第八話 明山雨と月夜の魚
鵲姐が身をブルブル震わせて飛ばした水は、川岸一帯に降り注ぐ。院長は棹を、楽は紐を巧みに操って水滴を川へと戻す。桃は摸魚功で動き回る。川辺の小石を次々に蹴り上げると、鵲姐の頭の上に真っ直ぐ立った。
鵲姐が上目遣いになるが、頭に乗った桃のことは見えないようだ。桃は人差し指と中指をすっと立てて顔の前に持っていく。すぐに院長と同じ白い靄が出た。体の周りにも靄が立ち込める。程なく靄は空へと昇り、勾玉を組み合わせたような白い形を星空の中に描き出した。桃が蹴った石が、河岸の地面で黄色く光り出す。石も空に現れた模様と同じ形に並んでいた。
しばらくバサバサやっていた鵲姐だったが、やがて穏やかな寝息を立て始めた。一方、我に返って再び逃げ始めた明山雨は、呆気なく院長に捕えられた。
「結界門から出られたら自由だ、という約束だった筈だが」
「そっちの掟なんて関係ないんだけど」
「とりあえず夜食でもどうすかね?」
また押し問答になりそうなのを察して、桃はわざと話に割り込んだ。
「だったら、ここでお酒呑もうよ」
楽が嬉しそうに言った。
「三師弟も呼んでさ」
「それもいいすね」
「でしょ?いい月だしさ。みんなで魚捕って。いいでしょ」
「いいすね!ね、師父」
「そうだな。いいな」
院長の同意を得ると、大師兄が雲風舟を連れて来た。二人は酒壺を下げていた。舟は、皓月のもとに佇むと、風に砕けて消えそうな風情である。あの世の者かと疑ってしまう。
「魚を捕ろう」
いつの間にか髪を結い直した楽が、張り切って沢に飛び込んだ。舟が袖を振ると、白銀の投網が川面に飛んで行った。
桃は袖から取り出した小さな木の船を浮かべた。桃の指先が黄色く光り、勾玉を組み合わせたような円形の模様が現れた。今回は円の周りにもなにか図形が見える。岸を離れた小舟は掌に収まるほどだ。観ていると、光の中から一部が粘土のように伸びた。そして、舟に合うサイズの黄色い漁師が形を取った。
院長は明山雨の隣に立った。山雨は警戒した。
「魚を捕ってみせてくれ」
院長は言うなり、棹の先を川底に刺した。手から棹へと白い靄が走る。靄が水中に入ると、太った魚が山雨の方へと飛んできた。
「わっ」
山雨は思わず受け止める。捕ってみせろと言った筈だが。自分で捕りに行かないと投げつけられるのだろうか。
「雨雨、魚はここに入れときな」
桃が掌サイズの箱を出す。訝しがりながらも、山雨は言われた通りにした。十六、七の体格がいい少年が両腕に抱える程の立派な魚だ。それがピチピチと跳ねながら小さな四角い生簀のなかへと吸い込まれてゆく。魚は生簀にちょうどいいサイズになって、元気よく泳ぎ回っていた。
ゆっくり眺める暇もなく、二匹目の魚が飛んで来た。今度は楽の仕業である。夜の激流に潜って、石の陰にいた魚を掴み取ったのだ。飛沫も上げずに水面まで浮かび上がり、ヒョイと気軽に放ってよこす。
「ほれ、落とすなよ」
院長からも次が来る。そうして何度か受け取らされた。
山雨は、ふと冷静になった。
「自分で生簀に入れてよ」
「手伝わざる者食うべからず」
院長の声が不機嫌そうに響く。
「要らないからいいよ」
「うまいよ?」
桃が勧めてくるが、山雨は、楽から投げられた魚を避けた。誰も受け取る者がなく、魚は月夜の岸辺で苦しそうに暴れていた。山雨はなんだか気の毒になってしまい、結局は魚を拾い上げた。
「それは洗ったほうがいい」
山雨が手にした魚を桃が受け取り、川で表面を洗った。意外にも神経質なのだな、と明山雨は感じた。
「ここ、鵲姐の怒りを込めた気が混ざった水が跳ねたところだから」
聞いても理解出来ない理由があったようだ。
「そんなんが着いたままにしとくと染み込んじゃうから。それが染み込んだ魚を食うと、影響があんまり無くてもイライラしちまうんだよ」
「ふうん」
「怒りの影響で魂が砕け散ることもある」
断言した。見たことがあるのだろう。山雨の脳裏に、誰も座っていない書卓が過ぎった。
「ほらまた、落ちたよ」
話している間に、岸のあちこちに魚が落ちて地面をビチビチ叩いていた。最初は山雨のいる場所に投げていた院長と楽が、今はところ構わず放り上げるのだ。山雨は軽く眉根を寄せた。
舟のほうを見ると、黙って作業をしていた。集中力が必要なのだろうか。解説も雑談も嫌味もなく、黙々と網を操っている。しなやかに袖を振って投げた網を、白銀の靄を出して引き戻す。中には魚が数尾かかっていた。
「もしかして、靄みたいなのが見えてんのか?」
山雨の目の動きから、桃が気づいたようだ。
「それも散仙に教わった?」
「違う」
普通は見えないのだと判ると、山雨は益々心を閉ざした。気に入られたら書院に入門させられる。山雨は警戒心を募らせた。
「あれは自分の中に流れてる気って言う力で、内力とも呼んでる。内力を動かす技術が内功だよ。内功を使うと、吹き飛ばしたり引き寄せたり出来るし、物に内力を流すことも出来る」
山雨は知らなくてもよかったのだが、大人しく聞いていた。相変わらず、聞いてもなんだか良く分からない。しかし桃の話からは、純粋な親切心が伝わってきたのだ。院長のように何故か書院に入門させたがったり、楽のように人体実験の為に引き留めていたりする人ではないと解った。そういう優しい人の話を聞かないのは悪いと思ったのだ。
「軽功はもう何度も見てるよね。身体を軽くして動きを速める技術だよ。大跳躍もできる。魚龍書院の軽功は、摸魚功に始まって摸魚功に終わるんだ。その名の通り、魚を捕まえるのが鍛練方法だよ」
魚くらい山雨でも捕まえられる。山雨はこれまでにたくさんの魚を自分で捕って食べた。だが、軽功は身についていない。簡単そうに聞こえても、何か特別の鍛錬方法があるのだろう。
「訓練で練り上げた内功や軽功に耐えられるだけの肉体を鍛える技術が外功だよ。魚龍書院の外功は魚龍鱗功で、この川にひたすら浸かって鍛えるんだ」
山雨は、弦月の下でうねるように走る眼前の渓流に目をやった。楽が魚を放り上げている。表情はよく見えないが、にこにこしているのだろう。視線に気がついて手を振ってきた。桃が手を振りかえす。山雨が同じことをしたら、流されて岩にぶつかりそうである。鍛えるどころか、始めることすら困難だ。
「大師兄の龍鱗葯櫃功は独門心法で、魚龍鱗功で練り上げた硬い身体で内功を使った再生や解毒をしてるんだって」
良く分からない。桃は話しながら、黄色い光の漁師たちの相手をしていた。彼等サイズの竹籠に山盛りの魚を受け取って生簀に入れるのだ。
「兵器はそれぞれ好きなのを選んでるよ」
兵器とはこの辺りの言葉で武器のことである。得物という言い方でも通じる。
「師父の魚龍竹、大師兄の雲魚龍帯、舟師弟の銀網手套は見ただろ」
見たところ何の変哲もない棹や髪紐に名前が付いていることを、山雨は奇妙だと感じた。
雲風舟が銀網手套に包まれた魚を抱えて、こちらへしずしずとやってくる。薄闇の中をまるで滑るように動くので、ますます人間以外の何かに見える。
「皓月に銀鱗を煌めかせ星の河に遊び月の波に踊る素晴らしい魚たちが、今宵眩い月の下、我等が魚龍山の恵み豊かな懐で、伸びやかな夜の宴に急ぎ向かいます。ひたむきな学徒が集う風爽やかな魚龍書院を仰ぎ見る、この密やかな渓谷を心安らぐ食卓に変えましょう」
声音だけ聞いていると嘆きの囁きにしか聞こえないが、川辺で魚を食べようと言っているだけである。山雨は「魚」と「食卓」のニ語だけを聞き取った。それだけ解れば充分である。
「そろそろ焼くか」
院長も棹を川から引き上げた。鵲姐の姿が見えない。巣に帰ったのだろう。
「雨雨もたくさん食えよ!昼も晩も飯抜きだったからな!」
緑がかった月明かりの中で、屈託のない笑顔が心を温める。舟は昼日中でも影があり、桃は真夜中でも光を放つ。底の知れない院長と腹の読めない楽も加わって、魚龍書院は四人で調和がとれていた。その中に自分が居ることを、明山雨は何故だかとても自然なことのように感じた。
大家好だいがあほう
みなさんこんにちは
そうそう、ネームド武器は好きですか
後書き武侠喜劇データ集
香港電影ではないです
田舎の一般家庭風門派ちとーめんのお話
鵲刀門伝奇
邦題不明
Legend of the undercover chef
別名 象牙門伝奇
は?門派の名前変わった?二期未見なので戸惑う
第一季2023
第二季2025
劇情 / 喜劇 / 動作 / 武俠 / 古裝
動作タグが入るだけあって、アクションシーンがカッコいいです
令和ですがネタ祭りな古典的武侠喜劇
往年の奇天烈絶技な香港電影とは全く違うテイスト
まあ、あの頃の香港だけが世界の中で特殊なアクション喜劇作ってたんですが
監督 唐鐵軍、吳迪
片頭曲 敞亮
词:白宇翔/赵屹
曲:小壮
编曲:郭峰
第一期オープニングがかっこいい
第二季観てない聴いてない
主演
西門長海 西門長在 趙本山
じーちゃんかっこいい
とぼけたクソジジイとのメリハリもいい
幕開けの双子演技に引き込まれる
古いタイプの喜劇なので、主役以外のメインキャラたちがおおむね煩くて酷い言動をする
主役もなかなかに酷くはある
おじいが不憫な様子を楽しむドラマ
もうみんな、勝手なことばっかり言わないでそっとしておいてあげて!
一季の敵が倭寇なのでそこが地雷の人は注意
二季はまだ観てない早く観ないと!