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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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唐突っていっても、限度があるだろ

 ということで、ヘンダーソンさんから情報を得て五日。長々と馬車に揺られて辿り着いたのは、鬱蒼とした森の入り口であった。


「ふぅ、着いたか。馬車の移動も幾分慣れた気がするが、やはりまだきついな」


「それでも五日くらいなら早い方だからなぁ。一番遠いところだと……何日だっけ? 二〇日くらいかかったような……?」


 馬車を降りて背筋を伸ばすアリサに、俺は軽く記憶を辿りながら言う。プロエタのフィールド移動は3Dの空間をキャラが走るのではなく、地図の上を馬車のアイコンが移動するみたいな形なので、現実に換算すると結構な広さがある。そしてこの辺は、まだまだ王都から近い場所だ。


 とはいえ、ゲームならアイコンの移動時間が一秒延びるだけで済んだが、現実だとここから更に一五日……? うわぁ、想像するだけでうんざりしちまうぜ。


「シュヤクアンタ、さっさと飛行船解禁しなさいよ。あれならもっと快適でしょ?」


「無茶言うなよ! あれ三年になってからだろ」


「そこを何とかするのが男の甲斐性ってやつじゃない!」


「甲斐性の基準たけーなぁ……」


 そんな俺の気持ちを唯一共有できるリナの戯れ言を、俺は苦笑しながら受け流す。甲斐性でどうにかなるなら俺だってそうしたいところだが、飛行船の解禁はメインシナリオの都合なので、今の俺がどうにかできるものではない。


 ……いや、それとも何か抜け道があったりするか? 飛行船そのものは既に存在してるはずだし、使用フラグを立てられれば、あるいは……?


「シュヤク、何してるニャー? おっちゃんが待ってるニャー」


「あっと、すまん」


 思わず考え込んでしまったが、クロエに言われて我に返る。すると森の境界付近で、ロネットやアリサと共にヘンダーソンさんが待機しているのが見えた。


「すみません、お待たせしちゃって」


「ははは、まだ時間は十分に余裕がありますから大丈夫ですよ。では行きましょうか」


「はい」


 笑って許してくれるヘンダーソンさんにそう答え、俺達は森に入っていった。そこは確かに普段は人が来ないらしく、先導するヘンダーソンさんに倣って、俺達もまた草をかき分け歩いて行く。


「この草は刈っては駄目なのか? その方が歩きやすいと思うのだが……」


「刃物で草を刈ったら素人が見ても『誰かが通った』ことがわかっちゃいますからね。これだけの大人数で移動してる時点で今更ではありますけど、それでも無駄に痕跡を残す必要はないと思うんです」


「おっちゃんは心配性だニャー。どうせクロ達がすぐ攻略しちゃうから、誰かに見つかったってもう関係ないニャ」


「いやいや、まだ現場すら見てねーのに、それは流石に言い過ぎだろ」


「そうですよクロエさん。油断は禁物です。何せさ……殺人的な罠とか魔物がいるかも知れないですから」


「ま、何があっても速攻でクリアするのは変わらないけどね! この後は海も待ってるんだし」


「海ですか? ここからだと大分距離があると思いますが……学生さんの夏休みって、今月だけですよね? それでどうやって……?」


「あはははは……まあ実際の海じゃなく、雰囲気を味わう感じのアレですよ」


 不思議そうな顔をするヘンダーソンさんに、俺はリナの頭を軽く引っ叩いてから笑って誤魔化しておく。リナが何やら不満げな顔をしていたが、恨むなら浮かれすぎて迂闊な発言をした自分を恨んで欲しいところだ。


 そうして雑談をしながら更に奥へと進んでいくと、程なくして俺達の前に小高く盛り上がった地面と、その正面に不自然に積み上がった複数の石が見えてきた。


「む、ここか? 特に何かあるようには見えないが……」


「あの石をどかすと穴が空いてるんじゃない?」


「だよな。あれで何もなかったら逆にビックリだし」


「またシュヤクとリナが訳のわからないこと言ってるニャ……」


 戸惑うアリサに俺達が口を揃えると、クロエが呆れた声を出す。まあ確かにこの発想は、「怪しいところにはちゃんと何かがある」というゲーム的発想があればこそのものだ。現実であれば天井の小さな穴から満月の時だけ光が差し込む洞窟に聖剣が眠っていたりはしないし、もの凄く意味ありげな行き止まりに宝箱が置かれたりもしていないからな。


「でも、それだとどうやって入るんでしょうか? あれを動かすのはかなりの手間に見えますけど……」


「そうだな。私でもあれは……剣を差し込んでてこの原理で持ち上げれば動かせそうだが、刀身が歪んでしまうだろう」


 首を傾げるロネットに、アリサが追従する。積み上がった石は一つ一つが俺が両手を回してギリギリ抱えられるくらいの大きさをしており、明らかに重い。もし俺があれを片付けろと言われたら、この世界には存在しないであろうショベルカーなどの重機を要求したいところだが……


「ふっふっふ、流石にそっちはわかりませんか。いいですか? ちょっと見ててください」


 そう言うと、ヘンダーソンさんが積み上がった石に近づいていく。それから勢いよく石に手を伸ばすと……その指先がぐにゃりと曲がった。


「いった!? ゆ、指が……っ!?」


「うわー、痛そう……」


「だ、大丈夫ですか!? これ使ってください」


「おっちゃん、何やってるニャ?」


「ありがとうございます……ああ痛かった。って、そうじゃない! え、何で実体が……?」


 ロネットから受け取ったポーションを使ったヘンダーソンさんが、目の前の石に困惑の表情を向ける。だがその反応こそが理解できず、アリサが眉根を寄せて問いかける。


「実体? どういうことだ?」


「あ、はい。実はこの穴は、私がこの辺の地層を調べている時に偶然掘り当てたものでしてね。ぽっかり大きな穴が空いて目立つものだったから、魔導具を使って正面に石の幻を表示させていたんですよ。


 なので触れたらすり抜けるはずだったんですが……これは一体?」


「ゲハハハハ! やっときたか!」


 と、その時。不意に木々の奥から変な笑い声が聞こえてきた。全員が視線を向けると、そこから姿を現したのは何故か上半身裸で青いジーパンみたいなズボンを履く、ジャガイモみたいな顔をした大男であった。


「あっ!? 貴方は最近よく見かける変な人!」


「ゲハハ、変な人とは言うじゃねぇか! オデからすりゃ、そっちこそ最近この辺をうろつくようになった怪しい男なんだがなぁ?」


「私は怪しくなんてないですよ! ごく普通の善良な歴史学者です!」


「ならオデだって、ごく普通の善良な男さぁ!」


(……なあリナ、あいつ誰だ?)


 ヘンダーソンさんと会話する謎の男を前に、俺はそっとリナに話しかける。顔つき、服装、一人称と、どれをとっても個性的で一度見たら忘れようがないはずなのだが、こんなキャラには心当たりがないのだ。


 なのでヘンダーソンさんみたいに俺の知らないレアキャラなのかと問うてみたわけだが、リナもまた眉をひそめて首を横に振る。


(アタシも知らない。プロエタにあんなキャラは登場しないわ)


(じゃあ素であの状態なのか!? いやまあ、絶対ないとは言わねーけど……えぇ?)


(事実は小説より……いえ、ゲームより奇なりってことじゃない? あの見た目で語尾に『ゴロ』とかつけてないだけ良心的よ)


(おま、やめろよ! それはマジで洒落にならねーから! 最強法務部が出張ってくるから!)


「――なら、貴方があの石を積んだってことですか!? 何の為にそんな嫌がらせを!?」


「ゲハハハハ! それは勿論、選ばせるためさぁ! おい兄ちゃん!」


「うおっ!? あ、はい。何ですか?」


 地雷原でタップダンスを踊り始めたリナに突っ込んでいる間にも、ヘンダーソンさんと謎の大男の話は進んでいたらしい。突然声をかけられて我に返ると、大男が俺に話しかけてくる。


「オデはこれでも力自慢でな。オデならあの石をどけてやることができる。だがあんな遺跡よりもっといい場所をオデは知ってるんだよ」


「もっといい場所?」


「そうさ! そこには兄ちゃんに相応しい、最強の武器が眠ってんだ! こんなしょぼくれた遺跡なんざ放っといて、オデと一緒にそっちを攻略しようぜ!」


「はぁ? いきなりそんなこと言われても……」


「あの、とりあえず入り口の石をどけてもらって、それから考えるのでは駄目なんですか?」


「駄目だな! オデと一緒に来るか、石をどかしてやるか、どっちかだ! さあ、どうする?」


「どうって……なあ?」


 何の脈絡もなく迫られた、意味のわからない二択。もしゲームであったとしても戸惑うであろう展開に、俺は振り返って仲間と相談を――


「何言ってんのよ。そんなの石どかしてもらうに決まってるでしょ! ほらアンタ、さっさと片付けなさいよ!」


 する間すらなく、リナの大声が森の中に響いた。

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