目からレイの姿がゆっくりと見えなくなっていく。
こうして、ルナの依頼で始まったレイの料理実演は、無事に終わりを告げるのだった。
「う、うめぇ~~~!」
「母ちゃん!このグラタンってヤツ、凄く旨いよ!」
「ママァ~、このジャガイモもちって、モチモチして美味しいよ!」
「こ、このフライドポテト、メチャクチャ旨いじゃん!そうだろ、父ちゃん!」
「あぁ、そうだなペーター。だが、このフライドポテトというのは、ビールにも合うぞ!いくらでも飲み食いできそうな位だ」
「材料はあまり違わないのに、このマカロニサラダってポテトサラダと違った味わいがあるわ!粉チーズのまろやかさが加わって、何ともいえない幸せな味がするわ・・・・」
村長宅で繰り広げられている夕食会は、村長自身の口から『久し振りに、食事量の制限なし』との宣言もあって、かなりの盛況を呈していた。
村長としてはポテトが安全に食べられると判明した以上、今育てている小麦の収穫まではポテトの備蓄で、かなり余裕で食い繋げる目算が立ったからだ。
ルナが連れてきた奇妙な格好をした二人組が、新たなポテトの料理を披露してくれた事も大きい。
ここ数ヶ月、大きな不満が出ないように緩めに食料の節約をするだけに留めていたが、それでも制限が加えられていたという心理的負担は、決して小さくはない。
状況が分かっていただけに皆黙ってはいたが、漫然と感じていたここ数ヶ月(厳密には不作になり始めた二、三年前から)の心理的な負担が無くなったのである。村人達が普段以上に飲み食いし陽気になったとて、何ら不思議ではない。
その様子を我が事のように喜び、村人達と暫し歓談を楽しんでいたルナは、自然な動作で村人の集っている場所から静かに離れていく。
行き先は、実演が終わった後『料理の実演で疲れたから、暫く隅っこで休ませといて』と声を揃えてルナに頼み込んできたユウとレイがへたり込んでいる、村長宅の庭の隅に生えている木の下だった。
ユウとレイは、疲れているがやり切ったような表情を浮かべて、木の下でぐったりと寝転んでいた。
二人は、何となく村人達が舌鼓を打っている様子を眺めながらぐったりしつつ、ボンヤリと会話を交わしていた。
「・・・・・・なぁ、レイ?」
「何?」
「マヨネーズを実演で作ってる時に、応用の説明で、オーロラソースを紹介しなかったのは何故だ?」
「・・・・あぁ!?そういやユウ、お前はオーロラソースが好きだったな?」
「まぁな。普通にサラダやフライドポテト、七味唐辛子を混ぜてスルメに付けるソースにとか、オーロラソース考えた人は、世界に誇る大天才の一人に数えても良いと思う位好きだぞ」
「まぁ、オーロラソースって、元々はマヨネーズじゃなくてベシャメルソースにケチャップだったんだけどな・・・・大天才はともかく、世界に誇る人物に値するという評価は、俺も同意する」
「そうか・・・・で?何で、オーロラソースを紹介しなかったんだ?」
「いや、特に深い意味はない」
「ねぇのかよ・・・・」
「ただな、俺達が生きていた元の時空間からどれだけのズレがあるかは分かんねぇけど、俺の直感ではココは、過去の世界だ」
「まぁ、レイでなくても、俺もそう思っているけど・・・・」
「で、大まかな年代は、住人の顔立ちとか骨格からだと判別できんかった」
「ん?明らかに西洋系だろ?ラテン系がゲルマン系かアングロサクソン系かまでは分かんなかったけど・・・・」
「そこで気付よ、ユウ。 海外生活と現地の人と接している時間は、俺よりお前の方が圧倒的に長いだろ」
「・・・・言われてみりゃ、その通りだな。パッと見、西欧系の顔立ちしてたから、欧州の何処か、地中海性気候地帯とかの温帯気候の範囲に入る地域の何処かだとばっかり思ってた」
「いや、ユウの推測自体は間違っちゃいねぇよ。俺の推測も、似たようなモンだし。ただよく見てみると、微妙に西欧系の顔立ちの特徴からズレている。凄く微妙だけど、俺達が西欧人として認識している顔の造形から、顔の彫りが少し浅くて平たいような。 あと、瞳・・・・眼と言ってもいいかな?・・・・が、大きい。 とは言え、ユウも気付かなかった位、凄く微妙な差違だから、誤差の範囲と言われてしまえばそれまでの違いだ」
「まぁ、強いて言うなら、ほんの少しばかりエキゾチックなような日本のアニメよりなような顔立ちって気はするけど・・・・。つまり、俺達の居た世界とは全く別の世界だと言いたいのか、レイは?」
「いや、断言出来る程の違いはない。『新大陸』の話はすんなり受け入れられたし、メノルカ島は実在してるようだし、ベルギーは知らなくてもガリアとかネーデル地方の名前を出してもて疑問にも思われてなかったから、全く別の世界と言う訳ではなさそうだ」
「・・・・それで?」
「微妙な違いはあるけど、魔族とか言うのが伝説じゃなくて実際に居るという事実以外は、大まかに俺達が居た世界と変わらないように思う。時空間の違う世界や年代によって地名とか都市名とか変わるって前に授業で聞いてたのに、この世界では今の所、大きく違っている名前がない・・・・と言うか、俺が気付くか気付かない程度にしか違っていない。その辺をユウ、お前の方では気付いたか?」
「いや・・・・強いて言うなら翻訳魔法を使っているせいか、『ジャガイモ』と『ポテト』とか、『コショウ』と『ペッパー』位しか言葉の齟齬に気付かんかった。しかも、別称で同一のモノを指す言葉だと理解すれば、全然違和感なかったし」
「結構重要だぞ、ユウ。言葉ってのは、その土地の歴史とか文化を含めた時間的経過と、環境条件や気候的なモンのも含めた風土に大きく影響を受ける。 例えば、日本語の『寒い』という意味の言葉は、は方言を除くと原則一種類しかないけどロシア語には『寒い』の度合いによって数種類言葉があるし、『好き』という言葉も英語では段階的に数種類存在しているって言った具合だ」
「あれ?『好き』は、他にも『愛してる』とか日本語にはあるじゃん?」
「それは、日本では明治時代以降、文化の西欧化に伴って入ってきた比較的新しい概念の言葉だ。元々あった概念の言葉じゃない。昔の和訳した本の中に、『I love you.』を日本語にするのに『月が綺麗ですね』と訳した本がある。当時、まだ『愛』とか『愛する』って概念がなかった時代の末期の頃の話だ」
「あぁ!お約束で『死んでもいいわ』って返すネタ元のヤツか?」
「そうだ。 その代わり他の外国語にはない複数の種類を有する言葉も、日本語にはあるぞ」
「・・・・例えば?」
「ん~~・・・・『さざ波』『寄せ波』『土用波』『高潮』『津波』なんかの波に関するヤツとか、『微震』『弱震』『強震』『烈震』『激震』なんかの地震に関するヤツとか」
「災害関連のばっかやん!」
「まぁ、人命に関する事項は、程度の正確性が求められるからな。必然的に、そう言う部分の語彙は多くなっていく傾向がある。逆に言えば語彙が多い言葉程、それを区別して表現する位、その場所では脅威が大きいとも言えるし、語彙の少ない言葉は脅威が少ないとも言える」
「ふ~~~ん・・・・」
「まぁ後は、生活にかなり密着してる事象にも、同様の事は起きるわな。空から水滴が落ちてくる自然現象も、英語だと原則『rain』の一種類だけだけど、日本語だと『夕立』『にわか雨』『五月雨』『時雨』『霧雨』『涼雨』『豪雨』『梅雨』なんかの、降る時期や強さによって名称が変わるわな。 だから俺が言いたいのは、多少強引ではあるけど・・・・言葉がほとんど違っていないって事は、俺達の知ってる歴史的経過を辿ってきていると考えても良いんじゃないかって事だ」
「つまり、俺達の居た世界と全く同じじゃないけど、かなりの似た時間軸の経過を辿ってきている過去の世界って事? つまり、細かい事を気にしなければ、俺達の居た世界の過去と考えても差し支えないって事か?」
「うん。俺は、そう思う。 その上でジャガイモの普及具合やマヨネーズが一般的でない事、其の他諸々の気付いた点・・・・と言うか、勘案を交えて考察すると、ジャガイモが存在するからどんなに遡っても一六世紀以降、地名や村人の服装、トウモロコシなんかの普及具合、ココがイギリスじゃないようだから分かんないけど、カレー粉が普及してない事(イギリスでカレー粉が販売されるのが、公式には十九世紀初期)、通りすがりにパッと見ただけだから分からなかったけど、はっきりとノーフォーク農法じゃなさそうなんで、一八世紀後半よりは前の時代じゃないかって推測はしてるんだけど・・・・」
「・・・・・・けど?」
「さっき言った、俺達の居た世界にはなかった魔族とかの存在とかもあるから、厳密に西暦でいつ頃の年代かってのが断定できないから・・・・・・・・まぁ、過去は過去でも『時代劇時代』の西洋版に来ちまったって、適当に考えとけば良いんじゃない?」
「何か、適当だなぁ。まぁ、そのうち、ある程度の年代が分かる機会もあるだろしな。『今は、そんな感じで良いんじゃね?』って言う、レイの意図は理解した」
ちなみに『時代劇時代』とは、かつて日本で隆盛を誇っていた、テレビで放送していた『時代劇』と呼ばれるジャンルが、古くは鎌倉時代辺りから幕末までの数世紀に及ぶ長い時代の期間であるにもかかわらず、家屋や街道などの舞台セットや合戦場のロケーション現場をそのまま使い回して撮影していた事に由来する。
主に題材にされる時代は後半の江戸時代の約三世紀程だが、その期間だけとっても百年単位の時間経過があり、その間に建築物の様式も素材も変化するには十分な時間があるにもかかわらず画面上では一心太助(江戸時代初期の物語)の町並みも大政奉還する徳川慶喜(江戸時代末期~明治初期)の町並みも、庶民の家屋や街道は基本的に変化無く映されている。
制作費用などの諸般の事情はあるが、いつの時代も同じ背景、舞台装置を活用し、ある意味時代考証無視で映されて制作されるこれらの時代劇を、ある撮影スタッフが多少の自虐的な皮肉も込めて『俺達が撮っているのは、その時代の物語じゃない。時代劇時代の物語だ』的な発言をしたのが由来となって、『厳密には分からないが、おおよその時代が分かっている時代(江戸時代とか中世など)。あやふやな時代』の事を、一部で時代劇時代と呼ばれている。
「・・・・とは言え、トマトケチャップが登場したのが、十九世紀末から二十世紀初頭、普及したのがそれ以降だからな。マヨネーズが普及していった十七~八世紀より後だから、まだ、トマトケチャップ自体が存在していない可能性が高い。それに、用意された食材の中にも、トマトはなかったしな。 だから、今回は省いた」
「え~、そんだけの理由かよ。マイバッグの中に、カレーの隠し味用にケチャップの小ボトル買ってあったろ?それ使えば良かったんじゃね?」
「どうやって、素材のトマトの説明すんだよ!この時代だったら、鑑賞用としてあるかも知んないけど、俺達基準で酸っぱいし生臭いはずだから、説明しても信じてくれねぇぞ・・・・あ、でも、南欧の一部地域で十七世紀頃からケチャップにしてたっつう説もあったけどな。今一つ、確信が持てないけど・・・・」
「へ?そうなの?」
「とにかく、公式にトマトが品種改良されて美味しくなって食べられるのは、あと一世紀以上後の話だっての! 更に糖度が多くなって『フルーツトマト』が登場するのは、もっと後で世紀単位で品種改良が必要なんだってばヨ」
「誰の口真似だよ、それ・・・・んじゃ、どさ(くさ)に紛れて紹介するって事もできたんじゃねぇの?」
「そうは問屋が卸さないっての。 実演やってる途中で可能性に気付いたんだけど・・・・あまり自重しないつもりだけど、ハメを外しすぎて『歴史の復元力』が働く可能性に思い至った・・・・」
「ん~~と?・・・・・・前に授業で習った、昔のSFとかタイムパラドックスものの話で、『歴史本来の流れからねじ曲げたり、違う方向へ流れを変えた時に、超自然的に発生する歴史が本来の流れに戻ろうとする力』だったっけ?」
「そうだよ。 あくまでも物語上の仮説に近いヤツだけど、仮に本当に存在して働いたとしたら、不幸な結果が発生するかも知んないから・・・・」
「俺達にとってか? いきなり訳が分からないで過去の時代に飛ばされた、親父や友達に再会できる機会が全くなさそうな、ある意味不幸の最中にいる俺達にとって、更にこれ以上の不幸になるってか!?」
「・・・・・・ある意味不幸だってのは賛同するけどな。 だが、最悪じゃない。少なくとも、俺にとってはユウが居るし、ユウと違って俺には縁戚が居ないしな」
「・・・・・・・・すまない。レイが居るだけまだマシだってのにな。 ただ、俺には・・・・」
「それ以上は言わんでエエよ。 それ以上に心配なのが、不幸の範囲が俺達だけじゃなく、俺達に関わった者全般に及ぶ可能性だ」
「・・・・姫達か!?」
「あくまで最悪の場合だけどな。 自重はしないでもいいと思ってるけど、最悪、俺達に関係した一切合切が根刮ぎ・・・・ってパターンの可能性もを料理の実演中に気付いたから、ある程度仮説が正しくないって分かるまでは、自重気味にしといた方が無難でしょ?」
「まぁ、そうだな。けど、カレーとかグラタンを出した時点で、既に手遅れな気がしないでもないけどな・・・・でも、オーロラソースはともかくとしてトマトケチャップがあれば、ハンバーガーやらナポリタンやらで、料理のバリエーションが増えるんだけどなぁ・・・・」
「それ言ったらユウ、醤油(当然味噌も含む)と米があれば、俺達が好きな食べ物のメニューが、爆発的に増やせるぞ」
「・・・・まぁ、そうだな」
「どうした、ユウにレイ?爆発的に、何が増やせるのじゃ?」
会話をしていたユウとレイに、ルナが声をかけてくる。
「おぉ、お嬢、食事はもういいのか?」
「その食事が、このままの勢いだと、二人の分がなくなる勢いで皆が食べておるから、わざわざ呼びに来てやったのじゃ」
「そら、どうも・・・・んじゃ、もう少し休んでから、残り物を頂きに行くわ、お嬢」
「だから、その頃には無くなっていそうな勢いなのじゃ。全く・・・・ほれ、少しばかりじゃが、一番減りの早かったモノを持ってきたぞ」
そう言って、ルナは木皿に盛ったフライドポテトを二人の目の前に差し出す。
「・・・・やっぱ、このメニューが一番減りが早かったか」
「知っておったのか、レイ?」
「俺とユウが居たトコだと、このメニューとその亜種が、一番手軽で受け入れられてるメニューだからな」
「そうか・・・・だが他のメニューも、それぞれ人気で減りは早いぞ。フライドポテトが頭一つ飛び抜けてるだけで・・・・しかし、よく短時間であれだけのメニューを実演できたものじゃのぅ、レイ。 『ユウとレイが居たトコ』というのは、そんなにポテトが普及しておったのか?もしかして、主食であったとか?」
「いや、主食は米だぞ、お嬢。しかも、畑で育てる陸稲の方じゃなくて、水田で育てる方の米。 ジャガイモは名産地がチョコチョコあったけど、あくまで副食で主食じゃあない」
「米?・・・・・・何処かで聞いたような・・・・まぁ、良いわ。このフライドポテトというのは、何の事はない、油で揚げたポテトに塩を振っただけの味だと言うのに、何故にこうも後を引いて次々と食べたくなるのであろうか?」
「それは姫、論理的に説明はできるけど・・・・」(←チラッとレイの方を見る)
「説明が長くなるから、また次の機会にしてくれるか、お嬢?」
「ふむ・・・・まぁ、良いだろう。別に今でなくては聞けない訳ではないしの。 何にせよ、ポテト料理を実演込みで教えてくれた事、感謝するぞ。おかげで、今後もこの村で、ポテトが貴重な食料となるのは間違いなかろう」
「・・・・まぁ、特別感謝せんでもエエよ、お嬢。俺らの今後の生活手段を世話して貰うんだ。下心込みで、これ位の事はやっちゃるヨ☆」
「レイ、お主は時々、捻くれた物言いをするのぅ。素直に謝意を受け取っておけば良いものを・・・・」
「しょうがないよ、姫さん。こういう性格をしてるんだよ、レイは。俺と会った時からこんな性格だから、時々誤解されて、フォローする俺が苦労してる。 それよりも姫、もう少しばかりモノは食べられる?」
「何じゃ、ユウ?また、カレーでも作ってくれるのか?」
「カレーは、また次の機会にね。 それよりも、どう?」
「試食でそこそこの量を食べたからの。 今はお腹も落ち着いてきたから、ある程度は食べられるぞ」
「んじゃ姫さん、コレをあげるから、この場で食べちゃって」
そう言って、ユウは手のひらサイズの紙袋と、その紙袋より少し大きめで空気で膨らんだ紙袋を同時にルナに放る。
「何じゃ、この袋は? 昨日の紙鍋といいこの紙袋といい、すぐにホイホイと紙を使うなぞ、少しばかり贅が過ぎる気がするの。 まだ多量に持っているのであれば、大きな街に出た時に売ってみたらどうじゃ? そこそこの値で売れるはずじゃ」
ルナは、放り投げられた紙袋を上手くキャッチして、紙袋が使われている事に若干驚いていた。紙は、都市部でもなければまだまだ貴重品で、それを何の惜しげもなく放るユウに、少しばかり驚いたのだ。
実際、史実でも幕末の頃に欧州を廻った視察団が懐に紙束(懐紙)を入れていたのに、当時の欧州人は貴重な紙を多量に持つ視察団に驚きを示し、鼻をかんで捨てられた懐紙を、視察先の地元民が先を争って拾い上げ、洗ってから再使用していたという記録がある。
「俺達の居たトコじゃ、簡単に手に入る代物なんだけどな。それよりも姫、中のモンをさっさと食べちゃってくれ」
「何じゃ?他の者には、見せられぬモノなのか?」
「まぁ、ある意味、そういう類いに近い代物だね。だから、レイがガレットを作っている裏でコソコソ作ってた訳だし・・・・分かったら、さっさと食べちゃって、姫さん」
「・・・・レイ、ユウは私に、何を食べさせようとしておるのじゃ?」
「いきなり話を振らないで欲しいんだけど、お嬢。 大丈夫、ちゃんとした食べ物だから。ただ、今は他の人に見られると、少しばかり不都合な事がある可能性があるだけだ。 それにお嬢に約束してたろ?俺達が、お嬢を差し置いてスープを食べちゃった時に、『おやつの時に一、二品、何か作る』って約束したろ?その時の約束の分だから、気にしないで食べちゃって☆」
「そうなのか?そう言うのであれば、まともな食べ物のようじゃのぅ・・・・」
「いや、まともな食べ物だから、お嬢。膨らんでる袋の方は、ホントは最後に実演しようと思ってたヤツだし、もう一つの袋の方は俺とユウの好きなメニューの一つだ」
「そうなのか? では、お主達の好物とやらから頂くとするかの」
そう言って膨らんでいない方の紙袋の方を開けるルナ。
紙袋の中から、楕円の形をしたキツネ色の塊が出てきた。
「形的にはジャガイモもちに似ておるが、クロケットに似ておるのぅ・・・・外側の衣は、クロケットより粗いがパンを細かく砕いたモノを使っておるのか。何とも香ばしい匂いがするのぉ・・・・・・では、頂くぞ(ぱくっ!)んんっ!カレーの味がするぞ! 中身の具のポテトが少し黄色いから、カレー粉とやらを混ぜてあるのか?ポテトのほっくりした(←村長夫人のコメントを取り入れてます)風味でカレーの辛みが柔らかくなって・・・・これが、カレーの旨味というヤツかの?昨日の晩、食べた時には辛くても何となく『美味しい味』としか分からなんだが、ポテトで柔らかくなった辛さのコレを食べたら、カレーの美味しさというモノが素直に感じられる。コレなら、私でも辛さを気にせず大量に食べられそうだ。 で、コレは、何という料理じゃ?」
「・・・・お嬢がクロケット知ってんだったら、話は早いや。そのクロケットを俺達の居たトコの味の好みに合わせて魔改造した、コロッケっつう料理だ。お嬢が今食べてんのはそのバリエーションで、中身の具のジャガイモにカレーを混ぜ込んだカレーコロッケってヤツだ・・・・ちなみにお嬢、いつクロケットを食べたん?」
「・・・・まだ母上が存命だった頃の幼少の砌、両親に連れられて王都で会食する機会があっての。その時に前菜として食べた事がある。中身は香草を混ぜ込んだチーズに細切れの肉と野菜が入っておったが・・・・そうか、ポテトを入れるという発想はなかったのぅ」
「いや、いつか誰かが思い至る発想だけどな・・・・何せ俺とユウが居たトコでは、トンカツ、カレーライス、コロッケは『大正(注:年号の事です)の三大洋食』っつって、庶民の間で持て囃された位、高級品から常食へと遍歴を辿って親しまれてる料理だからな。 他にも、中身の具にコーンを混ぜたり挽肉だけ詰めたり(注:メンチカツの事です)して、色々とバリエーションはあるぞ」
「何と!既に幾多の亜種のメニューを作ってあるのか! トンカツとやらが、非常に気になりはするが・・・・・・ならば、その事も含め、村人達に教えて欲しいのぅ。 レイがそう言うという事は、もう一つの方の袋の中身もまた、珍しきモノか?」
そう言いつつ、ルナは膨らんだ紙袋を開ける。
ちなみにカレーコロッケは、レイがコロッケの軽い解説をしている間に既に完食している。
「ぬ・・・・これは?」
袋の中身は、ジャガイモをできるだけ薄くスライスしたモノを、油で揚げたモノだった。
「袋を開けた瞬間、物凄く香ばしい匂いが鼻に入ってくるの。 それにしても、物凄く薄い食べ物じゃのぅ。既に割れてるモノもあるではないか」
「まぁ、食べてみぃや、お嬢。ご託並べるのも、それからだ」
「そうじゃの。では、頂くぞ(パリンッ)! って、何じゃ、この歯応えは!物凄く楽しい!(パリパリパリ!シャクシャクシャクシャク・・・)コレは・・・・と、止まらぬ美味しさと楽しさじゃ!この食べ物は、揚がった香ばしいジャガイモの味と油、しょっぱい塩程度の味しか私には分からぬが、食べた時の口の中で砕けていく食感がたまらなく楽しいぞ! レイ、コレは何という料理じゃ?」
「それは、ポテトチップスというモノだ。今回は、シンプルに塩だけの味付けだが、バジルや青のり、カレー粉にコショウ、あと粉にする技術があれば、コンソメや酢、バター、ソース、醤油、牛、豚、鶏なんかの肉類、エビ、カニ、ホタテなんかのシーフード、その他もろもろ、粉にできるヤツなら何でもフレーバーになって、和えてやればいろんな味を楽しめる」
「そうなのか!(パリパリ・・・)」
「そうだよ、お嬢。俺とユウが居たトコだと、それこそ何百種類となくいろんな味が出てた。本来はこのメニューを実演で紹介する予定だったけど・・・・」
「何っ!ならば、今からでも遅くはない。(パリパリ!シャクシャク)早速、皆に教えてやってくれぬか、レイ?(パリ!シャク!)」
「・・・・残念だけど、今はそれは勘弁だ、お嬢」
「何故じゃ!?こんなにも美味しいというのに!!・・・・・・(シャクシャクシャク・・・)『今は』と言ったの?」
「あぁ、言ったよ、お嬢」
「何故に、今はダメだと言うのじゃ、レイ?(パリパリパリ!)」
「・・・・多分、このメニューを考案した人物は、まだレシピを公開してないはずだから。 やっぱり、偏屈な旅行客と文句を言いながらも要望にまじめに取り組むシェフという逸話も込みで、最初に考えた人の名誉ってヤツは尊重しないとネ☆ 作る前に気が変わって、作るの止めた☆」
「レイ、お主、何処ぞのシェフと知り合いだったのか?(パリパリパリパリ)旅行客なぞ、凄くブルジョワジーな者達を相手にするなぞ、余程のシェフであろうに・・・・(シャクシャクシャクシャク・・・)道理で、ポテト一つでもいろいろな料理を知っておる訳じゃ(サラサラサラサラ・・・シャクシャクシャクシャク)。 あぁ・・・・・・もう、食べ終わってしまった」
「いや、お嬢、特に知り合いという訳じゃなく、こっちが勝手に知ってるだけの人っちゅうか・・・・まぁ、そんな感じかな?」
「何ぞ、よく分からぬ関係の台詞じゃのぅ・・・・」
「姫さん、簡単に言ってしまえば、巷で高名な舞台役者や著名な作家っていう人の名前位、姫も知ってるでしょ?」
「うむ、まぁ・・・・」
「料理人の世界でも、そういう類いの人物はいるって事だよ、姫さん。 もっともレイの場合、ほとんど趣味みたいなモンだけど・・・・」
「そうなのか、レイ?」
「まぁ、ユウの言う通りだな。とは言え、そんなに深い趣味じゃないぞ。自炊せなあかんっていう生活だったから、どうせ食べるなら少しでは美味しいモノ食べたかったからだし、あくまで趣味の一つだから、腕前は本職の料理人に比べるまでもなく、その辺の主婦にも劣るぞ」
「料理の実演であれだけのモノを作っておいて、よく言うのぅ、レイ」
「俺の料理は俺自身の為の腕前だから、愛情の籠もった主婦の手料理にはかなわないよ。ましてや、本職の料理人には遙かに及ばない」
「うぅむ・・・・そんなに卑下する腕前ではないのだがな。 まぁ、良い。ならば、ユウとレイの言う通りにしておこう。じゃが・・・・」
少し上目遣い気味にユウとレイを見るルナに、ユウはルナの要望をそれとなく察する。
「当座の生活が一息ついて、姫さんが希望する時に、コッソリと作るのは吝かじゃないよ。レイも、それで良いよな?」
「うむ」「いいよ」
ルナとレイが、ユウの提案に同時に返答する。
「そん時は、も少し味のバリエーションを増やして提供するよ、お嬢」
「うむ。期待しておる」
暫し、無言でポテト料理や引っ張り出してきた食材で作った料理に、村人達が陽気に舌鼓を打っている様子を眺め続ける。
「・・・・・・・・ユウ、レイ、改めてお主達に感謝する。よくぞポテトの料理を、皆に教えてくれた。バルガ領主ラルゴ・バルガが一子、ルナ・バルガの名において、二人に謝意を表す」
「・・・・持って回った言い回しはしないでいいよ、お嬢。 個人的な大いなる下心による実演だったから、別に気にしないで」
「持って回った言い回しをしておるのは、どちらかと言うとお主の方ではないか、レイ?」
「・・・・・・・・」
「照れるなよ、レイ。お前、ホントに素直に返されると、照れが入るよな。 女だったらツンデレで可愛いんだろうけど、男だと・・・・」
「頼むからそれ以上言うな、ユウ!」
「ハイハイ。 そんな訳で、姫さんの謝意はレイに伝わっているから、安心してくれ」
「うむ。 ところでユウ、『ツンデレ』とは、何じゃ?」
「あぁ、それは「だから言うなっての、ユウ!」」
ルナの質問に答えようとするユウを、慌てて止めるレイ。
そんなやり取りをしている所へ、村長がルナ達に声をかけてきた。
「姫様ぁ!そんな所で立たれてないで、こちらにおいで下しませ。皆も、姫様とご一緒したく、心待ちにしております」
「うむ、あい分かった。 すぐに参る故、向こうで待つが良い」
「はい、お待ちしております」
村長はルナの返答を聞くと、素直に食事場所に戻っていく。
「それでは、私は元の場所に戻る故、お主達も早く食べに来るのじゃぞ」
そう言い残して、ルナはユウとレイの居る場所から離れていく。
ルナが去った後には、木にもたれかかって少し疲れた顔のユウとレイの二人が残った。
「・・・・レイ、動けるか?」
「疲れてっからできれば動きたくないけど、明日も歩き詰めになるんなら、無理にでも食べないといかんだろうなぁ」
「まぁ、そういう事だな。そんじゃ、行くか?」
「いや、ユウは先に行っといて。俺は、もうチョイ休む。自分の想像以上に、人前で実演すんのって消耗するわぁ。こういう事をアドリブ混じりで毎週やってたカーさん(注:料理ショーのホストの人)って、ホントに凄い人だったんだな」
「それを言うなら、料理番組やってる人は、みんなそうだろ?」
「まぁ、そうだな・・・・取り敢えず今後は、なるたけ楽にできるように考えるわ」
「そうだな。仕込みやら下拵えやらの裏方作業も、今回はレイの作業進行に合わせて時間制限が結構タイトだったから、楽な方向で考えてくれると俺も助かる」
「あ~~~~、そうする事ができるよう、前向きに検討し、邁進していきたいと存じます」
「まったく、お前はいっつもそう言う物言いしかしねぇよな」
「だってなぁ・・・・できもしねぇ事を、自信満々に『できます』って言って、後で周りに迷惑かけまくる人を見てるからなぁ。 少なくとも俺は、そう言うヤツにはなりたくないんで、確約できない事ははっきり断言しないようにしてる」
「やけに実感こもったような言い方すんなぁ」
「まぁなぁ・・・・・・昔サラリーマンやってた頃、本部から現実が見えてない予算(注:ただし、株主に充分な配当額と会社が余裕で存続出来る利益額等から弾き出される予算なので、現実的でなくとも理想はガッチリ見えている数値です)が下りてきて、現実と乖離している予算を無視して現状で確実に達成できそうな数値を出すと、『予算に対して目標数値が低すぎる。向上心が見られない』だの『自分の限界を勝手に決めるな』とか『こんな目標値じゃ、会社の設定している予算に到達できない。もう一度、やり直せ』、『会社は組織だ。その組織の目標に沿えない者は、組織の人間として失格と見做されるぞ(注:『不要だ』とか『クビだ』などと言わず、かつ『失格だ』と断定調で言わない所に、この言葉のパワハラ訴訟回避の、ある意味でいやらしい考え方が滲み出てます)』とか言ってできもしない目標を掲げさせて、『うちの部署では、予算の目標数値は確実に余裕でいけます』って自信満々に上層部の人間に言って予算を上増しされて、案の定、予算達成が無理だって分かってくると、『予算の数字に届かないのは、部下であるお前達の努力が足りないからだ』とか『俺の予想では、とっくに予算を達成出来ていた。俺の言う通りにお前達が動かないから、予算が達成出来ないんだ』、『努力が足りないんだから、日割りの予算目標を達成させるまで帰ってくるな』って騒いで、『予算が届かないのはお前達のせいで俺のせいじゃない。もっと気合いを入れて努力しろ!何が何でも予算を達成させろ!根性出せば、予算は付いてくる!』って檄だけ飛ばして、自分の部下の粗探しをしてばかりの人を見た事あるからな。 だから俺は、できるかどうか分かんない事に、ハッキリと返事しないようにしてる」
「・・・・ハイハイ。自分の前世がどうのこうのって、厨二病的な話ね。 サラリーマン生活を送ってたって、レイのはえらく俗っぽい話だよな。普通前世の話っつったら、アトランティス大陸の王宮の近衛騎士ナンチャラとかレムリア大陸を治めていた王家の第一王女のカンチャラとか、ありえねぇ設定を持ち出すヤツが大半なのに。 レイの厨二病的な話は凄げぇ世知辛さが滲み出てるから、うっかり信用しちゃいやすいんだよな。 もうちょっとファンタジー色を前面に押し出して荒唐無稽さを醸し出してくれれば、ツッコミ所満載のイタくておバカな厨二病患者なんだけどなぁ」
「だ~か~ら~・・・・・・・・まぁ、いいや。 とにかく、次回以降はもう少しユウの負担がなくなるように、できる範囲内で調整してみるよ」
「まぁ、いいか。 んじゃ、次回以降はよろしく」
「ヘイよ」
「・・・・で、どうする? 姫さんトコに行って、飯食うか?」
「ンだな。 さっきより疲れが回復してきたしボチボチ腹も空いてきたから、行くとしますか?」
ユウとレイはおもむろに立ち上がると、村人達が楽しげに集まっている場所へと足を向ける。
そして村人達から感謝の言葉と共に、村長宅の客間で寝る前にキャベツの中にある消化酵素を含有した胃腸薬を飲む羽目になる程、田舎特有の接待とも言うべき食事(注:主にジャガイモ料理)の大攻勢を受けるのだった。
今回は特に『世○の料理ショー』を見まくって、昔、再放送時にやたら印象に残っていた『アダムとイブ』の小咄(アダムの肋骨を数えるヤツです)が見れて、ちょっと堪能しました。やっぱり面白い番組だったなぁと、改めて実感。少しでもその調理中の楽しげな雰囲気が出せれてれば良いなぁと思い四苦八苦しましたが、どうでしょう?
ちょっと・・・というか、結構難産でした。
何せネタ元にした料理ショーは、子供の時には気付かなかったけれど下ネタと夫婦ネタが意外と多く、使い回せそうなネタがほとんど無かったので・・・orz
本来なら食材の分量は、何人前の分量で何が何グラムとか表記するのがより分かりやすいのですが、村人の人数が数十人単位になるのと当時の農民層の計算力(教育制度の未整備具合を含む)を勘案して、材料同士のおおよその比率で表記しています。
グラタンは、調べてみたら一九世紀半ばに確立された料理のようで、出せないかなと思ったのですが、今後出す予定のグラタンパンなどのグラタンから派生する料理のレパートリーまで切り捨てるのが惜しかったので登場させました。
残念ながら、レイはコロッケとポテトチップスの成立時期は知ってましたが、グラタンは知らなかった為、平気で実演してます(村長夫人の質問と『歴史の復元力』の可能性への気付きがなければ、ポテトチップスも実演してたはず)。
ただ、ポテトチップスに比べるとグラタンは手間がかかるし材料の牛乳は大量流通経路が確保できる時代になるまで地産地消のローカルフードみたいな存在だったので、普及するにしてもポテトチップスほどには至らなかったと思いますが・・・。