21話 毎日が旬、最強農家
新しく拠点の住人に仲間入りしたゴブリンのゴブくんは、フゴフゴ言いながら楽しそうに畑を耕していた。
『ユノ、何か植物の種はありますか?』
と、ラフちゃん。
「えっと、今はないなぁ。種があったら何でも育てられそう?」
『ハイ。種、もしくは苗木、挿し木なんかでも育てられると思います』
「なるほど……」
私は、マルシャンの中央通りで野菜の販売をしているワゴンで、野菜の種も売っていた事を思い出した。
「そーだ♪ ラフちゃん、今から一緒に人の町に行って、野菜の種買ってこない?」
『町!? ウチなんかが行っても良いのですか? 驚かれませんか?』
「大丈夫。魔物連れてる人いっぱいいたから」
『そーなんですね! ぜひ、行ってみたいです! ヒトの町にはとっても興味がありましたので♪』
ラフちゃんは頭の花をふるふると揺らして小躍りしていた。そんなに楽しみにしてくれるとは。
「じゃぁ、早速行こうか。みんなはお留守番よろしくね」
『はいですにゃ。気を付けて行ってらっしゃいですにゃ♪』
『行ってらっしゃーい♪』
「フゴフゴッ♪」
お留守番組に見送られて、私とラフちゃんはファストトラベルでマルシャンの正門前へと向かった。
⸺⸺港町マルシャン、正門前⸺⸺
『こっ、ここがヒトの生活している町……! 攻撃されないでしょうか、大丈夫でしょうか……?』
いざ来てみるとおどおどし始めるラフちゃん。
「大丈夫だよ、ラフちゃん。ほら、私たちのこと気にしてる人なんて誰もいないよ」
『本当ですね……! ウチ、ヒトの町を歩いても良いんですね……感動です……!』
ラフちゃんはうるうると涙ぐむ。
「ラフちゃん……。じゃぁ、ゆっくりお店回って最後に野菜の種を買いに行こっか」
『ユノ、ありがとうございます!』
私とラフちゃんはあーでもない、こーでもないとしゃべり散らしながらお店を堪能した。
ついでに晩の買い物も済ませて、お目当ての野菜の種を購入。
買った種は小麦、たまねぎ、人参、じゃがいも、トマト、レタス、きゅうり、パプリカ、にんにく。
まぁ、収穫できるのはいつになるか分からないけど……。
⸺⸺ウルユ島、拠点⸺⸺
ウルユ島へ戻ると畑を耕し終わったゴブくんがお魚さんを釣ってきてくれていたため、晩ご飯は“白身魚の香草焼き”をメインディッシュに。買ってきた食材で“ポトフ”を作ることにした。
⸺⸺
『では、早速種を植えていきましょう』
ラフちゃんはふかふかの畑にちょんちょんと種を植えていく。
私はその隣でせっせと木の札をクラフトし、何が植えてあるのか分かるように“トマト”などと書いて土にぶすぶすと刺していった。
それにしても小麦は畑の一列、他は全て一つずつしか植えてないみたいだけど、少な過ぎないだろうか……。きっと何か考えがあるんだ。
そう思った私は、何も言わずにラフちゃんを見守った。
『そしてお水をまきます』
ひ弱なラフちゃんでも持てるように薄い木の素材で出来たジョウロをクラフト。
ラフちゃんはそのジョウロを使ってサラサラと水をまいていったのだが、ただの泉の水のはずなのに、まかれた水はキラキラと輝いて土の上に着地していた。
「なんか、そのお水光ってない……?」
『ハイ。ウチの魔力を込めました。畑を見ていてください』
「え、うん……」
みんなで畑を囲って眺めていると、水をまいてから数分で畑のあちこちから芽がぴょこぴょこっと顔を出し始めていた。
「えっ、もう芽が出てきちゃったよ!?」
『ハイ。これがウチの力です。どの野菜も明日には収穫出来るでしょう』
「やった、やったー♪」
と、みんなで小躍りする。
『一度種をまいた植物はそこから毎日実を付けていきますので、新たに種を買い直すこともありません。それに、気候も関係ないです。このウルユ島の気候で、寒い地方でしか育たない植物も、逆に熱帯でしか育たない植物も全て育ててみせましょう』
えっと……マジシャンですか……!?
「ラフちゃんすごすぎる〜! それなら、今後他の町に行ったときとかに新たな種を見つけたら買っておくね♪」
『ハイ。よろしくお願いします』
ラフちゃんの最強農家っぷりに惚れた私たちは、畑の隣にもう一つ畑を作り、そっちには“実”が“糸”になる“ラソワ草”、“綿”ができる“ラーナ草”、鳥の羽のような草の生える“ダグニア草”など、クラフトの素材に使える植物を挿し木でどんどんと増やしてもらうことに。
これで大きなソファやなんかも素材の消費を気にすることなく作ることができるようになりそう。
“布”になる“テーラの蔓”と革になる“クエの蔦”はまだ見える範囲に生い茂っているため、今回の栽培は見送った。




