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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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世の中いいことばっかりじゃねーってことだ

ガサガサ……ゴソゴソ……


「…………」


 通路の壁に張り付き、俺は奥から聞こえてくる音に耳をそばだてる。顔を出せば姿も見えるだろうが、それをやると当然こっちも見られちまうからな。準備が整うまでは慎重に――


クイクイ


「クロエか。準備は?」


「バッチリだニャ。とりあえず通路にある罠は全部解除したニャ」


 俺の袖を引いたクロエが、問われて得意げな顔で言う。流石はクロエ、いつもサバ缶に釣られてばっかりの猫娘だが、やるときはやる奴だ。


「よくやった。じゃ、ご褒美は後でやるとして……アリサ」


「いつでもいいぞ」


 次いですぐ側にいたアリサに声をかければ、そちらも余裕のある笑みを浮かべて頷いてくれる。少し離れた所にいるロネットやリナも大丈夫そうだし……よし、なら行くか。


「さあ、何が出るか……っと!?」


ゴゴゴゴゴ……


「うわっ、ゴーレムかよ!?」


 角から身を晒した俺が見たのは、幾つもの石が集まってできた魔物、ゴーレムであった。奴らは俺の存在に気づくと、通路の罠を発動させながら平然とこちらに近づいてくる。


 予想通りではあるが、飛来する矢も怪しげなガスも、ゴーレムに一切ダメージを与えていない。こりゃ事前に罠を解除してない場所では、まともに戦闘すらできなかっただろう。なかなかに凶悪な組み合わせだ。


「チッ、色々と最悪だな……アリサ!」


「うむ! 任せろ!」


「ゴゴゴゴゴ!」


 まるで鳴き声のように石の擦れ合う音を立てながら、ゴーレムがその拳をアリサに振り下ろす。通路の広さは幅五メートル高さ三メートルほどで、歪な形の石が謎の力で人型っぽく繋がった雑な作りのゴーレムの大きさは目算でおよそ二メートルちょい。俺達よりは大きいものの巨大というほどではなく、また動きもそれほど速くはないが……


ガチンッ!


「ぐっ!?」


「アリサ!? 大丈夫か!?」


「あ、ああ。だがこれは……相当に重いな」


 石の拳を盾で受け止め、アリサがそうこぼす。レベル的にはこっちの方が上のはずだが、見るからにパワーファイターであるゴーレムの攻撃を受け止めるのは辛いようだ。


 アリサでこれだと、後衛組は勿論、俺でも正面から受けるのは危険。となれば防御は回避メインだな。なら次は攻撃だが……


ガィン!


「かってぇ!?」


 まずは適当に斬りつけてみたが、石のボディは俺の剣を完全に弾き、手が軽く痺れる。加えてゴーレムにはダメージを負った様子はなく、少なくともスキル無しの素の攻撃はほぼ通じないようだ。


「物理完全耐性……は流石にあり得ねーよな。単に硬いだけか? まあ石だしなぁ」


 漫画やゲームだと割とスパスパ斬っているが、現実では剣で石を斬るなんてのは無理だ。勿論ゲーム的な力であるスキルを使えば斬れる可能性はあるが、それで剣を駄目にしてしまっては目も当てられない。


 なら別のアプローチ。こういうときのお約束通り、俺はゴーレムの間接というか、石と石が謎の力でくっついている部分に注目しつつ、俺はアリサに問いかける。


「なあアリサ、あの間接狙えると思うか?」


「剣を差し込むことは可能だろう。が、それで断ち切れるかは未知数だな。それにそのまま身をよじられたら、おそらく刀身がへし折られる」


「むぅ、やっぱりそうなるか」


 目の前のゴーレムは石同士がピッタリとくっついている感じで、謎の魔力とか磁力的なものがバチバチいいながら石を繋げているやつではない。つまり斬っても突いても、必ずその切っ先は石に当たって止まることになる。


 そして関節とは曲がるものだ。挟まった刀身に横から捻る力が加わったら、あっさりと折れてしまうことだろう。試すなら武器が壊れる前提となるが、俺もアリサも予備武器は持っていない……始まりの日にもらった剣は、流石に自室に置いてある……ので、とりあえずやってみるという選択もとれない。


「くっそ面倒くせーな。ゴーレムって現実になると、ここまで厄介なのか……」


 目の前の魔物……おそらくレッサーストーンゴーレムのレベルは、およそ一八くらいだったと思う。大して今の俺達のレベルは、多分二二、三はあるはずだ。ゲームであればこれだけレベル差があれば、特に何も考えず通常攻撃を連打するだけで勝てる。


 だが現実において、無敵のHPに守られていない俺達は迂闊にこんな攻撃を食らえないし、武器だって普通に壊れるから、損耗を気にせず叩きまくるなんてことはできない。


 更に言うなら、ゴーレム側がHPを持っていない(・・・・・・)ことも問題だ。もしHPがあるのであれば、体の硬さなんて関係なく剣でも棒でも、何なら素手で殴ったって「攻撃した」という事実があれば計算式に従ってHPは減り、それがゼロになれば、見た目は無傷だろうと倒せる。


 だがこいつはHPを持っていない。つまりちゃんと物理的に石の体を壊さないと倒せないのだ。それがどれだけ困難かは、今更言うまでもないだろう。


 いやまあ、現実を超えるスキルもあるから、絶対斬れねーとは言わねーけども……全力斬りでいけるか? いやぁ無理っぽいよなぁ……


「どうするシュヤク? 剣は勿論、盾で殴りつけても大した威力にはならんだろう。私の手札では有効打がないのだが」


「ならとりあえず俺が倒しちまうよ。アリサはそのまま引きつけといてくれ……いくぞ、ミード・マナボルト!」


 俺は剣を諦め、魔法を発動。すると手のひらから迸った青く輝く太矢がゴーレムに命中し、ゴーレムの体がガクガクと揺れ……しかしまだ倒れない。


「クソッ、一発じゃ無理か。ミード・マナボルト!」


 オーレリアなら楽勝だっただろうが、俺の魔法の威力はそこまででもない。なので内心で舌打ちしつつ重ねて魔法を発動すると、今度こそゴーレムがその場に崩れ落ち、程なくして煙となって消えていった。


「ふぅ、何とかなったか」


「ふむ、魔法には弱いのか?」


「いや、別に弱点とかじゃねーはずだから、単に剣よりはまともに攻撃が通ったってだけだな。とはいえ無策で連戦したい相手じゃねーし、一旦集まって話し合おう。


 おーい! 終わったからこっちに来てくれ!」


 俺は待機していたリナ達を呼び寄せ、全員が集まったところで改めて作戦会議を始めた。議題は勿論、レッサーストーンゴーレムへの対処だ。


「お疲れ様。やっぱ石ってちゃんと硬いのね」


「そりゃあな。あれを剣では無理だって」


「だが有効な武器があれば、むしろ倒しやすい魔物にも思える。力は強かったが動きはやや遅く、攻撃も単調だったからな。


 そうだな、メイスなどの鈍器か……あるいはあのゴーレムだけを敵と見るなら、ツルハシの類いでもあれば十分戦えるのではないだろうか?」


「どっちにしろクロには向かない相手ニャ。クロは大人しく罠解除したり周りを警戒したりすることにするニャ」


「鈍器にツルハシですか。事前にわかっていれば用意もできたのですけど……」


 そこでふと、皆の視線が俺とリナに集まる。だが俺はこのイベントのことに詳しくないので、皆に合わせてリナの方に視線を向けた。するとリナが珍しく顔をしかめながらその口を開く。


「あー、ごめん。アタシもゴーレムが出るなんて知らなかったから……」


「あれ、そうなのか? でもリナ、ここのこと知ってたよな?」


「うん。ここに遺跡ダンジョンがあるってことは知ってたんだけど……そこにはゴーレムなんて出てこなかったのよ」


「は?」


 その言葉に、俺は思わず変な声をあげる。予定と違う魔物の出現というキーワードに、俺の脳内に浮かんできたのはかつて「久遠の約束」に閉じ込められた時のことだ。


「おい、まさかまたここに閉じ込められて出られねーとかねーよな?」


「ここはまだ入り口のすぐ近くだ。一旦戻って――」


「ゲハハハハ! その必要はないぜ!」


 その瞬間、ダンジョン入り口の方から聞こえてきた個性的な声。俺達が振り向いたそこには、ジャガイモ顔の大男がニヤリと笑って立っていた。

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