13話 BBQと五右衛門風呂
じゅうじゅうと、肉や野菜の焼ける良い音が聞こえてくる。
それに……。
「あ〜っ、美味しそうな匂い!」
ルキちゃんとウルが揃って鼻をクンクンとさせるのに合わせて、私も目を閉じてその香りを味わっていた。この匂いだけで白飯が進みそう……ご飯、ないけど。
『クンクン……ねぇ、ユノ〜、このお肉もう食べてもいい?』
小さくなったウルはバーベキューコンロのすぐ隣に作った木製のダイニングテーブルに飛び乗り、ヨダレを垂らしていた。
お腹は空かなくても、美味しい匂いには反応をしてしまうようだ。
「うん、そうだね〜、そろそろ良いか♪」
私は石製のトングで牛肉を3つのお皿に取り分けた。2匹とも聖獣化したからなのか、食べた物が身体に影響を与えることはないと言い張っているので、塩胡椒の味付けもしてあげた。
「いっただきま〜す!」
『『いただきます!』』
私は石のフォークで、2匹はお皿に乗ったお肉に直接ガブリと噛み付く。
「ん〜! 最っっ高に美味しい!」
臭みもなくて程よい脂の上質な味わい。
「んにゃぁ、んにゃぁ♪」
「がう、がうがう!」
ルキちゃんとウルもうんうんと唸りながら必死に喰らいついていた。2匹とも美味しそうに食べるなぁ。
「ルキちゃんどうですか、猫時代には味わえなかった“調味料”のお味は」
『胡椒のピリッとした刺激に、お肉の旨味をそっと包み込んでいるかのような塩味。噛めば噛むほど口の中で肉汁と塩胡椒が混ざり溶け合い、自然と喉がゴロゴロと鳴ってしまうくらいの幸福を感じますにゃぁ〜♪』
「……すごい語るじゃん。美味しい〜とかそんな単純な返事を想像していてごめん」
『僕は高級カリカリを食べ続けた美食家ですにゃ♪』
「なるほど……」
つまり私の育て方でこうなったのか……。
私たちは美味い、美味いと唸りながら大自然の中での絶品バーベキューを堪能した。
⸺⸺
バーベキューをしている間に日も落ちてしまったので、残っている魔力で篝を生成。火を灯すと温かく優しい光が周囲を照らした。
「後作れそうな物は……」
せっかくウルが草系の素材を集めてきてくれたので、“テーラの蔓”と“ラソワの実”で着替えの下着やワンピース、更にタオルを生成した。
ベージュ一色のシンプルな服だったため、パジャマ代わりに着ることにした。部屋着ならぬ……島着?
可愛いお洋服はやっぱり町で買うのが良さそう。クラフトで作ろうと思うと、染料に使うのであろう素材がたくさんいるからすぐには無理そうだ。
まだ魔力は残っている。ダメ元で“五右衛門風呂”を検索してみると……。
「あっ、魔力足りるじゃない!」
バーベキューで多少魔力が回復したおかげなのか、一番小さい五右衛門風呂ならギリギリ作成することが出来た。
「五右衛門風呂を、クラフト!」
ドスンッと、泉の近くにこぢんまりとした五右衛門風呂が生成される。そしてみんなで泉の水を桶で風呂釜の中へ入れ、釜の下に薪を突っ込んで火を点けた。
水に腕を突っ込んでお湯加減を確認しているとだんだんと温まってくる。
よし、これ以上熱くなると茹でダコになっちゃうから、薪を減らして……と。
服を作業台の上にぽいぽいっと脱ぎ捨てて五右衛門風呂にザバーンッとダイブした。
「はぁ〜、気持ちいい〜」
篝火の幻想的に燃える炎を見つめながら、肩まですくんでボーッとする。ただの泉の水を温めただけなのに、どんな温泉よりもすごい効能がありそうだった。
「ルキちゃんは〜、勇者猫〜♪ ぴかっ、きらきら浄化の光〜♪ ウルは大きな聖獣狼♪ パワー全開力持ち〜♪」
作詞作曲、ユノ・カグラ。
⸺⸺
入浴を終えて作った島着に着替え、お風呂あがりにりんごを頬張る。
「このりんごもみずみずしくて美味しいなぁ……♪」
食材が良いのか環境が良いのか。多分両方だ。食べ終わってうーんと伸びをして何気なく空を見上げると、空には満天の星が輝いていた。