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バンド「たび重なる僕の不祥事」

同じ学年の変人メガネこと、幸田航大君が私たちのバンド「たび重なる僕の不祥事」に入りたいと言い出したのは学園祭の2日前だった。


バンドのボスである、仲間・アンダーソン・唯香の方を見たが彼女はドラムを叩きながら、ひたすらスペルを唱えている。


〝p・r・a・c・t・i・c・e……practice〟


そう呟くだけで、幸田君に返事をしない。practiceのスペルがわからない彼女に早稲田大学の文化構想学部を突破できるのだろうか。


なお、唯香はオーストラリアで生まれて2ヵ月で帰国した。親がノリでミドルネームをつけただけで本人は全く英語を喋れない。日本語でも何を言っているか分からないことがある。


「幸田君さ、四月一日君とひと悶着あったって聞いたけれど?その辺は解決したの」


ベースの由真(ゆま)が返事をしたら幸田君は力なく首を振った。


「今まで手加減して申し訳なかった。そう6回も言ったのに暖簾に腕押しだよ」


「6回もそんなこと言われたら私でもキレるわ」


由真がこちらを向いてジャーン!とベースを弾いたので私も思ったことを言った。


「目立たない、そういう回避の仕方もあるんじゃないかな。幸田君って何でもできるから四月一日君も前から気にしていたしここでバンドなんか始めたらまた彼すねちゃうかもよ」


「僕は一度も彼を脅威に思ったことはないのだけれど」


そういうところだよ、真由が呟いてまたジャーン!とベースを鳴らした。


すると、教頭先生がやって来た。


「ちょっといいかな?」


あー。バンド名のことだな。私が教頭先生にお辞儀すると、先生は溜息をついた。


「これはないんじゃないかな」


文化祭のプログラムの用紙からある一点を指さした。


「バンド演奏②『たび重なる僕の不祥事』」


「何でこんなバンド名にしたのかな?」


「メンバーに何かあった時に会見はおろかコメントの必要もなく察して貰える。画期的」


上手に叩き過ぎてむしろバカみたいなリズムでドラムを奏でながら唯香は呟いた。


「いやしかし……これも多様性なのかなあ」


教頭先生は校長先生の「自由な学校」という小学生が言い出しそうなコンセプトが生んだ多くのトラブルの手綱を引いている。


「先生、予定表を刷り直すなら手伝いますよ」


「ああ、幸田君ありがとう……あ、そうだ!幸田君もこのバンドに入ったら?」


「え?」


思わず声を出した私に教頭先生が言った。そうだ、今年赴任してきた教頭先生は幸田君が変わり者だと知らない。普通に成績は優秀だもんなぁ。


「幸田君なら仲間さんのフリーダムな世界観をバランスとってくれるんじゃないかな、うん!それで行こう!バンド名も直して貰……」


「ちょうど男性キーで歌って欲しい曲がある」


唯香は教頭先生の言葉を遮ると、部室の収納物から譜面を出して、幸田君に見せた。


「やれそうか?幸田ちゃん」


「良い音階だ。歌わせてくれるなら恩に着るよ」


2人の間で勝手に話は進み、幸田航大の『たび重なる僕の不祥事』加入は決定した。

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