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僕は虫だった。

作者: 石神 槙
掲載日:2025/11/24

僕は虫だった。

今はそれでいい。

それが良い。

人だと思って朝起きて、ご飯を食べて、勉強して、風呂に入って寝る。

それが当たり前だと疑うこともなかった。

人であることを疑うこともない。

ある日、そんなおしゃれな言い方をするほどでもない。

ただ昨日の事。

部屋に虫が入ってきたんだ。

ほんの少し気持ち悪いと思った。

ただ、その時思った。

過去を遡った。

虫を見て、その虫を見て殺そうとする人。

助けた。

虫を。

私は。

感謝されるわけではなかった。

自惚れた。

命を助けるとき感謝されるものではないか。

アニメもドラマもそうだったじゃないか。

虫を見つけたときと同じ目だ。

向けられた視線。

ヒーロー気取りだったわけじゃない。

ただ、可愛そうだと思った。

そんな回想をしている間に人が去っていく。

人は虫を嫌う。

人に嫌われている人間を僕は虫だと思った。

人に嫌われている人間は基本、気付いてない。

嫌われていることに気付いていない。

だから虫だ。

虫は自分が今どんな状況に置かれているのか理解していない。

自分のことは案外わからないということ。

それは、自分も例外ではないこと。

直接的に避けられているわけではないが、きっとみんな僕のことが嫌いだ。

僕だって友人に直接嫌いとは言わないし態度にも出さない。

友人だって僕に直接嫌いということはないし態度に出すこともしない。

お互い無意識的に気を使っているのだ。

その無意識的な気遣いは罪悪感を伴わない。

人がアリを潰すのと一緒だ。

命を奪っているのに何も感じない。

数秒でそんなことは忘れる。

なぜなら無意識的なものだから。

僕は虫だった。

無意識的に僕は心をえぐられている。

相手は何も思わないだろう。

振り返ることもないだろう。

僕は虫なのだろうか。

僕には蝶のような羽や触覚は生えていないし、芋虫のように体が緑ではない。

見た目の話をし始めたら虫でないことは当たり前だ。

頭も悪いし、考えなしに突っ込んで恥をかいて死ぬよりつらい思いをする。

考えなしなのは虫と同じだ。

頭の中は虫と同じようだ。

僕は虫なのだろうか。

いや、父も母も人ではないか。

兄も人ではないか。

そんなことを考えるのもバカバカしい。

さっき見た目は人だと思ったばかりなのに。

なぜ人であるかどうかを疑わないといけないのか。

虫より頭がいいのは目に見えている事実だと言うのに。

見た目も頭の中も虫以上で、人であることは当たり前だ。

寝る前はどうも余計なことを考えるらしい。

朝。

ベッドの上。

支度をして学校に行かねばならない。

学校に行きたくない。

なんなら死にたい。

そうは言っても、結局行くことになる。

遅刻した。

先生が怒鳴ってる。

「なぜ、すぐ学校に来ないのか。」

僕に問いてきた。

僕は黙り込んだ。

本音を言っても嘘をついても傷つくのは僕だ。

やらない後悔よりやる後悔って言う言葉が嫌いだ。

やらない後悔は少し引きずるだけだ。

やる後悔は一生物の傷が残るだけだから。

そんな事を考えて脳を回転させていたら、疲れてきた。

息を吐いたとき気付いた。

その時確かな嫌悪感を抱いてみんなは僕を見ていた。

まただ。

僕を虫のように見ている。

僕は虫ではない。

そんな目で見るな。

後で職員室に来なさいと言われた。

後でとは。

何時間後なのか、何分後なのか、何秒後なのか。

曖昧なものは嫌いだ。

そんなことを思うくせに僕は虫なのかとか妄言吐いている時点で矛盾極まりない。

あとは黙りこくって時間が過ぎた。

夢に出てきそうだ。

地獄だ。

こんなときは虫になって空を飛んでみたいものだ。

僕は虫ではないと散々考え込んで今度は虫になって逃げたいだなんて。

都合のいい考えばかりをするものだな。

こういうところは人だ。

根本が腐っているのは人だ。

こんなところで人間味を感じたくて虫だと思っているんじゃない。

そもそもなぜ僕は虫なのか、そうではないのか考え込んでいるんだろう。

どこかの頭がいい人が言っていた。

無から有は生まれないとかなんとか。

でも過去を思いふけるなんて僕は嫌いだ。

なんだかいい気分ではないから。

昨日の夢は虫が出てきたっけな。

部屋に虫が入ってきて、ティッシュで取った。

ゴミ箱に捨てようとしたらゴミ箱から出てきたデカい幼虫と目があったんだっけな。

その時確かに嫌悪感を抱いた。

夢の中なのに。

虫の体は小さいのに圧倒的に大きい僕らの精神を蝕んでくる。

虫が大きさを手に入れたらこっちが一方的にやられているではないか。

何を考えているんだ。

想像をするのが嫌いなのは自分が一番わかっているではないか。

過去を振り返るのはやめよう。

自分が良くて自分以外は駄目な甘い考えを持つな。

これだから人は嫌いだ。

今は虫であることに誇りすら持っているではないか。

長々と遺書を書いたが見つかるのは一年ほどかかるだろう。

虫的見た目の話をして、いやいやと思いながら結局はそうなってしまった。

蝶の羽根や触覚を今は得た。

芋虫の時もあった。

虫の寿命は人間より遥かに短い。

そろそろ二度目の死を迎えるだろう。

僕は人だった。

前世の話だ。

人であるときの頭は虫みたいで、虫になったら人らしい考えを持とうとしている。

滑稽。

僕は虫だった。

虫なんだ。

今も昔も虫だった。

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