37話 エイストンの英雄
スネーフ坑道の出口が見えてくると、すぐ外にたくさんの人が集まっている事に気付いた。
「あれ、なんかたくさん人がいるね……エイストンの人たちかな?」
「何っ! 謝る準備をしなくては……!」
ランスロットはガチガチに緊張していた。
そして出口から雪原に出ると、集まっていた人々は「出てきたぞ、あの子か!?」「無事だったんだな!」と盛り上がっていた。
そんな人だかりの中央に滑り込むようにズベーッと盛大に土下座をするランスロット。
人々は「何だ何だ!?」「猫耳の騎士様!?」と驚き戸惑っていた。
「この度は! 邪気に取り憑かれていたとはいえ、エイストンの皆様に多大なるご迷惑をおかけ致しましたことを、ここにお詫び申し上げます! 本当に申し訳ございませんでした!」
「えっ……!?」
目をぱちくりとさせる人々。その人だかりの中から白熊亭のマスターが顔を出した。
「ユノちゃん、まさかこの騎士様が……元デュラハンなのかい……?」
「あっ、マスター! はい、えっと……テイム? に、成功しました。私も一緒に謝らせてください、ランスロットが、大変ご迷惑をおかけしました!」
私はランスロットの横に並んでペコリと頭を下げる。ルキちゃんたちもみんな一列に並んで一緒にペコリとしてくれた。
「マジか! すげぇ!」
「Sランクの魔物だぞ!」
「小さいのになんて勇敢でしっかりした子なんだ……!」
「ありがとう! 小さなテイマーさん!」
人々はより一層盛り上がっている。むしろ怒るどころか、ありがとうとか聞こえてきたような気がする。
どうやら人々はある程度の事情を知っているようだ。マスターが話してくれたのだろうか。
すると、人だかりの中から茶ヒゲのふくよかなおじさんが私たちの前へと出てきた。
「ユノさん、ランスロットさん、従魔の皆さん、どうか顔を上げてください。私はエイストンを取りまとめる長、ジェイクです。エイストンの町を代表してお礼を言わせてください。スネーフ坑道の問題を解決してくださり、本当にありがとうございます」
私が顔を上げると、ジェイクさんは深くお辞儀をしていた。
「あっ、いえ、そんな私の事は、どうかお構いなく……」
私はこんな大事になるとは思っていなかったので、ちょっと戸惑ってしまう。
確かに町の人の助けにもなるならって思ってはいたけれど、これじゃまるで英雄だ。
「ここは寒いですから、詳しい話は白熊亭でしましょう。温かい鉱山魚の鍋を用意しております」
と、ジェイクさん。鉱山魚……!? 初めて聞くお魚さん……!
「お、俺も行っても……良いのか……?」
ランスロットがそう言って恐る恐る顔を上げると、ジェイクさんは「もちろんです」と相槌を打った。
そんな彼の脇から小さな男の子がピョンと飛び出してくる。
「ランスロットさん! この前は僕のこと助けてくれてありがとね! あっ、お耳、可愛いね!」
「「えっ……!?」」
一体どういうこと……!?
てっきりランスロットは石でも投げられるんじゃないかって、そう覚悟していた。
それでも私たちの仲間になったんだから、一緒に受け止めようって、そう言うつもりでいたのに。
それなのに、“この前は助けてくれてありがとう”?
私たちはそわそわしながら町の人たちと一緒にエイストンへと帰還した。
⸺⸺氷壁の町エイストン、白熊亭⸺⸺
「あ〜、あったか〜い!」
白熊亭に入るとすぐに暖かさが全身を包み込んだ。幸せな瞬間だ。
それに、白熊亭のテーブルにはいくつもの鍋が並んでおり、魚介系の出汁の香りが私の食欲を刺激した。




