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魚龍書院/ゆうろんしゅーゆん  作者: 黒森 冬炎


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第四十八話 魚龍書院の日常

 邪教の手の内を探るため、桃が斥候用宝具を開発することになった。


「三弟、お母さんと世話になったという設定の家は、何処にあったことにするつもりだい?」


 楽が聞いたのは、銀銀に話した、スパイ事件後の舟についての設定のことである。


「特に言わないつもりですよ」

「うん。それが一番いいかもしれないね」


 変に詳しい設定をすると、追及されて真実が明るみに出るかもしれない。


「それより、李叔は楚府とも取引があったんです。そのことの方が気になりますよ」

「楚府っていうと、夜美人の?」

「はい。夜美人と、西狼大王妃姉妹のご実家です」

「スパイ事件の後まもなく、李叔の息子さんが重病で転地療養に行ったのも気になるね」

「ええ。引越し先は元の南雀王府があった地域ですから」

「偶然何かを知ってしまったのかもしれないねえ」

「西狼のスパイが狙っていたのは、南雀王の軍事機密ですからね。山荘の失敗後、子供の命を盾にスパイの手下をさせられていたのかもしれません」


 舟が憶測を口にした。院長は違う意見のようだ。


「むしろ逆とも考えられる。楚府で何かを見てしまい、息子に毒を盛られたとしよう。それに気づいて、敵対勢力である南雀王に保護を求めたのかもしれない」


 楽は院長の説をさらに展開してみせた。


「あの地域は、皇帝の直轄地になることが既に決まっていたのかもしれない。だとすると、宮中のツテでその地での保護を取り付けたケースもあり得るよ。御用商人が突然引退したというんだから、そのくらいのことがあったんだとしても、おかしくはないんじゃないかな?」

「どちらにしても、舟は本当のことを言わない方が良さそうだな」


 院長は気の毒そうに舟を眺めた。


「因縁が残ってるのは、気が抜けなくて嫌だねえ」


 楽は疲れたように笑った。


「僕の仇は、とっくにみんないなくなっているから、気楽なもんさ」



 楽の住んでいた村は、現在草木に覆われ跡形もない。草の間に残る朽ち果てた鎧や武器が、滅亡の怨みを漂わせている。そこは小さな山村だった。ある日突然、南雀王が村に焼き討ちをかけた。山奥の村だったので、そこに叛乱物資を隠すつもりだったらしい。


 新たに切り拓かずとも、村を焼き払えばある程度の広さがある平地が手に入る。そこを密かな拠点として、鉄鱗港を落として要塞を奪う。同時に神鵲京までの町や村を抱き込んで、叛乱軍を形成してゆく。足場が固まったところで、水陸両路から首都神鵲京へと攻め登る腹づもりだったのだ。



 それは九年前、謝一族滅門とスパイ事件が同時に起きた夜から数えて、五日目の出来事だった。南雀王は、謀叛人の残党狩りをしていた。それを隠れ蓑にして、軍事拠点を置ける場所を物色していたのだ。楽の村も残党狩りを口実に焼かれた。不幸なことに、南雀王は楽の村を拠点として気に入ったのである。


「これ持って!」


 蹄と鎧の立てる音が山中に響いた時、村外れの川辺に住んでいた薬師夫婦が、小さな息子の胸に一冊の本を押し付けた。表紙に貼り付けた題箋には、墨の香りも新しく「蓮露(りんろう)仙草(しんそう)(ふー)下冊(さーはっ)」と記されている。一族に伝わる秘伝書の写しだ。正式に秘術を学び始める準備として、父が手ずから写してくれた本であった。


「うん」


 子供は楽だ。素直に受け取った秘伝書を、大事そうに懐にしまった。


「防水布、秘薬、携帯用薬箱、拝師礼の道具、着替え、枕、仙草、組み立て式の竿」


 両親は唱えながら、古びた薬櫃に物を入れていった。気密性が低下して使わなくなった唐櫃だ。大昔に滅びた薬仙一族の谷、雪蓮谷に自生する仙草を煮詰めた防水防虫液が塗られている。両親が秘伝の防水布を中に敷き込んでくれた。木製ゆえに経年劣化で隙間が出来ていたのだ。反面、隙間が呼吸を妨げない役割をしていたので、上部に布はなかった。


「さ、中に入って!」


 その時、村の方から叫び声が聞こえて来た。窓から覗くと、火の手が上がっている。楽は両親に手を添えられて、薬櫃によじ登る。


「これ呑んで!早くっ」


 楽は、渡された仮死薬を素早く飲み込んだ。これを飲んでおけば、万が一浸水しても溺死を防止出来る。効果は五日間。五日経てば自然に目が覚める。


「蓋、閉めるよ」


 楽は薬櫃の中にしゃがんだ。蓋がしまると、頭の上に少しゆとりがあった。


「目が覚めたら、すぐに蓋を開けて岸に上がるんだよ」


 箱の外から声がした。組み立て式の竿は、箱を舟にして岸まで漕いで行くための道具だった。


「五日じゃ海までは流されないだろうけど、目が覚めたらのんびりしてるんじゃないよ」

「分かった」

「じゃ、川に入れるからね」


 そう言っている間にも、悲鳴と炎は近づいてくる。隙間から入ってくる僅かな明かりに励まされ、楽は川の中へと落とされた。しばらくして眠くなり、楽は布の間で丸くなった。



 夜からの大雨で川は荒れ、薬櫃はあちこちぶつかった。枕や服や薬草がクッションになり、幸い大事には至らなかった。


 後から分かったことなのだが、建てたばかりの幕屋を散仙が襲撃したのは、その翌日のことであった。楽の入った薬櫃が書院の下に漂着したのは、更にその次の日だ。見えにくい場所に打ち上げられたので、攻め込んできた禁軍に見つかることも免れた。


 魚龍書院の惨劇が起きた翌々日、雲風天院長が魚龍渓谷に帰って来た。



「後は知っての通りだよ。そういえば、山荘は元々、不満分子が芸術家気取りで集まる場所だったみたいだね。事件の夜に盗まれた絵には、南雀飛翔図って題がついていたらしい。南雀王の肉筆だって言う噂なんだ。太陽に向かって飛ぶ雀が、翼を燃やしているように見える絵だったんだよ」

「燃える鳥が天へと飛翔する絵だったってこと?」

「聞いた話だけどね。ニ婶なら持ち出した本人だから、知ってると思うよ。この前はそこまでの話は聞けなかったけど」


 燃える鳥で連想するのは鳳凰である。鵲国の神鳥は鵲だが、他の国では鳳凰を帝王の象徴とする例も見られた。つまり、あの夜に盗まれた絵は、帝位を狙い、神鵲に祝福された国そのものを否定するとも受け取れる一幅なのだ。見つかれば大逆罪だ。


「阿雪が来た日、ちらりと聞いたんだが、その絵は台紙が二重になっていて、本物の血判状が隠されていたそうだ」

「えっ、じゃあ、逃れようがない証拠だったんですね?」

「それでも握りつぶされたのか」


 桃は悔しそうに涙を滲ませた。明山雨は、桃の背中を軽く叩いて慰めた。


「我等は今まで通り、過ごして行くだけだ」


 院長は弟子たちを励ますように笑った。



 何か穏やかな解決を見たかのような雰囲気である。しかし、明山雨は騙されなかった。魚龍渓谷に建つ小さな書院の日常は、平和な学問所のそれとは違う。武林の猛者たちが襲撃して来ることがある。身内が新薬の人体実験をしようとする。身内の友達である怪鳥が攻撃してくる日もある。


 周辺勢力は時代と共に変化する。現在の王朝に限らず、いつの世でも公輸の宝は狙われるのだ。豊かな自然と、固有の木材や鉱石に恵まれているため、天然資源も狙われる。険しい山の渓谷は、天然要塞でもあった。一帯の山々が丸ごと狙われてもいたのだ。


 楽の村があった水源地帯へ至るには、荷車が通れるルートもある。だが、そこから始まる魚龍川は、すぐに岩の多い急斜面を馳せ下るのだ。楽を乗せた薬櫃は、途中、ウォータースライダーのような移動手段であった。雪蓮谷の秘術で強化した薬櫃は、壊れることなく流れ下った。普通ならバラバラである。



「阿桃」


 明山雨は、食卓を離れる桃に声をかけた。


「なに?雨雨」

「僕、ひとりで生き延びる自信がなくなっちゃったよ」

「あはは、情けない顔してんなあ!」

「いやだって、無理だよ?スパイだの、叛逆者だの、禁軍だの、武林高手だの、古代の邪教だの、一度に来られたら、何処に逃げていいかさえ分かんないよ」

「あたしら、みんな同じだよ。だから書院で一緒に学ぶんじゃないか」


 明山雨は、魚龍書院に到着してから初めて、この学問所の存在意義を感じた。


笑傲江湖2:东方不败

スウォーズマン/女神伝説の章

Swordsman Ⅱ

The Legend of the Swordsman

1992

武侠 古装 愛情 奇幻 喜劇

監督 程小东

脚本 邓碧燕、徐克

ツイハークが噛んでるので、当然「秘曲 笑傲江湖」は原作というより原案扱い


令狐冲(李连杰饰)

色々とひどい

梁の上などに乗っているシーン、ワイヤーとかじゃなく実際に乗ってそうな体勢

ビュンビュン飛んでても動きにはリアリティがある

ジェット・リーははまり役

岳灵珊(李嘉欣饰)

陰陽体な師弟、湿度が高いストーカー

任盈盈(关之琳饰)

本来のヒロイン

东方不败(林青霞饰)

本作のメインヒロイン

葵花法典の修練課程で女性化する前は男

人気が出たので続編はブリジット・リンだけ続投


東方不敗、映像作品ではどれも原作とかけ離れた設定のうえ、何故かキャラが独り歩きして大人気

原作者は生前、ワカッテナイ!とお怒りだったとか

原作東方不敗は、見た目も中身もあの気持ち悪さが良いのにね

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