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魚龍書院/ゆうろんしゅーゆん  作者: 黒森 冬炎


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第三十一話 刺客

 桃が指を折りながら締めくくる。


「最後に、人相書きが本物の場合」

「その場合には、本朝の中にもまともな人たちがいるってことだね」

「しかも、国公がまともだってことだよな」

「うん」


 二人は可能性が絞れたところで、対策を考えることにした。


「今のところはどれが本当なのか断言出来ないから、出来るだけ詳しく調べないとね」

「噂になってないなら、武林盟主と梨花仙人に直接聞くしかなさそうだけど」

「それは危なすぎる」

「じゃあどうすんだよ」


 明山雨はまじまじと桃を見つめた。


「な、何だよ?」

「阿桃、今回のことは、魚龍書院全体が関わってるんだよね?」

「え、うん、そうだけど」

「他の人が人相書きを観たかどうか、まだわからないよね?」


 桃は武林盟主の元から、まっすぐ明山雨のところへ来たのだ。


「うん」

「そしたら、書院に戻って今話してた事をみんなに伝えたらどうかな?」


 桃は勢いよく頷いた。


「そうだな!そうしよう」

「あっ、僕行かない」


 流木を掴んだ桃を、明山雨が牽制する。桃はキョトンとして流木から手を離した。


「なんで?」

「何でも何も。僕は入門しないよ」

「でも、一緒に手配されちゃったよ?書院にいる方が安全だろ?」


 桃の言うことは理に叶っている。山雨は、少し考えてから承諾した。


「分かった。一緒に行くよ」

「そうしなよ」

「でも、入門しないからね」

「好きにしな」


 桃は特に入門を勧めてくる訳ではない。ただ、書院にいれば衣食住に困らないし、手配書が出された今となっては書院にいるのが一番安全だと考えるだけである。


「じゃ、行くか」

「うん」



 桃が跳躍しようとした時のことである。川辺の叢から何かが飛んできた。桃は咄嗟に明山雨の流木を回転させた。明山雨は、思わず手を離した。と、同時に無意識に「殆どの危険から逃げられる歩き方」で後ずさる。この歩法は、立ち止まっている時でも有効だ。その点も、「いつもの山歩き」より便利だった。


 だが障眼歩法は物を避ける技術ではないので、その歩き方をする意味はあまりない。武器は広範囲に飛んでくる。さまざまな方向から同時に投げられているようだ。これでは、相手が標的を見失ったとしても、避ける技術が伴わない山雨には当たってしまう。


「わあああ」

「もっと下がれ!」


 桃は重そうな流木を軽々と振り回し、次々と飛んでくる物が四方に跳ね返される。内功の技なのだろう。それでも幾つかは流木に刺さった。武器は匕首のようだ。黒い金属製の薄い刃物である。掌に収まるくらいの長さしかない。匕首を形造る緩やかな曲線は、芸術品の域である。


「けっ!」


 川を背にして桃は明山雨を庇っている。不機嫌ではあるが、冷静だ。全ての匕首を確実に防いでいる。桃は風切音を立てて流木を操っていた。明山雨は、その動きを美しいと思った。山雨が闘う桃に見惚れていると、桃が握る流木を黄色い靄が覆い始めた。


「魚龍舞峰陣!」


 叫びとともに光が渦巻く。流木を中心に、お馴染みの勾玉二つが現れた。流木を囲むように小さく描かれた円が忽ち広がる。桃が跳ね飛ばした敵の暗器は、川辺に陣形を描いていたのだ。叢の中にも跳ね返し、投げ手を陣で囲んでいた。


「何だ?」

「陰陽陣!」

「気をつけろ!奇門遁甲だ」

「やはり公輸が生き残っていたかっ!」

「幻だぞ!落ち着いて陣を破れ」

「破るたって、大師兄、どうすれば」


 叢の中で囁き合う声が聞こえる。その間にも陣は完成に向かう。黄色い光の魚が、勾玉二つが作る円から無数に泳ぎ出す。まるで魚龍山の頂へと舞い昇るかのように、上に行くほど円を縮めて渦を巻く。


「ぎゃああ」

「大師兄!魚がっ!魚が襲ってきます!」

「落ち着け!」

「大師兄」


 黄色い光の魚が作り出す渦が完成すると、桃は無言で摸魚功を使った。騒ぐ刺客をそのままにして、一路魚龍書院へと向かう。



 書院に戻ると、院長と二人の弟子が庭で何かを飲んでいた。爽やかな青竹の香りがする。


「師父!大師兄、三師弟!昼間っからなに呑気に酒呑んでんすか」


 庭に出したテーブルには、「青竹甘露」と言う札が貼られた小さな酒壺が並んでいた。明山雨は酒を嗜むことがない。どんな酒かは分からなかった。


「おお、やっと帰ったか。桃もこっち来て呑め」


 院長が手招きをした。


「それどこじゃねっすよ」


 桃は、流木に刺さったままの匕首を突き出した。


「自業自得だよね」

「大師兄!」

「賞金稼ぎも捕頭もこぞって捉えようとするだろうね」

「叛逆罪だからな。生死問わずだろうて」


 ニヤニヤする院長と大師兄の隣で、舟は悲しそうに首を振っていた。どうやら人相書きの件は、書院の皆に伝わっていたらしい。



「なんだ、しけたツラして。書院の暮らしは変わらんだろ」

「師父」

「ニ師姐、海より深く山より高い西王母の慈悲もかくやと、山賊に襲われて哀れにも馬車を失った貴き旅人を救けたことは、少し軽率ではございましたね。けれど、ニ師姐の英雄的な行動から起きた、今回の手配書騒動で、国公府率いる梨花派、それに加えて梨花仙人親派の人々が皇族側ではないことが判りましたね。それは暁光でした」

「もう全部知ってんのか」

「うん、知ってるよ」


 魚龍書院の情報収集能力は、丐幫(かいぽん)を上回るようだ。


「人相書きは本物だったってこと?」


 山雨は確認した。


「本物だ。これを機に国公府を叩くつもりなんだろう」


 その線は、桃と山雨は思い至らなかった。


「あの時世子を襲ってたのは、ただの山賊じゃなさそうだよ」

「大師兄、刺客だったってことすか?」

「まあそういう事になるだろうね。雲風桃師妹が通りかかったのは偶然だろうけど」

「今更九年前の謀叛事件を蒸し返して、義侠心の強い梨花仙人が助太刀するのを狙っているのでしょうね」

「国公を逆賊に仕立て上げられる、って寸法か」


 桃のちょっとした人助けが、国の内部抗争に利用されたのである。


「大変なことになっちまったす」

「桃よ。そう気を落とすでない。書院が狙われるのは、この地に隠棲を始めた頃からだ。始祖の代からの話なんだ、気にすることはない」


 流石、二千年近くの長きに渡り、周辺勢力から自主独立を認めさせて来た集団だけのことはある。肝の据わり方が桁違いだった。


「まあ、呑め」


 院長は空いた杯に青竹甘露を注ぎ、桃の前に押して寄越した。桃は黙って杯を受ける。



「あ、そうだ」


 一口呑んでから、桃はゴソゴソと袖口を探る。取り出した布に挟まれた草を、楽が目を細めて覗き込む。


「ん?なんだ?」


 院長も興味を示した。


「見たところ、染め物に使う草のようだが」

「雲風桃師妹、この草、どこで摘んだの?」

「神鵲京郊外の河原っす」

「だったら、変異種だね」

「ほう。流石だな、楽よ」


 雲風楽は伝説の薬仙・蓮露(りんろう)の末裔である。まだほんの子供だった九年前、既に魚龍書院に伝わる練丹術秘伝書の閲覧を許される腕前だった。こと薬に関しては、とっくに院長を追い越していたのである。


「変異種!」


 桃は、この草を見た時から思い出せずにいた事が明らかになり、晴れやかな顔つきになった。


「そうか、変異種か」

「うん」


 楽が頭上の髷から髪帯をシュルリと解く。


「見た目は、葉を染め物に使う普通の鵲菫(じゃっがん)と変わんないけど、神鵲京郊外の川辺に生える品種だけは、繊維を強くする効果がある変異種なんだ」


 楽は懐から小刀を出して、髪帯に走らせた。


「傷がつかないね」


 山雨は桃に囁いた。


「すごい効果だな」


 桃も囁き返した。


「なんかまた近くなったね」


 肩が触れ合う距離で囁き合っている二人に、楽がにこやかに話しかけた。


「そっすかね?」


 桃は素知らぬ風を装ってはいるが、耳の先が朱く染まっていた。


「へへ」


 山雨は、桃と仲良くなったと言われて喜んだ。



大家好だいがあほう

みなさんこんにちは


任嘉伦の新作見てますか

女主脱税疑惑でお蔵入りしてたやつが配信解禁

手堅い感じで面白いですね

やはりこう言う役上手いなあ

既視感のある場面は、リメイクなのか類似作品なのか

原作ものなので、多分データが残ってない時代のネットドラマで映像化されていたのだと思う

2025/4/14時点でまだ三話しか観てないけど、今のところ刘若谷が活躍してるのも楽しみのひとつ


後書き武侠喜劇データ集


老虎田鶏

別題名 大鳄斗虾蟆

燃えよデブゴン3 カエル拳対カニ拳

Dirty Tiger, Crazy Frog

1978

監督 麦嘉

動作指導 洪金宝  刘家荣

田鶏 洪金宝

80歳老人妻から16年間逃げている若者

老婆は妻の意味なので言葉遊び

少林寺の刃も通さないという外功、鉄布杉が最強鎖帷子アイテムの名称に

これを巡るドタバタだがけっこう悪人がお亡くなりに


老虎 刘家荣

老虎仔

賞金目当てで田鶏を老婆に引き渡す小悪党

チンピラだけど良いコンビ

豊富な兵器を使いこなす

江湖ニ虎の一人


千手観音 林建明

凶悪女犯罪者 ヒロインではない

少林寺の残像で腕がたくさんに見えるという外功、千手観音ネタのマネキン腕を多用

金錢彪 石天

彪拳 隻眼 悪人親子兄

笑面虎 白彪

虎拳 江湖ニ虎の一人 悪人親子弟

白眉和尚 李海生

少林寺の破壊僧、蟹拳 悪人親子父


この映画について

1から30までの数字を広東語で言えるようになります

兵器の見本市

毒門まで登場する正統派武侠喜劇

活躍するお笑い拳法の元ネタは少林寺系統

ユンピョウとラムチェンインが端役で出ている

監督が警察官役で出ている


タイトルは主役コンビの名前

田鶏はカエル

途中、鶏がカエルに化けたという小ネタがある

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