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魚龍書院/ゆうろんしゅーゆん  作者: 黒森 冬炎


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第二十話 名札と座席

 鉄魚(てっゆう)は汗を拭く暇もなく、眠りに落ちた。風天が軽く額を拭ってやる。楽は早速、気になっていることを尋ねた。


「師父、なぜ僕が行きたい場所が雪蓮谷(しゅっりんこっ)だと思ったのですか?」

「そのことか」

「はい。教えてください」

「なに、魚龍書院(ゆうろんしゅーゆん)秘伝の丸薬を使ったと聞いた時、お前さん、もの問いたげな目をしたろう?その目が、薬のことをきちんと学んでいる人の目だったからだよ」


 (ろう)は信じなかった。薬の知識があるからといって、実在しないとされている一族の血筋だと確信するのは、いささか性急にすぎるからだ。


「誤魔化さないでください」

「あとは、そうだな。院長、いや、前院長の傷を拭いてくれた薬が、普通じゃない効き方をしたからね」


 楽はまだ疑っている。


「その年で薬仙に迫る技術を持っている」

「師父は雪蓮谷が実在することをご存知だったのですか?」

「いや」

「では何故」

「最初はな、お前さんが大事に懐に抱えている本も、ただの玩具だと思った」


 楽はハッと懐を抑えて風天を睨む。この頃はまだ、子供らしく感情を表に出していたのだ。


「中をご覧になったのですか?」

「観てはいないが、よしんば観たところで、玩具だと思っていたからな。秘術を盗む気などなかったぞ」


 楽がほっとした顔付きに変わる。



「ほかに、確信した理由は?」


 少し落ち着いた様子で、楽は尚も質問を続けた。雲風天は、苦々し気に咳払いをした。


「ふん、天下の奇薬で死を装った子供が、仙薬を使いこなし、先祖の谷へ行きたいと言い出したんだからな。まあ、想像はつくだろう」


 楽はじっと風天の目を覗き込んだ。


「なんだ。もう何もないぞ」

「いえ、どこで仮死薬のことを知ったのかと思いまして」


 楽は、無邪気な笑顔で聞いた。風天は苦い顔を戻さないままだ。


「はっ、目端の効く子供だな、全く」


 風天は天を仰いで首を振る。それから、嫌そうに言葉を継いだ。


「逆に聞こう。楽よ、ここがどんな所か知っているのか?」



 楽は再び躊躇した。だがすぐに、大きく息を吐き出して、決意の顔付きに変わった。


「はい。流れ着いたのは偶然ですが、師父の陣法を拝見致しました折に、ここが何処なのかを理解致しました」

「ほう?」

「僕を閉じ込めた時の陣は、森羅万象を操るという、崑崙派の法術に似ていました。でも、仙力は感じられなかったんです」

「その歳で仙力が感じ取れるのか。流石、薬仙の一族だな」


 楽は少し照れた。風天は、子供らしさを感じて安心した。楽は話を続ける。


「内功で複雑な機構を起動する秘術、古代の障眼術、とくれば、代々どの国にも属さないという、公輸(こんしゅー)一族が住む秘境だろうと思い至りました」

「なるほどな。古代の秘術をずいぶんと良く知っているじゃないか」


 風天は少し嬉しそうだ。


「お褒めくださり光栄です、師父」


 楽も嬉しそうにはにかんだ。


六禮束脩(ろっらいちゅっそう)を持っていたのは何故だ?」

「もうすぐ正式に先祖の秘術の修練を許される予定だったんです。雪蓮谷の拝師礼に使うものを、両親が用意してくれていたんです」

「何故、私に師事することにしたんだ」


 古代の秘術を継ぐ一族には、独特の習慣がある。いよいよ本格的な修練を始める時には、ただ一人の師を決める慣わしがあるのだ。この、生涯を決める入門儀式で師に納める品物が、六禮束脩である。楽が三拝の礼をした時に納めた物が、それである。


 生涯の師を決めるまでは、集団学習にせよ、個別指導にせよ、複数の師を持つことができる。だが楽は、書院の学生としてだけではなく、風天個人への入門を希望したのである。



「書院の門下生であれば、摸魚功(もうゆうこん)を学ぶことはできる。谷に帰ってから、正式な師匠を見つけようとは考えなかったのか?」

「谷にはもう、誰もおりません。両親に連れられて、年に一度、谷に帰っておりましたが、他に誰かが帰って来た様子は見つけられませんでした」


 風天は息を呑んだ。


「谷の滅亡は本当だったのか」

「はい。それは嘘ではありません。大昔、薬仙の秘術を恐れた近隣の城主たちが手を組んで、谷を攻め落としたのです。落ち延びた者たちも次第に数を減らし、僕が最後の(らん)です」


 風天は楽の両肩に手を置いた。


「かつて公輸にも仙薬を操るに至った高手がいた。その者が書き残した練丹術の秘伝書がある」

「そこに仮死薬が?」

「そうだ。天下の奇薬とされていて、錬成も難しいのは知っているな?」

「はい」

「残念ながら魚龍書院では、数世代に一人しか錬成に成功できない。悪用を恐れて、保存もしていない。錬成に成功した者が、後学者の手本として少しだけ残してきた」

「それで、効果と匂いをご存じだったんですね」

「その通りだ」


 話を聞いた楽は、微かな希望を抱いた。


「秘伝書を遺された方が、何処で雪蓮谷の者と関わったのか伝わっておりますか」

「いや、残念ながら、仮死薬が雪蓮谷の秘薬だということすら、記録には残っていなかった」

「その方は、きっと蓮の者と深い関わりがあったのでしょう。秘術を学んでも、その由来は明かさなかったのですから」


 風天は深く頷くと、ちらりと鉄魚に目をやった。まだ寝ている。



「明日にでも、前院長が起きたら、その練丹の秘伝書を楽に見せていいか訊いてみよう」


 楽は驚いた。


「秘伝書を?入門したばかりなのに?」

「我らに伝わる薬の中に、雪蓮谷から伝わった物があるかどうか、見てほしいのだ」

「でも」

「お前さんの技術は、魚龍書院で練丹術秘伝書の閲覧を許される腕前に達している」

「本当ですか?」

「嘘だと言いたいのか?」

「まさか!師父、そういう意味ではありません」


 焦る楽に、風天は揶揄うような笑顔を見せた。



 翌日、三人は傷ひとつない扉の前に立った。


「ここが教室だ。今日からここで、座学を行う」


 扉の向こうには、机が整然と並んでいた。風天は、一番前の列から、真ん中の机を持ち上げた。上に載っていた本や文房具と一緒に、列の端へと移動する。空いた場所には、新しい机を据えた。部屋の隅にあった予備の机と入れ替えたのだ。


「これが名札だ」


 教卓の引き出しから、木札を出して加工する。


「師父?」


 刻まれた名前を見て、楽が不思議そうに首を傾げた。


「お前さんは蓮を名乗れない事情がある。安全の為にも、新しい名前が必要だ。幸い私は、公輸姓ではない。今日からお前さんは、私の子供だ。雲風楽と名乗りなさい」


 風天に妻子はなく、両親も既にない。母方の公輸一族だけが明らかになっている親戚だった。


「公輸は、まだ何処かに残っているかもしれないが、この地に秘術を継ぐ者が残っていることは伏せた方がいい」


 遊侠として活動している風天だったが、素性は知られていなかった。亡き友人の遺志を継いで、書院の跡地に新しい魚龍書院を開いた、という建前は成り立つ。


「この名札は通行証だ。裏に模様があるだろう?」


 楽が裏返すと、お腹のところで繋がっている、魚と龍が刻まれていた。


「魚龍書院の教師一人一人、鱗の模様が違うんだ。門に仕組まれた陣が、本物だけを通すんだよ。これは柳材だから、一般書庫まで入れる名札だ。卒業する時には返すことになっている。私や前院長のものは桃材で、何処にでも入れる。卒業生でも、秘伝を収めた者は桃の名札を貰えるんだ。学舎に入るだけなら、素材はなんでもいい。これは、紹介状みたいなものだ」

「では鎧の人たちも、書院の門下生か、紹介を受けた人たちだったのですか?」


 楽は小刻みに震え出した。惨殺に訪れる者がまだいるかもしれないと思ったのだ。


「いや、違う。陣を無効化する宝具を使われたのだ。既に対策は始めているから、安心しなさい」


 風天は葬いの合間に、門の陣法を刷新していたのだ。楽は尊敬の眼差しを師に向けた。



大家好だいがあほう

みなさんこんにちは


後書き武侠喜劇データ集

楚香師


笑俠楚留香

邦題不明

Legend of the Liquid Sword

この年代の英題は見なかったフリをするのがよい

1993

喜劇 動作

楚香師なので間違いなく武侠です

監督 王晶

原作 古龍 「楚留香」シリーズ

楚留香 郭富城

胡鐵花 溫兆倫

李紅袖 袁詠儀

蘇蓉蓉 葉蘊儀

獨孤求敗 徐少強

無花 邱淑貞

蝙蝠公子 劉子蔚


初めて観ると思ったんだけど、観ているうちにこのシーン知ってる、という場面がいくつか出てきた

以前どこかで観た模様

なかなか未視聴作品と出会えない

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