33話 氷壁の町 エイストン
⸺⸺氷壁の町エイストン前⸺⸺
「氷の……壁……!?」
辿り着いた町の外観は城壁ではなく氷の壁で囲われていた。氷とは言っても、透き通っている訳ではなく、向こう側は見えない。
「ほっほー……」
『これは氷ではなく“フリグス鉱石”と鑑定結果が出ておる』
背中のフードからそう声が聞こえてくる。早速長老の鑑定眼に助けられた!
「フリグス鉱石! 確か素材図鑑には断熱効果のある鉱石って書いてあったような……。そっか、寒い土地はこのフリグス鉱石を使って寒さをしのいでいるんだ」
素材図鑑でしか見たことがないものを実際に目で見ることが出来て、なんだか感動する。
この世界には、まだまだ私の知らないことがたくさんあるんだ。そう思うとわくわくした。
門のある方へ回ると、もこもこの格好をした衛兵さんが驚いた表情で話しかけてきた。
「き、君たち!? まさか“スネーフ坑道”を抜けて来たのか!? と言うか、大きな犬だね……」
『あ、ごめん僕小さくなるね』
ウルがそう言って小さくなると、衛兵さんはまたしても「縮んだ!?」と驚いていた。
「えっと……転送魔法のようなものでこの近くに飛んできたので、スネーフ坑道って言うのは分かりません……」
「転送魔法……そうか。こんな小さいのにすごい魔道士なのだね、君は」
「えっと、あはは……」
とりあえず愛想笑いをして誤魔化し「すみません、ランダムに飛んできたので……ここがどこの国なのか教えてもらっても良いですか……?」と恐る恐る尋ねた。
「ランダム!? すごい子どもだ……。ここは“ボレアス島”にある“スネーフ王国”という国の“エイストン”と言う町だよ。主に“鉱夫”の家族が暮らす町さ。さぁ、寒いだろう、町の中に入りなさい」
「ボレアス島のスネーフ王国のエイストン……分かりました、ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をして町の中へ足を踏み入れる。
背後から衛兵さんの「“白熊亭”と言う酒場を訪ねなさい。腹も満たされるし、マスターが色々教えてくれるよ」と言う声が聞こえてきた。
くるっと振り返り「ありがとう〜!」とお礼を言って手を振る。衛兵さん、優しいおじさんだったな。
『町の中、寒さが和らぎましたにゃ』
と、ルキちゃん。
「あ、本当だ。町の外に比べて全然寒くないね」
町を見渡すと道にも建物にもフリグス鉱石が使われているようで、まるで氷で出来ているかのような幻想的な街並みが広がっていた。
「すごい、綺麗な町だね……」
人通りもそこまで多くなく、もこもこの格好をした人がちらほら歩いているだけで静かだった。
『みんなお家の中にいるのかな?』
と、ウル。
「そうかも。それか、鉱夫さんの町って言ってたから、鉱石を掘りに言ってるのかもね。衛兵さんの教えてくれた“白熊亭”って酒場を探そうか」
『そうですにゃ』
『うん!』
しんとした町を歩いていると、すぐに酒場の看板を見つける。
「あっ、ここだ。白熊亭」
早速中へ入ると、中は丸いテーブルがたくさん並んで広々としており、何より暖かかった。
「あ〜、あったかーい!」
「おや、えらい小さいお客さんだね?」
奥のカウンターから優しそうなおじさんの声が聞こえてくる。あの人がマスターか。そう言えばお客さん誰もいないけど、ちゃんと営業中だったかな?
「あの、まだ準備中ですか……?」
「いや、一応昼を食べに来る客がいるかもだから開けていたよ。本格的な営業開始は鉱夫らが町に戻ってきてからだけどね。こっちのカウンターへどうぞ」
「ありがとうございます」
みんなでとことこと奥まで行き、カウンターの椅子の背にローブをかけて、長老をカウンターへちょこんと置き、自身も椅子によじ登った。カウンターの椅子って、結構高さがあるよね。
「ほら、サービスの“ホットはちみつレモン”だよ」
マスターはマグカップを私の前に、ルキちゃんたちには浅いお皿に入ったホットはちみつレモンを提供してくれた。
「わぁ、ありがとうございます! ん〜、あったまるぅ〜♪」
「がう、がう♪」
「んにゃぁ♪」
「ほぉー♪」
食べ物のメニュー表を見ると、お金の単位はCだった。良かった、国は違ってもお金の単位は共通っぽい。
「えっと、じゃぁ、シチューをお願いします」
「はいよぉ♪ もう煮込んであるからすぐに持っていくからね」
「はい♪」
マスターはすぐに熱々のシチューを提供してくれた。
「美味しそう♪ いただきます! はふはふっ、美味しい!」
「あはは、そりゃ良かったよ。で、お嬢さん方は一体どこからこの町へ……? 今あのスネーフ坑道を抜けるのは不可能に近いと思うんだが……」
「ユノと言います。転送魔法のようなものでこの町の近くに飛んできたんです。氷の魔石が欲しくて……」
「ユノちゃんな。転送魔法か! そんな小さいのに……。氷の魔石ならどこか洞窟に潜ればそこら中に落ちているよ。それこそスネーフ坑道を抜けるまでの間に嫌というほど取れるけどな……」
良かった、この辺りでは氷の魔石はそんなに珍しいものじゃないんだ。
「衛兵さんも言ってたんですけど、そのスネーフ坑道って言うのはどうして通れないんですか?」
「あぁ、スネーフ坑道はね、この町から“グラキエス”という港町へ出る唯一の道なんだが、つい最近Sランクの魔物が棲み着いてしまってね、危なくて通れなくなってしまっているんだ」
Sランクって……絶対強いやつじゃん。でも待って、その魔物の邪気を浄化する事が出来れば……?
「マスター、その魔物のこと、もっと詳しく教えてください!」
その魔物、仲間にしたい! 私は気合いを入れてピンと背筋を伸ばした。