29話 ファストトラベルの便利機能
⸺⸺畑の拡張が完了した翌朝の出来事。
ウルユ島の住人はみんなで朝食を終えると、早速農業ギルドに納品をする野菜の収穫を行っていた。
『この“魔導圧縮バスケット”、すごいですね〜。どれだけ野菜を入れても全然重くなりません。これならウチでも楽々運べますよ〜!』
ラフちゃんはそう言ってぴょんぴょんと飛び跳ねていた。ラフちゃんの嬉しさを全身で表現するの、可愛い。
「そうなの。魔導圧縮って、素晴らしい技術だよね、ホント。軽くなるだけじゃなくて場所も取らないの、最高だと思う」
『ハイ、分かりますよ〜』
自分たちで使う分を取り分けて、納品用の野菜の準備も終えたところで、ゴブくんが「フゴゴ……」と、なぜか落ち込み始めた。
「ど、どうしたの、ゴブくん。緊張してきちゃった?」
私が心配そうにゴブくんを覗き込むと、彼はゆっくり首を横に振った。
『違うべさ。ワイら、ユノがおらんと農業ギルド本部に行けないということに気付いてしまったべさ……』
そう言って更にズズーンと落ち込むゴブくんを見て、ラフちゃんまでもが雷に打たれたかのような衝撃を受ける。
『はぁぁぁっ! 盲点でした……。自分たちで納品まで出来て、ユノの商人ギルドのお仕事を邪魔せずにウチらもこの島に貢献出来るって、舞い上がっていました……。結局ウチらはユノに送ってもらわないと農業ギルドにすら行けないのですね……』
私の目の前で2人の“小人”がズズーンと四つん這いになっている。しまった、もっと早く言っておくべきだった。
「待って待って。2人ともよく聞いて。私が付き添わなくても、2人だけで農業ギルドにファストトラベル出来るんだよ」
『『えっ!?』』
ガバッと顔を上げる2人。圧がすごい。
私はファストトラベルのパネルを出して、みんなに見えるように角度を調整した。
「あのね、このファストトラベルのトラベルリストの下の方に『トラベルストーンの生成』ってあるでしょ? 最近夜寝る前にゴロゴロしながらこれを押してみたことがあるんだけどね、この機能は、魔石に簡易的なファストトラベルの力を込めることが出来るみたいなの」
『そ、それってつまり、どういう……!?』
と、ラフちゃん。私は頷いて説明を続けた。
「うん、“ホームになる場所”、つまり“ウルユ島拠点”とどこか1ヶ所の場所限定で行き来が出来るファストトラベルなの。具体的に言うと、今回の場合“ウルユ島拠点”と“ラカノン農業ギルド本部前”を行き来する専用のファストトラベルって感じ。これを自分以外の人が使うときは、その人の魔力を登録する必要があるみたい。つまり、ラフちゃん専用の、ゴブくん専用のトラベルストーンが出来るんだって」
『す、すすすすごいです、ユノ! トラベルストーン……ある意味転送魔法よりすごいものかもしれませんね!』
『ユノは魔法使いよりすごいべさ♪』
さっきまで四つん這いになっていたはずの2人は向かい合ってルンルンと踊っていた。
「あはは、実はね、最初は『トラベルストーンの生成』なんて文字なかったんだよ。いつの間にか追加されてたから、クラフトみたいにファストトラベルも魔力の全体量が増えると出来る事が増えていくみたい」
⸺⸺
早速魔石を2つ使って、ラフちゃんとゴブくん専用の“ウルユ島拠点⇄ラカノン農業ギルド本部前トラベルストーン”を生成。ペンダントの様に革の紐を付けてあげて、首にかけられるようにした。
更にラフちゃんにはポシェットを、ゴブくんにはウエストポーチを作ってあげて、それに会員証や依頼書、お小遣いを入れられるように。2人は大喜びで意気揚々と農業ギルドへと飛んでいった。
『ユノ。僕もマルシャンの町をお散歩したりしてもいいですかにゃ?』
と、ルキちゃん。
「うん、良いよ。ルキちゃんは日本にいるときはずっと家の中だったもんね。だからこの世界では、安全なところなら自由にお散歩していいからね」
『ありがとうですにゃ♪』
『オイラも、オイラも〜!』
「うん、ウルの分も作るね」
今度は“ウルユ島拠点⇄マルシャン正門前トラベルストーン”を生成。早速ルキちゃんとちびウルもマルシャンの町に飛んでいった。
「あれ? 誰もいなくなった……」
ちょっと寂しいかも。まぁ、みんな楽しそうだし、独りなら独りで、今しか出来ない事、しちゃいますか♪
私は日本の懐メロを大声で歌いながら手足を動かして適当に踊り狂った。
『バンダナ忘れましたにゃ』
大声で熱唱している私の目の前にルキちゃんが戻ってくる。
「……あ」
『ユノ……』
「だってアパートにいる時は近所迷惑になるかと思って出来なかったんだもん〜!」
私は顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。