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魚龍書院/ゆうろんしゅーゆん  作者: 黒森 冬炎


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第三十四話 明山雨と客桟

 藍色の服を着た貴人に背を向けて、明山雨(みんさんゆう)は崖の上まで戻って来た。分かれ道での選択肢は二つ。南雀王(なんじゃーうぉん)山荘の廃墟に行くか、坂道を下るかである。山荘までの距離は不明だ。坂を下りきるころには陽が落ちているだろう。そこから飛花客桟まではそれなりに近い。明山雨は、どうせなら軒下を借りて眠りたい。飛花客桟(ふぇいふぁはっざーん)に屋根のある厩や車庫はなかった。それでも軒はある。野天よりは雨風を防げるだろう。


「客桟に行くか」


 そう呟くと明山雨は、坂道を下った。



 明山雨が飛花客桟に到着した時には、辺りは薄闇に包まれていた。入り口の提灯は既に明るく灯されていた。


 客桟の食堂から料理の匂いが流れてくる。馬車も馬も見当たらないが、人声は漏れ聞こえてきた。内容は分からないが、男性二人のようだった。跳ね戸を上げた窓からテーブルが見える。青竹甘露の壺が幾つか並んでいた。


 明山雨は、この客桟に楽が出入りしているのを見かけた事がある。彼が持って来たのだろうか。青竹甘露が置かれたテーブルには誰もいない。紅い布が口に被せてある茶色い壺が、整然と並んでいるだけだ。


 客桟の中を蝋燭が柔らかな灯りで充している。話し声の主も、恐らくは蝋燭が設置されたテーブルに着いているのだろう。窓から覗いただけでは、どんな人が話をしているのか見えなかった。



 明山雨は窓から離れると、客桟の建物に沿って回って行った。裏庭には山が迫っていた。そこには薪小屋と鶏小屋、そして井戸があった。他の倉庫は建物内にあるようだ。明山雨は「いつもの山歩き」を使っているため、鶏たちは大人しくしていた。夕方なので、薪割りをしている人は見当たらない。


 その先は客室だ。この宿は平屋で、食堂脇の廊下を伝って客室へと抜けられる造りになっていた。明山雨はそのまま進んで、元の場所まで戻ってきた。窓の下で眠るのは落ち着かない。かと言って、裏庭で勝手に休むのも気が引けた。客室の付近に泊まったら、泥棒と間違われる可能性が高い。


 明山雨は考えた末、客桟の正面から裏庭へと回る途中の壁に寄りかかって、軒下で夜明けを待つことにした。そこには高い明かり取り窓が一つあるだけだったのだ。


 早朝、鶏の鳴き声で目が覚めた。明山雨は竹筒の仙水で口を濯ぎ顔を拭くと、真っ直ぐ門へと歩き出した。昨日、南方への道で落石に遭うと予言された。ではどこへ向かおうか。都の外壁を回って西の方へ行くか、都の手前で燕辰江を渡り、北方地域へ向かうか。楽が言っていた武林大会というものを、見物に行くのもいいかもしれない。明山雨なら気付かれずに会場を歩く事が出来るだろう。そんなことを考えながら、明山雨はだんだん明るくなる空を眺めた。



「ちょいとお待ちよ。あんたさん、明山雨だろ?」


 後ろから中年女性の声がする。明山雨が振り返ると、前掛け姿の小柄な女性がいた。前回ここで楽にご馳走になった時には見かけなかった人である。雰囲気から見ておかみさんだろう。旅人慣れした、落ち着いた感じの女性だ。


「雲神医から預かってる物があるんだよ」


 怪訝な顔で見る山雨に、おかみさんは呼び止めた理由を話した。


「今持ってくるからね」


 雲神医はおそらく雲風楽だろう。楽はこの客桟に出入りしているし、薬の知識が豊富で、雲という姓を名乗っている。ここの軒下を借りることを見越して、道中便利な薬でも言付けてくれたのだろうか。


 戻って来た女性の手には、はたして二つの薬瓶が握られていた。


「こっちが傷薬、傷に振りかけて使うんだよ。かけすぎると却って悪くなるから気をつけるんだよ」


 白い瓢箪型の小瓶を渡しながら、女性が説明した。


「こっちは解毒剤。もしも黒い血が出たら飲むように、って聞いてるよ。一回一粒、一日に一回だよ。これも、たくさん飲むと良くないからね」


 後から渡した茶色い壺型の小瓶についても使い方を教えてくれた。


「ありがとう」

「なに、あたしは預かっただけだよ。昨日あんたさんに気がついた時には、もう眠っちまってたもんだからさ。朝になっちゃったけど。それじゃ、渡したからね。道中気をつけなさいよ」

「うん」


 それからおかみさんは、小さな包みを懐から取り出した。


「これ、昨日の残り物だけど。山鳥の炙り肉だよ。持ってきな」

「ありがとう」

「じゃあね。あたしは戻るよ」

「それじゃ」


 明山雨は、薬と肉を素直に受け取った。おかみさんは優しく笑うと、客桟の屋内へと立ち去った。



 人相書きは秘密裏に出回っている。客桟なら手配書が届いてもおかしくはない。楽はこの客桟で神医として尊敬されているから、人相書きを見ても通報されないのは頷ける。だが飛花客桟は、明山雨が罪人だと知っているのだろうか。知らないのか、それとも冤罪だと楽から教えられたのか。そのどれであったとしても、おかみさんに二心はないようだった。


 明山雨は幼い日々に、優しそうな様子で腐った水や虫の入った食べ物を渡してくる性悪たちと出会っていた。何度か騙されて、なんとなく悪意を読みとれるようになった。飛花客桟のおかみさんには、そういう腹黒な雰囲気がない。


 明山雨は、窓を開け始めた客桟の建物に向かって、深々とお辞儀をした。



 梨花城には入らず、明山雨は街道を西へと進んでいた。次の街との間には、村も幾つかある。そうした村々や離れて建つ民家は、街道から外れた山の中にあった。街まで物売りに出かける村人が、時折脇道から街道へと降りてくる。それを狙う山賊もいた。


「きゃあああっ」


 明山雨が食べ物を探しに脇道へと逸れた時、絹を引き裂く悲鳴が聞こえた。若い娘のものだろう。緩やかに湾曲する山道を見上げると、荷車を引いた娘が山賊に囲まれていた。河原で鵲菫を摘んでいた人と同じ格好である。そんな姿の人が荷車を引いているなんて異様な光景だ。


 山賊は、たった今木陰から飛び出して来たのだろう。明山雨が見ている前で囲みが完成した。


「ひいいい」


 白い帷帽の娘は、たくさんの刃物を向けられて怯えていた。荷車の取手にしがみついて、ガクガクと震えていた。



 次の街まではかなりある。役人を呼んで戻ってくるころには手遅れになりそうだ。かと言って、武功のない明山雨では、十人くらいいる山賊に勝利するのは絶望的だ。石を投げるくらいならできそうだが、それも外す確率のほうが高い。


 さてどうしようかと思案していると、緑輝く枝葉の陰から白い塊が飛び出して来た。


「えっ、いいの?」


 思わず山雨の口から疑問の言葉がこぼれ落ちた。目の前では、身元を隠すつもりが全くない雲風舟が、いつもの絵傘を片手になよやかな佇まいを見せていたのだ。



 銀糸の混ざる白い袂が翻る。山賊たちは手に手に安物の刀を持っていて、時折石も投げていた。舟は襲われていた人物の前に出た。手にした傘を傾ける。傘には内功を通してくるくると回す。飛んできた石は投げた者の元へと帰る。それを砍刀で弾く者もいた。眉間に喰らって昏倒する者もいた。


「なんだ、ひょろっとした野郎だな?」

「それ、畳んじまえ!」

「やあーっ」


 山賊たちが刀を振り翳して、舟と帷帽の人に襲いかかった。開いた絵傘を回転させながら、舟は長い袖を器用に操る。袖に巻き取られた砍刀は、白蛇の鎌首のように持ち主を襲った。


「ぎゃっ」

「なんだ?」


 避けきれない者どもは、腕や脚を押さえてたじろいだ。舟はその場から動かずに、腕だけで山賊の攻撃に対処していた。明山雨は、まるで踊りを観ているような気持ちになった。


「ひえええ、ふざけやがって!」

「うわわわ、覚えてやがれ!」


 山賊から取り上げた砍刀は、舟の脚元に積み重なっていた。そこに手を伸ばす勇気も失せて、山賊どもは木々の中へと消えていった。



 被害者は、立っているのもやっとなほどに震えていた。風に煽られて帷が割れる。青褪めた小さな顔が見えた。


「その傘。あなた、江水師兄(こんすいしーひん)でしょう?」


 か細く弱々しい声が尋ねた。震えているが、水面を渡る微風の如く美しい声だった。



大家好だいがあほう

みなさんこんにちは




後書き武侠喜劇データ集

三喜老爺に続く初見作品の収録第二弾

SF武侠喜劇


魔幻手机

邦題なし

Magic Mobile Phone

2008

動作 喜劇 科幻 奇幻

主要人物が武で侠なのでおけ

cctv公式で一季ニ季全話無料配信中

監督 余明生

助監督 周国栋 

三季も参加予定だったが2023年に病死


傻妞 舒畅

AI

2060年にデジタル空間で誕生したが実体化できる

開発チームの設定により、起動パスワードは我愛你

孫悟空からの依頼で陸小千を呼びに来るがバッテリー切れでスリープ状態になる

6話くらいから話が動く


陸小千 李滨

うだつの上がらない若者

主人公

偶然傻妞を起動する


黄眉大王 陈创

三蔵法師の肉を食べたい

西遊記に登場する有名な妖怪

阿黄、黄鼠狼、黄鼬の妖怪

傻妞と一緒に2006年に来てしまう


ターゲット層

18歳以下と38歳以上からは低評価

その間の層に人気があった

2000年代初頭の日本の深夜特撮と同じ作風

当時輸入してたら特定の層に受けたのでは

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