アメイジング・チベット
初めての日本語小説です。
15歳の時の構想はようやく書けるようになりました。
歴史の新人教師として、今日からこの中学で教え始める。転職先での一日目は、同僚たちと仲良くできるかどうかの鍵で、チャンスを把握しないと、頭の中で自己紹介を何度も練習していた。ワクワクかつドキドキする気持ちを抱いて、僕は事務室に入った。耳元で響きだしたのは、教頭先生の陽気な声。
「おお!君は、鎌倉だよね?鎌倉大仏って君の兄弟じゃん!」
教頭先生は大笑いしながら、連れて行ってくれて一回りした。すべての先生が騒いでいて、僕の出身地や婚姻状況などを聞こうとした。授業直前だから、その場で適当に口を濁して教室に行った。
クラスに着いたばかりに、生徒の、好奇の目に囲まれて、「先生は外国人なの?目きれいだね!」と、休むことなく尋ねられた。昼食の時間に、雰囲気を和らげるために、そして同僚相互のむつまじさを促進するために、先生たちは前もって親睦会を行うことに決めといた。
昨日、教頭先生からの通知が来て、「明日の昼の食事、君に頼んでくれるか」って。新しい同僚にとって、僕は謎の多いものだから、故郷の伝統メニューを用意して、忘れられない思い出を作ってあげたい。国の料理は辛くて、乳製品を多めに使われて、お米はほとんど見えない。ヨーグルトは定番だけど、食べ慣れていない人が2-3人いるらしい。
とはいえ、食卓を囲んでいる時、僕の準備した料理は見る見るうちに食べられじゃった。外見が小籠包みたいな「モモ」、ヨーグルトソースのローストチキン、ヤクの乳で作ったバターの入れるミルクティー...どれも僕の大好物だけど、いい結果が出てよかった。
撮影好きなので、アルバムを開けてみんなに実家の写真を見せた。延々と続く山脈に包まれている雪国の大地が、冬に真っ白に染められた。ヤクのふんを焚いている老人は、カメラを仏の目だと思い込んだ。湖は神聖なるところだから、その周りからよく「オム・マニ・ペメフム」という呪文を刻んである石が見える。
そこの住民は信仰心が強く、一日の中には必ず時間を空けて寺院に行って、庭のマニ車を回して幸せを祈る。聖地巡礼に見逃すことのできないポタラ宮で下の景色を撮ったら、素敵な体験になる。それは吐蕃王朝の時代のお城だったけど、王国の分裂から何百年経って、新興の宗教がこの国を司って、王権の象徴を仏教の総本山に一変させた。今のポタラ宮は、歴代の高僧が永眠しているお墓だ。
「世界一の高山のヒマラヤ、君の国にあるよね」と、一人が手を挙げた。確かに、そこに行ったことがあるし、嫌いじゃないけど、やはりK2の方が好き。
K2は高さがヒマラヤに次いで、あまり知られていないから、環境汚染もそんなにひどくない。夏でも白い世界で、アルプス山脈とは大きな違いがある。旅行家として、紀行の本を5冊も書いて、運がよくてベストセラーになった。なんとなく読者はアルプスの方にずっと興味があって、スイスとか何とかの、ヨーロッパの雪山をもっと紹介してほしい、と。私から見ると、フォンデュはK2より人気があるかもしれない。
チベット人は、高僧が死没後、輪廻転生すると信じている。そこに着かない話に聞こえるけど、科学で説明できない超常現象がしきりに起こっている。たとえば、前世の記憶とか、どうして生まれてから経書をおぼえているかとか、僕自身も理解できない。
幼い頃、ある有名な寺院の、化身ラマの立候補者だった。でも、思った通りとは違って、厳しい修行をしないと、立派なラマにはなれない。師匠の言葉によると、僕は正式なラマになる可能性が高いそうだ。
が、12歳の時、思いもよらない悲劇が起こった。ラマになるための、最終選抜に参加させられ、会場では、欲張りの貴婦人たちが若い肉体を貪って、僕を押し付けて犯した。乱暴な姿勢で「痛い、痛いよ!」と叫んでも、助けに来てくれる人は一人もいなかった。左の目玉はもう司祭の人に供え物としてえぐり出されたけど、性器まで欲しがっていたのは知らなかった。
一生懸命に脱出して、ラマを断念して来日した。その悪夢みたいな事件で宗教なんて信用できないと分かった。大学生になって、図書館で資料をいろいろ調べて、チベット仏教がたくさんの問題があるとも知った。人肉を祭儀用のハンバーグに使ったり、人間の皮でタンカを作ったり、脛の骨でラッパを製作したりするとかの知識が、全部見苦しかったけど、チベット社会の暗黒面だった。
帰り支度もそろそろ、「またね」と言おうとする時、5歳の娘が走ってきた。
「パパーー!」
子ども競走でよく金メダルをもらった彼女は、飛び上がって、僕の腰を抱っこした。社会に出て日本人の女性と知り合って、結婚した。妻は性格が優しくて、僕の過去を受け入れてくれた。
幸いにも日本には酔翁の意、酒にあらずの宗教がほぼ見られない。子どもの無知を利用して、その人生を壊す悲劇はなかった。そうしたら僕、鎌倉蛇子ーーいえ、全国宗教倫理委員会の会長として、安心できるだろう。