45話 猫グッズは好評だけど
依頼の鑑定結果は当然のように全て★3、総合評価ももちろん★3で、報酬は2割増しとなった。
ガラス製品の依頼は36000Cだったのが43200Cに、冒険者のローブの依頼は10000Cだったため12000Cに。
最後に収納棚の依頼は30000Cだったため36000Cに。合計91200Cの稼ぎとなった。ウッハウハ〜♪
更に、ガラス製品の依頼書には、鑑定結果の下の欄に依頼主の“雑貨屋カリーナ”さんからメッセージが届いていた。
『シンプルな猫のシルエットのデザインがとても可愛く、食器1つ1つも丁寧に作られており感動しました。ぜひ、今度個別依頼をさせてください。その際には、受注していただけますと幸いです。雑貨屋カリーナ店長、アンジェラ・オールストン』
冒険者のローブの依頼主の“防具屋プチ・アーマー”さんからも。
『とてもしっかりした作りに、この猫のデザインは……即完売してしまいそうです。もし同じデザインの装備が作れるのであれば、冒険者のローブの追加発注、また、冒険者のコートや魔道ローブも同じデザインの物をお願いします。別途個別依頼書をギルドに提示しますので、ぜひ受注をお願い致します。報酬は個別依頼料に更に気持ちを付け足しましたので、何卒……! 防具屋プチ・アーマー店主、コンラッド・シールド』
⸺⸺
「ほっほー……」
『リピーターじゃな』
一緒に依頼書を見ていた長老がそう呟いた。それを聞いていたルキちゃんもクラフト台へとぴょんと乗ってくる。
『すごいですにゃ。この前の動物のペンダントも好評でしたし、個別依頼だらけになってしまいますのにゃ♪』
「ふっふっふ。世界中を猫グッズで埋め尽くしてやろうか……!」
私はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
Dランク以上の職人さんは、個別依頼が届くことがある。個別依頼は納品期限が設定されておらず、通常の報酬に加えて個別依頼料というものをもらうことができる。
私の場合、住んでいる場所が特殊なので商人ギルドに行かないと確認できないが、個別依頼が来ていればディーナさんが教えてくれる。
また明日にでもギルドに顔を出してみるか。
⸺⸺
翌日にギルドに顔を出してみると早速2件の個別依頼が来ていたため、受注をして即納品をした。
クラフトパネルの中には個別依頼をしてくれた依頼主さんのリストを作ることにして、依頼主さんごとにデザインやアイテムの保存をしておいた。これで、すぐに追加発注の対応もする事ができる。
そんなこんなで順風満帆なクラフト生活を送っていた私であったが、みんなで晩御飯にサーモンのクリームパスタを食べていると、遂にある欲求が爆発した。
「白米が食べたぁ〜い!」
「はくまいとは……?」
ランスロットがガチャンと首を傾げる。ルキちゃんは『ユノは白米が大好きでしたにゃ。いつかそう言うと思っていましたにゃ』と切なそうな表情を浮かべた。
そう、私は白米大好き人間。この世界に来てからは所謂“和の食材”というものがなかった。
パスタやピザ、パンなど小麦を主食として、毎日みんなで美味しく食べる事が出来ており、毎日の美味しいお料理にはなんの不満もないのだ。
⸺⸺それでも!
どんなに私の職人技術が認められて好評価を得ようとも、どんなに美味しい物を毎日食そうとも、ふとした瞬間に、こう思ってしまうのだ。
「白飯が食べたい……」
私は“米”という食材がどんなものなのかをみんなへと力説した。みんなも私の圧に感化されたのか、和の食材というものに興味を持ってくれているようだった。
『ウチもそのお米と大豆という豆の加工品、食べてみたいです〜』
と、ラフちゃん。
『あーちはお団子っていうの食べたい!』
キィちゃんがそう言うと、モモちゃんとアオちゃんも『あたちも食べたい!』『ぼくも食べたい!』と続いた。
『だけんど、この世界に存在してなかったら、食べることはできねぇべな……』
と、ゴブくん。
「そうなんだよね……。ラカノンにはありそうだったのに、なかったしなぁ……」
やっぱり、お米やお味噌汁はもう一生食べることが出来ないのかな。
諦めかけたその時だった。
「ほっほー……」
『稲から刈り取り、白米にするまでには精米という工程が必要なのじゃったな?』
と、長老。私はうんと頷く。
『……で、あれば、もしこの世界に稲が存在しているのであれば、小麦を小麦粉や乾麺に加工するのと同様に、クラフトパネルに“白米”のクラフトがあっても良さそうじゃが』
「っ!」
私はハッとした。その発想はなかった! 食材は小麦のところばかり見ていて、他はあまり見たことがなかった。
「さ、探してみる……!」
すぐにみんなの目の前でクラフトパネルを開き、“米”を検索してみた。
すると、“白米”という項目が表示されたのである。
「ある! あるよ、白米!」
「『おぉ!』」
と、感嘆の声を上げる一同。
『それなら分布である場所も検索できますにゃ♪』
「うん……!」
嬉しさのあまりうるうると涙を浮かべながら白米の素材を確認すると、“稲”と出てきた。
その稲の分布を確認すると、ウルユ島にある転送魔法陣の1つが赤く点滅していた。
「あるよ、稲……! この魔法陣から行ける先に稲があるみたい! ありがとう、長老……本当にありがとう……!」
私はボロボロと泣き崩れる。私、こんなになるまで白米が食べたいのを我慢していたんだ……!
みんなに慰められ、明日の朝一でその転送魔法陣の先へと行ってみることとなった。




