49話 ウズメ村の御食事処
⸺⸺食事処こぐま⸺⸺
「いらっしゃ……ありゃ、ウメさん、えらいめんこい子たちを連れてきただべな」
そう言って人の良さそうなおばちゃんが奥の厨房から顔を出す。
店内には数席の座敷が広がっていた。畳、久々に見たな……! いや、瓦屋根もだけど。
『めんこいって何?』
と、ウル。私は「多分、可愛いって意味だと思う……」とウルにコソッと耳打ちした。
「旅人の子らだべよ。この子たちだけで旅しとるんだと。トキさん、なんか食わせてやりぃな」
「あっ、あの、クレドで払えると聞いたのですが……」
私はそう言って適当にお金を手に取り、トキさんへと提示した。
「あんれまぁ、今どきの旅人の子は洒落たもん持っとるだべな。くれどは都会で使えてありがたいだよ。喜んで食わせてやるよぉ」
「ありがとうございます!」
「ワシも食っていこうかねぇ」
ウメさんがそう言って奥の座席へと座ったので、私たちもその隣にお邪魔した。
机にあった“おしながき”を手に取る。
「鮎釜飯定食……! 天ぷら定食……!? よ、ヨダレが……!」
和に全振りなメニューに思わずジュルッとヨダレを吸うと、ウメさんは「あっはっは、腹減っとるだべな」と大笑いしていた。
『ユノ、ユノが食べたいもの2つ頼んでください。それを2人で半分こしましょ〜』
「えっ、ラフちゃん、良いの……!?」
『ハイ、ユノのオススメ、教えてくださいな♪』
「ありがとう、ラフちゃん……! みんなはどうする? 何か食べる?」
『僕は鮎の塩焼きが食べたいですにゃ♪』
『オイラは……このだし巻き卵って言うのが気になるよ』
『……イノシシのヒレカツをいただこう』
「おっけー。すいません、注文良いですか?」
「はいよぉ♪」
トキさんがメモを持って駆け付ける。
「鮎釜飯定食と天ぷら定食、それから単品で鮎の塩焼きとだし巻き卵、それからイノシシのヒレカツをお願いします」
トキさんはサラサラと注文をメモっていく。
「……ヒレカツ……っと。鮎釜飯定食はトンカツと生姜焼きとどっちにするべ?」
「あっ、生姜焼きでお願いします」
「はいはい、了解。すぐ作るべ、待っといてね」
「はい!」
「ウメさんはいつもの海老天そばでええだか?」
「んだ。頼むよぉ」
「ん、待っといてね」
⸺⸺30分後。
「はい、お待ち遠様! ごゆっくりどうぞぉ」
料理が次々と机に並び、その和風な匂いに思わず「わぁぁ……」と声が漏れる。
ウメさんは隣で蕎麦をズルズルとすすっていた。
「これが……白米だよ……!」
私は天ぷら定食に付いていたお茶碗を持ち上げ、神々しい物を見るように祀った。
『なるほど……! 小麦のように粉にしてしまうのではなく、粒のままなのですね』
「そう、それでね、おかずと一緒に食べるの。こんな感じ」
私はそう言って山菜の天ぷらを天つゆに付けてがぶりとかぶりつき、お茶碗のご飯を口に入れた。
「ん〜っ!」
ツーッと、一筋の涙が頬を伝う。そんな私の至高の表情を見て、ウメさんは蕎麦を食べる手を止めて口をあんぐりと開け、トキさんは厨房の奥から料理を作ったと思われるおじさんを引っ張り出して来た。
「そんな美味しそうに食べてくれるのは初めてだべさ……ありがとうなぁ」
そう言ったおじさんも涙ぐんでいた。
ラフちゃんも真似して食べて『初めての味覚です……! これは、美味しい♪』と食べ進めていた。ちなみに、私は箸で食べているけれど、ラフちゃんは木製のスプーンを特別に用意してもらっている。
お味噌汁は白味噌の優しい味わい。豆腐とワカメのシンプルなものだ。
『このスープも初めての味で、お魚の出汁がきいていますね』
「お味噌汁って言うんだよ。これはお豆腐でこっちはワカメ。美味しいね……♪」
鮎釜飯の蓋を開けてラフちゃんと一緒に「『わぁ〜♪』」と声を上げる。そして、側に置いてあった小さなしゃもじで2つのお茶碗に取り分け、いっせーのーで食べる。
「『ん〜っ!』」
と、舌鼓を打つ。
『このお米は塩味の味付けがしてあります。おかずと一緒に食べるだけではなく、お米自体に味付けをする方法もあるのですね』
「うんうん……そうなの、そうなの」
生姜焼きの生姜の風味も懐かしくてとても美味しく、小鉢で付いていた肉じゃがも肉と醤油の旨味が口全体にじわ〜っと広がった。
ルキちゃんたちも夢中でそれぞれがっついていた。美味しいのは一目瞭然だ。
⸺⸺
「『ごちそうさまでした!』」
あっという間に平らげてパンッと両手を合わせる。お腹いっぱい幸せいっぱいだ。最後に湯呑みのほうじ茶を飲み干して、はぁ〜ッと安堵する。
「2人ともこんなにちいせぇのに、全部食べ切っただなぁ。たんまげた」
と、ウメさん。私は「美味しすぎたので」と返事をした。
「お金はどうするべか……くれどは貴重だで、全部で千くらいもらえばええだかな……」
と、トキさん。
「千!? いやいや、それなら、これでお願いします!」
私はそう言って“1万クレド札”を机にバーンと置いた。
「1万!? いやいや、そんな悪いだよ……」
「いえ、私にとって、それくらいの価値がありました。稲も大豆も、私の住む島にはないんです。あの……それでなんですけど、この村は稲を売ってもらったり出来るところはありますか……?」
「そうだべか……ほんなら、ありがたく頂戴するべ。稲や大豆が欲しいべな。うちで栽培しとるもんを分けてやるだよ。ついておいで」
トキさんは両手で1万クレド札を受け取り、頭を下げてそう言った。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
名乗り出たウメさんにお店の番を任せて、私たちはトキさんに付いてお店を後にした。




