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第6話 消すモノと消されるモノ 四

「本番はここからだけどね」


 どこか楽しげな響の声が耳に入った時、少年の痛みはもう消えていた。少年を蝕んでいた、あの常に全身を圧迫するかのような痛みは、少年の身体を刀が一閃した途端、感じなくなった。

何が起こったのかはわからない。視界の端に映った手を見ると、そこにあったはずの痣も綺麗に消えていた。

 知らぬうちに、ほっと溜息が少年の口からこぼれた。果たして殺されなかったことに対する安堵なのか、痛みがなくなったことに対する安堵なのか、少年には判別できなかった。おそらく両方に対する溜息だろう。


「何が…どうなってるんだ、これ」

「綺麗に取れたな。さすが私」


 思わずついた独り言に返答したのは、珍しい真っ直ぐな黒髪を持つ女。人を斬ったにも関わらず涼しい顔をしているが、自身を助けてくれたのは彼女だと少年は確信していた。

 少年は今更になって初めて、目の前の女をまじまじと見た。少年がまだ幼い頃にに亡くなった、今は写真のみで残る若い祖母の髪よりも更に濃い黒髪と黒い瞳。

日に当たっていなそうな位不健康な白い肌と、羽織っている白のコート、そのコートの下に来ている黒一色の衣服。その白と黒のコントラストが余計に黒を強調させている。

顔の造りは彼の通う学校や街中に埋没しそうなくらいの平凡な顔だちなのに、感じる異質さのせいか妙に惹きつけられた。なぜ異質と思うのか、少年にはわからなかった。

 ――――――“何か”が自分とは違う。

 そんな不思議な印象を持つ女だった。


「あんた…」

「少年、痛みがなくなってほっとしているだろう?」


 少年が口を開けたと同時に、鋭利な刃を少年の前にちらつかせながら、黒髪の女も口を開けた。少年は開きかけた口を閉じ、代わりに未だ炎を吐きだしている刀の熱さに顔をしかめた。


(やっぱり、熱い。幻覚じゃない。ならこの炎はどうやって…)


少年の思考を遮り、黒髪の女は話し続けた。


「だが、まだだ。君の呪いはまだ解いてない。こっちの刀に移しただけ。君の呪いはちょっとだけ面倒なんだ。ほんの少し、消すのに手間がいる」


 身体に起こった変化を感じながらも、少年は彼女の言葉通りに受け取ることはできなかった。


(また呪いかよ。親父といい、この女といい、いつからオカルトが流行りだしたんだ)

「…呪いってなにそれ。治ってないってこと?…でももう痛みは、っていうか、あんた一体何者なんだ。俺は一体、何がどうなったわけ…?」

「質問が多いぞ。私はニシキと言った。ある目的でここにいて、その『ついでに』君にかかった呪いを解いた。君はもう少しで死にそうなところを私に助けられたんだ。感謝しろ、敬え」

「……ありがとう、ございます」

(全然答えになってねーよ…っていうか恩着せがましいなこの人)


 通じない。こいつ、話が通じない。

 少年の痛みが消えたのは確かに彼女のおかげ(と思われる状態)なので、一応礼は言う。だが、彼女の説明は腑に落ちないことだらけだ。


「えっと、ニシキさん。俺はもう治ったんじゃないですか」

「まだだと言ったろう。今は…そうだな、応急処置といったところだ。完全に呪いからは解放するには、元を断つ必要がある」

「…よく、わかんないんだけど…」

「わかるように説明してないからな」

(自覚ありかよ。恩人なのかもしれないけど、面倒くせえなこの人)


 考えていた事が顔に出ていたのだろう、ニシキは少年の気持ちを読んだかのように、にやりと笑った。少年の中で、確実に彼女に対する好感度が著しく下がっていくのを感じた。


「心配しなくても、もう君が痛むようなことにはならない。させない、と言うべきか。もう『この』呪いは君の手を離れてるから」

「よくわかんないけど、それじゃあ俺は治ったってことじゃないんですか?」

「一時的にはね。説明が面倒くさいな…それはそうと、君、眠っている間何の夢をみてた?」

「夢?なんで急に」

「そう、夢。この呪いは精神から肉体に作用する類の呪いだ。最も効率が良い方法は無意識に語りかけること。夢は無意識と繋がっている。だから君は痛みと闘っている時、どんな夢を見た?―――いや、見させられた?」

「どんなって…」


 少年が思い出すのは、巨大な蛇。いつも彼を苛ませていた憎らしいやつだ。その事を彼女に伝えると、


「蛇か。ありがとう。いい情報になった」


 そう言って、おもむろに黒髪の女は少年から視線を外し、窓の外へと移した。


「…何?」


 少年も彼女の視線を追って窓の外を窺う。映るのは少し曇りがかった空、電線、お隣さん家の屋根。背の高い木。窓の外はいつもと同じ光景が広がっていた。しかし、女の視線は間違いなくは何かを捉えている。


「…どうしたんですか。蛇の夢がいい情報ってどういうこと?…窓に何が?」

「そのままの意味だ。そこにいて、動くなよ少年」

「え」


 ニシキがゆっくりと窓から離れる。その顔は不敵に笑ったまま、少しも緊張している様子ではない。動くな、と言われた少年は、とりあえず大人しくベッドの上に固まっていた。ニシキはゆっくりと息を吸い込み、一言短く少年に告げる。


「持ち主が来た」


3年ぶりの更新とか'`,、'`,、(´ω`) '`,、'`,、

VSならないし'`,、'`,、(´ω`) '`,、'`,、

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