第二十六話 梨月/れいゆー
「盗賊か?」
貴人の隣に着地した桃が端的に質問した。
「えっ、ああ、はい」
オドオドしながら水色の貴人が答えた。張りのある良く響く声だ。目鼻立ちはすっきりと整っていて、頬は程よく丸みを帯びている。袂を長く翻す風流公子の出立ちながら、軽薄な感じはしない。中肉中背で姿勢の良い少年だ。健康的で上品な佇まいであった。賊に襲われて逃げ惑ったのだろう。手入れの行き届いた艶やかな髪は乱れていた。
「義によって助太刀いたす!」
「わっ、阿桃、武人みたいだねえ」
山雨が呑気な感想を述べ、その様子を少年が訝しがった。次の瞬間、桃が少年の腕を掴んで飛び上がる。少年は驚きのあまり声も出ない様子だった。
「逃げるのも助太刀なの?」
明山雨は、武人のことをよく知らない。
「追い払うのも、こっちが逃げ切るのも、助太刀だろ!」
桃はニカッと笑う。明山雨も釣られて笑顔になった。少年はポカンとしている。桃は上空から地上を見回した。遠くに暴走馬車が見える。
「あの馬車、あんたのか?」
「え、ええ、はい」
「御者が見えないな」
「逃げました」
「とりあえず、停めるか」
言うなり桃は速度を上げた。
「わああっ」
「ひっ」
引き連れられている二人の少年は、短い悲鳴を上げた。桃は構わず馬車を追う。あっという間に追いついた。桃は地上へと降りながら、腰を落とした姿勢をとった。まだ空中にいる間に、小さく弧を描くようにして右脚を後ろに下げる。
「ふっ!」
息を吐き出すと同時に、桃の爪先から黄色い光が飛び出した。光は刃となって馬車に向かう。
「えっ」
明山雨は声を出し、水色の少年は無言で身をすくめた。馬車や馬を害するかと不安に思ったのである。だが、それは杞憂に終わった。光は暴走馬車と馬を繋いでいた革紐を切ったのだ。馬車は、既にあちこちぶつかって壊れていた。紐が切れると吹き飛んで、木々に激突しバラバラになってしまった。中に積んでいたお菓子や衣服が、雑木林に散乱している。
馬の方はそのままがむしゃらに走って行く。
「馬車は残念だったな」
桃は少年を慰めて、馬車の残骸の所に下ろした。
「雨雨、ついててやんな」
「いいけど、阿桃は?」
「馬捕まえて来る」
「え、ああ。行ってらっしゃい」
状況についていけない少年が、ぼんやりと桃の行先を目で追っていた。山雨は行動力のある桃を凄いやつだな、と思った。
程なく桃が馬に乗って悠然と現れた。
「阿桃、馬に乗れるんだね」
「乗れるよ。あんまり必要はないけどな」
「摸魚功のほうが速そうだね」
「速いよ。それに便利だよ。障害物とか、関係ないからさ」
言われてみればその通りだ。障害物は飛び越えてしまえばいい。摸魚功を使えば、どんな物でも足場に出来る。足場がなくても、空中に気の塊を放ってそこを渡ればいい。馬は必要が無さそうだ。
「待たせたね」
桃はひらりと馬から降りて、手綱を水色の少年に渡した。少年はまだ放心していた。
「お伴、つけた方がいいよ」
「え、ああ、侍衛はやられてしまいました」
「あ、ごめん」
桃は気まずそうに目を逸らした。
「いえ」
水色の少年は受け答えをしてはいるが、まだ頭が混乱していた。盗賊に襲われ、天から光が降ってきて、少女が馬を捕まえてくれた。短い間に、予想だにしなかった事態に次々と見舞われたのだ。平静を保つのは難しい。
「じゃ、もう行くよ。気をつけてな」
「えっ、待ってください!」
少年は慌てて桃を引き留めた。
「馬車は壊れてしまいました。侍衛は倒れて御者は逃げました。独りで帰るのは不安です。どうか護衛をお引き受けいただきたい。家に着いたら、お礼は充分に致しますから」
少年の願いは理解できる。見るからに良い家のお坊ちゃんである。山賊に襲われた後で森に取り残されたら、さぞかし心細いことだろう。
「うーん」
桃は迷っている。明山雨は少し意外に感じた。いつも即断即決で、ちょっとした手助けを惜しまない雲風桃である。その桃が今、頼まれた護衛を快諾しないのだ。どうしてなのか、明山雨は興味を惹かれた。
桃は馬車の残骸を眺めて眉根を寄せている。
「荷物は諦めます」
「あ、いや、それはどっちでも良いんだけど」
水色の少年は、まだ使えそうな物を持ち運ぶ算段をしているのかと思ったのだ。どこまでの範囲を持って行くか、判断が難しい。壊れていても持ち帰らなければならない物もあるだろう。そうした物も含めると、馬車なしでは運びきれない量になりそうだった。
桃は腕を組んで、少年のほうへと向き直った。
「あんた、名前は?」
「あ、これは失礼をば致しました」
少年は貴人であろうに、薄汚れた桃に丁寧な対応をした。胸の前に持ち上げた両手を重ね、頭を軽く下げる。掌は地面に向けていた。
「在下、国公府世子、衛梨月と申します」
「世子かい。馬車に国公府の紋が付いてたからね。関係者だとは思ったよ」
桃は頭を下げなかった。山雨は後ろで様子を見ている。国公といえば、鵲国の軍事を一手に取り仕切る総司令官のことである。国公府世子とは、その家の跡取り息子ということだ。役職は世襲制ではないが、多くの貴人は幼い内から英才教育をうけ、事実上世襲制となっていた。
つまり、衛梨月と名乗ったこの少年は、朝廷関係者なのである。桃にとっては仇も同じだ。
「雨雨、どうする?」
桃は、今度は山雨の方を見た。
「どうって。僕には関係ないよ」
実際そうなのである。護衛を頼まれたのは桃だ。朝廷と関わりたくないのも桃である。桃が護衛を引き受ければ山雨はここで別れるし、断れば引き続き都まで送って貰う。それだけのことだった。山雨は神鵲京を目指してはいるが、目的は皆無だ。摸魚功で送って貰えればありがたいが、気ままな旅ゆえ徒歩でも充分である。
「うん、まあ、そうだな」
桃は納得して、再び衛梨月を見た。
「衛公子、腕にお怪我されましたか」
「えっ、ああ、そうですね」
見れば、水色の絹が刃物で裂かれて血が滲んでいる。茫然自失の状態で、痛みも感じていなかったらしい。負傷を指摘されて、急に顔を顰め腕を押さえた。桃は、地面に散乱した荷物の中から傷薬を探し出す。幸い救急箱は無傷だ。
「はい」
桃は薬を渡して、衛梨月が治療する様子を観ていた。桃にしては珍しく、無言で待っている。しばらくして、救急箱に薬瓶を片付け終わった梨月に、桃は声をかけた。
「あんた、慣れてんな。偉い人の子のくせに、自分で手当てすんだね」
「え、はは、ええ、まあ、そうですね」
衛梨月は、あからさまに狼狽えた。
「替え玉ってわけじゃ無さそうだけど」
「へっ?何故、本物だと思いました?」
「その立ち方だよ」
「立ち方?」
衛世子が眉を寄せた。
「誤魔化さなくていいよ。四方八方どこにでもすぐ逃げられる独特の立ち方だろ。一子相伝の梨下月影歩だよな?影武者だろうと、絶対に教えない筈だ」
「えっ?あなた、何者です?」
衛梨月が身構えた。明山雨は、立ち去るか留まるか思案中だった。
「どうだっていいだろ」
「気になりますよ」
梨月の声に緊張が混ざった。桃は舌打ちをすると、明山雨の杖を叩いた。明山雨が桃の目を見ると、目線で空を示していた。護衛は断り出発しようという意味だ。
「ちっ、まあいいや、偉い人は命を狙われることも多いんだろうさ。道中気をつけなよ」
「あ、お待ちを」
「後会無期」
桃は明山雨の流木を掴んで、大きくジャンプした。
「そんなぁ!護衛してくれたって良いじゃないですかあー!」
国公府世子が大声で叫ぶ。
「とんだ時間の無駄だったよな」
梢に立ち止まった桃がぶつくさ言った。
「ありゃ、そもそも救ける必要なんてなかったんだよ」
「そうなの?」
「雨雨と違って、衛家の秘伝は逃げ足だけじゃないからね。あんなの、ほっといても無事だったよ。侍衛がやられるほどの相手に囲まれても、浅い切り傷ひとつで済むなんて、普通じゃないだろ」
「言われてみれば、そうだね」
桃は忌々しそうに背後へと掌を突き出した。黄色い光が靄のように立ち昇る。やがて、手の中に吸い込まれるように流れる光の筋が現れた。何を始めたのかと明山雨が観ていると、八個の木でできた球体が引き寄せられて飛んできた。雲風桃は、パシパシと球体を掴むと、素早く袖の中に片づける。
「さ、行こ行こ」
「あ?ああ、うん、行こう」
大家好だいがあほう
みなさんこんにちは
後書き武侠喜劇データ集
原作者大絶賛のロイヤルトランプと迷ったけどこっちを
少林足球
少林サッカー
Shaolin Soccer
2001
喜劇 動作 運動
ヒロインは武の人で行動が義侠心溢れているからおけ
そうでなくとも、同門の義兄弟が一丸となって悪に立ち向かうので武侠ジャンルでよし
監督 周星驰 李力持
アクション監督 程小東
ロイヤルトランプでもシャウシンチーと組んでる
阿星 周星馳
阿梅 趙薇
明鋒 吳孟達 ン・マンタ
今観ると星爺が若くてびっくりする
他の作品に比べて、シャウシンチーのチンピラ感が薄い気がする




