第二十五話 蓮華
まだ日は高く、廃墟ですることもないので、明山雨は出発することに決めた。
魚龍山一帯から都の神鵲京へと至る道には、地方都市が三つと村がいくつかあった。最初の町は梨花城と呼ばれる。軽功を使っても、丸一日はかかる場所だ。ここは、鵲軍総司令官である国公・衛大将軍の故郷である。そこまで村は全く存在せず、客桟がひとつあるだけだ。
「軽功が使えないなら、梨花城までニ、三日はかかるぜ」
「客桟までは?」
「ちょうど半道くらいだな」
「客桟か。泊まるにせよ、食べるだけにせよ、お金かかるんだろ?」
桃は客桟を利用した経験がないようだ。
「かかるよ。だから、厩の隅で休ませて貰えたら恩の字なんだ」
「そんなことなら、書院に居ればいいのに」
桃は名残惜しそうである。
「やだよ。院長は入門させようとするし、へんな技を教えようとするし、楽兄は人体実験しようとするし」
「舟はいいのか?」
「うん。あのひとはちょっと憂鬱な雰囲気で話が長くなりがちだけど、僕を利用しようとしたり、何かを押し付けたりはしないからね」
桃は意外そうに口を窄めた。
「へえ?苦手じゃないんだ」
「苦手じゃないよ」
「ふーん」
桃の口元が悪戯そうに弧を描く。
「じゃさ、ニ師姐はどうよ?ん?」
「誰にも入門してないから、師姐なんていないよ」
山雨もニヤニヤした。桃は舌打ちをした。阿六がはっと短く笑い声を上げた。
「後会有期」
山雨が旅立ちの挨拶をした。実のところ、初めて使う言葉だった。町や村の入り口や客桟の門口で、人々が交わす挨拶を聞いて覚えていたのである。散仙はいつの間にかいなくなっていたし、他には別れを惜しむような交流がなかった。使う機会に恵まれて、明山雨はこそばゆい感じを楽しんでいた。
「江湖再見」
阿六が明るい笑顔で送り出す。彼はまだ当分の間、この朽ち果てた山荘で鯉の弔いを続けるのだろう。なにせ五百歳なのだ。十年や二十年、あっという間に過ぎてしまう。
「なんなら摸魚功で連れてってやるよ」
桃が申し出た。山雨の顔は、明かりが灯ったようにパッと輝いた。
「うん」
明山雨は勢いよく頷いた。
「お願いするよ」
うきうきと弾む少年の声に、阿六は目を細めた。廃墟にも暮春の風は吹く。阿六の波打つ後毛が顔の前に斜めに流れて、視界を遮っていた。阿六は髪をそのままにして、泰然と佇んでいた。
「どこまで行く?客桟?それとも梨花城まで?」
「そうだなあ。せっかくだから、梨花城までお願いするよ」
「好、嘞!」
阿六にさっと手を振ると、桃は明山雨の流木を掴んでジャンプした。見送る阿六が手を振りかえす。瞬く間に小さくなってゆく二人の背中に、阿六は爽やかな笑顔で呟いた。
「若いっていいねぇ」
そんなことを言ってはみるが、彼の青春には浮いた話のひとつもなかった。修行の成果で若い姿になったのではなく、若くして西王母に呼ばれる境地にまで達したのだ。仙人が捨てるものは、愛ではなく執着だ。情ではなく妄念だ。捨てたのではなく、解放されたのだ。手放すことにより、より深く温かな愛情を抱くようになったのだ。浮世を愛する阿六は、散仙の道を願い出た。そのまま肉体の成長は止まり、特に理由がない限りは見た目を変えないと決めたのである。
「あっそうだ。お餞別をあげよう」
阿六は思いつくままに水を操り、山雨の竹筒に送り込む。
「このくらいなら許されますよね?西王母様」
阿六は天を仰いで戯けた仕草をした。どうやらただの水ではないようだ。
「へへっ、雨雨のやつ、次に会ったら何て言うかな」
その時、雨上がりでもないのに、青空に虹がかかった。西王母も山雨の旅立ちを祝福するかのようだった。
街道沿いの雑木林を跳ねて行く二人は、突然現れた大きな虹に歓声を上げた。
「わあー!観てよ、阿桃!」
「おおー!雨雨、大きな虹だな!」
「阿六が仙術で架けてくれたのかな?」
「だな!晴れてるのに虹だもんなーっ」
桃が歯を剥き出してニカッと笑う。山雨の心臓があり得ないほど速く鼓動を打った。桃はすぐにまた虹に目を向けた。存分に愉しむ気である。そんな様子が可愛くて、明山雨は、虹はそっちのけで桃の顔ばかり眺めていた。
一本の流木に掴まって、二人の若人が青空を駆けて行く。拾った時にはまだ残っていた白い花は、もう全て散ってしまっていた。数日が経っているのだ。当然のことである。今では、枯れた葉が少し落ち残っているだけてあった。
木々の梢に揺れる葉を踏んで、雲風桃はひらりひらりと渡って行く。風は涼やかで心地よく、二人の裾に戯れ踊る。午後に差し掛かる太陽は明るく、少年少女の黒髪を金色に縁取っていた。
二人は覚えず顔を見合わせ、屈託のない笑顔を交わす。瞳の奥には透き通った喜びがある。二人の髪は後ろに靡いていた。頭上を雲が千切れ飛ぶ。時折小鳥が通り過ぎ、森の上の散歩に彩りを添えた。
「松阴竹影当行窝」
明山雨は、お気に入りの一節を口ずさむ。すると、すぐ後に続いて桃も何かを歌い出した。
「そんいんちゅーいんたんしんうぉ、りーりーふーちょんいっさいこう」
「へへへっ」
明山雨には歌の意味がわからなかったが、何だかとても寛いだ気分になった。桃は悪戯そうに笑って、空いている方の手で流木を叩いた。
「あっ、何するの?へんな陣法はやめてよ?」
「あはは、違うよ。今のは、さっきの歌の元の詩なんだ」
「元の?」
「竹杖をついて来る日も来る日も旅をするっていう歌なんだって。雨雨の杖は竹じゃないけどね」
桃は掌で、また流木をトントンと叩く。
「このうたは元々中原の言葉で書かれたんだよ」
「ええっ、中原って、山向うの外国のことでしょ?」
魚龍渓谷一帯の山岳地方を越えると、その向こうには平地が広がっている。そこから先は鵲国ではない。中原と呼び習わされている。山麓の平原を渡り、遥かに歩いて行くと大きな町があるのだという。鵲国の都である神鵲京がいくつも入ってしまうほどだと、旅の楽師は語っていた。
「そうだよ」
「へええ、ずいぶん遠いところのうただったんだねぇ」
明山雨は杖にしっかりとしがみつきながら言った。
「これ、二叔に教わった?」
「うん」
「やっぱりねー。昔から二叔は、ウロウロしてる人にすぐこれ言ってたんだよ」
「ええー」
舟と同じく、遠回しな嫌味だったのか。
「意地悪だったの?散仙だって行き倒れてたくせに」
「ああそうか、雨雨の場合は、二叔が自分も散仙になりたかった時だったね」
「そう思う?」
「思う、思う。杖をついて、毎日毎日松や竹の中を旅する静かで気ままな暮らしに、憧れてたのかもしれないねぇ」
「きっとそうだよ」
明山雨は元気を取り戻した。眼下の森には、竹とそのほかの木々が入り混じって生えていた。
「んっ?」
森の中の様子をよく見ると、枝間から見える森の中に、人間の集団が見えた。その集団がいる場所から、金属の反射光が木々の上まで届いた。山雨は眩しそうに手で目を覆う。
「わわっ、眩しい」
「刃物だね」
桃が冷静な声で断定した。
「下りるよ」
「ええっ、ちょっと、刃物って、うわあああ」
山雨の叫び声に気がついて、汚らしい服の男たちが空を仰ぐ。彼らは上等な服を着た水色っぽい少年を囲んでいる。少年は同伴者もなく孤立していた。桃は袖口から小さな木製の球体を取り出した。桃は、指の間に挟んだ四つの球体を素早く地面に投げる。続けてもう一度。投げた球体は空中で蓮華の形に開いて回転した。
「魚龍蓮華陣!」
下にいる男たちが、反射的に腕で顔を覆った。桃の投げた蓮華は、回転しながら二つの勾玉を描く。そこから八方向に分かれて、下にいる人々を覆う八角形の陣を築いた。先に描いた勾玉は、木製の蓮華が離れても消えずに残っている。蓮華の軌跡が黄色く光る線になり、陣を完成させる。組み合わさった二つの勾玉が円を作る。八箇所の蓮華の回転が速くなった。黄色い光が強くなる。勾玉の作る円から黄色い光が渦巻いて、空いっぱいに花開く一輪の蓮華となった。
「んんっ?」
「ああ?」
汚れた格好の男たちが、言葉にならない当惑の音声を発している。黄色い光に包まれた男たちは、身体の自由を奪われていた。真ん中に囚われた貴人も、恐怖の色を浮かべている。
大家好だいがあほう
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奇谋妙计五福星
五福星
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喜劇 動作 犯罪
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1983
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