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魚龍書院/ゆうろんしゅーゆん  作者: 黒森 冬炎


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第二十七話  客桟

 梢の枝葉を踏んで行く(とう)は、目に見えて不機嫌そうだった。明山雨(みんさんゆう)に話しかけるのもやめてしまった。(じょ)国重臣の世継ぎと実際に出会い、九年前の惨劇が急に現実的に感じられたのだ。明山雨には、そこまでは分からなかったが、少しでも心を軽くしてあげたいと願った。


「阿桃、見て。客桟(はっざーん)だね。梨花城(れいふぁーせん)まではあと反道あるんだよね?」


 車寄せを兼ねた広い前庭のある建物が見えたのだ。街道に柱が建っていて、大人の身長を越える高さに提灯が下がっている。そこから少しだけ坂道を登ったところに、その建物はあった。平屋のようだ。


「へえ。あれが客桟か。書院よりも狭いんだね」


 魚龍書院(ゆうろんしゅーゆん)には、学舎のほかに生活部分もある。今でこそ教師一名学生三名の小さな書院だが、かつては一族で住んでいたのだ。墓地や奥山を含まなくても、今見えている客桟より広い。


「ここの客桟は知らなかったの?」

「話には聞いてたけど、客桟は初めて見たよ。こっちの方には来たことが無いんだ」


 廃墟での会話で解ってはいたが、やはり桃は客桟そのものを初めて見たようだった。



「桃はずっと山の中にいたの?」


 提供した話題に興味を持ってくれたこたが嬉しくて、明山雨の顔は明るくなった。桃も朝廷への憤りから気が逸れたようだ。眉間に刻まれていた縦皺が伸びていた。


「そうだね。特に用もないから」


 桃の話によると、宝具の材料も書院一帯にあるもので事足りるのだそうだ。


「宝具は自分で作ってるの?」


 明山雨は、材料がどこから来るのかよりも、そちらの方が気になった。


「うん」


 今まで明山雨が見た桃の宝具は、みな木で出来ていた。


「全部木で作るの?」

「全部じゃないけど、だいたいは木で作るよ。魚龍山一帯にはいろんな木が生えてるしね」


 書院がある辺りには、豊富な種類の木があった。食べ物も沢山採れる。服を作る材料にも恵まれている土地だ。桃は、遭難して山荘の廃墟や打ち捨てられた船着場、あるいは破れ寺などに行き着いたことはあるそうだ。しかし、師匠について修練に打ち込む桃は、わざわざ山を下りる気持ちにはならないのだということだった。



「客桟に降りてみる?」

「別にいいよ」

「疲れてない?」

「そうだな、少し喉が乾いた気もするけど、それほどでもないよ」

「そう?」


 明山雨も、敢えて客桟に降りなくても良いと思った。降りたところで、食事や宿泊にかかる金銭を持っていないのだ。中を見学することさえも断られそうだった。


 客桟の周りに人影はない。庭にあるのは、客桟の経営者が使う荷馬車だけのようである。現在滞在中の客もいそうになかった。明山雨が来た道を振り向いた。置き去りにしてきた衛梨月が点のようになって動いていた。


 衛梨月の馬は毛並みの良い大きな黒馬なので、緑の中で目立つのだ。旅行用の馬車にまで軍馬を使う贅沢さは、国公府ならではと言うことか。世子の出立ちからみても、衛家はストイックな軍人家族タイプではなさそうだ。富と権力を存分に享受する種類の家であることが予想された。



 明山雨がもう一度客桟に目を落とすと、ちょうど茶色い人影が建物から外へ出てくるところだった。


「あ、大師兄(だいしーひん)


 髪の毛を丁寧に撫で付けて、頭頂部で綺麗なお団子にしている。くるくると巻きつけて少しだけ端を垂らした茶色の髪帯が、歩くリズムで揺れていた。雲風楽(わんふぉんろう)大師兄の暗器、雲魚龍帯(わんゆうろんたい)である。


「下りるか」

「実験台にされないならいいよ」

「大師兄だって、四六時中人体実験をしてるわけじゃないよ」


 桃は朗らかに笑って、クイと流木を傾けた。二人は今、一本の流木に掴まっている。桃は片手を添える程度だが、明山雨はしがみつくようにしていた。その体勢で、街道を挟んで客桟の正面にあたる木のてっぺんまでやって来た。


 そこまで近づくと、楽に気付かれた。顔を上げて手を振っているのが見える。遥か下の地上でのことだが、楽の動きは明山雨にもかろうじて判別できた。山暮らしで自然に身についた遠見の能力があるからだ。武人の使う内功による遠見には劣るが、山の獣や山賊を避けるには充分だった。



「おおい!」


 楽の声がはっきりと聞き取れた。


「ええっ?」


 遠見と同じように、明山雨は遠耳も身につけている。だが山雨の能力では、今楽との間にある距離で、こんなにもはっきりと聞き取れる筈がないのだ。楽の声は、まるで隣にいる人が話しかけているかのように聞こえたのである。


「ご飯食べた?」

「まだっす」

「降りといでよ。ご馳走してあげる」

「大師兄、今おりるっす」

「阿桃、ちょっと」


 明山雨は慌てた。楽のくれる食事は危険なのだ。


「大丈夫だって」


 桃は明山雨の心配を一笑に伏して、楽の目の前に着地した。


ニ師妹(いーしーむい)、なんか派手にやったでしょ」


 二人が大地に足を付けるや否や、楽は不穏な笑みを浮かべた。桃は苛立って舌打ちをした。


「ちっ、盗賊を追い払っただけすよ」

「ねえ、雲風桃師妹。魚龍書院の立場は解ってるよね?」

「うっ」


 大師兄の声音は大変穏やかだ。表情も柔らかく、楽は優しく諭すように話しかけてきた。その温かな上面とかけ離れた、なにか冷たい塊を抱かされるような雰囲気がある。明山雨は、桃が縮み上がっているのにも納得がいった。


「刃物を持った盗賊に囲まれてる人を見たら、助けたくもなるじゃないすか」


 桃はモゴモゴと言い訳をする。朝廷に言わせれば魚龍書院は、叛徒を育てた学問所である。書院の陣から離れた場所で素性が知れたら、すぐに暗殺者が現れるだろう。桃が展開した魚龍蓮華陣は、一部の武人には、書院のものとして知られている陣法だった。それを白中堂々と、しかもご丁寧に陣法の名前まで叫びながら展開したのである。命を投げ出すも同然の行為であった。


「気持ちはわかるけどね。師父が遊侠をしていた頃とは、全く状況が違うんだよ」


 楽が桃を客桟の庭まで呼び下ろしたのは、どうやら説教をするためらしかった。


「せめてこっそりと助けるとかさ。工夫しないとね」

「大師兄、これからは気をつけるっす」


 桃も、自分が軽率だったことは認めているのだ。しゅんと肩を落としていた。



 客桟の入り口は、外開きの戸を石で抑えて開いたままになっていた。扉の上には、飾り気のない四角い板が掲げてある。素朴な字体で「飛花客桟(ふぇいふぁはっざーん)」とだけ書かれた看板だ。


「いらっしゃい!」


 威勢の良い声が三人を迎えた。中を見回すと、目の粗い服を着た中年男性が一人、茶碗を片手に菜を突いていた。それ以外は、空いたテーブルが二つほどある。その手前と奥には、それぞれ通路が見えていた。片方が厨房へ、もう片方が客室へと通じる廊下なのだと想像がつく。


 声をかけて来たのは、灰色の上下に長めの前掛けを締めた青年である。人の良さそうな丸顔の、小柄で痩せた男であった。左手には受付がある。立っているのは無愛想な老人だ。やはり痩せていて、青年と顔立ちがよく似ていた。


「お食事ですか?お泊まりですか?」

「僕の連れだよ」

「あ、お客さんのお連れですか。お食事ですね」

「うん」


 壁に掛かけられた板には、数種類の料理が記されていた。


「何にする?」


 腰を下ろしながら楽が尋いた。


「素麺」


 素麺は、具無しの麺である。この地域では、太さも長さも一定しない手打ちの麺を食べていた。そうめんではない。


「あ、僕も」

「あいよ!」


 景気の良い返事をして、痩せた青年が通路の奥へと引っ込む。桃はテーブルの上にある土瓶から水を注いだ。


「何処に向かってるの?」


 楽が口を開いた。


「梨花城」


 桃は水を一口飲んでから答えた。明山雨の最終目的地は神鵲京だが、とりあえずの行先は梨花城である。当面桃に同行を頼んだのも、梨花城までだ。


「やめた方がいいよ。梨花城(れいふぁせん)は国公の地元だからね。さっき助けた国公府の世子が魚龍蓮華陣(ゆうろんりんわぁざん)の事を話したら、あっという間に掴まっちゃうと思うよ」

「僕は関係ない」

「一緒にいたよね」


 側にいたと言うだけで、敵対する勢力からは疑いの目を向けられるものだ。まして、一本の流木に掴まって空から降りて来たのだ。関係がないと言い張るのには無理がある。


「都まで行く道にはあと二つ街があるけど、一つは永明公主(うぇんみんこんちゅー)が滞在中で、もう一つは武林大会に参加する連中が泊まってるから治安が悪いよ」


 永明公主は一皇女の肩書きである。皇族が滞在している町は避けた方がよい。


「ならいっそ、途中の町は通り越して、一息に神鵲京(さんじゃっけん)まで送ってやろうか?」

「うん、どのみち神鵲京まで頼もうとおもってたんだ。ありがとう」

「なんだ、雨雨、案外図々しいな」


 呆気なく話が纏まったところで、白い湯気の立ち昇るどんぶりが二つ運ばれて来た。



大家好だいがあほう

みなさんこんにちは


広東語

聞き取れる範囲が少しずつ広がると、聞き間違いが判明したりツールごとの食い違いが気になったり

映画で聞き取れる音、所謂えつぴんで想像出来る音、広東語対応ツールでAIが読んでくれる音声、単語の繋がりによる音便変化、などなど

昔の香港映画を観ていると、二人称がねいじゃなくてれいって聞こえる

你なのか違う言葉なのか筆者の耳が悪いのかは不明

一人称にいん?いっ?と言うのがあるようだが、中文字幕では俺となっている

音読さんは俺をいんと読んでくれる


本文に出した単語に聞き間違いが判明したものは修正したりしなかったり

武侠喜劇なので気にしなくてよい

一話の中での表記が揺れている場合には流石に修正した


後書き武侠喜劇データ集

今回は縦長短劇を収録

ちゃんと武で侠で喜劇です


我在巴黎当侠客

邦題なし

英題なし

cctv 縦長短劇

3分×12集

2024

劇情

主役は武侠コス 孫娘が武の人 人情劇 ドタバタコメディではないが、ちょこちょこ古典的な喜劇要素が入る

中文字幕あり

監督 陈明、王靖渊

三喜爺爺 张以芳

コスプレ好きで料理も上手い認知症おじい

中の人は、2021年に息子がネットに上げた歴史コスプレ名所旅行動画が大人気になった老人

それまでは一般老人だったのだが、今回のドラマ、普通に演技してました

俳優さんだと思ったよ


小米 邓绮梦

孫娘

中の人、どっかで観たような?と調べたら、人気作の脇役でけっこう出ていた

主役も経験済み


奥运季 谢予望

パリ在住で中国には行ったことがない中国人

本業不明の怪しい若者

三喜爺爺を乗せてネットの人気者にする

中の人は、《江湖绝色录》に出ていたとのことだが、この人の役は覚えていない


内容

観光名所や美食の紹介があり、人情があり、パリまで出てくる総尺およそ30分のネットミニドラマ

この倍くらいの尺のものを横長で観たい気もする


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种了一辈子地,年近七旬的他当上了西北“侠客”

https://m.thepaper.cn/baijiahao_30595636

2025/4/12 05:30 最終閲覧

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