24話 巻き込みトラベル
⸺⸺港町マルシャン⸺⸺
私がこの異世界に来てから15日。商人ギルドの納品依頼も順調に進み、そろそろEランク職人も卒業かと言ったところ。
お金も貯まってきたので銀行口座も開設。このマルシャンの所属する『リベルト共和国』内の町にある銀行でお金の出し入れが出来る。まぁ、マルシャン以外の町に行ったことはないんだけど……。
今日の商人ギルドでの納品も終えて、受注している依頼もなくなったので新たに3つ適当に依頼を受注。商人ギルドからマルシャンの町に出る。
「さて、お家に帰りますか……」
ファストトラベルの画面を開いて“ウルユ島拠点”を選択しようとした⸺⸺
⸺⸺その時だった。
「ユノさ〜ん! 会員証を忘れてますよ〜!」
そう言ってクマ耳族のディーナさんが商人ギルドから飛び出して来た。
「えっ、あっ……!」
目の前で私の会員証を振るディーナさん。本当だ、忘れてる……!
って言うか、そんなことより……ファストトラベルのボタン、押しちゃった……。
⸺⸺目の前が真っ白になった。
⸺⸺ウルユ島 拠点⸺⸺
「えっ、な、何!? こ、ここはどこ!? あっ、ユノさん!」
ファストトラベルに巻き込まれたディーナさんがオロオロと驚き戸惑っていた。
「あぁぁぁぁ〜! やってしまった……」
ガーンと落ち込む私のもとへ、島の住人のみんなが駆け寄ってくる。
『あっ、ディーナさんだ〜』
と、ウル。
『ヒトのお客さんを連れてきたがか?』
ゴブくんは麦わら帽子を取って、ペコリとお辞儀した。唖然としたままつられてお辞儀を返すディーナさん。
『ウチ、ハーブティー淹れますね〜!』
ラフちゃんはそう言ってウッドデッキのキッチン台へと走っていった。
ルキちゃんがポテポテと歩み寄ってくる。
『ハプニングなんですにゃ? とにかく、僕たちの声はディーナさんには届きませんにゃ。事情を説明してあげませんと』
ルキちゃんの一言でハッとする私。
「あっ、そうだった! ディーナさん……ごめんなさい、ここ、ウルユ島です……。転送魔法みたいなもので、ディーナさんを巻き込んでしまったみたいです……」
「こ、ここがウルユ島! 田舎って言ってたけどどこにあるんだろうって、ブランカとずっと気にしていたんですよ! まさか転送魔法が使えるとは……ユノさんはすごいんですね〜!」
ディーナさんは状況が分かるとパッと表情が明るくなり、珍しそうに辺りをキョロキョロと見回していた。
「いや、あの……正確には転送魔法でもないんですけど……えっと、ラフちゃんがハーブティーを淹れちゃってるんですが……飲んでいく時間ありますか……?」
私がキッチンの方を指差すと、その先でラフちゃんがティーポットにハーブティーをザッと入れているところだった。
「ラフちゃん……あっ、あのお花の魔物ですね? 本当だ、すごい、器用ですね〜。分かりました、せっかくなのでいただいていきますね♪」
「ディーナさん、ありがとうございます……!」
⸺⸺
ディーナさんをウッドデッキのカフェテーブルに案内をして、ラフちゃんが用意をしてくれたハーブティーを一緒にすすった。
「あ〜、カモミール……? いや、ラベンダーかな……? ホッとしますね〜」
ディーナさんはそう言ってのほほんと微笑んだ。
「えっ、ディーナさん詳しいですね! カモミールとラベンダーのブレンドなんです」
「ふふっ、休日によく飲んでいるので。まさか仕事中にこんなふうにマッタリ出来るなんて、最高ですね〜」
「うぅ、本当にごめんなさい、お仕事中なのに……」
「あっ、いえいえ、これはハプニングですし、上司も怒りませんよ♪ あ、そうだ、はい、これ会員証です」
「あっ、ありがとうございます!」
ディーナさんから忘れてしまっていた会員証を受け取る。
「それよりも、ここは村……なのでしょうか? 大自然に囲まれた良いところですね〜。ユノさんのご両親もどこかにいらっしゃるのであれば、ご挨拶を……と思ったのですが」
ディーナさんはハーブティーをすすりながら辺りを見回していた。
「えっと、両親は、いません」
私がそう答えた瞬間、ディーナさんは「すっ、すみません……! 私、とんでもない失言を……!」と泣きそうな顔になっていた。
「いえいえ、良いんです。ここは村でもなんでもなくて、まだただのウルユ島です。住人は今のところ、今ここにいる“5人”、です」
「嘘……5人って……つまり、ユノさん独りでこの島に……? まだ5歳なのに、どうしてこんな事に……」
「独りじゃないですよ。5人、です」
「あっ、そうですね……魔物の皆さん、すみません……」
ペコペコとみんなへ頭を下げるディーナさん。そんな彼女を見て、私はある決意をした。
「今晩、空いていますか? 良かったらブランカさんと一緒に遊びに来てください。みんなでピザを作っておもてなしします♪」
「えぇ!? 空いてます、空いてます! 絶対ブランカも連れてきます! 色々お話、聞かせてくれるんですよね?」
ディーナさんはグイッと食いついてきた。
「はい。私、進んでここにいるんですよ♪ その理由、お話ししますね」
「うぅ、楽しみすぎて仕事終わりまで耐えられるか心配です……」
そうウズウズするディーナさんを見て周りのみんなはクスクスと笑っていた。
そして、ディーナさんをマルシャンの商人ギルド前まで送り届けると、18時にこの場所で待ち合わせをして一旦解散した。




