第六話 取り敢えず滅びるドイツ
欧州戦線終結回です。でも概ね史実通りなので扱いは軽いし雑です。とは言えシリアス度があまりにも高いので軽減のためにちょくちょく総統閣下シリーズのネタを混ぜてます。
1945年4月、ベルリン。
暦の上では春だった。だが、この街に季節の感覚はもう残っていない。
空は灰色に濁り、昼も夜も区別が曖昧だった。雲ではなく、砲煙と煤が光を遮っていたからだ。遠くで絶え間なく響く砲撃は、もはや雷鳴のように日常へと溶け込んでいた。
東方から押し寄せるソ連軍は、ドイツそのものを否定する存在だった。
砲兵、戦車、歩兵。層をなして前進するそれは、一つの巨大な圧力としてベルリンを押し潰しつつあった。
対するドイツ側に残されていたのは、「軍」と呼ぶにはあまりにも脆弱なものだった。
崩壊寸前の国防軍残存部隊。武装親衛隊の断片。急造の国民突撃隊。少年兵、老人、負傷から回復しきらぬ兵士。
彼らに共通していたのは、疲労と、諦念と、それでもなお逃げ場がないという現実だけだった。
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“ドイツ軍”の装備は統一されていなかった。
Kar98k。Gewehr43。時折混じる旧式のGew98。さらには鹵獲品――ソ連製モシン・ナガンや、フランス製の古いライフルまでが混在していた。
部隊単位で武器が揃うことはなく、隣にいる者が何を使っているのかも分からない。
当然弾薬の規格すら合わないことがあった。
それでも、ひとつだけ例外があった。
パンツァーファウスト、簡素な使い捨ての、そして強力な対戦車兵器。
それだけが、統一された唯一の装備だった。
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住宅街の一角。
そこの半ば崩れた家屋の中に、少年がいた。
国民突撃隊の腕章は、彼の細い腕には大きすぎた。靴も合っておらず、歩くたびに擦れる音がする。
彼の手の中にあるのは、アメリカで作られた拳銃――FP-45リベレーター。あまりにも簡素な構造の単発式拳銃。装填された弾一発と予備弾ポケットに僅か二発の合計三発。
それが彼のすべてだった。
何の偶然か、ここは彼の家だった。
壁には、まだ家族の写真が残っている。だが、そこに写る人々は、もうここにはいない。
遠くで履帯の音が響いた。
低く、重い振動。
少年は息を止める。
やがて、その音は近づき、角を曲がって姿を現した。
JS-2重戦車。
ソ連軍歩兵を従えて、瓦礫を踏み砕きながら、まるで何の抵抗も存在しないかのように進んでくる。
少年は戦車に随伴するソ連兵に向けて拳銃を構えた。
手が震える。照準が定まらない。
撃ってどうなるのか、自分でも分かっていた。
それでも、撃つしかないと思った。
引き金に力を込めた、その瞬間――
轟音。
視界が白く弾けた。
建物の壁が崩れ、床が裂け、衝撃が全身を叩きつける。
少年を轢き殺し家を破壊したJS-2重戦車は何事も無かったかのように進み続ける。
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別の通り。
瓦礫の山の上に、老人が伏せていた。
彼は兵士ではなかった。元は森で獲物を追う猟師だ。だが今、彼が狙っているのは鹿でも猪でもない。
眼下の少年たちを殺戮しようとするソ連兵だった。
手にしている猟銃は、長年使い込まれたものだ。照準を合わせ、呼吸を整え、引き金を引く。
無線機を背負った兵士が倒れる。
少し離れた位置で指示を飛ばしていた将校が、次に崩れ落ちる。
老人の動きには迷いがなかった。
鋭い破裂音が一発、響いた。
PTRD対戦車ライフル。通常なら戦車に向けられるそれが、人間へと向けられた。
距離は十分。威力も、過剰なほどに。
老人の身体は、その場で動きを止めた。
彼が最後に見たのは、遠くで煙を上げるベルリンの街だった。
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炎に包まれた広場。
そこに残されたのは、逃げ遅れた数人の幼い子供たちだった。
その前に立つ一人の兵士。
フランス人志願兵。武装親衛隊の制服は煤で汚れ、袖口は焼け焦げている。
彼は振り返らなかった。
子供たちの顔を見れば、足が止まると分かっていたからだ。
前だけを見て、StG44を構える。
近づいてくるソ連軍歩兵に向けて短く射撃。弾切れ。素早くマガジン交換。
さらに前進してくる影に向け、パンツァーファウストを構える。
発射。
閃光と爆発。敵戦車の一両が炎を上げる。
しかし、それで終わりではない。
次の戦車が、その煙の向こうから現れる。
T-34-85。
砲塔がゆっくりとこちらへ回る。
兵士は一瞬だけ息を吐いた。
そして再び銃を構えた。
砲口が光る。
次の瞬間、空気そのものが破裂した。
広場にあったすべてが、爆風に飲み込まれる。
煙が晴れたとき、そこにはもう動くものはなかった。
そこに居たフランス人志願兵も、逃げ遅れた幼い子供たちも、全く原型を留めていなかった。
ソ連軍は彼等だったものを踏みつけながらドイツ国会議事堂を目指した。
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ベルリン全域で、同じような戦いが続いていた。
建物一つごとに争奪戦が起き、地下室や階段、廊下の隅々までが戦場になった。
だが、それは「戦線」と呼べるものではなかった。
点在する抵抗。
それぞれが孤立し、支え合うこともできず、順番に押し潰されていく。
ソ連軍は圧倒的な砲兵火力を背景に前進し続けた。国民突撃隊が通行料の先払いを求めると、銃や砲で殺害して通行料そのものを踏み倒していった。
砲撃で建物を崩し、戦車で押し込み、歩兵が制圧する。ソ連軍の暴虐を前にドイツの部隊は玉砕していった。
その繰り返しだった。
その過程で多くの命が失われていった。
兵士も、そして民間人も。
そしてソ連軍は、それが戦時国際法で禁じられているにもかかわらず、投降したドイツ兵や民間人を一人残らず処刑した。
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総統地下壕。
厚いコンクリートに守られたその空間にも、外の崩壊は確実に伝わっていた。
通信は断片的で、報告は遅れ、そしてやがて途絶える。
地図の上に置かれた部隊記号は、もはや現実を反映していなかった。
存在しない部隊に命令が下され、返答はない。
首都防衛司令官のヴァイトリングが電話応対中に近くで砲弾が炸裂して吹き飛ばされる。
「けどね、生きてたぁ!」
そしてシュタイナー軍集団による反攻作戦が失敗に終わり、総統閣下たちが総統閣下シリーズの原作をする。
フェーゲラインが逃亡しようとしたために「はい死んだー!」と叫んでヘーゲルに処刑される。
だが、すべては終わっていた。
それを、誰もが理解していた。
1945年4月30日
総統閣下は、自らの選択を終えた。
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1945年5月3日
ベルリンは侵略者によって完全に占拠された。
無数のヨーロッパ人の血で染めたかのような赤い旗が廃墟の上に掲げられる。
かつてドイツの首都だった都市は、瓦礫と煙と、沈黙に覆われていた。
断続的に響いていた銃声も、やがて消えていく。
抵抗は、終わった。
それは劇的な終わりではなかった。
ただ、少しずつ、確実に、力尽きていった結果だった。
ベルリンを守備していた“ドイツ軍”将兵とベルリン住民は、ドイツ軍重戦車を先鋒として西から来るソ連軍を突破することに成功した一握りを除いて、一人残らずソ連軍に処刑されたか零下何十度という極寒のシベリアへと拉致されていった。
ドイツとヨーロッパ文明は、永久に消滅した。
ドイツが史実通りソ連に滅ぼされて欧州戦線が終わりました。
これによりソ連軍は極東へ侵略するための戦力を確保することが出来るようになります。しかも本作のソ連は前回からスターリンの命令で極東方面に(食糧以外の)物資を事前集積していますから、史実より早く侵略を始められる訳ですね。




