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第9話 魚捕り

 それから月日は流れ、季節は夏から秋へと変わっていった。太郎は変わらずに洞窟に住んでいて、コヨミも変わらずに太郎に飯を運んでいた。肌寒いある日、太郎は洞窟から出て山の中にある川に向かった。小さな川で、水は澄んでいて透明な水面越しに川底の石や岩が見えていた。周りの色づいた木々は、落ち葉を時おりその水面に不時着させている。

 太郎は下履きのすそをめくって川に入ると、かがんで水面を凝視した。今日こそはと太郎は思った。ここ数日、魚捕りに挑戦している太郎だったが、ことごとく失敗していた。太郎は自分は漁もできないのかといきどおっていたが、最近は半ば諦めの気持ちも出てきていた。

 太郎の睨んでいる川底に魚の影が見えた。その瞬間、手。だが魚はするりと逃げて遠くへ行ってしまう。太郎はその表情を曇らせて、屈んでいた腰を立てた。渓流の流れる音が辺りには響いていて、秋の紅葉と相まって太郎の周りを賑わしていたが、太郎にはそれが自分を茶化しているように聞こえていた。

 太郎はしばらく魚捕りに精を出したが、結局、魚は一匹も捕れずに終わった。太郎は川から上がると、とぼとぼと河原を歩いた。振り返りさきほどまで漁をしていた川を見る太郎。渓流は変わらず流れていて、太郎には目もくれていないように見えた。丸坊主の太郎は天を仰ぎ、その場を後にした。

 川から洞窟に戻る途中、太郎は木の実を集めながら帰っていった。栗や柿、くこの実などを両手いっぱいに集め、それを落とさぬように慎重に歩いて洞窟まで戻った。洞窟は相変わらず、岩のむき出しになった入り口と、暗いその中の通路があり、そして屋根の山肌も色づいていた。

 太郎は洞窟に入ると採ってきた木の実を下に置いた。そして柿を手に取って頬張ると、むしゃむしゃとそれを食べる。赤く熟した柿は甘く、柔らかかった。果汁が滴り落ちて太郎の腕を伝う。太郎は暗い洞窟でもしゃもしゃと木の実を食べて腹を満たした。そして十分に腹が膨れると、その場に横になり、腕を枕にして天井を見上げた。洞窟の天井は暗いが目が慣れてくると、岩のなめらかな肌が見えるようになった。

 太郎は先ほどまでの漁を思い返す。なぜ自分はあんなに漁が下手なのか。あれでは村でも一人前とは扱われないのは当然のことだ。村では男は猟や漁が出来てやっと一人前と見なされる。太郎は一度もそれに成功したことがないので、周りから一人前と言われことがついぞ無かった。自分の手で獲物を捕る、稼ぐというのが、村の男社会では常識になっていたが、太郎はその中に加わることがずっと出来ないでいた。

 太郎は思う。猟や漁が出来ないぐらいで仲間外れにされてたまるものか。俺は木の実を採れるんだ。誰よりも木の実のことは詳しい。それなのに、俺を認めようとしない村人たち。俺と対等に接しない村人ども。あいつらは何もわかっちゃない。漁ができるのがそんなに偉いのか。馬鹿野郎。すっとこどっこい。

 太郎はひとしきり、天井に向かって村人たちへの悪態を付くと、そのまま目を閉じて眠った。秋の肌寒い風が入り口から入ってくるが、落ち葉で満たした洞窟の中は、さほど寒くはなかった。小さなムカデが太郎の腕を伝って、木の葉の中から出入りすることもあったが、太郎は別に気にしなかった。

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