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魚龍書院/ゆうろんしゅーゆん  作者: 黒森 冬炎


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第三十話 嫌疑

 しばらくして帷帽(いぼう)の人物が去る。桃はその人が集めていた草を少し摘み、布に挟んで袖の中にしまった。


大師兄(だいしーひん)なら知ってると思う」

「聞いてみるの?」

「うん。気になるから」

「あんまり関わらないほうが良さそうだよ?」


 明山雨は、桃が危ないことに巻き込まれるのではないか、と気を揉んでいるのだ。


「別に調べようってんじゃあないよ。何に使う草だったか気になるだけだよ」

「それならいいけど」


 明山雨が沈んだ声を出した。その様子を見た桃は、悪戯そうに猫目を輝かせた。


「何?心配してくれてんの?」

「うん。心配だよ」


 明山雨がはっきりと告げたので、桃は却って恥ずかしくなってしまった。


「なんだよ。心配症かよ」


 桃はちょっと朱くなってモゴモゴと不満を述べた。


「そりゃ心配だよ。あの人怪しかったよ。阿桃も自分でそう言ってたよね?朝廷の人かも知れないよ。暗衛とかいう怖い人たちがいるって聞いたことあるよ。知らないうちに何でも調べられちゃうんだって。しかも、国の偉い人たちが気に入らない者は消されてしまうんだそうだよ。気をつけたほうがいいよ」


 山雨は捲し立てる。桃は感心して聞いていた。


「雨雨、色んなこと知ってるよな」

「そうかな」



 明山雨は滅多に人里に下りない割には、事情通である。彼は裸足でボサボサだ。似たような人々は、縄張り意識が強く排他的なのが常だった。だから、普通であれば見知らぬ物乞いがいる付近で自分達の話をすることはない。


「噂好きな人たちってどんな所にでもいるじゃない。寄り集まって話してるのが聞こえてくるでしょ」

「あんまり人のいるとこ行かないから、分かんないや」

「阿桃はそうだったね。町でも森でも、噂ってけっこう聞けるんだよ」

「ふーん」


 寄り集まって噂をしているボロボロの人々は、丐幫(かいぽん)と呼ばれる情報組織だ。勿論明山雨は、そんなことは知らない。この丐幫では、代表がボスではなく掌門人(ちゃんもんやん)である。ならず者の寄せ集めとは違うのだ。武林盟にも加盟している、歴とした武術門派なのである。彼らは精鋭部隊だ。皇室が抱えるスパイ組織である暗衛と比べても、互角かそれ以上だと言われていた。


 そんな団体から、山雨がなかなかに危ない話を聞けるのは、「いつもの山歩き」の賜物である。相手に魚龍書院門下生レベルの実力がない限り、山雨の存在は認識されないのだ。一度だけ、丐幫主に見咎められたことがある。


 その時には、「殆どの危険から逃げられる歩き方」を必死に思い出して逃げ切った。その後も「普段の山歩き」だけで済んだので、山雨はまた「殆どの危険から逃げられる歩き方」を忘れてしまった。散仙から教わった後、雲風天院長から逃げる時まで「殆どの危険から逃げられる歩き方」を使ったのはその一度だけである。


 それを思うと、やはり院長は並ぶ者がない程の高手なのだと知れた。「殆どの危険から逃げられる歩き方」すら通じなかったのである。そして三人の弟子たちも、山雨が意識して散仙の歩法を使った時初めて、明山雨を見失いかけた。同じ「いつもの山歩き」でも、普段無意識に使っている程度では彼らの眼を逃れることは不可能だ。



「そうだ」


 明山雨には思い出したことがあった。


「人相書きの噂、神鵲京(さんじゃっけん)では聞かなかったよ」


 張り出されてもいなかったのだ。


「変だね。手配書は皇宮で認可されてから各地に運ばれる、って武林盟主から聞いたよ」

「そうなんだ。噂も聞こえてこないなんて変だよね」

「うん。おかしいな。武林盟主の手元に着いた時には、とっくに神鵲京では張り出されてるかと思った」

「その人相書き、本当に本朝が出したものなのかな」

「偽物ってこと?」


 桃の顔から血の気が退く。手配書に押されていた公印は、書院で習ったものと同じであった。しかし実際に公印が押された文書を桃が見たのは、今回が初めてだ。偽物であっても気が付かない。


「武林盟が人相書きを作ったのか、それとも武林盟主も騙されたのか、どっちだろうな」


 後者であれば、相当精密な偽造印である。


「あとは、表には出さないけど、ほんとうに本朝が出した人相書きだって場合もあるよね」

「雨雨、表に出さない意味あんのか?」


 桃は疑問を抱いた。明山雨は軽く肯首して考えを述べた。


「阿桃が魚龍蓮華陣(ゆうろんらんふぁざん)を使った時、その場にいたのは山賊と衛梨月(わいれいゆー)だよね」

「うん。そうだった」

「僕がその場にいたことを知ってるのは、山賊と衛梨月ってことになるよね」

「そうだな。あいつら!グルだったのか?」


 桃が猫目を吊り上げて声を荒げた。


「落ち着いて、阿桃。そうじゃないんだよ」

「じゃあ何だよ?」


 山雨は桃の単純さに心が和んで、ふっと笑いを溢した。


「あーまた笑う」

「ふふ、とにかく。グルだったなら、堂々と本物の人相書きをだすだろ」

「どういうことだよ?」


 桃は不満そうに口を尖らせて先を促した。山雨は根気良く説明を続ける。


「あの場にいた人は、僕たちが犯罪者じゃないことを知ってるよね?」

「うん」

「人相書きが張り出されたら、疑問に思うでしょ」

「でも、相手は本朝だろ?疑問なんか口にしたら、自分も罪人にされちまう」


 魚龍書院に禁軍が攻め込んできた時に、武林の者たちが誰一人として助太刀に来なかったのと同じ理屈である。


「うん。そこだよ。噂は止められないけど、人相書きを隠す必要なんかない」

「だよな?なんで隠したんだろ?」


 明山雨は真剣な顔つきになる。


「あの時襲われてたのは誰だった?」

「あっ、衛梨月(わいれいゆー)!国公府世子だ。そこらへんの村人とは訳がちがうな。あいつがまともな奴だったなら、抗議するよな」

「その通り。あいつひとりじゃ握りつぶされるかも知れないけど」


 桃はまた間違えたかと肩を落とした。山雨は思わず桃の肩を叩いた。


「落ち込むのは早いって」

「そうか?」

「国公もまともだったら、どうかな?」



 桃はハッと顔を上げた。国公は大将軍だ。鵲国軍の総司令官である。皇帝直属部隊である禁軍と、皇帝子飼の暗衛は指揮下にはない。だがそれ以外の公的武力を掌握しているのだ。加えて言えば、軍人も武人である。軍の中には、武林盟に所属する高手もいた。


「国公って言えば、衛月山(わいゆーさん)掌門だ。梨花派(れいふぁぱい)の掌門人で(げっ)の達人じゃないか。全体に梨の花を彫り込んだ梨花戟で戦う華麗な姿は、戦場に梨の花弁を撒き散らすような錯覚を起こすほどだっていう」


 桃がいつになく饒舌になった。


梨花仙人(れいふぁしんやん)の異名を持つ大英雄だな。本朝の人間に変わりはないけどさ」

「え、それは分かんないけど、とにかくその人がまともなら、跡取り息子の恩人を濡れ衣で捕えさせる訳がない」


 明山雨に武林の知識はない。魚龍書院で過ごす間に、門派を率いる代表者を掌門、もしくは掌門人と呼ぶことは覚えた。だが、武林の各派については未だに無知である。故にその部分は聞き流す。


「その場合は、人相書きは本物ってことになるな?」


 山雨に受け流されて、桃も少し興奮を冷ました。


「そうだね。抗議されたら厄介だから、最初からこっそり人相書きを送ったんじゃないかな。決めつけるのは気が早すぎるとは思うけど」

「ええと、まずは、理由も作った奴も分かんないけど、人相書きが偽物で、武林盟主にだけ届けられた場合」


 桃は指折り数えながら、仮説の復習をした。


「どこかは分かんないけど、武林盟主以外にも届いてる場合」

「それだと噂になりそうだけど、噂が広がるのが遅い場合もあるからね。もう少し様子を見てからまた考えよう」

「そうだな。もう少し調べてからじゃないと分かんないよな」


 山雨が意見を述べ、桃も同意した。


「それから、武林盟主が偽の人相書きを作った場合。武林盟全体が関わってるのか、一部の陰謀なのかは分かんないけど、偽物造りの天才がいてもおかしくない団体だからな」

「怖いね」

「何にでも極めたがる奴はいるもんさ。江湖にはそんな奴等がごまんといるそうだ。下山するなら気をつけろ、って師父がいつも言ってる。そいつ等ん中で大きな門派の連中が手を組んだのが武林盟ってヤツなんだ」

「へええ。でも武林盟主が犯人だとすると、なんで、魚龍書院が狙われたんだろ」

「普段から狙われてるよ」

「ああ、そうだったね」


 山雨は納得した。


「武林盟の連中でも、公輸の宝を狙う奴ばっかりじゃないんだけどな」

「狙ってる連中にしてみれば、阿桃が盗賊相手に魚龍蓮華陣を使ったのは、願ってもない好機だろうね。魚龍書院の門下生が国公府世子を襲ったことにすれば、堂々と書院に押し入ることが出来るようになるから」


 それを聞いて、桃はため息を吐いた。


「はあ、反省してるよ」

「分かってるって」


 山雨は桃が落ち込む様子に心が痛み、背中に手を回してポンポンと叩いた。



大家好だいがあほう

みなさんこんにちは

盗賊の首領は作品によって呼び名が様々

大家、塞主  この二つは肩書き

老大、大哥、兄長 これらは呼びかけ


普通話 ちー

広東語 げっ

日本語 げき

英語 halberd

冷兵器 

矛と戈を合体させたもの

柄、穂先、穂先の手前に突起という構造

突く、切る、ひっかける、払う

戟の中にもいくつかの種類がある

突起部分の構造もさまざま

起源 商代

有名な登場作品 三国志演義 呂布奉先 方天画戟

これは史実ではないが、かっこいいので人気


日本語でも中国語でも火器を火兵器とは言わないし、冷兵器を冷器とは呼ばないよね

対義語なのにね


後書き武侠喜劇データ集

今回は薬仙もの電影


李時 你是真頑皮

邦題不明

the slick boy

2024

古装 嫌疑 喜劇

神薬を巡る古典的な武侠バトル喜劇

監督 刘彬杰


李肘 裴晨伟

遊医の息子、秘伝を継いだことは隠して獣医をしているが、人助けの為に暴露

針を暗器として使用

中の人は「天命玄女」に出ていたらしいがよく覚えてない

出演比率は古装が多めだけあって、そつなく武侠世界医侠主人公をこなしている


宋茹雪 郭小炜

天敵の子供、ヒロイン、女侠


李一峰 曲少石

主人公の三叔


葛太医 李阔

神医 


端王爷 张皓森

反派。この人どっかで観たなと思ったら、話題作の脇役にけっこう出演してる俳優さんだった


李太医 魏翔

宋太医 杨九郎

刘公子 宋木子

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