20話 ゴブリンの視線
⸺⸺ウルユ島、拠点⸺⸺
「ここが私たちの拠点だよ」
ラフちゃんを連れて拠点に帰る。
『ここ、近付けない魔力があって何があるのか気になっていたんです。まさか人が住んでいたとは』
と、ラフちゃん。
なるほど、結界の周辺は魔物にとっては“近付けない魔力”っていう認識になるんだ。邪気から解放されて結界の中にも入れるようになったんだね。
つまり、結界を嫌っているのは魔物じゃなくて邪気ってことか……。
「勝手に棲み着いてごめんね……」
この島の邪気に支配された魔物にとって、私は侵略者……?
『良いんですよ。むしろアナタたちが来てくれたおかげでウチは邪気から解放されましたから。早速恩返しをさせてください。どこかに畑を作りましょう』
「そう言ってもらえると助かるよ……。えっと、そうだなぁ、この泉の奥を開拓しよっか」
畑の近くに水場があったほうが良いだろうと思って、泉の奥の林を指し示す。すると、ウルが『この辺を開拓すれば良いんだね♪』と言って飛び出し、すごい勢いで木を薙ぎ倒していった。
⸺⸺
ウルが新しい土地を開拓してくれている間に私は土をクラフトしてレンガを作成。そして、ウルの開拓が終わったところで畑にしようと思っている範囲をレンガで四角く囲った。
「よし、後は耕せば畑の準備は完了だね」
石のクワをクラフトして持ち上げてみるが……。
「重っ! ちょっと5歳のレディには無理ゲーなんですけど……」
ズルズルと引きずるのが精一杯で、これを持ち上げてえんやこらするのは不可能だと感じた。
『ウチも重いです……』
ラフちゃんの腕はひょろひょろの蔓。引きずることすら出来なさそうだった。
力持ちのウルもルキちゃんも四足歩行だからそもそもクワを持つことすら出来ないし、どうしたもんか……。
「……ん?」
ふと視線を感じ、畑の奥の木を振り返る。すると、何かが木の陰から半分だけ顔を覗かせてこっちをジーッと見ていた。
「えっ、何!? 魔物!?」
思わずそう叫ぶ。人型の魔物。魔物図鑑の画像をあれこれ思い出してみると、あの覗いている顔半分はゴブリンっぽかった。
『んにゃ!? 結界の範囲内まで入ってきているのですかにゃ!?』
と、ルキちゃん。そうだよ、結界があるのに。まさか、女神像に何かあって……?
女神像を振り返って確認してみるけど、女神像はいつもの変わらず淡い光を放ち、何事もなさそうだった。
『あっ、あのゴブリンさん、ウチがまだ魔物だった頃よく見かけた気がします』
と、ラフちゃん。
「そうなんだ……あっ、もしかして、ラフちゃんを浄化したときに近くで一緒に勇者の光を浴びたんじゃないの? それなら結界の中にも入れるし、襲って来ないのも納得だよ」
『そうかも!』
と、一同。
私はゴブリンを驚かせないように、そっと近付いていった。
「こんにちは。私はユノだよ。あなたはそうだな……安易でごめんけど、“ゴブくん”だよ♪」
「フゴッ!?」
ゴブリンが一瞬光る。やっぱり、邪気を浄化されていたんだ。
『ワイ、ヒトの言葉しゃべってるべ。すごいことだべさ』
なんか訛ってるけどね!?
「ゴブくん、こっちで一緒にお話ししよ?」
ゴブくんはうんと頷くと、てちてちと私たちのもとへ合流した。
私はラフちゃんのように、ゴブくんにも私たちの事情を説明した。
⸺⸺
『そう言うことならワイ、やってみるべ』
ゴブくんはクワを持ち上げると、サクッ、サクッと土を耕し始めた。
「えー、ゴブくんすごい! 人間の道具を、しかも重いクワを普通に使いこなしてる!」
『ワイらゴブリンも、簡単な道具を使うんだべさ。畑での力仕事は、ワイに任せるべ』
ゴブくんはそう言って畑を耕しながら「フゴフゴッ」と笑った。
「また頼もしい住人が増えた♪ よろしくね、ゴブくん!」
「フゴフゴッ♪」