人に任せるのも悪くねーけど、自分で確認することも大事だぜ?
「うわぁ、本当に来たんスね」
「いいじゃねーか、どうせ枠は二つ空いてるだろ?」
「まあそうッスけど……」
「良いではありませんか、モブロー様。先日一緒に戦いましたが、シュヤク様は確かな実力をお持ちですから、きっとモブロー様のお役にたちますわ」
「ロネット、二日ぶり」
「また来ちゃいました! 宜しくお願いしますね」
ロネットがモブローパーティから戻ってきた数日後。次は誰を交換するかで悩んでいた俺が出した答えは、何と「俺自身」であった。ほら、やっぱこういうのって自分が経験するのが一番だしな。
とはいえ流石にそれだけだと「女の子が一人減って男が増えるなんて、悪夢以外の何者でもないッス!」とモブローにごねられたので、色々と検討した結果、今回は俺ともう一人……本人の強い希望でロネットになった……がモブローパーティに入り、アリサ、クロエ、リナの三人は留守番という形に落ち着いた。
ということで約束通り、俺とロネットは連れだってやってきたわけだが、モブローの表情は何とも渋い。
「まあ来ちゃったものは仕方ないッスけど、でもこのパーティのリーダーは自分ッスからね!? 絶対ヒロイン達を寝取らせたりしないッスよ!?」
「だからそんなことしねーって言ってんだろ! お前は首から上に下半身がついてんのか!?」
「……? 体の上についていたら上半身じゃない?」
「そうですわね。きちんと言うのであれば、首から上におち――」
「セルフィさん!? 女の人がそんな事言ったら駄目ですよ!?」
「あら? 人の体に口にしてはいけない部位などありませんわ。誰もが皆祝福されてこの世に生まれ落ちてくるのですし、そもそも命を育む――」
「はいはいはいはい、そこまでそこまで! それ以上言うとマジやばいから! あとモブロー、テメー何黙って聞いてんだよ!?」
「自分はセルフィのありがたい話を聞いてただけッスけど? それでセルフィ、子作りについてなんスけど……」
「あら、モブロー様も興味がおありなのですね。でしたら今度ゆっくりお話してさしあげます」
「本当ッスか!? じゃあ手取り足取り……」
「聖典の読み聞かせは得意なんです。一晩中でも話せますよ」
「……そうじゃないッス。自分は実戦派で――」
「行くぞ! もう本当に行くからな! ほらロネット、オーレリアも行こうぜ」
「あ、はい」
「先行ってるから」
色んな意味で駄目そうな会話を続ける二人に宣言し、俺はロネットやオーレリアを連れて歩き出す。するとすぐにモブロー達も追いついてきて、俺達の前を歩き始めた。
「自分がリーダーだって言ったじゃないッスか! 何早速仕切ってるんスか!?」
「お前がグダグダしすぎだからだろ! ほらリーダー、俺はもう黙っとくから、ちゃんと仕切れよ」
「わかってるッスよ! それじゃ皆、今からダンジョンに潜るッス!」
苦笑しながら言う俺に、モブローがそういってヒロイン達に声をかけていく。流石にそこからはトラブルもなく、今回の目的地となるメインダンジョン一四階への道すがら。
「それにしても、急にどうしたんですか?」
「ん? どうしたって?」
ロネットに声をかけられそちらを向くと、ロネットが不思議そうな顔で俺に問いかけてくる。
「だから、どうしてシュヤクさんが来たのかなって。元々は二つのパーティで戦力を交換することで利便性を図ろうって方針だったわけですし……なのにシュヤクさんがこちらに来てアリサさん達が冒険をお休みしては本末転倒なのでは?」
「あー、それは……」
言えない。妙な胸騒ぎというか、突如として「今動かなければ全てが終わる」という猛烈な不安に襲われていてもたってもいられなかったというか……
何だろう。スローライフを夢見て異世界に転生したら、本当に普通のスローライフが待っていて、理想通りの人生だったけど物語的には「末永く幸せに暮らしました」の一行で終わっちゃうような感じ? リナならまだしも、この感覚をロネットに伝えるのは俺には無理だ。となると……
「ほら、ロネットがモブローのこと、スゲー褒めてただろ? なら実際に一緒に戦ってみれば、色々学ぶところがあるかなーと思ってさ。それにお互いの大事な仲間を預けるなら、それぞれの実力がわかってた方がいいだろうし」
「なるほど、それはそうですね。なら私の新しい戦い方もよーく見てくださいね!」
「おう? いいけど、新しい戦い方……?」
さっきとは逆に、今度は俺の方が首を傾げる。するとロネットは踊るような足取りで「すぐにわかりますよ!」とモブローの方に近づいていき……そうしてしばらく後、出てきた魔物を相手に戦闘が始まる。
「えーい!」
ドカーン!
「やあっ!」
バリーン!
「とうっ!」
ピキーン!
「という感じです! どうですか、シュヤクさん?」
「いや、どうって言われてもなぁ……」
それは戦闘というには、あまりにもお粗末なものだった。何故か得意げな顔をしているロネットに、俺は困惑を隠すことなく言葉を続ける。
「なあロネット、今の何だ?」
「だから、これが私の新しい戦い方です! モブローさんのおかげで、オーレリアさんに負けない威力が出せるんですよ!」
「そうッス! 俺の攻撃アイテムがあれば、ロネットは輝きまくれるんス!」
「お前なぁ……」
そんなロネットの隣でドヤ顔をするモブローに、俺は思わず眉根を潜める。こりゃ見に来てよかったって言うか、見に来なかったらヤバかったな。
「いいかロネット、お前の『新しい戦い方』とやらは全部駄目だ。今すぐ忘れろ」
「そんな!? 何でですか!?」
「そうッスよ! いくら元パーティのリーダーだからって、そんな横暴許さないッスよ!」
驚くロネットと、ロネットを守るように前に立つモブロー。しかし俺はモブローを押しのけ、ロネットの顔をまっすぐに見て言う。
「横暴とかじゃねーよ! なあロネット、お前俺達と戦ってる時、あんな雑にポーション投げてたか?」
「……え?」
「違うよな? ちゃんとアリサやクロエの動きを見て適切なタイミングで投げてたし、リナの魔法と組み合わせたり、時にはポーションを投げる行為そのものを囮にしたり、色んなことを考えて投げてたはずだ。
でも、今の戦い方は違う。今のはただ、強い攻撃アイテムを適当に投げつけてるだけだ。そんなの『戦い方』ですらない。子供が石投げてるのと変わんねーだろ」
「で、でも! これなら私にも、大活躍が――」
「? ロネットは前から活躍してただろ?」
意味のわからん事を言うロネットに、俺は思わず素で答える。すると何故かロネットが驚いたような顔をする。
「……私、活躍してましたか?」
「ああ、してたよ。皆ロネットのこと頼りにしてたし、俺だってそうだ。ロネットがいなかったら、俺達とっくに全滅してただろ」
「でも、私じゃオーレリアさんやセルフィさんみたいには……」
「??? 何でその二人? ひょっとして火力が出ないとかそういう話か?」
「はい。私のポーションはお二人の魔法には遠く及ばないですし、なら……」
何とも見当外れな考えに、俺はキョトンとしてしまう。なるほど、そういう方向性か……でもそれなら、ちゃんと言ってやった方がいいんだろうな。
言葉は伝えなければ伝わらない。心の中で感謝したり褒め称えてるだけじゃ、不安が消えてくれたりはしない。知らなければ何も言えないが、悩んでいると伝わったなら、俺もまた思っていることをちゃんと伝えるべきだろう。
たった一言、直接伝えること……その大切さを、俺はこの身に染みてわかってるからな。
「及ぶ必要なんてねーだろ? むしろ一人二役なのに、俺が知る限り最高峰の攻撃魔法と回復魔法の使い手と同じ威力があったら、そっちの方がバランスブレイカーだっての!
それにロネットの強さはそんなところじゃねーしな」
「……シュヤクさんが考える私の強みって、何ですか?」
「発想の柔軟さ、かな? 俺やリナは色々知ってることがあるけど、そのせいで逆に思考が固まりがちなんだよ。アリサは深い知識があるけど応用力は今ひとつで、クロエは本能で動くタイプだし……だからロネットが色々考えてくれるの、マジで助かってるぜ」
そう言って俺が親指を立ててみせると……不意にロネットの目から、ポロリと涙が零れた。





