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第1話 海原

 太陽がギラギラと小さい男の頭上に輝いている。青い空には筋のような白い雲が点々とあり、その下の海原を見下ろしていた。

「おい太郎、そろそろ出るぞ」

 漁師の風貌をしている男にそう声をかけられた太郎という小さい男は、砂浜に生えている植物に目を奪われている。太郎はその植物の葉を手で触ったりしながら、漁師の男に返事もせずに顔だけ向けた。

「太郎。出るって言ってるだろ」

 太郎は男にそう言われると白い砂浜の上に立ち上がり、さっきまで触っていた植物を見下ろした。

 なぜそんなに急く必要があるのだろう。時間は無限にあるのに。その無限の時間の中でまるで蟻の子のようにせっせと動いているのが俺ら人間だ。なんとも空しいものだ。と太郎は思った。

 太郎は男が用意していた小舟に乗り込む。男はそれを見て櫂で船を漕ぎ始めた。

「おい太郎。なにぼさっと座ってるんだ。手伝え」

 男がそう言うと、太郎も櫂を持って船を漕いだ。静かな平面の海原は、ゆったりとした時間が流れていて、暑い日差しを照射する太陽に向かってその日光を力いっぱい反射している。

 二人がしばらく櫂を漕ぐと、小舟は沖に出ることになった。男は網を取り出してそれを海原に向けて投げる。

「太郎! お前もやるんだよ!」

 男がしびれを切らしたように太郎に怒鳴った。太郎は言われるまま、網を持って投げ始める。なぜ怒鳴るんだ、怒鳴って何になる、と太郎は思ったが、ぶすっとした表情で男を見るだけで口ごたえなどはしなかった。

 太郎と男はしばらく網を投げ続けていた。そして網を投げ終わると、最初に網を投げた場所に櫂を漕いで戻り、網を手繰り始めた。すると小魚がかかっていて、男はそれを籠の中に入れた。

 太郎も網から小魚を取り出す。しかし魚が太郎に向かって飛んできて、太郎は「うっ」と小さい声を上げ、その拍子に籠を海に落としてしまう。

「馬鹿野郎! なにやってんだ!」

 男が怒鳴る。籠は流れていき、小舟から少し離れたところまで行ってしまった。さっきまで集めていた魚はすべて籠から逃げ出し、大海原の中に戻っていったのか、籠の下の水面の無数の黒い影が一瞬、太郎の目に映った。

「ああ~! なんてこった! 馬鹿野郎! 太郎!」

 男は櫂で籠を手繰り寄せようとしている。太郎はそれを見ている。次第に太郎はその様子に愉快さを感じた。

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