第三十三話 明山雨と国師
明山雨は、南鵲城を目指して山道を進んでいた。下がっては上がり、曲がりくねった峠道を進む。一応は幅広い馬車道である。しかし、辺りが暗くなって来ても人っ子一人通らない。客桟どころか茶舗も民家もない。
辺りが薄らと紫色に霞む頃、山道は大木を大きく回った。曲がり切った先が見えてくる。頭上では木々の枝が交差していた。この様子だと、昼間でも光はあまり落ちて来ないだろう。ましてや日暮れ時である。見通しが効かず、足元も暗い。
「やあ、来ましたね」
暗闇の中から声がする。よく見ると、藍色の服をきっちりと着込んだ人物が立っていた。明山雨は見たことが無い人であった。歳の頃は二十代半ばだろうか。生真面目に結い上げた髷には、高貴な人のする冠が飾られている。冠は精巧な銀細工だ。月と星のモチーフである。冠を留める簪は翡翠のようだ。枝に止まる小鳥が表現された逸品だった。
「私には先見の能力がございましてね」
サキミノノウリョクというのが何なのか、山雨は知らない。明山雨がだまっていると、藍色の人は堅苦しい口調で言葉を継いだ。
「ここで貴方とお会いする光景が見えたのです」
俄には信じがたい話である。だが、現れたり消えたりする仙人とも会ったばかりだ。未来の情景を垣間見る人がいたところで不思議ではない。
「ここより先の道に貴方がお進みになりますと、落石に巻き込まれて崖下に落ちてしまわれるでしょう」
明山雨は半信半疑であった。この予知能力者について、実は噂を耳にしたことがある。しかし、知らない単語ばかりだったので理解出来なかった。そしてそのまま忘れた。この人は先帝の兄の孫、永明公主花珠、幼名阿鱗のはとこである。未来予知の異能者なので、玉座争いからは除外された。
除外されてどうなったかというと、国師と呼ばれる特殊な地位にいる。天機台という公立施設で働く、星読み異能者たちの頂点に立つ者が国師だ。肩書きは星辰王、姓は花名を福、字が天音 という。
彼が生まれた夜明けに、季節外れの花々が神鵲京じゅうに咲き乱れたという記録が残っている。記録だけでは無い。彼より年上の神鵲京住民は、みなその日の事を覚えている。花が開いたのは夜明けだが、開いた花は彼が一歳の誕生日を迎えるまで咲き続けた。体験した者なら誰でも、忘れ難いことだろう。
「お戻りになった方が宜しうございますよ」
皇族で特殊な地位に着いている大人なのに、見窄らしい裸足の少年に対して礼儀正しく振る舞った。国公府世子である衛梨月と同じような気質のようだ。梨月が人当たりのよい雰囲気だったのに対して、天音は堅苦しかったが。
「はあ、そうですか」
山雨は気のない返事をした。目の前にいる天音が何物なのか知らなかった。忠告を聞き入れる理由がない。そうは言っても、どうしてもその先に進みたいわけでもなかった。実際のところ、詳しい状況が分からないままでも生き延びることは可能だ。わざわざ危険な町で情報収集をしなくとも構わない。明山雨は、長閑な日々を送れたらそれで良かった。
明山雨は、天音に背を向けてその場を後にした。木々の陰に山雨が消えると、天音の同行者が姿を現した。天音よりは質の劣る藍色の服を着た人々だ。国師の元で働く、天機台の職員である。
「国師爺、うまくいきましたね」
「うん。安心したよ。あの子は奇縁ばかりの人生だから、せめて凶兆は知らせてあげたいんだ」
「その程度なら、天意に逆らうことにはなりませんものね」
「そうだね。他の人達にも教えてあげてることだからね」
国師の仕事は、国の繁栄をサポートすることだ。元々が朝廷の機関なので、国師として私的な助言をすることは禁じられていた。そこで天音は、移動中の雑談という形で、鵲国民を酷い不運から救っていた。中には救いきれない不幸もあったが、天音は全力を尽くしてきた。
明山雨が生まれた時から、天音には度々山雨に関する先見が訪れた。これまでは深刻なものではなかったので、接触は控えてきた。しかし今回は、人為的な落石で、明山雨が無惨な最期を迎える光景が頭の中に浮かんだのだ。
明山雨が生まれた時、花福天音は七歳くらいであった。既に神童として、国師の仕事を引き受けていた。その日は暑さの残る秋の日だった。天音は仕事を終えて、天機台の門を出た。絹張りの立派な輿の中で、天音は急に目を大きく見開いた。
「国師神童、いかがなされましたか」
「しっ、何か見える」
付き添いの公公が気遣うのを押し留めて、天音は先見に集中した。それは、これまでに体験したことが無いほど目まぐるしい光景であった。あまりにも場面が変わりすぎて、何が起こっているのか全く分からないほどだった。
「旅の夫婦が盗賊に襲われ、雷雨になった。打ち捨てられたご遺体から、雷のショックで男の子が産まれた。通りかかった遊医が拾ったが、一年もしないうちに大鷲に攫われた。そのあとは目まぐるしくて何が何だか分からない」
「それはまた数奇な運命を持つ子供でございますね」
「その子はさっき産まれたばかりだけど、もう行手の情景が送られて来るなんて、試練を受けるために下天なされた神仙かもしれないですね」
「それは」
公公は言い淀む。皇帝に報告が必要なレベルの大人物が産まれた可能性があるのだ。
「今の時点では、鵲国の未来に関わりがあるかどうかは分からないですよ」
七歳の子供ながら、天音はもう数年間国師の仕事を任されている。報告するかどうかの判断は慎重に行った。
「もう少し様子を見てから考えましょう」
公公は、黙って頭を下げた。
「少し疲れました」
天音は、なんといってもまだ子供である。先見の力を使うと、大人でも身体への負担が大きいのだ。膨大な情報が一どきに頭の中に描き出されて、七歳の天音は疲れ果ててしまったのである。公公は幼い国師を気遣って、革の水筒とお菓子を差し出した。天音は軽く微笑んだあと、水もお菓子も受け取らずに目を瞑った。
次に天音が明山雨の姿を先見で観たのは、五年後のことだった。五歳にしては痩せて小さな子供が、川を流されている情景だった。そのあと場面が変わって、木の上で果物を食べている姿が見えた。天音は一安心したので、特に報告はしなかった。
次の年には、天音に訪れた先見の中で、明山雨は野生の蜂や野良犬に追われていた。その翌年、白髪で刀傷のある浮浪者風の男と遭遇した姿が見えた。天音には彼の素性が分かっていた。
さらに三年が経った時、天音の先見に現れた山雨は、丐幫の幫主に見咎められて危うく撲殺されそうになっていた。これもまた、あまり好ましくない因縁である。
天音は、その後も度々死にかけている山雨の姿を先見の力で垣間見た。魚龍書院の門前に立つ姿が現れた時には、不安の余り魚龍渓谷へと旅立とうとした。九年前の惨劇が思い出されたからである。
花福天音は、天機台でじっとしていない諸国漫遊の国師だった。それでも、朝敵の巣窟を訪うのは流石に行き過ぎである。皇帝への叛意を疑われそうだ。そうこうするうちに、また新しい先見が天から送られて来た。山雨が落石に巻き込まれるという光景が見えたのである。石が落ちて来た山の上に、素早く立ち去る怪しい黒衣の影もあった。
居ても立っても居られなくなった天音は、落石現場の付近まで出向いてしまった。先見の中で山雨が通りかかった道案内看板を頼りに先回りしたのだ。
「国師爺」
天音が浮かべた必死さの見える表情に、側仕えの公公が不安そうな声を出した。この人は、天音が幼い時からじいやのような立場であった。
「心配はいりません」
天音は、逆天にならない範囲を必死で考えた。先見の内容を偽ることは、助言の効果を高めるためなら許されていた。これは、天音が特別に祝福された予知能力者であったからだ。部下が同じことをしたら、天雷に撃たれてしまう。
「この辺りで待っていましょう」
現場付近に到着して、一行は木陰に隠れて山雨が通りかかるのを待つことにした。そして、待ち人が現れたのである。
大家好だいがあほう
みなさんこんにちは
史実の丐幫主は、首領を團頭と呼んだそうです
南宋の時代から清朝にかけて、富裕な物乞い組織が実在していたようですが、他の実在組織と同様、武侠小説での描写は非現実的
台とは、高台や岸壁にある建造物で、バルコニーがあるのが特徴
後書き武侠喜劇データ集
端役じゃないけど脇役なユンピョウ
福星高照
香港発活劇エクスプレス 大福星
My Lucky Stars
福星系列2
1985
主題歌 同是世俗人 甄妮
日本版 幸運序曲~大福星のテーマ~ 時代錯誤
日本版挿入歌 KUNG FU STAR 元彪
監督 鹧鸪菜 洪金宝
動作指導
洪家班、洪金宝、元彪、林正英、元华、陈会毅
大力丸(铁力威) 成龍
鹧鸪菜の幼馴染
维奇 元彪
大力丸の相棒
大生地 吴耀汉
オカルトパワー訓練中
花旗参 秦祥林
チャラ男 宝石泥棒
胡督查/霸王花 胡慧中
捜査官、福星たちのボス
松本清張 张冲
中の人は残念ながらご本人ではない
日本黑帮女老大 西协美智子
壺振り姉御
三哥 林正英
汚職警官
功夫
普通話 くんふー
広東語 こんふー
日本語 カンフー
英国英語 かんふぉー
香港訛り英国英語 カンフー
1983年に公開された五福星の続編
人物設定は異なる
五福星では水兵服姿の弟分だったサモハンが大福星では大哥
デブゴンと違って、日本が勝手につけたシリーズ名ではない
日本ロケ




