お前本当に、何の為に来たんだよ!?
「これは凄いな。シュヤク、次は私にやらせてくれ」
「あ、ああ……」
借りたツルハシのあまりの威力に俺が絶句していると、今度はアリサが前に出る。盾を置いて身軽になると、振りかぶったツルハシを無傷の方のゴーレムの左足に振り下ろし……
ガキーン! ドスーン!
「ゴゴゴゴゴ……」
「ハッハッハ、これは爽快だな!」
ただの一撃で足を砕かれ、ゴーレムがその場に倒れ伏す。これで一体は身動きが取れず、もう一体は片腕で戦力半減。クロエが二体引き連れて来た時は厄介だと思っていた魔物が、まさかの鎧袖一触だ。
「次はクロ! クロがやるニャ!」
「うむ、いいぞ。ならば一体は私が抑えておこう。といっても動けぬゴーレムを見張る程度だが」
「ニャフフフフ、やってやるニャー!」
「あ、おい!? 気をつけろよ!」
飛び出すクロエに声をかけるも、クロエは振り返りすらせず尻尾を揺らすだけで応える。そうしてすぐに片腕の方のゴーレムに肉薄すると、当然ゴーレムが暴れ出した。
だがクロエのスピードに、ゴーレムは全くついていけない。ブンブン振り回される腕をスルリと纏わりつくように回避すると、隙を見て小さなツルハシがその体に叩きつけられる。
「砕け散るニャ!」
ビシッ!
ツルハシの切っ先が刺さった場所から、ゴーレムの石の体に亀裂が走る。俺やアリサの時のように即座に砕けはしなかったが、それでも見てわかるレベルで致命傷だ。
いや、むしろサイズ差を考えれば、こっちの方があり得ないほど威力が高いってことにならないだろうか? またも驚く皆の前で、クロエが小さく唸って更に腕を振りかぶる。
「むぅ、一発じゃ無理ニャ? なら何回でもやってやるニャ!」
「ゴゴゴゴゴ……」
ピキピキピキ! バカン! ガラガラガラ……
そのままクロエが二回、三回とツルハシを振り下ろすと、その度亀裂は大きくなり、四度目でその体が砕け散ると、ゴーレムは哀れそのままダンジョンの霧となって消えていった。
「やったニャー!」
「よくやったぞクロエ! ではこちらも仕留めてしまうか。ふんっ!」
クロエの勝利を見届け、アリサが残った一体にとどめを刺す。振り下ろされたツルハシはいとも容易く頭と胴体を砕き、残った一体も霧散する。そのあっけない戦闘終了に、アリサが小さく息を吐いた。
「ふぅ。武器一つでここまで変わるとはな。ガズ殿、素晴らしい武器だった」
「クロでも簡単に石が砕けたニャ!」
「ゲハハハハ! そうだろそうだろ! どうだ兄ちゃん、オデの言うことは正しかっただろ?」
「ああ、そうだな。確かにこいつは『最強』だ」
本当の最強装備のゲーム的な強さは知ってるが、少なくとも俺が実際に振るった武器のなかでは、こいつは間違いなく最強だった。だがそれを認めた瞬間、ガズが俺達の手からツルハシを取り上げる。
「あっ」
「んじゃ、これは回収させてもらうぜ。オデを選ばなかったんだし、お試しは終了ってことで。それじゃ兄ちゃん達、引き続き攻略頑張ってな!」
「お、おぅ? ありがとう……?」
ニカッと笑みを浮かべると、ガズはツルハシを抱えてあっさり歩き去ってしまった。え、何だこれ? 一体何がどうなったんだ?
「えー? あの人マジで何しに来たの? 選ばなかった選択肢の先をチラ見させるだけのイベントだったとか?」
「てっきりもう一度交渉を持ちかけられるかと思ったんですが……?」
「ただ自分の武器を自慢しに来ただけのオッサンだったニャ」
「どうするのだシュヤク。武器も回収されてしまったし、予定通り一旦戻るか?」
「あー、そうだな。とりあえず外に出られるかは確認しときてーしな」
アリサに問われ、俺はそう決める。幸いにして特に何の問題もなく外に出ることはできたので、待っていたヘンダーソンさんに改めて話を聞いてみることにした。
「ヘンダーソンさん、さっきここに入ってきた人なんですけど……」
「入ってきた人、ですか? 私ずっとここにいましたけど、皆さん以外で出入りした人はいませんでしたよ?」
「えっ!?」
その言葉に、俺は改めて驚きの声をあげる。さっきの場所から外までは一本道で、身を隠すような場所もない。そこを先に戻っていって、すれ違ってもいないというのに、出てきていないというのはどういうことだ?
「うわー、イベント終わったらいなくなるとか、本当にゲームっぽい人だったわね。ま、それはそれとして、外に出られるのはわかったし、改めて遺跡ダンジョンを攻略しましょ!」
「おま、それでいいのかよ!?」
「いいも何も、他にどうすることもできないでしょ? それとも大声で呼んでみる? 多分出てこないと思うけど」
「……………………」
「モブリナさんの切り替えの早さは、私もちょっと見習いたいです」
「リナを見習ったら駄目ニャ。あれは一周回ってるニャ」
「だがまあ、そういうところもリナらしいのではないか?」
「あれ? 何か今、アタシ、遠回しに馬鹿にされてない?」
「大丈夫だって。皆リナはリナだって言ってるだけだから。まあそうだな。いねーもんは仕方ねーよな」
突然現れた人物が、突然消えただけのこと。色々と疑問や違和感はあるが、ガズの動向は今の俺達が向き合うべき問題ではないので、それは頭の片隅に押しのけておくとして、俺は本来解決すべき問題の方に思考を移し、ヘンダーソンさんに声をかける。
「あ、そうだヘンダーソンさん。ダンジョンのなかにゴーレムが出るんですけど、岩を砕く感じのツルハシとか、あるいはいい感じの鈍器とかないですかね?」
「鈍器ですか? それは流石に……一応発掘用の道具ならありますけど、戦闘に使えるようなものじゃないですよ?」
そう言って、ヘンダーソンさんが背負っていた鞄から道具を取り出して見せてくれた。ただそれらは携帯性を重視した小型であり、手持ちの小さな石を少しずつ丁寧に砕いて中の化石を取り出すとかになら便利そうだが、ゴーレムの体を構成するような大きな石を砕くのには明らかに向いていない。
「これを戦闘に使うのは厳しそうだな」
「こんなので殴ったら、道具の方が壊れちゃうニャ」
「対ゴーレムに使えそうな武器を調達するとなると、近くの村まで歩いて移動してから、更に馬車である程度大きな町に行かないとですね。ここに戻ってくるまで、最低でも一週|(六日)は見た方がいいと思いますが……」
「夏休みは五週しかないのに、こんなところで更に一週なんて駄目よ! それにこのダンジョン、この一階だけでそんな広くないはずだし!
ねえシュヤク、何とかならない?」
「何とかって言われてもなぁ……」
時間を気にしないのであれば、ロネットの言う通り買い出しに行くのが一番丸い。だが一瞬でも早くこの遺跡をクリアし、その報酬を持って一秒でも長く海にいたいリナとしては、その意見は受け入れられないようだ。
勿論そのせいで俺達全員の命が脅かされるとかなら、リナの我が儘なんて秒で却下して終わりなんだが……あのゴーレム、倒しづらいだけで倒せないわけじゃないからなぁ。魔力にも物資にもまだまだ余裕があるし、リナの言う通り一階だけでサクッと終わるっていうなら、ごり押しも悪い手ではない。
とはいえやっぱり武器は欲しい。モブローみたいにインベントリが使えるなら思いつく限り突っ込んどけばいいんだろうが、俺が持ってる能力は……ん?
「キーッヒッヒッヒ! お困り――」
「あ、そうだ!」
「何? 何か思いついたの?」
「ああ、とっておきの情報を思いついた……いや、思い出したぜ! てわけだから、全員もう一回ダンジョンに入るぞ!
あ、ヘンダーソンさんはもう少しここで待っててもらえます?」
「わかりました。皆さん、お気をつけて」
「シュヤク、何するニャ?」
「まあまあ、すぐわかるって」
「あの、今何か変な声が聞こえませんでしたか?」
「うん? 深い森だし、鳥か獣の鳴き声ではないか?」
「あ、アタシ何するかわかった! そうよ、それがあったじゃない!」
「へへへ、やっぱりリナはこっち側だな。それじゃ皆、行くぞ!」
皆を引き連れ、俺はダンジョンへと改めて入っていく。そして……ふふふ、これぞ主人公様の特権だぜ。





