40話 氷海の港町グラキエス
スネーフ坑道を抜けると、すぐに氷の町が見えてきた。と言っても、エイストン同様、フリグス鉱石なんだろうけど。
⸺⸺氷海の港町グラキエス⸺⸺
エイストンほどではないけれど、フリグス鉱石の建物は軒並み雪が積もっており、マルシャンの街並みとは全く違った。そりゃそうか、寒い土地なんだもん……。
それでも大通りに出ると市場が広がっていて、みんな白い息を吐きながらも和気あいあいとショッピングを楽しんでいた。
「ここは寒いのに活気があるね」
『寒い版、マルシャンって感じですにゃ』
と、ルキちゃん。私は「あはは、そうかも」と相槌を打つ。
町に入る前に小さくなったウルは、野菜がたくさん並んでいるコーナーにまっしぐらだった。
『ユノ、見てみてー! これ、ユノが欲しがってた白菜ってお野菜だよ!』
ウルの方へ視線を向けると、確かに白菜やら大根やらが一列に並んでいた。
「本当だ! 種、売ってるかな? ラフちゃんとゴブくんが喜ぶね〜」
私の希望通りに様々な種が売っており、白菜、大根、長ネギ、ほうれん草、水菜にブロッコリーと、たくさんの種を買ってしまった。
『このお魚さん、身がオレンジ色で美味しそうですにゃぁ……』
ルキちゃんはお魚に夢中。ルキちゃんが見ていたのは、サーモンだ!
「わぁ、本当、美味しそうなサーモン。カルパッチョにしてもいいし、ムニエルにしてタルタルソースをかけても良いだろうし、ホイル焼きも……あっ、鍋なんかも良いかも〜」
キャッキャとはしゃぐ私。
この世界に来てから見たことのないお魚ばかりで、それはそれで全部美味しいし良いんだけど、やっぱり王道なお魚を見るとテンションが上がる。
「お嬢ちゃん、そんな小さいのに料理をするのかい?」
はしゃぎ過ぎてお魚屋さんに話しかけられる始末。
「はい、ピザは生地から作ります♪」
思わずプチ自慢。
「生地から!? そりゃたまげた。本格的じゃないか。それならこの町の名物料理、“サーモンのパイ包み”もぜひ作っておくれよ。ほら、これがレシピだ」
「サーモンのパイ包み! ふむふむ、ほうれん草とクリームソースと一緒に包むんだ〜。美味しそ〜♪ ありがとうおじさん! じゃぁこのサーモン下さいな♪」
「はいよぉ、毎度あり♪」
「鉱山魚は……エイストンにしか売ってませんか?」
あれも美味しかったから買いたかったけれど……。私がそう尋ねると、お魚屋さんは残念そうな表情を浮かべた。
「いや、本来サーモンの隣に並べるはずなんだが……今はちょいとトラブルがあってね、エイストンからの仕入れが出来ていないんだ」
「あっ、そっか……。それなら、スネーフ坑道はもう通れるようになったから、すぐにまた仕入れられるようになりますね♪」
「えっ!? スネーフ坑道、通れるようになったのかい!?」
お魚屋さんは目をぱちくりとさせる。
「はい、私、さっきスネーフ坑道を抜けてきました♪」
「マジかい! いやぁ、良かった良かった! 良い事を教えてくれたお礼にほら、オマケだ。持っていきな」
お魚屋さんはそう言って1杯のカニを包んでくれた。
「えーっ!? オマケがオマケじゃない!」
「ははは、何を言っているんだ。カニなんていくらでも捕れるからね、気にしないで持っていきな」
「……なんてこった。ありがとうございます……!」
「お料理、頑張るんだよ♪」
「はい♪」
⸺⸺
「ふふふっ、いっぱい買っちゃったなぁ♪」
サーモンのパイ包みが作りたかったので、ほうれん草も追加で購入。
『こんなにどうするんですにゃ? ウルユ島は暖かいから保存も大変ですにゃ』
と、ルキちゃん。
「ふっふっふ。そんなの、保存が出来るようにするんですにゃ♪ これで」
私はルキちゃんの口調を真似してそう言うと、ウエストポーチにしまっていた氷の魔石をポンと叩いた。
さぁ、帰ろう。私たちのウルユ島へ!
グラキエスの正門をファストトラベルに登録をして、ウルユ島、拠点へとひとっ飛びした。