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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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自分のことくらい自分でどうにかしろよ!

「シュヤクさん! あんた何してくれたんスかぁぁぁ!!!」


「いや、何もしてねーけど?」


 俺がモブローパーティに臨時加入してから三日目の帰り。たまには皆で飯でも食おうかと王都に繰り出した俺達だったが、その道中でモブローが凄い剣幕で俺に突っかかってきた。その理由は、背後にいる二人のヒロイン達だ。


「モブローは、ちょっとセクハラが過ぎる」


「そうですわね。親しき仲にも礼儀ありといいますし、もう少し自重なさった方がいいと思いますわ」


「ほらー! あの二人が! オーレリアとセルフィがあんなこと言うんスよ!? 明らかにおかしいじゃないッスか!」


「えぇ……?」


 事の発端は、モブローがいつも通りに二人の腰やら尻やらに手を伸ばしたことだ。いつもならペシッと手を叩かれたり優しく「メッ!」されたりするだけだったのだが、なんと今日は少しだけ真面目に怒られたのである。


「あの、モブローさん? 幾ら好意的な相手とはいえ、人前で不躾に体をまさぐられたりしたら、普通は嫌がるのでは?」


「ロネットまでそんなこと言うんスか!? やっぱりこれは異常事態ッス! あり得ないッス! おかしいッス! シュヤクさんが何かしたとしか思えないッス!」


「んなこと言われてもなぁ……」


 当たり前だが、俺は別に何もしていない。強いて言うなら今回初めて一緒に戦ったオーレリアには多少戦い方の助言なんかもしたし、そのおかげでちょっと仲良くなれた気はするが、それだけだ。


「ハッ!? まさか自分に隠して、こっそり二人にプレゼントを贈ってたッスか!? だから好感度が逆転した!? そうに違いないッス! それなら自分だって負けないッス!


 おーい、二人共! 自分からプレゼントがあるッスー!」


 と、何やら勝手に結論を出したらしいモブローが、二人の元に近寄っていってインベントリからアイテムを手渡した。


 魔導の英知が書き記されているという、夜空のような装丁に金の文字で綴られた「星の魔導書」に、は貴重な霊木を材料にして作られた「光の聖印」だな。どちらも一発で好感度を一段回あげられる、最上位アイテムだが……


「これ、前ももらった。同じのをもらっても困る」


「このように貴重なものを、複数いただくわけにはまいりませんわ」


「ホゲーッ!?」


 まあ、うん。そうだよな。ゲームなら同じアイテムを連打されても好感度あがるけど、現実に同じものを大量にもらっても……あれ?


(拒否された? まさか好感度システムが機能してない? でもモブローの態度からすると、以前は使えてたはず……?)


「…………」


「? 何ですか?」


 ワチャワチャしているモブロー達をそのままに、俺はふと視線を横に向ける。ふむ、ここは直接聞いてみるか。


「なあロネット。ロネットもモブローからプレゼントもらってたよな? それって嬉しかったか?」


「え? ええ、それは勿論、嬉しかったですけど……」


「なら……あれだ。それでモブローに惚れたりしなかったのか?」


「シュヤクさん……シュヤクさんは私がそんなに軽い女だと思ってたんですか?」


 俺の問いに、ロネットが咎めるような、それでいて何処か悲しげな目を向けてきた。いかん、これは駄目だ。脳内で「お前何調子乗ってんだ? オォン?」とヤクザキックしてくるリナを窘めつつ、慌てて言い訳を口にする。


「違う違う、そうじゃねーって! ほら、前にモブローのこと、色々説明しただろ? 平気だって言ってたけど、もうちょっと具体的な話も聞きてーかなって思ってさ」


「ああ、そうでしたか。ならいいですけど」


 一転して、今度はロネットが上機嫌になった。えぇ、何これ怖い。理由のわからない上機嫌は、下手したら不機嫌なのより怖いんだが。


「そうですね……好意的な気持ちになったのは間違いないですけど、子供の頃に一度食べただけの思い出のクッキーを渡されたと考えれば、不自然と言うほどの心の動きではなかったと思います。


 それと日を追うごとにモブローさんへの信頼とか評価が高まっていきましたが、それはモブローさんが私のことを認め、またモブローさんの助力で私が活躍していると実感できたからですから、これもまた普通の心理だと思います。


 ただ、そこに連日渡されたクッキーがどれだけの影響を与えていたかとなると……ごめんなさい、自分ではちょっとわからないです」


「そっか。それだと確かにそうだよなぁ」


 人間の心理というのは、なかなかに複雑なもんだ。プレゼントを渡すだけであとは放置されてたとかなら、それで好きになるのは異常だと認知できるだろうが、好意を抱くに足る行動があったうえでのプレゼントとなると、どの程度影響があったのかがわからなくても当然だ。


 で、それを踏まえたうえでこれまでの情報をまとめ、更に現状を鑑みると……


(……ひょっとして、実は最初から好感度システムが働いてなかったって可能性もある、のか?)


 初期の出会いを除くと、少なくとも俺の場合は「好感度システム」は機能していなかったように思われる。そんな俺と同じなら、モブローもまた出会い方による初期好感度の影響はあっても、その後はプレゼントでお手軽に気に入られたりはしないのでは?


 なら今のモブローの状態は、特殊条件クリアによる仲間入りをさせたことで初期好感度が高いだけで、オーレリアもセルフィも「ゲーム的な」プレゼントの影響は最初から受けていなかった?


 プレゼントアイテムは当然該当キャラが喜ぶものだから、もらったら素で喜んでただけなのに、モブローが……そして俺やリナもそこに「ゲーム的な影響がある」と勝手に思い込んでいただけだとしたら……?


(完全な茶番じゃねーか! うわ、メッチャ恥ずかしい!)


 幽霊の正体見たり枯れ尾花。大騒ぎして真剣に悩んだ結果がこれは、流石の俺も顔が赤くなってしまう。


 ま、まあ本当になかったかどうかはわかんねーし? それに油断して全部かっさらわれるくらいなら、臆病なほど警戒して万全を期する方がずっといい。


 それにこんなのは所詮俺の適当な推理だ。日に一度しか有効にならず、今日のモブローは既に二人にプレゼントを渡していたから効果がなかったとか、あるいはゲームと違って一つのアイテムは一度しか効果を発揮しないとか、考えられる可能性はまだ幾つもある。


 うーむ、これは更なる検証が必要か? でもそれにはモブロー本人の協力がどうしても不可欠になるんだが……


「うわぁぁ、どのアイテムも全部駄目ッス! シュヤクさん、どうにかして欲しいッス!」


 俺がそんなことを考えていると、その辺にプレゼントアイテムを散乱させながらモブローがこっちにやってきた。背後にいる二人の様子からするに、少なくとも今この瞬間は、どうやらプレゼントアイテムが効果を発揮していないのは事実のようだ……っと、それはそれとして。


「どうにかって、お前が変に手を出さなきゃ解決じゃねーの?」


「そんなの無理に決まってるッス! シュヤクさんは俺に死ねって言うんスか!?」


「そこまでかよ!? なら普通に仲良くなってから手を出せばいいだろ?」


「そんなの面倒ッス! 自分はもっとお手軽簡単にイチャイチャチュッチュしたいんス!」


「お前なぁ……」


 俺は大きくため息を吐きながら、モブローの頭をグッと両手で掴み、そのままクルリと回す。


「ウギャー!? 首がねじ切れるッス!?」


「なあモブロー。お前には何が見える?」


「あの世の入り口ッス! HPが洒落にならない勢いで減ってるッス!」


「体ごと向き直ればいいだろ……そうじゃなくて。お前この世界が、本当にゲームに見えるのか?」


「ッス?」


 モブローの声に合わせて、俺も改めて周囲を見回す。夏が近いせいか日はまだ高いものの、遙かに広がる空は鮮やかな赤いスカートを閃かせている。生活感のある町並みには無数の人々が行き交い、誰も彼もが自分の人生を語っていて、同じ事を言う同じ顔の存在は一人としていない。


「確かにここは、『プロエタ』の設定を元にした世界なんだろう。でも店はポリゴンじゃなく石でできてるし、空だってテクスチャを貼り付けたわけじゃなく、光の屈折で色を変えてる。


 人間だってそうだ。お前の目の前にいるのは、ボタンを押す度に同じ台詞を繰り返すキャラクターか? 違うだろ?」


「それは…………」


「なあモブロー。俺はお前のゲーム的な生き方を否定はしねーよ。でもだからって周り皆を同じに考えるのは駄目だ。そこは――」


「そんな綺麗事満載の説教なんてノーサンキューッス! 自分はもっと好き放題に生きたいんス!」


「むぅ、ならこういうのはどうだ?」


 俺は暴れるモブローの耳元に口を寄せ、そっと囁く。


「ゲームなら表現規制があるけど、現実にはないんだぜ?」


「っ!? てことはまさか、変なキャラクターロゴとか謎の光で消されたりすることも……!?」


「テメーの股間にモザイクや黒塗りがあったか? 当然、全部丸見えだ」


「現実サイコーッス! 自分、この世界は現実だと強く理解したッス!」


 キラキラと目を輝かせ、モブローが高らかに宣言する。まあ現実なら下手なことすりゃすぐ嫌われるわけだが……そこは自分で頑張ってもらうとしよう。

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今期1番の酷い現実への誘いを見た気がする…
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