幸せを集めるサンタクロース
あらすじは適当に考えましたが決まり次第新しく書こうと思いますのでよろしくお願いします。
「くっそぉ、なんで俺が人間なんかに……」
1人の少年が雪のない道を歩いていた。そこは商店街なのか人で賑わっていた。
季節は11月。まだ雪は降らないが風は冷たく気温は10度をきっていた。
この街にも冬が訪れようとしていた。
彼はサンタクロースだった。サンタクロースといっても研修のサンタだ。
サンタは世界中の各地にいる。一人ではない。
そして世界のどこか。一番高い山の上かもしれない。深い深い海の中かもしれない。はたまた地球の中心かもしれない。その何処かにサンタ研修学校がある。
彼、白冬初雪はそこの生徒だった。
「なんで俺がこんな目にあわなきゃいけないんだッ!」
そういうと何もない雪の上を蹴り飛ばす。粉雪が舞う。
白冬は研修サンタとして重大なミスを犯した。そのためはサンタ界を一時的追放になっている。
そして戻るために与えられた使命、
‘人々を幸せにする‘
それが白冬に与えられた使命だった。
そのため彼は身体能力は人並みで何か危機的状況にならなければサンタとしての力が発揮されない。
つまり白冬は完全な人間になっていた。
しかし言葉の感情の裏腹に表情には怒りや悲しさが感じられない。逆に喜んでいるようにも見えた。
「でもまぁ、こうやって自由にもなれたんだし、いっそ人間ライフを満喫するか…」
そういい、手元にある紙を見る。
♪サンタに戻るための支給品♪
・資金:100万円(足りなかったら自分で頑張れ(^0^)/)
・学校:私立水無月学院(学費は払い済み)
・住宅:学生寮
終わり(笑)まぁ頑張って幸せを集めてね♪
Ps、ちゃんと仕事しなきゃお仕置きが下るよ(^0^)/
と書いてある。
「まぁサンタには戻りたいしいっちょ頑張りますか!」
足を止め顔をあげる白冬。そこにあるのは大きい大きな柵がある。その横には表札のようなものがある。豪華な仕様で見るだけで金を使っているとわかるようなデザインだ。
私立水無月学院。それが表札に書いてある文字だった。
「ここで……あってるんだよな?」
そういい白冬は大きな、学校には豪華すぎる校門を通る。
キィーーーー、ガシャンッ!
「うぉ!?なんだ……!?」
さっき通った校門が閉まっていた。つい先ほど自分の手で開けた校門だったが開けるのは一苦労だった。風か何かで閉まるようなものではない。
「気の……せいか?」
僅かにだが、サンタのような力を感じた。力を失っているとはいえ少しは残ってるらしく感知程度のものができるようだ。
「気のせいだよな……」
白冬は水無月学院に入る。
中は校門を超える豪華さだ。扉を開けてすぐ目の前にあったのは大きく開いたホールだった。よく映画やアニメで見るようなお城や舞踏会場にあるようなホールだ。扉の両脇には台座のようなものが有りその上に名前はわからないが花が飾られてあった。上を見るとそれはまだすごい。シャンデリアだ。こんなのが学校にあっていいのかと不思議に思ったが考えるをやめる。
外は違い暖房が効いているのかちょうどいい感じに暖かかい。
「玄関でここまでやるなら、その先はもっとやばいだろうな……」
フゥ、とため息をつき歩み始める白冬。白冬の予想は的中。玄関とは比べ物にならないほどの豪華さだった。
時間は過ぎていき、気がつくと目の前には学長室。いわゆる校長室のようなものだろう、と簡単に想像する。
コンコンコン、と三回ノックする。
「どうぞ……」
老人のような、しかしその声には若さが感じる。というよりも子供のような声に聞こえた、が気のせいだろう。
「失礼します……」
ドアを開け学長室へと入る。その瞬間重い重力のような衝撃が体を襲う。
「グ、ガァ……!?」
思いもよらない衝撃に驚き状況を理解できない。しかしすぐに判断能力が戻り理解する。
これはサンタと同じ力だ。
僅かに動く頭で机のようなものをみる。そこには人影があった。
「お前……誰だっ!?」
白冬は殺気立った声を上げその力を放つ人物に問いかける。その質問にクスッ、と笑い答える。
「ワシか?ワシはこの水無月学院の理事長じゃが……?」
わかりきっているような答えをいう。
「そんなことわかってるんだよ…!」
ググっ、と重力により冷たい床に貼り付けられていた白冬はわずかに残っている自分のサンタの力をフルに使い体を起こす。
「ほう!ほうほう!力を封印されながらもここまでやるとは、さすがロンズベルクのジジイが認めるわけじゃ!」
白冬の立ち上がった姿をみて心底感心したような声をあげる理事長。やはりその声には若さを感じる。
「ロンズ、ベルクだとッ!?お前は会長の事を知っているのか…?!」
ロンズベルク・エルフォース。サンタ界の長でありサンタ協会の会長でもある。サンタの始まりはロンズベルクとも言われている人物の名前だ。
「知っているもなにも、ワシとやつは古い友人だからのぉ……」
そういうと重い重力は消え白冬にのしかかっていた衝撃は消える。体に羽が生えたかのように軽くなる。
しかしその体の軽さに感動を覚える暇もなく恐ろしい衝撃が襲いかかる。
目の前にいたのは、小さな子供だった。身長は140cmもあるかないかで胸もそのとおりない。髪はツインテール金髪で服は子供服を無理やり大人向けにしたようなものを着ている。
「お前が……学長?」
口をポカンと開け指を指す。誰もいないのに誰かに答えを求める。
「そうじゃよ?ワシがこの水無月学院の理事長兼学長じゃ!」
膨らみのない胸を張りながら堂々と立ち尽くす理事長。その堂々とした姿は尊敬できた。
(いや待て。こんなことがあっていいのか?お子様理事長?まぁこんなことはよくアニメや小説であることだ。驚くことじゃない。けどその前だ。なんでロンズのじいさんの事を知っている。それにあのとてつもなく強力な力は……」
驚きを隠せてない白冬の顔を見て理事長は馬鹿にしているのか面白がっているのか、クスリ、と笑った。
「白吹湖音、といえばわかるかの…?」
「なっ!?」
白冬の表情が激変する。先程までの疑問と驚きで埋まっていた顔が完全に驚きで埋まっている。
「まさか、ソフィア・ローレイン…様?」
ソフィア・ローレイン。実質サンタ界1位の成績を残している人物である。ロンズベルクとは幼少期からの付き合いで1、2位を争っていた。サンタ界引退後は莫大な資金を持ち人間界へと降り立った。人間界での名前は白吹湖音。
あるはずがない。白冬は思った。ソフィア・ローレインはサンタ界ではロンズベルクに並び伝説の存在である。あのロンズベルクがこんな小さい体なわけがない。
しかし先程まで起きていた事は全てが一致する。
莫大な金で作られた学校。
学校に入った瞬間に感じた謎の力。
先程受けた重力による強力な力。
そしてサンタ界の長であるロンズベルクをジジイと呼べること。
そう考えると目の前にいる少女は本当にあのソフィア・ローレイン、白吹湖音なのだろうか。
「様などつけるでない。それにその名前はとうの昔に捨てた名だ。今は白吹湖音じゃ……」
「じゃぁ、本当にソフィ、湖音さんなんですか……?」
にわかに信じられないが今は信じるしかない。まだ特定はできないがこれまでの経歴と想像から彼女は白吹湖音だ。
「うむ、それでいいじゃろう。さと本題に入ろうか」
そういうと湖音は体型には似合わぬ椅子から飛び降り白冬の目の前にある客用の椅子へと腰掛ける。湖音は座れ、と言っているのか目をこちらに向ける。
「白冬初雪、であっているな?」
「はい……」
先程まではとは違い場の雰囲気が変わる。
「白冬初雪。性別男、年齢は16歳。身長は176cmと平均的で体型はやや筋肉質。サンタ界では優秀な成績を残していた。と書いてあるな……」
優秀な成績を残していたのだろうか、と疑問に思うがすぐに考えるのをやめる。
「なぜそのような奴がこの学院、人間界にきた…?まぁ大体に事情は聞いておる。だがお前の口から聞きたい。」
湖音の真っ直ぐな瞳が白冬の瞳を捉える。その瞳は動くことなくまっすぐ白冬の目を見ている。
「俺がサンタ界を追放された理由は、サンタとしての使命を放棄したからです……」
白冬は恐れずに湖音の目をまっすぐ見て告げる。その言葉にはなんの恐れもなく怯えがない。本当のことを言っているとすぐにわかる。
「あぁわかっている。お前は一人の少女を助けた。それは褒めるべきことだ。しかしそれは自分の使命を、人々の夢を捨ててでもやらなければならなかったことか…?」
使命、それはプレゼントを届けること。人々に幸せを与えること。それを放棄してはいけない。それでもやらなければならなかった。
「確かに、他人から見ればほっといてもいいことかもしれない。」
けれど、と白冬は言う。
「もしあの時放っておいたら、目を背けていればきっと俺は今を後悔している。人1人を救えない奴に世界中の人々に夢を与えるなんてできるはずがない。」
白冬の目は真っ直ぐだった。すべての真実をいい、清々しくなっているように見える。
その顔を見て琴葉強張っていた顔の筋肉を緩めまたクスリ、と笑う。
「さすがロンズベルクが認めた男じゃ。サンタとして、いや人としてできている。」
そう言うと客用の椅子から立ち上がり元々座っていた体型には似合わない椅子とセットにある机の引き出しから封筒を出す。それを白冬に渡す。
「ワシはお前を気に入った。よってお前を私立水無月学院2年生としてこの学園に通うことを許可する!」
封筒の裏を見ると、‘私立水無月学院2年白冬初雪 編入合格通知‘と書いてあった。
「合格……したんだ……」
だがふと疑問に思った。合格したのは嬉しい。だが試験はやっただろうか。そう思い白吹に問いかけようとする。
「あ…」
「あぁそうそう、入学試験はさっきの質問じゃ。まぁ元から合格にするつもりだったがな……」
「の……」
白冬は思った。
……偉大なサンタは心を読めるのだろうか……
その後、白冬は編入についての大まかな流れを聞き、理事長室を出て、水無月学院を後にした。
学生寮に入るのは明日からのため今日はホテルである。
白冬が後にしたあとの理事長室は静かだった。
そこには理事長である白吹湖音がいた。湖音の顔は何故か明るかった。いや嬉しそうだった。
「やつはやはり……」
そういうといつもの笑みを浮かべ理事長室を後にする。
◇ ◇ ◇
白冬は人で賑わっている商店街を歩いていた。
商店街はこの夕影町で一番の賑わいを見せ恐らく一番人が集まる場所だろう。この商店街はイルミネーションなどで有名で、上空から見ると星が光っているように見え、まるで天の川という人もいるらしい。それが理由なのかこの商店街の名前は町との接点の全くない‘星光商店街‘(ほしびかりしょうてんがい)と呼ばれている。
「まさかソフィア様に会えるとはなぁ……」
白冬は水無月学院で起きたことを思い返していた。
まず一つ目に驚いたのか学校の装飾だ。どれだけ資金をつぎ込んだらああなるのか不思議に思うくらいの豪華さだった。
二つ目といえばやはりソフィア・ローレインだ。サンタ界では絶大な人気を誇っており功績も大きい。恐らくサンタ界全員の憧れだろう。
三つ目は、ないな、とすぐに考えるのをやめる。
「ちょっ!やめてください…!」
ひとりの女性の声が聞こえた。反射的にあたりを見渡すと、すぐ近くの服屋の前でひとりの女性を囲むように3人ほどの男性が立っている。
「いいだろ、別に?ちょっとお茶するくらいだよ……」
「そうだぜ?ほんのすこーーーし付き合ってくれるだけでいい」
「うひひ、君可愛いねぇ。早く行こうよぉぉォォ!!」
明らかにお茶をするような発言をしてない3人はニヤニヤと笑っている。
(あれ…?あの子は……)
見覚えがあった。よく顔を見る。黒髪のロング。その髪ににやっているヘアピン。見れば誰でもわかるような明るそうで美しい外形。
(そうだ、あの時の……!)
そう確信したとき、女性の前に立っていた男が無理やり女性の腕を掴んでいた。
「いいからいいから。絶対楽しいってっ!」
その光景を見た瞬間、反射的になのか本能的になのか体が勝手に動き、気づけば男の手を掴んでいた。
「おい、嫌がってるだろ。放してやれよ……」
白冬は男の顔をまっすぐ見て言う。女性は助けられたことをまだ理解できていないのかキョトン、としている。腕を掴まれている男は苦虫を噛み潰したような顔をしている。周りにいたチャラい男と変態な男は事態がよく飲み込めてないのか反応がない。
「あぁ?なんだよあんた。あんた関係ないだろ、手離せや……あぁ!」
威嚇のような発言をするが別に動じることでもない。この手のことは慣れている。がこんなにスケールは小さくない。白冬は握っていた手を離すことなく逆に握る力を強くする。
「いでっ!いでででででででっ!!」
男は痛みに耐え切れなかったのか女性の腕を反射的に放し馬鹿な声をあげる。それを見た白冬は掴んでいた腕を放し女性をかくまうように前に出る。
「いってぇな!てめぇ何しやがるんだ!やっちまうぞ!」
そういうと腕の痛みはもういいのか周りにいた二人の仲間に声をかけ飛びかかろうとする。
周りの人々は立ち止まりながらこう思うだろう。まるで漫画のワンシーンのようだ、と。
白冬はフゥ、とため息をつき構えるが、それはすぐに解ける。
「こら!なにをやっているんだ……!」
警察だ、とすぐに理解する。全世界の警察は格好がよく似ている。その為どこの国に行ってもすぐに警察だとわかる。
「げっ、サツか。くそ覚えてろよっ!」
そういうと逃げ足は早いのかすぐにその場から消える。警察はそれを見逃さずに追いかける。捕まるのも時間の問題だろう。
「大丈夫か……?」
白冬は背中にかくまっていた女性に問いかける。女性はなぜだか問には答えず白冬の顔をジー、と見ている。
「あの、俺の顔に何か……?」
そういうとハッ、と顔を赤らめ深々とお辞儀をしてきた。
「あ、あの助けてくれて本当にありがとう!」
そういうと何回もお辞儀をする。
何回も頭を下げられるとなぜだか悪いことをしたような気持ちになる。
「そんな何回も頭を下げなくていいから!気持ちは十分に伝わったから!!」
そう言うと、お辞儀をやめるがなぜか顔をチラチラ見ている。
「あの、もしかしてあなた、前にも助けてくれなかった?」
やはりそうだったか。白冬はなぜ彼女が自分の顔をチラチラ見ているかが分かった。
「あ、やっぱり気づいた、かな?」
「そりゃ気づくよ。格好っていうか雰囲気が同じだもん。前もこんな感じで助けてくれたんだよね?前はお礼も言う前にすぐにいなくなるんだもん……」
先程まで他人とは思えないほど順応が早かった。やはり明るい性格というのが当たった。それがなければ初対面の男性にここまで気軽に話すことはできない。
「あっ、私東雲鈴葉っていいます。よろしくね!」
そういうと白冬の手を握りブンブンふる。先程までとは比べ物にならないほどの元気さだった。
「お、俺は白冬初雪。よろしく……」
お互い挨拶を済ませ、話すことがなくなる。
「そうだ、初雪君。このことでお礼するね!前のも合わせて」
そういうと白冬の手をグイグイ引っ張り出す東雲。さっきの男たちと同じ行動をしている。
「ちょ、東雲さん……!」
「鈴葉。私のことは鈴葉って呼んで!」
急に動きを止め起こったように頬を膨らませる。恐らく苗字で呼ばれるのに慣れていないのか嫌なのだろう。ちゃっかり自分のことも名前で呼んでいる。
……いや別にいいんだけども……
しかし女の子の名前を下で呼ぶなんて男としては嬉しいことだが逆にとても恥ずかしい。抵抗はあるがここで呼ばなかったらまたいわれるだけだ。
「す、鈴葉……?」
「ん、それでよし…!」
東雲はニコリと笑いまた歩き出す。白冬はさっき言おうとしたことを思い出す。
「っと、しの、、鈴葉!お礼とかそんないらないから…!」
「それじゃぁ私の気が収まらないの!」
「なんでだよ!よしわかった。今はもう夜だ。辺りは暗いぞ。お礼をしてくれるなら明日にしよう。うんそれがいい絶対にいい。ていうかそうしろ!」
最後は命令形になってしまったが確かに辺りは暗い。一般の高校生ならまだ遊んでいる時間帯だが白冬の場合事情が事情だ。編入の流れなどももう一度ホテルで確認しなきゃいけない。
「えぇぇ、、、うんわかった。じゃぁ明日ね……?」
残念そうにため息をつき納得したのか上目遣いで見てくる。それは反則なほどに可愛いかった。
「それじゃぁさ、メアド交換しようよ!そうすれば明日すぐにお礼できるし!」
あぁそれもそうだな、と東雲の正論に納得しポケットから携帯をだす。携帯のことはよくわからないが最新機種のスマートフォン?というものらしい。
「ん、よし!これで電話番号とメアドがわかったね……」
東雲が携帯のモニタを見ながら少し笑った気がした。だが気のせいだろう。
「だな、んじゃ俺は色々とあるから……」
「うん!じゃぁ後からメールするね!」
そういうとすぐに走り出し一定距離離れたあと後ろを向き手をふる。それを何度も繰り返し、白冬はそれが見えなくなるまで見送った。
◇ ◇ ◇
「ふぅ……」
バスローブで身を包めた白冬は片手で携帯をいじっていた。
from:東雲鈴葉
to:こんばんは
こんばんは。鈴葉です。っていうかわかるよね!明日忘れないでよ?
とメールが来ていた。‘明日忘れないでよ‘という言葉を聞くと先ほど見た東雲の上目遣いは頭に浮かび顔が赤くなる。白冬は‘そうか、俺もなるべく忘れないようにいるよ‘と返す。するとすぐに返事が来る。
「速ッ!」
from:東雲鈴葉
to:こんばんは
もう忘れないでよ!そういえばさ、私の学校に明日転校生くるんだ。あれ編入生っていうんだっけ?まぁくるんだ!新しい仲間ができるってなんだか嬉しいよね!
「へぇ、俺と同じ時期に編入する奴いるんだ……」
‘そうか。楽しみだな‘と返信するとまたすぐに返事が来る。
from:東雲鈴葉
to:こんばんは
うん!じゃぁ私寝るね。お休み?
なんでハートなんだ、とつっこみたくなったが眠りを妨げるのはよくないと思い返信するのをやめる。
時刻は11時すぎ。そろそろ寝ないと明日がもたないかもしれない。
「俺も寝るか……」
そのまま目の前にあったベッドに倒れこむとすぐに意識が遠のいていった。
◇ ◇ ◇
その日の朝はいつもよりも体が重かった。
クリスマス前夜にプレゼントを配るような、そのような感覚に襲われる。
恐らく緊張だろう、と思う。やはり転校生というのはいいものではない。あまり慣れていないところにはいればそれは孤立してしまう。
そんなことを考えていると携帯の着信がなる。
東雲鈴葉からだ。昨日であったばかりの女性とメアドまで交換するのはどうかと思うが、来たばかりの街でここまでいい人物に出会えたのはよかった。そう思いながら文の内容を見る。
from:東雲鈴葉
to:おはよう!
おはよう!起きてた?起こしてたらごめんm(_ _)mそれで昨日言ってた転校生の話なんだけどさ、情報によると男の子だってさ。何か海外から来たとかなんとかで外人かな?でも名前がまだわからないんだ!わかったら連絡するね。あと今日の約束は忘れてないよね?
約束?約束とはなんだろうか。白冬は右手で顎を抑え少し悩むような仕草をする。
「あぁ、昨日のお礼のことか……!」
それを思い出すと白冬はすぐに返信する。
…大丈夫起きてた。約束も覚えてるよ。3時頃にまたメールしてくれ……
よし、といい視線を時計へと移す。時刻は7時半。少し早すぎる気もするが早く行くことに越したことはない。
白冬はあらかじめ昨日の夜に用意していたカバンとこのホテルで使った最低限の用意がしまってあるバッグを背負って部屋を後にする。
ちなみに大きな荷物はもう水無月学院の学生寮に届けられている予定だ。
◇ ◇ ◇
「やっぱすげぇ学校だよなぁ……」
やはり1度見ただけでは適応力が身につかないものだと、白冬は実感した。
これから通うことになるこの水無月学院。恐らく卒業までは過ごす予定だがいつサンタに戻れるかわからない。そう考えるとこの学校の設備などは救いかもしれない。
辺りにはもう投稿している生徒がちらほら見始めていた。通りすがる生徒にはジロジロと見られ「誰この人?」「不審者?」などと言われていた。
それもそうか、と白冬は思った。学校の前に大荷物を持った人間がいるんだ。嫌でも目に入るし不審者と思っても仕方がない。しかしこの空気はあまり好きではない。そう思い白冬はすぐに職員玄関へと向かう。
「うわぁ、ぁ。ここが職員室か……」
やはり一つ一つの部屋にインパクトがあった。よくアニメやドラマでもある職員室とのイメージからはかけ離れ窓越しとは言え中の雰囲気がただものではないと理解できる。窓は特殊加工されているのか外からは様子がよく見えない。これも何かの対策なのだろうか、と思いドアをノックしようとする。
「お、もしかしてお前が転校生の、えーーーと白冬初雪か?」
不意に名前を呼ばれ後ろを振り向く。そこにいたのは40代後半あたりの見るからにしておっさんな雰囲気を出している人物だった。しかし外形とは裏腹に目は鋭く、鼻の下にはヒゲを蓄えている。俗に言うチョビヒゲだろう。体も太っているのかと思えばほとんどが筋肉だった。
「そうっすけど、あんたは……?」
「あんたって…。お前、一応俺先生だからな?」
おっさんは呆れたようにため息をつき頭に手を当てる。それが様になっているのがなぜだがムカつく。
「え、じゃぁこの学校の……?」
「そうだよ。俺は角皆丈武だ。背丈の丈に、武蔵の武だ。生徒からはタケかムサシって呼ばれてる。お前も好きな呼び名で呼べや。」
そう事項紹介すると、角皆はジッと白冬の顔を見る。
「なんすか?」
人に見られるのはいいが、おっさんにジロジロ見られるのはなぜだかわからないがいい気分じゃない。寒気がする。
「お前、高校生にしては目つきが違うな。こう子供みたいな純粋さがないっていうか、落ち着いているっていうかな。」
そういうと見るのをやめる。
「よっし。立ち話もなんだ。中には入れや。つってもすぐに予鈴がなって教室肉買うことになるがそのでっかい荷物くらいは置いていけ。プライベートのものも入ってるんだろ?」
そういうと角皆は躊躇なく職員室のドアを開け中に入る。それに続いて白冬も入る。
それと同時に予鈴がなる。
「おっともうなっちまったか。よし白冬、いや初雪のほうが呼びやすいな。初雪さっさと荷物を置いて俺について来い。」
「えっ!あ、はい!」
いつの間にか角皆のペースに飲み込まれていた。次の行動を起こそうとするまた次の行動を。急かされいるようにも思えた。
ん?ついて来い……?
「ってまさか、あんたが俺の担任かぁぁぁ!?」
「ん?そうだが?」
前から説明していた、と言わんばかりの顔で答えた。こんなやつが教師でいいのか、と思ったが口に出さないでおこう。出したところで何かが変わるわけではないのだから。
「うっし、ここがお前の新しいクラスだ。みんないいやつだから特に孤立することもないだろう。うん……」
そういうと職員室からあまり離れていないところに置かれている教室の前に立たされる。上の表札のようなものを見ると、2-Fと書いてあった。
「ここが、俺の教室……」
「おい行くぞ初雪」
少しくらい鑑賞に浸る時間をよこせ、と言いたかったが角皆はもう教室のドアの取っ手口に手をおいていた。
「おら〜、お前らさっさと席に付け!お前らが待ち遠しくてしょうがない転校生の紹介はせんぞ〜!」
角皆がそういうと、「ちょ、そりゃねぇよ〜」や「ふざけるな〜」などと言っている。
なぜだが嬉しくなった。自分の存在が楽しみでしょうがない。早く会いたい、という感情が嬉しくてたまらない。白冬はこのクラス、この学校でならうまくやってけるかもしれない。そう思えた。
「え〜、先日から言っていたかもしれないが今日このクラスに転校生が来る。性別は男だ。しかも意外にイケメンだ……」
そういうと女子達の歓喜の声が聞こえる中男子達と負の感情が体をビシビシ突き刺す。
「喜べ女子ども、嘆け男ども。さぁ入れ〜」
その呼びかけにやけに素直に体が動く。早く入りたい、という感情が神経までも操ってるのだろうかと思える程だった。気がつくと教卓の前に立っていた。
「おい初雪、短く自己紹介しろ……」
角皆の小さな声に従い、自分の口を動かす。
「あ、えーと、白冬初雪です。国名は言えませんが海外から来ました。少しのあいだですがよろしくお願いします」
うん、自分なりにはうまく自己紹介できた。これならスタートも悪くない。どちらかと好印象だ。
「えっ?」
どこかで聞いたことのある声が聞こえた。綺麗な声だ。その声の方向へと目を向けると、驚いたような顔をして立ち上がっている少女がいた。黒いきれいな髪で、日本人特有の黒い瞳で、整った顔立ちに文句の言えない完璧なプロポーションん。どんな男でも見たら一目惚れしようなその少女の名前は。
「鈴、葉?」
「初雪君だ!」
東雲の表情は驚きから喜びに変わる。
「え、ちょ、どうして?転校生って初雪君のこと!?」
東雲はコロコロと表情を変え頭に現状をまとめている。数秒経つとまとまったのかフゥ、とため息をつく。
「なんだ、お前ら知り合いなのか?それだったらこのクラスとも仲良くなれるな……!」
わっはっはっは、と豪快な笑い声をあげる角皆。どこぞのドラマに出てきそうな笑い方だった。
「ちょ、どういう関係?」「なんだあいつ、東雲さんの名前呼びやがって……」などと主に男子の負の感情のこもった言葉が聞こえてくるがあえて聞かないことにする。
「とまぁ、そんなことで、お前らよろしく頼むぞ。初雪、お前の席は東雲の隣だ。」
そういうと、一番後ろの窓際の席を指さされる。白冬は頷き、その席へと足を運ぶ。何人かの生徒にジロジロ見られたが宛無視する。関わるのはHMが終わってから、と決めていたからだ。
「よろしくな……」
顔見知りの東雲と同じ学校で同じクラスになるとは思わなかった。なぜだか嬉しい。
彼女も嬉しいのか昨日よりも眩しい笑みを浮かべている。やはりその笑顔は誰もが見とれるだろう。まるで女神のような笑みだと白冬は思った。
「うん、よろしくねっ!」
その声と共に、白冬の、長くて短い、人間としての楽しくて切ない物語が始まった……