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第九話 明山雨は目の体操をさせられる

 謎の技術で火が燃え上がり、魚が次々と焼き上がる。火種もなく薪を集めた痕跡もない。内功とかいう山雨には理解出来ない技術で火を起こしたのだ。明山雨(みんさんゆう)は、また便利だと思ってしまった。


不願意(やだな)、やばいぞ」

「ん?なにが?魚、焦げてる?」


 (とう)が独り言に反応した。書院の生徒は、普通の人より耳も良いのだろう。


「いや、なんでもない」


 慌てて護摩化した。興味を惹かれたことは、何としてでも隠し通さなければならない。明山雨は、魚龍書院(ゆうろんしゅーゆん)に入門することを望まないのである。そこは曲げられないところだ。


「あっ、まだ生だった」


 楽は思ったよりもせっかちだ。


大師兄(だいしーひん)、こちらをどうぞ。いい具合に焼けておりますよ」


 舟はなよなよと魚を差し出した。伏し目がちの瞼には、長いまつ毛が月光を宿して幻の如くゆらめいていた。夜風に靡く長い袖から、白い手が伸びている。細竹に刺された魚は、ふっくらと瑞々しく、それでいて皮はこんがりと焼き色がついている。焼魚特有の香が食欲をそそる。


「ほんとだ、よく焼けてるね。ありがとう、三弟(さんだい)

「いいえ、どういたしまして」


 舟は丁寧だ。着ているものは上等な絹物だし、物腰は柔らかだ。高貴な家の出身だろうか。魚龍書院の面々は移動速度が並はずれている。姿が見えない時には、都で暮らしているのかもしれない。



 そんなこんなで夜が明けた。明山雨は、今朝も目覚めと共に石の門まで下りて行った。道々生で食べられる物を口に入れつつ、ぶらぶらと山の中を歩く。土や晩春の青草が、心地よい空気を運んでくる。山暮らしの長い山雨にとっては、馴染みの深い香りばかりだ。


 今日も探しにくる者はいなかった。石の門に着くと、鳥の匂いがしないことにホッとした。


「あーあ」


 しかし、山雨の目には残念な情景が映っていた。


「迂闊に触ると怪我するかもしれないなあ」


 門の脚元をぐるりと一周するようにして、図形や文字を刻んだ物が置かれていたのだ。素材は様々である。木、石、金属、貝殻、布、果物や昨夜の焼魚まで利用されていた。色や形、大きさも不揃いだ。桃が使っていた、勾玉を二つ組み合わせたような図形がある。その外側に枠が付いているパターンもある。文字だけのものもある。通り抜け防止の罠だとは思う。だが、偽物もありそうな気がした。但し、どれがフェイクなのか、或いは全て本物なのか分からない。


「まあいいや」


 山雨は、おもむろに足を上げると、無数の罠を踏み越えた。



「帰ったな。席につきなさい」

「おー、雨雨、お昼取ってあるから、後で厨房行ってきなー」

「誰のどの陣が有効だったのか、興味あるよね」

逍遥自在(じゆうじん)小明(みんぽよ)にも、思い通りに行かないことはあるものなのですね」


 舟は悲しそうに山雨を見て、心のままに口ずさむ。


栄華(うぃんわー)東流水(どんろーすい) 万事(まっくしー)皆波瀾(がいぼうらん)

「気にすんなよ」

「うん」


 舟が吟じた詩句の意味はよく分からない。だが桃の態度で、なにか辛辣なことを言われたらしいと感じた。舟は微かにふふと笑って、手の甲を口に翳した。切れ長の目が物憂気にたわむ。


「弟子どもよ。静かに!」


 無駄口を叩く生徒たちを、院長が一喝する。強制送還された明山雨も加えて、生徒四人の授業が始まる。


「午後は午前中の反省点を各自まとめて、その後陣法の研究時間とする。明山雨は鯊魚宝典(さーゆうぽうでぃん)を写し始めなさい」


 山雨はやりたくなかったが、今は逃げられない気がした。仕方がないので墨を磨る。ゆっくり磨って時間を稼いだ。勿論、その場にいる全員にバレバレである。全ての書院メンバーがお見通しであった。


 だからといって何かを言われるわけではない。それがまたつらい。誰も明山雨に顔や目を向けてはいない。しかし、彼等の視野は物理的に広いのだ。そればかりか、内功を使って周囲の様子を見ているので死角がない。そのことを山雨は知らないが、見られていると感じていた。彼等は自分の課題に集中しながら、きっちりと山雨の様子を伺っていた。



「そろそろ見せてみろ」


 院長に促されて、三人の門弟達が書き上げたものを提出した。順番にアドバイスを受けてから外へ出る。山雨も立って出て行こうとした。


「明山雨、黒ばかり見ていて目が疲れただろう?」


 院長が呼び止める。またおかしなことを言い出した。


「疲れてないよ」


 山雨は即座に否定した。


「まあ、いいから」


 良くはないのだが、あまり抵抗して暴力を振るわれても馬鹿馬鹿しい。なにしろ院長には、「殆どの危険から逃げられる歩き方」が通用しなかったのだ。多少発見を遅らせることには成功した。だがそれだけだ。結局は見つかって連れ戻されてしまった。


「疲れてはいないけど」


 山雨は、不満を漏らしながらも歩み寄りの余地があるような雰囲気を醸し出してみた。院長は満足そうに頷いた。


「目の体操をしよう。予防にもなるから」

「目の体操?」


 また何かの術をやらせようとしている。指の体操の時にも、お手本を見せた院長の指先からは変なものが出ていた。昨夜雲風桃から聞いた話では、その変なものは、身体の中にある力である。つまり、内功を教えようとしているのだ。


「ひとまず外に出よう。部屋の中にずっと篭っていると眼が悪くなる」

「ずっとじゃないけど」

「いちいち反抗するのは良くない」


 山雨は極めて不快だったが、部屋の外に出るのは賛成である。そのまま書院の敷地からも出てしまおうと考えた。院長が席を立つ。山雨も立ち上がる。着いていくと庭に出た。三人の弟子たちが庭の三ヶ所に散らばっていた。


 (ろう)大師兄(だいしーひん)は、木の棚に置かれた干果物をいじっている。一昨日山雨がこの庭に初めて足を踏み入れた時と、全く同じ行動であった。今日も変わらず茶色の服に茶色の髪紐で、大師兄はすっきりとした出立ちだ。ふっくらと丸い手が、器用に果物を動かしていた。干されている果物に大きな種類は見当たらない。もとから小さな種類が乾燥して更に取りにくくなっている。


「ん?」


 何気なく見ていた干果物のザルだったが、なんだか変わった並べ方になっている。ザルの大きさはまちまちだが、整然とバランスよく置かれていた。ザルの中にある干果物も、隙間だらけの場所と間が詰まりすぎている場所があるのだ。


「ああ、そうか」


 干果物は、勾玉を二つ組み合わせた形に並べたザルと、小さな長方形に並べたザル、そして文字に見える形にしたザル、その三種に分かれていた。山雨は文字が読めないので、本当は絵なのかもしれない。全くの偶然かもしれない。だが、どうにも不穏な感じがするのだった。



 雲風天(わんふぉんてぃん)院長は、山雨の様子に構わず庭から山へと歩いてゆく。山雨は他の二人の様子も確かめた。散仙に生き延びる術を教わってから、こんなにも不安を感じたことはなかった。


 (ざう)は優雅にしゃがんでいる。庭の片隅にある野菜畑の手入れをしているのだ。舟が着ているゆったりとした白い衣は、かなり嵩張るつくりである。土がつくのを気にせず、裾や袖の垂れを地面に長く引き摺っていた。山雨から野菜畑は半分くらいしか見えない。だが、やはり微かな違和感がある。一見無秩序に植えられた作物だ。見える部分をよく見れば、何かの図形の一部にも思える。


 (とう)は、木戸の近くに植えられた大きな柳の木の下で飛んだり跳ねたりしていた。足先で地面に図形を描いたり、石を蹴上げて内功で空中に留めたり。石を目まぐるしく動かして様々な形を空中で組み立てたり。


「お前さんも、すぐ出来るようになるさ」


 明山雨は、ならなくて良いです。と言うひとことが喉元まで出かかった。なんとか呑み込んでやり過ごす。院長はスタスタと山を下りてゆく。今日は普通に歩いていた。竹笠と棹は変わらずに装備しているが、掴まれと言わなかった。


 手摺のある崖上の細道が、二手に分かれていた。片方は河原へと下る。もう片方を辿れば石の門に着く。院長は河原への道を選ぶ。山雨もやむを得ず従った。


 昨夜魚を食べた場所まで歩く。院長は流れに向かって立った。


「隣に来なさい」


 山雨は言われて是非もない。黙って院長の隣に立った。


「さあ、目を緩めて」

「目を?緩める?」


 明山雨は困惑した。



大家好だいがあほう

みなさんこんにちは

川は好きですか

中国の古い詩句にはよく長江が出てきますよね

長江は東に向かって流れてゆく

本文中の詩句は、

李白: 701-762

古風五十九首 其三十九·登高望四海

より


後書き武侠喜劇データ集

功夫

カンフーハッスル

Kung Fu Hustle

2004

監督 周星馳

武術指導 袁和平、洪金寶

2004年にはまだ元気で若手の映画で武術指導してたんだねぇ

阿星 周星馳

カンフーでハッスルな素晴らしい映画

秘伝の書売りつけ役で袁祥仁が出ている

お気に入りは琴魔だいごー


ねいほうの人はだいごー

にーはおの人はだーがー

普通話配信で観た武林外伝の誰かが妹妹をむいむい言う場面があったけど、ネタなのか香港人なのか不明

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