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第十五話 渓流瀑と玉笛

 雲風桃(わんふぉんとう)が六歳の頃、雲風(てぃん)江湖(こんうー)を渡る遊侠(やうはっ)だった。この国では、一般社会とは別に渡世人の世界を江湖と呼んでいる。詐欺師や暗殺者などの悪人だけではなく、義賊や英雄も江湖の住人であった。


 この国の湖水地方では、多くの武人が山籠りの修行をしている。殆どが門派を建てて集団生活をしていた。そして、互いに自分の門派が一番優れていると思っていた。覇権争いは絶えず、大河や湖は朱く染まることも多々あると噂されている。それで、命のやり取りも厭わない世界のことを、江湖と呼ぶようになったのだ。


 仙人の場合は散仙(さんしん)だが、武人の場合には遊侠と呼ぶ。どちらも役職に就かず、定住をせず、民衆に紛れて人助けをする。仙人ならば仙術を、武人ならば武功を使う。名を上げて英雄譚に語られる者もいる。


 雲風天は母方が公輸(こんしゅー)氏の傍系であり、血縁で魚龍書院(ゆうろんしゅーゆん)に入門した。だが、教育よりも研究よりも人助けが好きだった。その為、卒業後は遊侠となった。見かけによらずお節介焼きなのである。



「ただいまー」

老雲(わんこう)!久しぶりだなあ。もっと帰ってこいよ」


 数年ぶりに書院を訪れた風天を迎えたのは、先代院長である。名を鉄魚(てっゆう)と呼ぶ。辺りを見回しながら、初老の二人は歩く。


「また小碧(しうべい)のやつは遭難したのか?」

「ああ。今日は鶴児(ほうっいー)が探しに行ってる」

「秘術を仕込んだらどうだ?」

「あいつの内功じゃ、千里陣を習得してもまだ隣の部屋程度までしか移動できないよ」


 その夜遅く、公輸雪鶴(こんしゅーしゅっとう)が帰って来た。迷子の姪っ子は連れていない。だが、どこか浮き浮きした様子だ。


「駄目だったか」


 公輸鉄魚(こんしゅーてっゆう)が言った。


「ごめん、見つからなかった」

「交代する奴は決まってるのか?」


 雲風天が口を挟む。


「私が参ります」


 先代院長の長男が答えた。後に桃と呼ばれる碧羽の父、公輸長明(こんしゅーちゃんみん)である。


「わたしも行こう」


 風天が申し出た。


「助かります」

大哥(にいちゃん)、留守は任せろ」

「うん、頼んだ」


 雪鶴に後を任せ、風天と長明が夜の山へと捜索に出かけた。軽功を使えば、かなりの広範囲を探せる。その夜は月が明るく、風もなかった。捜索は順調に進んだ。


「いないな」

「今回は捜索隊を組むしかないですね」

「遭難して何日経つ?」

「まだ一日です」

「信号弾は?」

「まだです」


 魚龍書院の門下生は、信号弾を防水性のある箱に入れて持ち運ぶ。水に落ちても使えるはずだ。信号弾が上がらないということは、まだ危険な状態ではないという意味だ。


「夜明けまでもう一回り探したら、帰って捜索隊を編成しよう」

「ええ、そうしましょう」


 翌朝出発した捜索隊は、奥山の桃林で碧羽(べっゆう)を見つけた。


「川の近くでご先祖様の陣を偶然作動させちゃったみたい」


 童女小碧は、けろっとしてそう言うと、捜索隊と共に書院まで帰った。



小碧(しうべい)!」

碧児(べっいー)!」


 父と母が駆け寄って来る。母は鍛冶屋の娘で姓はなく、名を火火と言った。


老頭(おやじ)老鬼(おふくろ)、ただいま」

「こらっ、せめて(とうちゃん)(かあちゃん)と呼びなさい」

(おばけ)はやめろと言ったろ!この子は!」

火火(ふぉふぉ)よ、老頭(ジジイ)はいいのか」

「お化けよりはマシだろ、長明」


 両親にしかられても、小碧はへらへらしていた。


「小碧、無事だったか」

「うん、二叔(おじき)、ただいま」

「今度は何があった」

「川原で奥山の桃林に行く陣を見つけたよ」

「はは!凄いな!」

「ああ、もう」


 叔父が朗らかに笑うと、母が呆れて首を振る。父は疲れた様子で注意した。


「気をつけなさいよ、まったく」

「転んで手をついたら作動しちゃったんだ」


 皆で確認に行くと、桃が転んだらしき跡が残っていた。その軌跡は偶然にも、ひとつの陣を描いていた。要所要所には、公輸一族が使用する特殊な図形が刻まれた石が置かれている。山の深草に埋もれていたものだ。遠い祖先が組み上げた仕掛けを、小碧は正しい順番で通ってしまったらしい。


「はあ、本当に、運が良いんだか悪いんだか」


 長明が嘆く。


(にいちゃん)、これ、掃除して使おう」

「はあ、そうだな」

老頭(おやじ)!見つけたお祝いしよう!」

「はあ、そうしようか」



 その晩、魚龍書院の面々は、蕾が膨らんだ桃林で食事をした。大人たちは、去年仕込んだ桃花酒を呑んでほろ酔いである。


「なあ、鶴よ。昨日からそわそわしているが、外で何か見つけたのか?」

「やだな大哥(にいちゃん)、何でもないよ」

「ご先祖の碑文でもあったか?」

「ないよ。いいから、ほら、呑もうよ」


 明らかに挙動不審な雪鶴は、数ヶ月後、何があったか白状した。


「友達の誕生日に招待された」

「外の友達か?いつ知り合ったんだ?」

「何ヶ月か前だよ。小碧が遭難した時、魚龍の滝が流れる岩棚で知り合ったんだ」


 魚龍の滝は、階段状の岩棚を流れ下る渓流漠である。途中で少し大きな落差もあるが、概ね傾斜が緩い。流れには一つテーブル岩があって、修練や遊びに使われていた。ここは結界の外であり、稀ではあるが書院の門下生以外も入って来る。


「笛の名手でね。翡翠の笛に鮮やかな紅色の房飾りを付けているんだ。謝小姐(せーしうぜー)っていうんだけど、誕生日には、笛飾りを贈るつもりだよ。琴も持って行く」

「謝小姐だって?この辺りで謝さんといえば、県令(ゆんれい)の家じゃないか?」


 長明が表情を硬くした。


「鶴よ、掟は忘れるなよ?」


 鉄魚は厳しく言い聞かせた。


「県令?どうだろ?偶然同じ苗字なのかもしれないよ」

「まあ、そういうこともあるかも知れないが」


 長明は不服そうに眉を寄せた。


謝照児(せーじういー)か?」

師叔(しーしょっ)、知ってるの?」


 鶴の顔が輝いた。院長と長男、そして風天の顔は陰った。


「父親は謝月玉兎(せーゆゆっとう)、つまり謝県令大人(だいやん)の長女だな」

「へえー!お役人様のお嬢様だったのか!上等な笛を持ってる割には気さくな感じだから、豪商の子かと思ったよ」


 風天は旅暮らしなので、世情に明るい。鵲国では、県令などの偉い人は、成人すると(めん)の他に(ちー)というものを持つ。字には通常、名の音や意味と関わりのある文字が選ばれる。謝大人の場合は、月が名で玉兎が字だ。


 この国では、偉い人の名前を呼ぶのは非常識である。親しい人以外からは、肩書きで呼ばれるのが礼儀正しい行いだ。しかし書院の中は治外法権であり、この度は説明の為でもある。風天は鶴が出会った乙女の父親について、フルネームを平然と口にした。


「友となるのは構わないが、気をつけるんだぞ」

(とうちゃん)、解ってるって。朝廷無関、だろ?」

「鶴よ、本当に解っているのか?」

(にいちゃん)、怖い顔しないでよー」



 数日後、謝照児の誕生日に出かける雪鶴を見送る面々は、心配そうに首を振っていた。


「ありゃあ、友達って感じじゃないな」


 まだ書院に滞在していた風天が不安を声に滲ませる。


「深入りしないと良いが」

「院長、初恋は実らぬ物と申しますから」

「んん?ははは」


 さほど歳の変わらない兄だが、公輸長明は一児の父である。初恋に浮かれる弟よりは人生経験を積んでいた。長明雪鶴兄弟の父であり、魚龍書院の院長である鉄魚は、長男の初恋を懐かしく思い出して笑った。


「お前の場合とは違うだろう」

「それはそうですが」


 長明の初恋は、真面目な少年少女の淡く可愛らしいものだった。思春期に芽生えた恋が友情に変わり、卒業して去った少女とは、やがて手紙のやりとりすら無くなった。懐かしくはあるが、良くも悪くも強い感情は少しもないのだ。


「鶴の様子は危うい」

「あの入れ込みようじゃあ、早晩あの娘の為なら死ねるとか言い出すよ」


 鉄魚が親心を見せると、火火はため息混じりに評した。


火火(ふぉふぉ)、怖いこと言わないで」

「鍛冶屋に来る若い武人どもにも、ああいう感じで命を落とす奴がたまに居るんだよ」

「そんな」


 長明は青褪めた。


「謝大人は人徳者だから、目立った政敵はいないようだが、善人こそ悪人に憎悪されやすいからなあ」

「政争に巻き込まれないと良いが」


 風天もため息をつき、鉄魚が不安を募らせる。



 謝照児の誕生日会から帰ってきた公輸雪鶴は、家を出た時の数倍浮かれていた。


「ご家族みんな良い人たちで、本当に楽しかったよ!」

「そうか」


 鉄魚は眉を(ひそ)めた。


「何?変な顔して。何かあった?そうそう、今度桃林に招待しようと思うんだ。奥山は結界の外だから、外の人を呼んでもいいだろ?」

「駄目だ」


 鉄魚は厳しく言い放つ。雪鶴は不満そうに顔をしかめる。


「何でだよ!」

「役人の家族だぞ。個人と友情を結ぶまではいい。だが、それ以上は許されない。家族を書院の敷地内に呼ぶなど、もっての外だ。掟を忘れたのか」

「なんだよ?役人だって人間だろ」

「親しくなり過ぎると、政治に巻き込まれるぞ」

「それは気をつけるよ」


 雪鶴は食い下がる。


「敷地内って言っても、結界の外は誰でも出入り自由じゃないか」


 それは事実である。治外法権の私有地なのだが、外周を囲む塀などは設置していない。外部の人々からは、所有者のいない山と認識されていた。


「盗賊が住んでたことだって何度かあるだろ。奴らを追い出したことないじゃないか。辺鄙すぎて稼ぎにならないから、勝手に居なくなっただけだろ」


 それもまた事実であった。



大家好だいがあほう

みなさんこんにちは

玉笛は好きですか

古詩の解説では、玉を美称とするものもあります

百度百科では、玉でできた横笛、横笛の美称、指笛の音、という三つの意味が表示されています

民音音楽博物館のホームページでは、一本の玉笛に石で作られた笛というキャプションがつけられています

古装劇では房飾りなどを付けた白玉や碧玉の笛が登場しますね

飾りは、6+2孔の2部分につける他、6と2の間にグルグル巻く人もいるみたいです

武侠世界では、殆どが暗器

内功で強化するもしくは謎の硬度により一般武器と打ち合います

基本的に音功の道具ですから、虫や人を操ったり

古琴よりは直接の音殺をしないけどたまにある

ごく稀に、仕込み笛だったり

そんなもん詰めてて、どっから音出るのよ!さっきまで吹いてたじゃん!とかね。気にしなくてよい。

いいよね


後書き武侠喜劇データ集

この流れなら秘曲 笑傲江湖のパロディ類型でも良さそうですが

違うやつを


神奇侠侶

邦題不明

Mr. and Mrs. Incredible

2011

喜劇 古装

武侠がついてないの不思議

奇幻つけてもいいと思う

本作は、数ある神⬜︎侠侶の中で人気の高い映画

テレビドラマ化もされた

監督 谷德昭

冏冏侠 古天楽

眼からビーム。良くも悪くも甘やかされたオジサン。

冏は日本にもある漢字で、意味はあかるい。漢検一級

香香侠 呉君如

幻覚作用のある香を出す神功。良くも悪くも甘やかすオバサン。

甄 文章

素直ないい奴、モテない。とっても頼りになる男。

甄も漢検一級、やきもの。

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